告白
カチカチカチ
カチカチカチ
ドクドクドク
聞こえるのは、時計の音と心臓の音だけ...
静寂になるのも仕方がないことなのかもしれない。
僕が勇気を振り絞って、告白をしようと声を出したときに、
まさか神代さんと、神代さんと話すタイミングがかぶるなんて...
こういう時、僕はどうすればよいのか対処法を全く知らない。
誰か僕を助けてくれ!!
トントントン
壁にもたれかかった僕は、妹にモールス信号で助けを求めようと試みるが、
残念ながら、絶賛空気の読めない兄という認識になっている僕の必死のSOSに応じてくれるほど、甘いものではなかった。
「立嶋は、なんて言おうとしたの?」
きた。予想はしていたけど、追撃の時間がきた。
一度、告白のチャンスを逃すと、言いにくくなるものなのだと実感しながらも、僕は告白を決意したのだと自分に言い聞かせて、勇気を振り絞った。
「神代さん!!」
僕は、大きい声で、彼女の名を呼んだ。
彼女も驚いたような顔をしていたが、その数秒後には落ち着いたような表情をしていた。
その時の表情はとてもやさしそうな顔で僕はその景色をわすれることはできないだろう。
「立嶋...私にその続きを聞く権利はないの」
権利??
聞けない??
一体、何を言っているんだろう。
僕の頭の中は真っ白になり、小さい声にならない声を出しながらも、心臓の音は大きくなるばかりだった。
「ど、どうして!?神代さん。どうして?」
聞かずにはいられない。確かめずにはいられない。こんなの急すぎる。
「......」
彼女は、下を向き、黙ったままだった。
「僕がデブだから!?僕が不細工だから!?僕がボッチだから!?僕がインキャだから!?」
自分で言ってて、悲しくなる。
涙が出そうになるのをこらえながらも、彼女の返事を待つ。
「違う。そんなんじゃないの...」
「も、もしかして......僕が...嫌い...だから?」
思わず、涙がこぼれるのがわかる。
こらえていてもこらえきれなかった。それだけ僕は、現状に戸惑っていたのだ。
「違う!!そんなことない!!立嶋は優しい!!」
じゃあ、どうして、どうして、告白を聞いてくれないんだ。
「全部、私が悪いの...全部...」
「ぜ、全部って?どういうことなの?説明してよ。これじゃ、なんにもわからないよ。」
彼女は、下を向いたまま、話し始めた。
「もともとね、私異世界ミンティアのことなんて好きじゃなかったの。図書館であったときに、私も異世界ミンティアが大好きって言ったけど、嘘なの...」
「嘘??なんでそんな嘘をつく必要があったの?」
何の意味もない嘘をつく必要がない。
まして神代さんはそんなただ人を傷つけるためだけに嘘なんてつく人じゃない。
ただ、その嘘に隠された真実を知ることは、結果的に誰かを傷つけてしまうかもしれない。
「私ね。好きな人がいるんだ。サッカー部の先輩でね。
一生懸命に部活を頑張っている姿を見て、一目ぼれしちゃったの。
なんとかして、あの人と仲良くなりたい。何か話すためのきっかけが欲しい。
ずっとそう思ってたの...」
嘘に隠された真実が少しずつ見えてくると同時に、僕の心は少しずつ傷ついていくのがわかる。
いくら恋を知らない僕でもわかる。
「そんな時にね。先輩が友達と歩いている時に、楽しそうに何かの話をしていたの。
なんの話かなって耳を澄ましていたら、異世界ミンティアの話をしていたの。
なんのことだろって調べてみたら、よくわからない小説だったの。初めは自分でも調べてたんだけど、文字読むの嫌いだし、忘れることにしたの。
それから、しばらくして...覚えているかな。私とぶつかったときのこと覚えてる?」
「う、うん。覚えてる。」
「その時に、いろいろあったけど、図書館で立嶋を見つけて謝ったんだよ。
本当は、そこで立嶋と私と関わりは終わるものだと思っていたの...
でも、立嶋のスマホを見たら、異世界ミンティアを読んでいるのがわかって...
あ、この人に教えてもらおう。
そしたら、先輩と仲良くなれるって思ったの。
本当、最低でしょ。私、利用してたの。」
言葉が出なかった。
僕はいったい、今まで何をしていたんだろう。
どうして好きな人のために、好きな人の恋を応援するようなことをしていたんだろう。
悲しい。
ただ悲しい。
でもそれ以上に、もうこの話を聞きたくない。この空気が痛い。心が痛い。
「で、でもね。これだけは信じて!!立嶋に異世界ミンティアのこと教えてもらうたびにね。徐々に毎週、立嶋に教えてもらう時間がとても楽しみになったし、いい友達になれそうだなって思ったの」
「と、友達か...そうだよね...」
とても、心が空っぽになったような感覚だった。
悲しみはすべて消えた。
ただ、心では抑えきれない沸々としたものだけが、湧き上がっていた。
「う、うん。だから...許してもらえるかわからないけど、立嶋がよかったら、私と友達になってほしいなって...」
「帰れよ...帰れよ!もう、聞きたくないよ!!そんなこといったって、僕を友達なんて思ってないんだろ!!」
瞬間、僕はハッとした。
ひどいことを言ってしまった。わかっているのに、
心の中では、すっきりした自分がいるのが怖かった。
「ご、ごめ...」
謝ろうとした時だった。
「そうだよね。私、帰るね。ごめんね...」
彼女は勢いよく戸を開けて、出ていった。
しばらくして、玄関の扉が閉じる音がした。
何も考えられない。
しばらくぼーっとして、落ち着いたころでも聞こえるのは、時計の音だけだった。
机の上には、涙でぬれた考察ノートがあった。
考察ノートを見ると、不意に彼女のことを思い出して、泣いてしまう。
机の上に、涙がこぼれる。
彼女の座っていたところも濡れている。
「どうして、君も泣いてるんだよ...」




