初めての友達
屋上から教室に向かう僕はいつも以上に階段をあわただしく下りていく。
「そういえば、次の授業は体育だったんだ。間に合わないぞ。」と呟きながら下る下る。
どうして、こんなに急ぐのか…自分に問いたくなってしまった。
「どうしてそんなに急ぐんだい?」リトル立島に問うた。
「体育の先生がコワインダ!」リトル立島は答えた。
本当にやんなるぐらい僕は意気地なしだなぁ…それにしても今日はいい天気だなとよそ見をしている僕に何かがぶつかった。
クラスのヒロインの神代 光さんにぶつかったみたいだ。彼女にぶつかった勢いで僕はボーリングの玉のように階段を転がった。階段の下にだれもいなくてガーターになったのが幸いだったと思う。
ぶつかった神代さんはもうそこにはいなくて、僕は一人で保健室に向かいながらホッとした半面、少し悲しかった。
保健の先生が言うには、軽い捻挫らしい。おかげで体育の授業は見学だ。
おまけにクラスのヒロインの神代さんに少しだけだけど触れられるなんて、ボーリングの玉になったかいがあったもんだ。
体育の授業が残り何分なのかを校舎に付けられた時計で確認した。
「40分!?嘘だろ…たったの10分しかたっていないじゃないか。」
暇すぎた僕は、グラウンドに指で絵を描き始めた。我ながら完成した絵はひどくて、まるで福笑いでもしているかのようだった。僕はその福笑いに名前を付けることにした。
「...ミッチェルでいっか」
テキトーに名前を付けたが、徐々に感じたことのない感情がわいてきた。高校に入学して半年、ついに僕に友達ができてしまった。友達ができたら、したかったことがある。
「そう。自己紹介だ!!!」
僕は、5分前にこの世に生を受けたミッチェルに話をした。あの時のドキドキは忘れない。たとえるなら、カードゲームのパックを開封するかのような感覚だ。
「僕は、立島 葵。
奈良県立輩米高校に通う高校一年生だ。
ミッチェルも何となく察してるかもしれないけれど、僕は陰キャ・ボッチ・デブなんだ。
笑っちゃうだろ。
クラスの陽キャには、ベイブって言われてるんだ。え?なんでって。
なんか僕は知らないけれど、某有名ブタ映画の主人公の名前を取ったらしいけれど、もうちょっと格好いいのがよかったよ。例えば、アレックスとか…
あとは何だろ…あ、妹がいるんだ。僕と違って陽キャで、悔しいけれど、かわいいんだよ...あと、僕、小説を読むのが大好きで異世界ものが特に好きなんだ。
異世界に行って、陽キャになるのが目標なんだけれど全然、いけないんだよね。
よくアニメで異世界に行ってる奴いるけど、ボッチとか嘘じゃん。コミュ力すごいもん。
主人公じゃん。僕も主人公になりたいよ。物語の...」
キーンコーンカーンコーンと初めての友達とのお話が終わった。
満足感に満たされた僕の中に一つの感情が芽生えていた。
「本当の友達が欲しい。」
この先の未来の険しさを告げるように夕立が起こった。
グラウンドにいる僕の友達ミッチェルの姿はもうなかった。