神は死んだ。
チュンチュン チュンチュン
鳥の鳴く声、窓から差し込む、陽の光
チュンチュン チュンチュン
「まだ鳥が鳴いてるや。かわいいな。真似したくなっちゃうや。」
チュンチュン
「チュンチュン」
チュンチュン
「チュンチュ...ん?」
僕は、冷静になった。
まず鳥の鳴き声を真似していたことはこの際どうでもいい。
なにか大切なことを忘れているような気がする。
何かを忘れていることと、僕の頬にある手形は関係しているのだろうか?
僕は、寝ぼけている頭をたたき起こして、記憶を掘り漁った。
「確か...確か...何も思い出せない。」
思い出せず、モヤモヤしていても、おなかは空く。
ご飯を食べようと意識が1階に向いた僕は1階で何かどたばたと大きな音が聞こえることに気付いた。
おそらく空が大掃除をしているのだろう。空は、誰かが家に来るときは、決まって大掃除をするのだ。
「よし。僕の頬の手形が何か空に確認するついでに、誰が家にくるのか聞こう。」
階段を下りて、1階に近づくたびに、空の声と掃除機の声は大きくなっていく。
「もう忙しい。忙しい。こうなったのも全部お兄ちゃんのせいなんだから、昨日、あんなことするから全然寝れなかったじゃん。でも...」
「おい、空。」
「お、お兄ちゃ...じゃなくて何、このクソ兄貴!!あんたが来るとせっかく掃除した部屋が汚くなるじゃん。」
「そ、そんなこと言わなくても...」
「あ、ごめん。お兄ちゃん(ボソッ)」
何かわからんが、急に空が泣きそうな目になっている。
それほど、僕が1階に降りるのが嫌だったのだろうか。
これ以上、妹を悲しませたくない優しい兄は、確認事項をさっさと確認して2階に引き上げることを誓った。
「なあ、空。」
「なに?」
「この僕の頬を見てくれ。手形があるのがわかるか?」
「......」
空は沈黙しながら、カメレオンのように顔色を変えていた。
さっきの泣きそうな顔がもっと泣きそうになっている。
そんなに早く2階に行ってほしいのか!!!
「頬の手形が何か聞いたら、僕は2階にすぐ行くから何か教えてくれ。」
妹は、何かはっとしたような顔をしている。まるで何か必勝法を見つけたような顔だ。
今なら、泣きそうな顔も、歓喜のあまり泣きそうになっているようにさえ見える。
(もしかして...お兄ちゃん...昨日のこと忘れてるのかな。あんな恥ずかしい事、覚えていないのも腹が立つけど、ここは忘れてもらってる方が嬉しいもんね。よし!しらばっくれよう!)
「さぁ、別に知らないけれど、自分でやったんじゃないの?」
「はぁ?なんでそんな自分でビンタする必要があるんだよ。空がやったんじゃないのか?」
(す、鋭い!今日のお兄ちゃん、とっても鋭いよ...でも、なんかこう問い詰められるのも悪くないかも。じゃなくて、何かいい言い訳を考えないと...)
時間にすると1秒にも満たなかった。しかし、空の頭の中では、時間にすると5分に匹敵する思考を行っていた。
「あ、あれだよ!気合を入れようとしたんだよ。」
「ん?気合。なんで気合を入れる必要があるんだよ。僕は陰キャだぞ。気合とは無縁だぞ。」
「いや、だって昨日も言ってたじゃん。明日は一世一代の勝負だって。」
一世一代の勝負?
何かあったかな?
あ、もしかしてゲームのイベントかな。
そうだ。
そうに違いない!
だから僕は気合を入れて頬をたたいたんだ。
僕がゲームのイベントごときで気合を入れる人間だったのかは、もうこの際、気にしてはいけない。
今は、一刻も早く、空のためにも2階に行かなければ。
「そ、そうか。そうだったな。お兄ちゃん忘れてたよ。ありがと空。」
「わ、わかればいいのよ、掃除の邪魔だから、早く上いって!」
さ、僕は上に行ってゲームでもしようかな。
僕はふと時計を見た。
「あ、もう11時前だ。もうお昼食べようかな。」
食欲で吹き飛びそうな記憶の片隅に僕は、誰が家に来るのかを空に聞くことを忘れてはいなかった。
いや、むしろ忘れていたけど、なんか思い出せたのだ。
「あ、そうだ最後に空、今日って誰が来るんだ。こんなに掃除して。友達か?」
空は、何か未知の世界を見るような顔をしている。
「え、まじ。兄貴。」
「え、何。なんか怖いんだけど。はやく言ってよ。空。」
「いや、神代さん...」
その時、僕の体に電気が走った。
体に落雷したときは、こんな感覚なのだろうか?
電気が走ったおかげで僕の停電していた頭は、再び動き出した。
「そうだ。僕は神代さんへの告白の言葉を考えようとしていたんだ。」
頭に電気が通って動いたと同時に、テレビにも電気が通ったように時報が11時になったことを知らせた。
「ん?11時...待てよ。確か。」
コンコン...
ノックの音がする。
「いや、まさか、神代さんではないだろ。そうであってくれ」
僕は願った。妹はドアに走った。
「どちらさまですか?」
妹の声が聞こえる。
頼む。神代さんでありませんように...
告白の言葉を考える時間を僕にくれ!!
「あ、神代です。」
神は死んだ。




