65.国境都市に着いたよ
ブドパスを出て半日ほど車を走らせたところで、俺たちは次の目的地であるナジャクナの検問に到着した。馬車で大体2日、普通の魔動車で1日くらいかかると聞いていたんだけど、ここは流石俺が作った魔動車と自画自賛しておくべきなんだろうか……
いや、平均時速20キロ程度で半日だから大体200キロくらいしか離れていないわけで、これはむしろこの世界にある交通手段が遅すぎるだけか。危ない危ない、思わず天狗になるところだった。
とにかくこの検問で、エステルの時と同じようにフィラーを貿易貨幣に両替する必要がある。依頼をこなしたり屋台でおやつ売ったりして、何だかんだと30万フィラーまで所持金が増えた。今後物価の水準が各国でどういう感じなのかは分からないけど、それでも当面の資金としては十分すぎるだろう。
「ええと、30万フィラーを貿易通貨に両替すると……1穴あき白金1小白金かな? ああでもエリナさんと俺とで所持金が分かれてるからその分も考慮に入れないといけないのかな? 計算めんどいな……」
「こういう時総合職ギルドカードを作っておいてよかったと思うわよね……額面の大きい貨幣も勝手にばらしてくれるし」
まあ、それを言っちゃったら貿易通貨でいくらになるかとかも考えなくていいって話になっちゃうんだけど。ギルドカード万歳。
そしてそれとは別に、この国境都市においてはブドパスを中心としたマジェリア国内と決定的に違う部分がある。エステルにいた時は転生したばかりだったこともあって、あまりそのことを意識せずに過ごしていたけど……流石に今となっては色々と気を遣うな。
「と、俺たちの番か……」
「こんにちは、ナジャクナへようこそ。総合職ギルドカードはお持ちですか?」
「はい、ふたり分お願いします」
「では手続きの方致します。同時に魔動車の登録も致しますので、こちらから左折したところにある駐車場に駐車してお待ちください」
「ありがとうございます、お願いします」
言われるがまま駐車場に行ってみると、敷地としては結構広いわりにそこまで多くの魔動車や馬車は停まっていなかった。ぶっちゃけエステルにいた時の方が駐車している車が多かったように思う。
……ウルバスクとの交易を考えるともうちょっと多くてもよさそうに思うんだけど、何でだろう。
「お待たせしました、トーゴ=ミズモト=サンタラさんとエリナ=サンタラ=ミズモトさんでよろしいですね? こちらギルドカードをお返しします。そして今から魔動車の登録を行いますが、この魔動車でウルバスクに向け出国なさいますか?」
「はい、そのつもりです」
「分かりました、こちらの魔動車に関しましては……はい、出国許可が下りてますね。問題なくマジェリアを出国出来ます。出入国のルールに関しては総合職ギルドなどで説明は受けられましたか?」
「はい、確か入った側の出入国管理施設に申請すればいいんですよね」
「そうです。詳細は市内にあります総合職ギルド支部の方にお問い合わせください。それでは手続き終了しましたので市内へどうぞ。市内には中央広場に隣接する移動店舗専用駐車場と、南部にある一般駐車場がありますので目的に応じてご利用ください」
「ありがとうございます」
そんな感じで係員の人に見送られて、ナジャクナ市内へと移動する。国境都市がどんなものかはエステルにいた時に何となく把握した気になってたけど、この街はこの街で何か雰囲気が微妙に違うな……
「……何か、街自体がエステルより広くない?」
「やっぱりエリナさんもそう思う? ブドパスほどじゃないけど、結構栄えてる感じあるよね……」
それだけにあの魔動車、というか駐車している車の少なさはどうにも気になる……後で総合職ギルドの人に聞いてみようか。
「さてと、それじゃ駐車場行こうか。確か移動店舗専用駐車場とか言うのがあるって話だったよね……ぶっちゃけ屋台だよね」
「だと思うけど……あ、でも食べ物じゃないのもあるかもよ? お土産物の露天とか、そういうのもあるんじゃないかな」
いやまあそこら辺はあまり気にしてないんだけど。ここでもある程度資金を調達しておきたかったし、そういう区画があるなら利用しない手はない。というわけでそっちの方に行こう。
しばらく魔動車を徐行させて市内中心部に入ったところで、係員の人が言っていた中央広場であろう場所に出た。……なるほど、中央広場の名にふさわしい広さだ。広場の周りを囲うように道路が作ってあって、広場の中ではやや小さめの市場が開かれている。
ここから見える市場で出ている店は、どれも近所から引っ張って来たゴンドラで作った露店という印象だけど……この広場に隣接する駐車場は、これより広いのかな。
「あ、トーゴさん。あそこに駐車場入り口の標識が立ってるわよ」
「ん? あ、本当だね。あそこを左折か……結構奥の方にあるんだね」
中央広場の脇に建っている大きな建物の裏に入っていくルートみたいだ。ここから魔動車が見えないということは、つまり隣接しているとは言っても建物で隔てられているということなんだろう。そうなるとあの建物が一体何なのかがちょっとばかり気になるところだけど……
「ん、あれ?」
いざ標識通りに駐車場入り口に向かってみると、建物が後ろの方まで伸びて何かの入り口のようになっている。入口の内側には、何やら踏切のようなバーに料金所のようなボックス。……ああ、なるほど。そういうことか……
エリナさんが不安そうにしている中俺ひとりで納得しながら車を進めると、案の定ボックスの中から係員らしき人が出てきた。
「移動店舗専用駐車場をご利用ですか?」
「はい、そのつもりです」
「こちらは店舗設備を兼ね備えた魔動車や馬車専用となっております。ギルドによる店舗開設許可と実店舗情報を登録いただいてからのご利用となりますがよろしいですか?」
「はい。店舗開設許可というのは総合職ギルドカードでよろしいですか? 料理人ギルドの登録情報があると思うんですけど」
「構いません。実店舗情報に関しては、こちらの方で金属プレートを確認して登録しますので」
「お願いします、こちらが総合職ギルドカードになります」
言って係員の人にカードを渡すと、腰につけていた読み込み機らしきもので確認を始めた。……それにしてもやっぱり便利だよな、このシステム。総合職ギルドカードに専門職ギルドの情報まで載せられるなんて、そりゃ大部分の人がカードを作るわけだわ。
「ありがとうございます、念のため確認いたしますが、どういったものを販売なさる予定でしょうか」
「食品ですね、焼き菓子を数種類といったところです。この街にはそう長くはいないので販売数も多くはないでしょうが」
「なるほど、分かりました。今車両情報を確認いたしましたところ、車長が7メートルを超えているとのことですので、幅3メートル長さ9メートルほどのスペースをご用意します。
駐車スペースには番号が割り振られておりまして、こちらの同じ番号が書かれたプレートをお持ちいただくことで身分証明となりますのでなくさないようお願いします。
料金は1週間単位で1小銀、営業時間外は必ずカギをおかけになってください」
「ありがとうございます、お願いします」
説明しながらバーを上げてくれた係員にひと言礼を言って、ゆっくりと魔動車を駐車場内に進入させる。外からは全く分からなかったけど、この駐車場、建物の中で吹き抜けみたいになってるんだ。
ということは、中央広場の横に建っていたあの建物――つまりはここだけど、ここもまた市場ってことか。そうすれば駐車場は店を持ってる人しか使えないけど、店に買い物に来るのは誰でも楽に出来るって寸法だ。
へー、なかなか考えてるな。吹き抜けだからとんでもないやり方でなければ加熱調理もそこまで制限がないというわけで、まさに移動式屋台のための駐車場兼市場なんだ。
「なかなかいい駐車場ね……それでトーゴさん、この街にいる間はやっぱりここで寝泊まりするの?」
「いや、流石にホテルとろう。キャンピングカーの後ろは屋台で使うからサウナ使えなくなるしね……」
「それは確かにまずいわねそうと決まればホテル探しましょうそうしましょう」
相変わらずサウナ絡みだと早いナー。まあ俺も同意見だからいいけど。
これから行くところが最低2か所あるわけで、それを考えるとあまり時間を無駄にするわけにもいかないしな。
……ちなみにホテルをとったその日のうちに、エリナさんは冒険者ギルドに行って自分の戦果を報告していた。まああんなの普通の感覚だったらいつまでも持っていたくはないわな……
お久しぶりの国境都市です。もうだいぶ前の話で覚えていないでしょうけど、国境都市に限っては金貨や銀貨など貿易用の通貨が使用されています。
あと露店用駐車場ってやっぱり便利だよね!
次回更新は03/20の予定です!