86.冒険者組合の様子を聞くよ
「え、冒険者組合の話ですか?」
エリナさんのライセンスと俺たちふたりの旅券を申請して、それでもまだ1週間ほどはここにいることになる、ということでいつも通りの行動を続けて3日目。
そう言えばエリナさんに冒険者組合の方を担当してもらってるけど、結局まともに訪れたことがないことに気が付いた俺は、半分興味本位で妻の仕事場を覗いてみることにしたのだった。……というか最近全然ステータス更新してないから分からないけど、下手をすると全部のステータス抜かれてるんじゃないかって疑惑が出てきたんだよね……
とは言え覗くにしても、ある程度どういう場所かっていうのを確認してから行った方がいいかもしれない……というわけで、営業時間も終わりの方に来店するエリナさんの最初のパーティーの人たちに確認をしようと話題を振ったのが今だったりする。
「ええ、たまには違う職業のも見てみたいかなーなんて。妻の職場っていうのもあるにはあるんですけど、純粋に興味もありますし」
「ああ、なるほど。確かに旦那さんはそういうの好きそうではあるね。エリナさんによれば、料理の他にも色々と専門の職業を持ってるって話だろう? 今の剣も、旦那さんが打ったものだという話だし」
「マジかよすげえな!? あー、でも店長にとって冒険者ってのは縁のない職業な気がするけどな。特に戦闘スキルとか持ってるわけじゃないんだろ?」
「一応、斧術中級と鎚術中級を持ってますが」
「え……ああ、そうか。木工と鍛冶か? にしてもそれだけだと下級どまりのはずだから……何だ、ちゃんと戦えるのか」
「サラさん、こう言っては何ですけどトーゴさんのステータスは私よりも高いですよ?」
「マジでか!?」
……うん、生産に特化したスキル構成だから信じられないかもしれないけどね。一応戦闘用のスキルもあるから、本職とは比べるべくもないけど戦えないことはない。というか俺も自分でどんなスキルを持ってるかってちゃんと把握しきれてないんだよな……
でもまあ、ここに来るまでに一度とは言え盗賊の襲撃も受けてるし、エリナさんに頼りっきりじゃなくて普通に自分の身は守れるようにしておかないといけないのかな。
「というかエリナさん、旦那さんもしかして採取依頼は専門分野のひとつなのでは? 生産系の専門をたくさん持っている……言ってて何かおかしい気がするけど、とにかく得意分野が多いなら、そっちの方向は行けるのかな」
「ああ……そう言えばトーゴさん、最初はトロリ草の根とか大量に採っていい収入源にしてたわよね?」
「あったねえそんなこと……」
今あの依頼を受けようものなら、自分の分を多めに採ってお菓子作りに生かすこと間違いなしだ。……そう言えばアレはわらび餅か葛餅か、どっちタイプのお菓子の原料になるんだろう。
個人的には葛餅の方がいいんだけど、アレ結構しっかりめだし。
「だから高地に行って薬草採取とか、それこそワイルドボアの駆除なんてのも旦那さんには簡単なんじゃないかな。そう考えると、意外と冒険者組合で依頼を受けてみるのも悪くはないかもしれないよ?」
「ただし護衛はやめといたほうがいいな、アレは対人スキル……所謂ステータス的なものじゃなくて戦闘慣れ的な意味のスキルがないと」
「ああー……まあ、そうかもしれませんね」
ここに来るまでにがっつり盗賊の首落としてるけどな、俺もエリナさんも。そんな事言うとまたややこしい事になりそうだから言わないでおこう。
「そういうことなら、何か受けることを考えて依頼を確認してみましょうかね。ここ最近はお菓子作りばかりになっちゃって、せっかく色々あるスキルも宝の持ち腐れになってますし」
「アタシたちは別にそれでもいいんだけどなー」
「こらサラ、めったなことを言うものじゃないよ……そう言えばクララはさっきから静かだけど、どうかしたかい?」
「え? あ、その……何でも、ありませんよ?」
「いや、それめっちゃくちゃ怪しいから」
「うん、怪しい。何か問題でもあるのか?」
「いえ、本当に、大したことじゃ、ないんです。ただ、うちの、姉さんが」
「お姉さん……確かサンドラさんというお名前でしたか」
「は、はい。姉さんが、しばらく、組合での仕事、休んだら、どうかって……」
「組合での仕事って……冒険者組合の事か?」
「は、はい」
……だろうなあ、とは思う。サンドラさんとサシで話してた時も、あの人は妹であるクララさんの心配を隠さなかったもんな。最近国境近辺からきな臭い話が多く聞かれるようになったらしいし、つまりはそう言うことなんだろう。
「そっかー、で、クララはどうすんだ?」
「わ、私は、続けたいけど……でも、姉さんの、心配も、分かるし。私が、抜けたら、回復も……」
「まあ、確かにその辺は結構大変だけどな」
それにエリナさんから聞いた話、このパーティーは以前男女関係で大変な目に遭ってるんだよな。それを考えると、ちょっと言い淀んだのも何となく理解出来なくはない。
「……まあそれは、今組合にどんな依頼が多く残ってるか確認してからでいいんじゃねえか? 簡単な採取の依頼を多めにこなしていけば、大変かもしれないけど収入は維持出来るだろ」
「その手の依頼が、まだあればの話だけどね……」
……ん? まだあれば? 何かおかしなことを言うなサラさん。
「簡単な採取って、常設依頼ではないんですか?」
「常設依頼? 何だそりゃ」
「ああ、マジェリアの総合職ギルドだけなのかな。期限も定員もなくて、受けておけば達成時にいつでも見合った報酬をもらえるってタイプの依頼ですけど」
「ああ、組合依頼か」
……どうやら単純に呼び名が違ったようだ。自動翻訳機能があっても、この辺どうにもややこしくなるんだよね……
「ええ、その組合依頼に指定されてるわけじゃないんですか?」
「まあ、普通であればそうなんだけど……今の状況を考えると、ってことだよ。ワイルドボアがあれだけ近くに出没するような状況ではね」
……ああ、そういう事か。
簡単な採取というからには、郊外に行けばそれこそ掃いて捨てるほどある薬草やら野草やらを採取する依頼ということになり、それ故に依頼の達成報酬は安く抑えられるわけだけど……
だけど今は、国境の状況からしてその野草や薬草を採りに行くのも危険な状況かもしれない、そんな依頼を安い金額で受けるわけにはいかないから、自然とそう言った依頼が組合依頼から外れていく……というわけだ。
うん、確かにその通りだね。
「まあいずれにしても、実際にどういう状況下確認した方がいいんじゃねえの? 今日見てみた感じじゃ、そこまで依頼の傾向が変わってる感じも受けなかったし……ただ明日になったらどうなってるかはわからねえけど」
サラさんの言う通りだと思う。百聞は一見に如かず、っていう訳じゃないけど、ここであーだこーだと言っててもしょうがないよな……
……というわけで俺たちは翌日、冒険者組合のロビーに来たのである。ちょっと開け気味のそこは、何となく総合職ギルドのブドパス支部を髣髴とさせて懐かしく感じる。
そんな事より依頼の傾向である。
「ええと、依頼掲示板は、っと」
「……ん、あそこよ。ただここの依頼掲示板は、大体概要しか書いてないから気を付けてね。気に入ったのがあれば、詳細を受付で確認するのよ」
「……何となく、大学の学生課的なシステムなのね……物件とか」
何だろう、そう考えると急にここが学生課に見えてくるぞ。……言って結構懐かしくなってるけど。
「さてと、それはともかく……」
取り敢えずどんなものがあるのか、確認するだけしてしまうことにしよう。
久しぶりにトーゴさんが採取とかやります。冒険者としての活動は初めてですが。
ちなみに狩猟もそれなりにはこなせますが、作中でも言及されていた通り対人に関してはエリナさんほどには戦えません。技量的にはサラさんレベルをステータスの高さで補ってるレベル。
とは言えステータスがとんでもないので盗賊の首くらいは落とせる感じです。
次回更新は05/22の予定です!