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酔い

皆さん。ごきげんよう。


今なら、宗教勧誘のおばちゃんが来ても自信を持って言える気がします。

やってみましょうか?

まさか、こんなところで、神の存在を認識してしまうなんて...


バタンと玄関のドアが閉じる音が聞こえた。

とうとう神代さんは我が家に入ったらしい。

玄関から僕がいるこのリビングまで移動する時間はおそらく30秒もかからないだろう。


その間に僕は、『異世界ミンティア』の考察結果を頭に入れる必要がある。

そして、告白の言葉も考える必要があった。


「えーと...どこだどこだ。どこにやったんだ。僕のノートは」


限られた時間の中で物を探すときは、案外見つからないものだ。

たとえそれが鞄の中も・机の中であってもだ。

僕は、うっすらと残っている昨日の記憶の糸をたどった。



「もしかして...僕の部屋かも...部屋だ。部屋に違いない。」


考えてみれば当たり前だ。

誰がラノベの考察ノートなどという現在進行中の黒歴史を家族に見られるような場所に置くものか。

そんなこともわからないほど僕は緊張しているのだろう。

「そうとわかれば、はやく僕の部屋に行かない...と」


リビングの部屋を開けると同時に、悲鳴のような声が家中に響きわたった。


僕は驚き、「大丈夫」かと声を上げる前に、体が先に声の聞こえた場所に向かっていた。


おそらく、野次馬精神だろう。




僕は、目を疑った。


そこには、神代さんが僕の妹の空をぬいぐるみをなでまわすかのように頭をナデナデしていたのだ。

妹は、声にならない声を出しながら、涙目で僕に何かを訴えかけていた。

神代さんは、「グフフ」という声が一番しっくりくるような声を出しながら、一生懸命に妹をナデナデしていた。


「あ、立嶋君。こんにちは。妹さん、本当にかわいいね。前に立嶋君がかわいいって言ってたけど、もう予想以上だよ。お持ち帰りしちゃいたい。」


目を輝かせながら、そんなことを言う神代さんは相変わらずかわいい。

ただ、僕が妹をかわいいと言ったかは疑問だが、本人がそう言うなら、そうしよう。


この笑顔をずっと見れるなら、空をお持ち帰りしてもらってもいいとさえ思ったが、残念ながら空は僕の大切な妹だ。

「ごめん。神代さん、流石に空をお持ち帰りはできないよ。僕の大切な妹だからね。」





え、なんで、誰もしゃべらないの?僕、なんか変なこと言ったかな?



「ぷ、あはは。本当もう最高。立嶋君、そんなの冗談だって。でも、それだけ空ちゃんが大切なんだね。そんな仲の良い兄妹に私の入る隙なんてないよ。」


妹も冗談だと分かっていたのだろう。

空気を読めない発言をしてしまった兄が恥ずかしかったのか、顔が真っ赤だ。



真っ赤な空は、神代さんに解放され、僕の方にゆっくりと進んでくる。


「あんた。神代さんが帰ったら、私の部屋に来いよ。」


こわい。怖すぎる。

もうこうなったら、永遠に神代さんにここにいてもらうしかなさそうだ。



「あちゃー。もしかして私、怒らせちゃったかな?謝ってこようか?」


「いや、別に大丈夫だよ。いつものことだし。それよりも、僕の部屋に行こ。」

階段を上がり、僕は自分の部屋のドアノブに手をかけ、ここまでの準備を思い返した。


(初めて女の子が部屋に入るから掃除をしたり、ビンタされたり、告白の言葉を考えたり、いろいろあったけど、今日、僕は神代さんに「好きだ」って伝えるんだ。)


「どうぞ。神代さん。汚いかもだけど、そこに座ってて。」

「え、めっちゃきれいじゃん。立嶋君、女子力高いね。嫁になって欲しいぐらいだよ。」


彼女の、ほんのちょっとした冗談を本気に捉えてしまう。

冗談と分かっていても嬉しい。

言葉が真実かそれとも嘘かなんて、僕にとっては問題じゃないんだ。

僕みたいなボッチがこんな可愛い人にこんなことを言ってもらえることが幸せなんだ。


「......好きだな」


「え?好き?何が?」


「え、僕、なんか言った?」



「い、言ったよ。好きだなって...」


なんということだ。口が滑ってしまった。なんとかして軌道修正しないと。

僕は、軌道修正には自信があるんだ。だてに、図書室で石ころを演じていたわけではない。



「好きだなって、あれだよ。異世界ミンティアがだよ。そう。そうだよ。」



「あ、そうだったんだ......そうだったんだ。」

なんだか神代さんの表情が変わった気がしたが、そんなことに気付いても冷静に判断できるような僕じゃなかった。


「だって、異世界ミンティアがなければ、僕は神代さんに出会えなかったわけだしさ。本当に異世界ミンティアが好きでよかったなって。」



「そうだね。私も本当に思う。」

こういうのを恋の波動というのか。

とってもいい雰囲気な気がする。

雰囲気に酔うとはこのことだろう。


僕の父さんが言っていたが、酔いは時に人を惑わせる。

五感だけでなく、その気持ちさえも...でも、酔ってこそ開く新しい扉もあるんだって。



そうだ!もう乗るしかない。この酔いにのっかるしかない!





『ブーブーブー』



僕は酔っていた。



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