87.冒険者組合の依頼を見て、冒険者登録してみるよ
「どれどれ、組合依頼はっと……トロリ草の採取にワイルドディア生息域の掃除?」
ここの依頼掲示板はマジェリアの総合職ギルドと同じく組合依頼と一般依頼とで枠が分かれている。だから組合依頼が他にもないかとか、敢えて掲示板全体を探す必要がないので助かるんだけど……
……え、まさか本当にこれだけなの?
「やっぱり少ないわよね、マジェリアの総合職ギルドと依頼の対象となる範囲が違うということを差し引いても……」
「ああ、まあ、あそこは本当に雑用ばっかりだったしなあ……というかトロリ草採取ってここにもあるんだな」
まあ、あんなに便利で生命力も繁殖力もそれなりに強い植物なら、どこに行っても採取の依頼があっておかしくはないと思うけども……
「やっぱり国境地帯の異常がそのままこっちにも表れてるて感じだね……しょうがないなあ、今日のところは久しぶりにトロリ草の採取を……」
「あ、ちょっと待ってトーゴさん。依頼を受けるためにはまず組合に登録をしないといけないのよ」
「え? あ、ああ……確かにそうだね」
……完全にボケてたな俺。マジェリアでも専門職ギルドの登録には独自の審査が必要だったじゃないか……あれ、こっちでもそれは同じような感じなのかな?
「それじゃ、登録してこようかな……あ、登録するときに何かテストでもあるのかな。エリナさん、どうだった?」
「と言われても、私はマジェリアで冒険者ギルドに登録してたからそのまま3等級にスライドだったし……」
デスヨネー。
「ん、テスト? ないことはないけど、別に合格とかそういうのはないかな。旦那さんはステータスの分かるものを持ってきている?」
「え? ああ、マジェリアの総合職ギルドカードでいいなら」
「中部諸国連合のデータベースにリンクしているなら、それでいいかな。それとテストの結果を基にランクを決めるんだ。テスト内容は……その時にならないと分からないけど、大体は冒険者としての総合力を試されるもののはずだよ」
「……マルタさん、スヴェスダ出身ですよね?」
そういうのってサラさんやクララさんなら詳しそうだけど、この人は本国でランクを決めてからここに来てるんじゃないのか……?
「……ああ、僕はここで初めて登録したから試験内容を知ってるんだ。もっとも戦闘関係はそこそこだったにもかかわらず、採取関係の試験が絶望的だったから、5等級から始めることになったんだけど……」
「マルタは腕っぷしだけでここに来たからな。その辺りのトレーニングはあまり受けてこなかったんだと。だからそっち方面も鍛えろって毎回言ってるのに」
「……正直、サラには言われたくなかったよそれ……」
まあどっちも傍から見れば脳筋に見えるからなあ。……それにしても戦闘能力とかだけじゃないのか。それはそれで、うん、助かるな。
「と、取り敢えずは受付に行ってステータスの分かるものを提出したらテストの申請が出来るから、それを受けてランクを決定してもらうといいよ。それが終わったら後は簡単な説明を受ければ登録は終わるからね」
「ありがとうございます、マルタさん。では行ってきます。エリナさん、また後で」
「うん、行ってらっしゃいトーゴさん」
……さて、まずはマルタさんに言われた通り受付かな。総合職ギルドカードを用意してっと。
「すいません、冒険者組合に登録したいんですが」
「はい、登録ですね。ステータスの分かるものはお持ちですか?」
「マジェリアの総合職ギルドカードでよろしいですか?」
「大丈夫ですよ、少々お預かりしても?」
「もちろんです」
「ありがとうございます。それでは確認いたしますのでしばらくお待ちください」
……データベースって本当に便利だよな。ここら辺の国の間でしか共有されていないっていうのが惜しいくらいに。まあ情勢とか色々理由はあるのかもしれないけど。
「はい、ありがとうございます。一応戦闘試験のみ受けてください」
「……あれ、採取関連はいいんですか?」
「トーゴ=ミズモト=サンタラさんは素材捜索と素材鑑定のスキルをお持ちなので、そちらについては無条件で合格です。戦闘試験については上級スキルがないので無条件というわけにはいきませんが……3等級上限の戦闘試験になりますので、階下の試験場にお越し願います」
なるほど、ここで取れるランクの上限が示されるのか。まあそりゃそうだろうな、口ぶり的には戦闘関連の上級スキルを持ってさえいれば無試験合格みたいだし、ここで青天井にするわけにもいかないんだろう。
「分かりました、宜しくお願いします」
「はい、ではそちらの階段をお降り頂き、101と書いてある部屋に入室願います」
「ありがとうございます」
……もしかして試験場って1部屋だけじゃない? 3桁ってことは結構多かったりするのか? この建物、地下どれだけ広いんだよ。
それはさておき……101、ここか。番号的に予想はついてたけど、本当に階段降りきってすぐのところなんだな。
3回ノックして、ノブに手をかけドアを開けて中に入り――
「失礼します、戦闘試験を……っ!?」
――嫌な感じがして半歩後ろに下がる。瞬間、たった今開けたドアの上から誰かが勢いよく落ちてきた。
いや……落ちてきたというより飛び降りてきたというべきか。ちゃんと着地してるし。
「へえ、これをかわすか。話には聞いていたけど確かになかなかやるようだな、トーゴ=ミズモト=サンタラ」
「……ありがとうございます」
一応、素直に礼はしておく。とはいえ腰のバトルアックスからは手を離さないし、目の前の試験官らしき人物から目をそらさない。……気を抜いたら絶対やられるよなこれ。
「……そして、隙も見せない、気も抜かない、と来ている。もしかして戦闘経験が?」
「ないわけではない、程度ですかね……それよりもこちらからひとついいですか?」
「何だ」
「右斜め上のライトの影、真後ろの102号室の中、そして101号室の中に待ち受けているのは、あなたの武器か使役物ということでいいですか?」
「分かるのか、これが!?」
「うまく目立たないようにはしていると思いますけど」
だからこそ、さっきの行動で前に……というか101の室内に入らなかったんだ。室内に入ろうものなら、その使役物に攻撃されて終わりだったろうから。
……まあ、何を意図しているかは大体わかるけど。というかこの試験、4等級以上から始められる冒険者ほとんどいないんじゃないか?
「そして何かを考えつつ、囲まれないようにちゃんと位置を考えながら行動している……か。よし、分かった! 試験はこれにて終了! 結果は上の受付に聞くように!」
「……戦闘試験なのに、戦闘をしなくていいんですか?」
「馬鹿を言うなトーゴ=ミズモト=サンタラ。お前レベルのステータスの奴と戦ったら、結果は火を見るより明らかだろうが。
そもそもこの試験、戦闘試験とは言っても戦闘がメインなわけじゃない。お前ならその意味は分かると思うが?」
「ええ、まあ、確かにそれはそうなんですけどね」
……確かに目の前の人の言う通り、この試験は純粋な戦闘力を計るものではない。そもそも冒険者の場合は、純粋な戦闘能力と同じかそれ以上に危機察知能力、危機管理能力が重要になってくるものだ。
さっきの奇襲にしても待ち伏せしている使役物にしても、それをちゃんと把握出来ていなければ本番では自身の命を危険にさらすだけだ。
冒険者が活動する場所は、必ずしも見通しのきく場所とは限らないし……むしろ森の中とかだと、こういう事は普通にありうるわけだ。
その辺の資質を見るのがこの試験の目的、ということは……
「もしかしてこの試験場、ここ自体がひとつの部屋ですか?」
「流石にそれも分かるか」
ああ、やっぱりそうなのか……これは難易度高いわけだ。腕っぷしだけでやってきてたって言ってたマルタさんがそこそこの成績で終わるわけだ。
トーゴさんマジパねえ(
戦闘試験というより身を守るための技術がちゃんとあるかどうかの試験ですよね。初撃をかわせていれば試験としてはそれなりの点数が出る感じ。逃げる時に逃げ切れるかも重要な要素ですので。
次回更新は05/25の予定です!