5.ギルドに登録するよ
俺に応対した女性、名をマリアというらしいが、非常に感じよくしてくれた。聞けばこの街に……というかこの国に流れ着いた人が初めて訪れるのがこのギルドということはよくあるそうで、それなりに受付も慣れているのだという。
……案内所か何かも兼ねてるのかな?
「それでは総合職ギルドについて説明します。当ギルドは名前の通り仕事の内容を問わず受け付けているギルドです。内容によっては鍛冶ギルドや服飾ギルド、はたまた冒険者ギルドなどに協力を要請したりしますが、基本的には独立して仕事依頼を受け付けております」
「……ん? 総合職ギルドの他に冒険者ギルドがあるんですか?」
「そうですね、皆様それで結構疑問に思われるんですが、こちらは必ずしも武力が必要な職種ではございませんので、そこで住み分けの方を」
なるほど、本当に何でも屋って感じなんだな……しかしそうなると。
「この総合職ギルドと……いわゆる専門のギルドの違いって何なんです? こっちが何でも屋なら、全部こっちに任せちゃってもいいんじゃ」
「専門のギルドの方が置いてある備品などが上質なので、コストパフォーマンスがいいんですよ。こちらで同じ作業をしようとした場合、高度なものであれば倍くらい値段が変わります」
「ああ、だから住み分け」
「そういうことです。さて、ではギルド登録をしてしまいましょう。お名前をフルネームでお願いします」
「トーゴ=ミズモトです。トーゴが名前でミズモトが苗字」
「トーゴ=ミズモトさんですね。ではこちらの金属板に手を載せてください。これで現在のミズモトさんの状態をステータス化しますので」
「はい」
差し出された金属板は今まで結構長く使っていたのか、ところどころ古くなっている部分が見受けられる。こういう時は石板にしないのか、とも思ったが、そう言えば市内の路面電車やトロリーバスは金属の電線を使ってたな……電気と同じ感覚で魔力を使っているんだとしたら、石では無理なのかも。
そんなことを考えつつ金属板に手を載せること30秒ほど。
「はい、結構です。ではこちらのディスプレイでステータスを確認後、ギルドカードを作成します」
俺が板から手を放したのを確認したマリアさんが手元のデバイスで何やら操作すると、彼女の言う通り俺のステータスがディスプレイに表示された。
HP:360/360
MP:1600/1600
STR:125
DEX:267
WIL:103
INT:221
LUC:57
取得魔法一覧:
素材捜索
素材鑑定
素材合成
素材分解
素材変換
性質付与
自動製作
製作物強化
ポーション合成
ポーション鑑定
……
うん、最初に確認したステータスと同じだな。俺の場合は自分で好きな時にこれを見られるけど、普通はこうして確認するものなのか……
「魔力が4桁!? 今まで新人からベテランまでいろいろな人のステータスを見てきましたが、こんな数値見たことありませんよ!? 運以外3桁ですし、これ普通の専門職ギルドでも問題なく登録可能なレベルです!」
「……そうなんですか? 他の人のことはよくわからなくて」
「非常に優秀な冒険者で生命力と魔力が200台中盤、その他ステータスが100前後……ああ、運に関してはそこから少し前後しますが、それくらいなんです。一般人だと生命力と魔力以外が一桁なんてのも珍しくはありません。
それと取得魔法一覧! 何ですかこの種類の数!!」
「いやー、何か結構便利だなーと思いながら使ってましたけどそんなになってましたか」
ゴメンナサイ。特別転生の特典です。それにここには書いてませんが不老不死も不可視インベントリもあります……あれ? 今何か転生時にはない引っ掛かりがあったような……まあいいか、後で。
「しかしこれだけのステータスは本当に見たことがありません……が、いずれにしてもギルドへの登録手続きの一環として、まずひとつ簡単な依頼を受けて頂きます」
「簡単な依頼、ですか?」
「依頼と言ってもチュートリアル的なものですので、依頼主は当ギルドとなります。着手金はなし、達成報酬は5銅、報酬で2階の食堂で使える食券を購入いただく……までがセットです」
「なるほど、そういうことですか」
達成報酬が5銅……銅貨5枚だと思うが、日本円に直すと500円くらいか? ということは本当に簡単な作業なんだろうな。
「大体こういうギルドに登録する方は普通の方が多いので、多くは上の食堂で皿洗い1時間といった形になるんですが、それでもよろしいですか?」
「お願いします。見ての通り一張羅しかありませんし」
1時間の皿洗い、ということは時給500円くらいか。この世界の基準が分からないけどそのくらいなのかな? それに補償に使われるであろう着手金もなしで済むならそれが一番いいしな……
「分かりました。それではこちらのエプロンをつけて、この用紙を持って2階の厨房に行ってください。ギルドカードはそれが終わってからお渡ししますので」
言われた通りエプロンをつけて2階に上がって、従業員用のドアから入ったところでもらった用紙を回収された。本スタッフにしても、チュートリアルの依頼ということもあってか手馴れている感が凄い。
そして皿洗いの具体的な作業内容を聞くと、大雑把に皿についた汚れを落としてカゴに放り込んでおけばいい、とのこと。そんなレベルでいいのか、とも思ったけど、どうやら食洗器のようなものでちゃんと消毒までするらしい。
……って、食洗器まであるのかこの世界。ますます中世ヨーロッパから技術レベルが外れてるな……
そんなこんなで皿洗いを続けていたのだが。
「……あれ」
「ん、どうした?」
「ああいえ、何でもありません」
洗い物として運ばれる皿という皿、どこを見ても陶磁器が存在しない。全部木製か鉄板、あとはフォークとナイフが金属製なくらいだ。鉄板にしてもそれほど多いわけではなく、8割くらいが木製の食器だろうか。
なるほど、皿を割る可能性もあるのに着手金がなしなのはどういうことかと思ったが、そもそも割る確率が低いってことなんだ。それともそれを見越してこういう食器にしているのか……両方なんだろうな。
しかし簡単な作業とは言っていたが、これを1時間やって5銅か……何となく、報酬の基準がつかめてきた気がする。あとは物価だけど、5銅分が食券になることを考えるとそこまで常識外れな感じにはならない気がする。
まあとにかく、1時間は皿洗いに徹しよう。
次回は09/21投稿です。
特に何もなければ次回連載日には帰国していると思いますー