98.もう片方にも報告をするよ
……そして、今の俺たちには組合以外にも報告する場所があるわけで。そういう訳でひと通り終わって家に帰る頃には、すっかり日も暮れて通信用魔道具に向かい合う時間になっていた。
「そう言えば報告1回ブッチしちゃったわね……心配かけてるかしら」
「それも含めての報告だからね……レディオチェック、マルキバイス、ディスイズダブルスリー、オーバー」
『ダブルスリー、ディスイズマルキバイス、ラウデンクリア、オーバー』
「お疲れ様です……昨日は報告出来ず申し訳ございませんでした」
『いえ、ご無事であれば何よりです。冒険者組合の方で依頼を受けたとのことですが、守備の方はいかがでしたか?』
「珍しい素材が手に入ったので、パーティーを組んでくれた人に山分けも兼ねて装備を作って渡しました。出来がいいと喜んでくれましたよ」
『……流石ですね、スリーワン。マジェリア国内の職人系ギルドで銀ランクを取得しただけのことはありますね』
「素材がよかったんですよ」
『素材がよくても、結局最後は職人の腕次第だと思いますが? スリーツーの武器に関しても、物凄く出来が良いとのことですし。ところで――』
「……はい、承知しております」
『察しがよくて助かります。昨日報告できなかった件について、詳細を報告していただきたいのですが』
「当然です。その為に報告しておりますので」
『……何か重大なことがあったのですか?』
「それはですね――」
『アサルトドラゴンとロックドラゴンをそれぞれ単独討伐ですか!? あの、冒険者を何人も揃えて犠牲を出しに出してようやく討伐可能かどうかっていうあの獰猛なドラゴンたちを!?』
「え、ええ……何か、そうみたいですね?」
『そんな、無茶しないでくださいおふたりとも!!』
「いや、でもほら、結果的に誰ひとり失わずに討伐出来たわけですし」
『スリーワン!!!』
「ごめんなさい! 申し訳ありません!」
『はあ……いずれにせよ、無事でよかったです……!』
……怒られてしまった。まあそりゃ普通に考えたら絶望的な状況なわけだし、心配する気持ちも分からなくはない。……実際討伐するのに、物凄い苦労したしな……
『それにしても、ロックドラゴンとアサルトドラゴンが同時に出現、ですか……これはちょっと調査しないといけないかもしれませんね』
「ええ、この一帯の国家を全部巻き込む恐れがありますので」
『ああ、ええと……それもそうなんですが、この場合それ以上に調査しないといけない理由があるのですよ』
「それ以上に……? マルキバイス、それはどういう……?」
『そうですね……スリーワンは、ロックドラゴンとアサルトドラゴンがそれぞれどういった場所に生息するかご存知ですか?』
「生息する場所、ですか?」
うーん、一応マジェリアにいた時に製本ギルドで読んだり、こっちに来てから報道センターの資料を読んだりで大まかには把握しているけど、確か……
「ロックドラゴンは、その名の通り専ら岩山に生息するドラゴンですよね? 餌となる鉱物を作るための岩が確保しやすいからとか」
『そうですね……その性質については、私も今初めて知りましたが』
「で、アサルトドラゴンは確か広大な針葉樹林帯の近くに生息しているんですよね? その方が餌となる動物が多いから」
『その通りです。そこまで分かれば、おふたりにも私の言わんとしていることが分かるかと思いますが』
うーん、生息域を確認しただけでは……あれ?
「……スリーワン、あの一帯に針葉樹林帯なんてあったかしら?」
「スリーツー……うん、確かに言われてみれば、森林はあっても針葉樹林帯は……ということは、マルキバイス、あのアサルトドラゴンははぐれという事ですか?」
『ええ、恐らくは……ただし、アサルトドラゴンというのは針葉樹林帯にしか本来生息しないし、絶対に孵化も成長もしないドラゴンなんです』
「ええと……つまり?」
『つまり、そのアサルトドラゴンは岩山で孵化したり成長したりすることはあり得ない……もっと言うと、どこかの針葉樹林帯から追い立てられて岩山にたどり着いてしまっただけの可能性が高い』
まあ、明確に肉食ドラゴンであるアサルトドラゴンがあの岩山で餌を効率的に見つけられるとは思えないし、そこは納得出来る部分ではあるんだけど……つまり何だ、どっかの針葉樹林帯にアサルトドラゴンをこの国の国境付近へと追い立てた存在があるっていう事なのか?
「……何かとんでもなくややこしい話になってますね」
『ええ。追い立てた存在が人間なのか動物なのか、はたまた天変地異なのかはわかりませんが……いずれにしても今回の件について調査が必要というのは、これでおふたりにもご理解いただけたかと思います』
「ええ、それはもう。……ちなみにこの一帯で一番近い針葉樹林帯はどのあたりにあるのですか?」
『ええと、そうですね。今地図で確認しますが……そちらはウルバスクのザガルバでよろしいですね?』
「はい、北に20キロほど離れた場所に国境のある都市です」
『ええと、ザガルバザガルバ……ああ、ここですね。この近くにある針葉樹林帯というと……ああ、ここですか。名前はありませんが、ジェルマとスヴェスダの国境付近にある森が相当しますね』
「ジェルマとスヴェスダ、ですか?」
『ええ、と言ってもスヴェスダの脇をかするような国境地帯ですが。この国側からウルバスク側へ追い立てるのはほぼ不可能ですね』
となると、ジェルマの方面から追い立てられたドラゴンっていう事か……なるほど、どこかきな臭いな。
『この辺りについては、別動隊に詳細を調査させます。ダブルスリーも、何か新しい情報が入り次第報告の方お願い致しますね。
ああそうだ、それと今後の予定なのですが……ダブルスリーはザガルバを出発しセパレートからスティビアのポーリに入るんですよね』
「ええ、その予定になっています」
『大使館の方に連合旅券と諸国連合ライセンスの方お送りしてありますので、明日受け取りに行ってください。おそらく、ちょうど届いている頃だとは思います。
それとスティビアに入国次第、速やかにエスタリスに向けて出発されるのがよろしいかと思います』
「エスタリス、ですか?」
『ええ、今回の件はエスタリスも何やらきな臭い動きを見せていますので……それが果たしてどういうものなのか、国内の雰囲気はどうなっているかとか、そう言ったものを確認していただければ』
「了解です。では明後日ザガルバを出発し、一旦スティビアに到着次第連絡いたします。それではこれにて報告終了します。アウト」
『ラジャー、アウト』
……そして、いつも通りの通信終了。と同時に、しなだれかかってくるエリナさん。
「……エリナさん、何かとんでもない事になりそうだね……」
「うん、そうね……まあでも、私たちは私たちに出来ることをひとつずつやっていきましょう?
新メニューの考案も……ね?」
「……エリナさんがいつも通りで安心したよ」
まあでも、確かに自分に出来ることをやっていくしか出来る事はないんだよな。色々ときな臭い話は絶えないけど、それについてはあくまで大臣閣下みたいな人たちが考えるべきことだ。
俺たちはあくまで、自分たちにとっての安寧の地を探す旅をしていて、そのついでに大臣閣下の手伝いをしているに過ぎないんだから。
お久しぶりの閣下です。
そしてさらにきな臭い話になっていくのはもはやお約束だね! しょうがないね!
次回更新は06/27の予定です!