67.観光情報を手に入れて出入国準備するよ
「さて、観光情報と言っても色々とあるわけなんですが、どういった種類の情報をご要望でしょうか」
「そうですね……まずは食事関連ですね、各地名物から値段の相場まで。それから文化関連の情報と、各都市の特徴を。優先順位としてはその辺りでしょうか」
「食事関連を最初に持ってくるとは変わった嗜好ですね」
そうかな? 食事を目当てに旅行するっていうのは前世ではよくあったことだけど……普通の人と感性が違うのかな俺。
「まあいいです。食事に関してですが、内陸と海沿いでだいぶ変わるので面白いですよ。内陸はエスタリス料理やマジェリア料理に似ていて、海沿いはスティビア料理に似ているんです」
「……どう違うんですか?」
「内陸の方は肉を使う料理が多いですね、揚げたり焼いたりがメインなので、やや脂がきつめですが味は強いですよ。
対して海沿いは海鮮料理がメインです。煮たり蒸したりが多く、その分素材を生かした料理が多いですね。あと海沿いではパスタや白米を料理に使うことが多いです」
「へえ……」
そう言えばこの世界に来たばかりの時、赤米を使ったシチューなんてものがあったけど……やっぱり白米もあるのか。元日本人としてはちょっと嬉しいな。ああでも、スティビア料理に似ているってことは食べ方はリゾットとかそっち系統なのかな。
「食事の相場に関してですが、まず我が国の通貨はクン、補助通貨をサンと言いまして、1クンが100サン、および2小銅となります……まあ、補助通貨の方は現在10サン単位でしか使われていないので、使われる際には小数点で表現されることがほとんどなのですが」
ということは、数え方としては13.4クンとかそういう感じなのかな? 確かにそれならいちいち補助通貨の単位を言う必要もないし、合理的だとは思うけど……
「食費に関しては半径30センチ大のピザ8分の1ひとつで7から10クン、飲み物が500ミリで大体3から4クンといったところですね。ちゃんとした食事をしようとすると昼食でも30クン、夕食だと80クンほどかけないといけません。
もっともこれは首都であって観光都市としてはそれほどでもないザガルバでの話で、観光地でもある港町ではもう少し高めです。沿岸北部のセパレートでは5割増し、南部のドバルバツではその倍ほどになります」
「ほうほう、なるほど」
日本円に当てはめると1クンが2小銅だから20円くらい、ということはピザひと切れが140円から200円、飲み物が60円から80円、昼食600円で夕食1600円。金銭感覚的にその倍と考えると……ピザめっちゃ安いな、それ以外はザガルバで東京と同じくらいの感覚……ちょっと夕食が高めか。
そっちはともかく海沿いの街が思ったより物価高いなあ。1年間は月収があるとは言っても、入国後は節約しないと結構辛そうだ。屋台で売る出すものの値段も、場所に応じて変える必要があるな。ツッコまれたら材料のレア度を盾にするなり何なりすればいい。
どういうのが売られていてどういうのが専売対象になっているか……というのは、入国してから確認しよう。
「文化関連に関してですが、首都ザガルバでは絵画と彫刻を中心とした美術館が多く、そう言った施設は政府からの支援がありますので入場は無料となります。後は街の中央広場で食品関連とハーブの市場が催されていますね、ただしこれについてはウルバスクの主要都市であればどこでもあります。
海洋関連の博物館およびスティビアへの船便をご希望でしたらセパレート、海水浴や城址観光をご希望の場合はドバルバツがお勧めです。ただしザガルバから行く場合セパレートの方が圧倒的に近いので、海鮮料理がお目当てであればそちらがお勧めですが」
「ありがとうございます。してみると結構はっきりと地域ごとの特徴あるんですね」
「場所によってかなり環境が違いますからね」
大臣閣下からの依頼のことも考えると……ザガルバ経由でセパレートに行くのがいいかもしれない。住みやすそうな街かどうかは……分からないけど。物価も高めだし。
「文化関連の説明で各都市の特徴も一緒に説明してしまいましたが、これでひと通りの説明は終わりました。何か他にご質問ございますか?」
「そうですね……いえ、今のところは特に問題ありません。あ、あとひとつだけ。観光とは違うんですが、公務オフィスの開設時間はどうなっていますか?」
「午前9時から午後5時までとなっています。休日はありません。我が国においては公務オフィスでの日雇い募集はしておりませんので」
「なるほど……ありがとうございます」
そうか、マジェリアの総合職ギルドのように簡単な依頼を受け付けているわけじゃないから、24時間開けている必要はないのか。……銀行業務に関してはどうなるんだろうとは思うけど、そこはまた入国してから確認すればいいか。
「ありがとうございます、これで取り敢えずの疑問は解消されました」
「幸いです。それでは良き旅を」
……思ったよりスムーズに終わってくれてよかった。さてと、エリナさんも大変だろうし自分の家に帰るか。
「……というわけで、ウルバスクに入国したらザガルバ経由でセパレートに向かうことにするよ」
「なるほどね……うん、いいんじゃないかしら。次の国へ行くことも考えると港町を目指すのは当然だしね」
その夜、ホテルに帰った俺とエリナさんは今後の計画について話し合いを持った。とは言っても基本的な考え方は俺たちふたりとも同じなわけで、ほとんど確認作業に過ぎないわけなんだけど……
ちなみにその日のおやつの売り上げは、ブドパスとは比べ物にならないほど多かった。エリナさん曰く、俺が戻って来た時には既にブドパスでの1日の売り上げ平均を超えていたらしい。
「おかげで途中で材料がなくなるかと思ったわよ……」
「あれだけ買い増ししといてなくなるかもしれないって相当だよね……この街を離れる前に前回よりも多く買い増ししておこうか」
「というより絶対そうすべきだわ! ああでも、今後はラスクは作れなくなるわね」
「ああ、クネドリーキが手に入らなくなるもんね……」
聞けばクネドリーキを日常的に使用しているのはマジェリアを除けばエスタリスくらいで、他の国では堅めのパンが主流で付け合わせとしてもクネドリーキの需要なんかないのだとか。
……結構うまいんだけどな、アレ。
「となると、ユリ根コロッケとカボチャタルトとベビーカステラ……」
「その中だとユリ根コロッケも怪しいかもしれないわよ? カボチャはともかくユリ根が広く知られている食材ってイメージが湧かないもの。今日一番売れたのもユリ根コロッケだったし、もしかしたらウルバスクの人たちが物珍しさで買ってるのが増えてたんじゃないかって思うもの」
「そうか、となると……カボチャタルトとベビーカステラか、これだけだとさすがにアレだから入国してから嗜好を調べて新作メニュー試してみるか」
「それがいいと思うわ!」
「……エリナさん、味見が目的になってない?」
「失礼な! そんなの目的にならないわよ! ……半分くらいしか」
「いやそれなってるからね? 断じて誤魔化せてないからね?」
まあ、いずれにしてもちゃんと考えなきゃいけないことが多いんだけどね……エリナさんの協力がないと絶対やっていけてないなコレ。
「さて、そうと決まれば明日はやることが多いな。出来れば今日中に出国もしたいし、今のうちにしっかり休むことにしよう」
「ええ、そうね。私も賛成よ。……ひとつを除いて」
「へ? ……んむっ」
最後の言葉に思わずエリナさんの方を向くと、待ってましたとばかりに俺の口がエリナさんの唇で塞がれる。しばらく唇を重ね合った後、顔を離したエリナさんは俺に妖しく囁きかける。
「というわけで、まだ寝かせないから……ね、トーゴさん?」
そう囁くエリナさんの眼には、声以上に妖艶な光。
ああ、ブドパスで依頼を受けてからご無沙汰だったからな……と、削られる睡眠時間への嘆きと自分の中に渦巻く欲望とが綯交ぜになるのを自覚する俺だった。
やっぱりエッッッッッッッリナさんじゃないディスカァ――――!!!!!
ウルバスクは色んな場所があるのでそれだけ国内においても文化が違うということで。
次回更新は03/26の予定です!