84.もうひとつの大使館にも足を運ぶよ
一度家に帰って手紙を確認した後、俺は改めてスティビア共和国大使館に向かうことにした。大体大使館っていうのは1か所2か所に固まってるものなんだけど、スティビアだけ何でか知らないけどちょっと離れたところにあるんだよね……
時間はまだ昼とも呼べない午前中。歩いて行って30分くらいだとしても、お昼を食べるのにはちょっと早すぎる……いや、大使館での時間次第ではちょうどいいかな? 確か途中に冒険者組合があったはずだから、帰りにちょっと顔出してみようか。
「しかし暑くなってきたなー……流石に6月も下旬になればこれくらい暑くなるか、天気もいいし」
もう俺たちが結婚して1か月……お互いに記念日だ何だとうるさく言わなかったこともあって、4日前にささやかなプレゼントをした程度だけども。まあでもエリナさんの気持ちが実際のところどうなのか詳しくは分からないもんな、うん。
……俺は誰に向かって弁解してるんだろう。
とにかく、こんな季節になったんなら暑いのも当然だ。もしかしたらアイスクリームなんかも売ることになるかもしれないけど……当分は今の感じでいいかな。
ちなみに、今からスティビア共和国大使館に行く理由だけど……当然ながらビザ申請だとかそういう話ではない。そもそも連合旅券の発行が1週間後だっていうのに、こんな時期から申請しても必要書類の不備ではねられるのがオチだ。
……ビザ免除とかあるかもしれないけど、いずれにしてもその関係で言ってもしょうがないことは確かだ。
では何が目的なのかというと、ウルバスクに来る前にマジェリアのナジャクナでしていたのと同じことをするため。
すなわち、観光情報の収集だ。
「今のところスティビアは文化的に歴史が深くて海産物がおいしいところという情報しかないんだよな」
スティビア料理店というのは……主に南スティビア料理を見ることが多かったけど、ここに来るまでにも結構出しているレストランが多かったんだよな。メニューはというとピッツァにパスタにと、前世でいうイタリア料理っぽい感じのが多かったように思う。味も大体のところでよかった。
あとはスティビアの建築物と絵画、それとガラス細工なんてのもあるらしく……国民生活なんかは結構豊からしいな。
……でも、逆に言うとそれしか知らない。
そんな状況で何も知らず行くのは、はっきり言って不安しかない。入国許可をもらいに行ったときに一緒に情報を手に入れる、というにしても、もうちょっとばかり猶予が欲しいところだ。
そういう意味で、旅券交付に1週間かかるというのは都合がよかったかもしれない。
「……ここか」
延々歩いて30分、少しばかり大きくて新しめの建物に到着する。表札を確認すると、ここがスティビア大使館でいいらしい。例によって観音開き式の自動ドアになっている入口をくぐると、マジェリア大使館より広めのロビーに入った。
観光情報のパンフレットは、と――
「いらっしゃいませ、何かお探しでしょうか?」
すると俺が入ったタイミングから一拍おいて、大使館員らしき人が話しかけてきた。しまった、きょろきょろしすぎたか……いや、まだ建物に入ったばかりだしそんなこともないはずなんだけど。
「こんにちは。近々スティビアに行こうと思ってるんですが、出入国情報から観光情報まで取り敢えず手に入れられる情報をお願いしようかと」
「ああ、それはそれは。歓迎いたしますよ。失礼ですがお国はどちらの方で?」
「マジェリアです。夫婦でウルバスクに滞在しております」
「マジェリアですか、そうなりますと連合旅券をお持ちになりましたらこちらでの入国許可証は必要ありませんが……旅券はお持ちですか?」
「ああいえ、現在申請中です。発行までにはもうしばらくかかるかと……そうですか、入国許可証はいらないんですね」
それはいい事を聞いた。前世でもそうだったけど、許可の申請のあるなしはスケジュール上かなり重要だからな……
と、職員は俺を受付に促し、何やら冊子を取り出して言う。
「出入国情報や観光情報に関しましては、一応こういった冊子をお配りしています。なのでこちらをお読みいただければ大抵の疑問点は解消されるかと思いますが……一応説明の方いたしましょうか?」
「お願いします」
ひとりで読んだら絶対余計なとこまで読みそうだもんな、こういうのって……
「それではこちらに書いてあるのを抜粋して説明いたします。
まず出入国関係の情報ですが、中部諸国連合を含む一部の国の国民に対しては入国許可証の免除措置を行っています。この場合、認められる滞在資格は観光及び短期商用、滞在日数は3か月となっています。
それ以上の滞在日数を予定していたり、資格外の活動を行おうとしている場合は入国許可証の取得をお願いします。こちらは最短で半年の滞在日数を付与されます。申請費用はここウルバスクにおいては最安値で200クン、申請期間は最短1日となります」
なるほど、大体前世におけるビザと同じような感じだ。国によってこれより格段に日数が短かったりすることはあるかもしれないけど、それでも標準的と言えば標準的な仕様ではある。
「出入国管理に関しましては、陸路海路問わず出入国地点が厳格に決められています。こちら側の海路での入国地点はポーリのみですね。そういった海路入国地点がスティビア国内には合計3か所ありますが、ウルバスク側からはポーリ以外でアクセスの楽な場所はございません。
スティビアに入国する流れとしては、ウルバスク側での出国地点を出発する直前に旅券にスタンプを押してもらいます。そして入国情報用紙を船内で記入し、ポーリにて入国情報用紙を提出すると同時に旅券に入国スタンプを押してもらえば入国は完了です。
ただ口では簡単ですが、入国地点がそれほど多くないこともあってか混雑していることが多いようですので、それに関してはご注意を」
「ありがとうございます」
「出入国に関してはこんなところですが、何かご質問はございますか?」
「ああ、ええとですね、俺たちふたりは大きめの魔動車を使って旅をしている最中なんですが……海路入国の際に船に積めますかね?」
「お乗りになる魔動車のサイズはいかほどですか?」
「ええと、確か幅は2.2メートル、長さは7.2メートル、高さは3.1メートルだったと思います。家に帰ってみてからでないと分かりませんが」
「いずれにしてもそれより大きく外れていないというのであれば、問題にはなりません。これが体積比でその4倍5倍というのであれば、多くの魔導車両を詰めるわけにもいかないので積めないこともあるかと思いますが」
「積むのは最下層ということでよろしいですか?」
「はい、目的地に到着しましたら船内アナウンスでお呼び致しますので、それまでは船内駐車スペースにお預かりするということで」
「分かりました」
その辺は何というか、前世でいう車載フェリーみたいな感じなのかね……というか多くなかろうが魔動車を詰めるということは、もしかしたらとんでもなくでかい船を保有しているのかもしれない。この国は。
となるとー……スティビアのポーリという街はもちろんの事セパレートっていうウルバスクの都市もなかなかに発展ぶりが期待出来るかもしれない。少なくともどでかい港は必須っていうことだしね……
「出入国に関してはわかりました。スティビアと他国の国境は、ウルバスクとの間でなくても大体そんな感じなんですか?」
「ええ、我らがスティビアはそう言った国家連合等には所属しておりませんので、どこから出入国するにしてもその手続きは必要になります。
まあ、我がスティビアの入国審査はそれでもこの世界のスタンダードではありますよ」
……まあ、そりゃそうか。そもそも中部諸国連合内を行ったり来たりでする手続きはものすごい簡易版の審査だろうしね……
それを考えると、マジェリア国民が入国の際に入国許可証が必要っていう国もどこかにあれば教えてほしいところではあるな。
今回はスティビアの大使館の話です。
何だかんだで車を詰める大型フェリーがあるんだから相当技術力あるよねーと思うべきなのか、いまだに魔動車より馬車が幅を利かせているマジェリアをド田舎と思うべきなのか……
次回更新は05/16の予定です!