58.依頼受注のために総合職ギルドに行くよ
翌日。俺は結婚式後に言われた通り指名依頼を受注するべく総合職ギルドに向かった。今日もエリナさんを連れて行ったわけ、なんだけど……今日に限って言えば別に用事があるからでもある。
結婚式後と言えばあの時閣下から頂いたペンダントは、昨日の帰宅後少しだけ調べさせてもらった。結果としては結婚祝いとして遜色ない価値がある、というのが分かっただけだったけど。
「おはようございます、エンマさん」
「ああ、お疲れ様ですミズモト=サンタラさん。本日は依頼受注ですか?」
「はい、指名依頼なのでギルドマスターにお目通り願いたいんですけど」
「指名、依頼……ですか? 少々お待ちください」
言ってエンマさんは奥に入っていく。……あれ、総合職ギルドの指名依頼ってそんなにないものなのかな。いや、むしろ指名依頼がある方が違和感があるのかもしれない。普通そう言うのって専門職ギルドとかで採用される制度っぽいしな。
「トーゴさん、それじゃ私は一足先に冒険者ギルドに行ってようか?」
「んー……いや、一緒に行こう。指名依頼の受注をしている間は、受付横の掲示板でどんな依頼があるか見ててよ。もし面白そうなのがあれば、それを受けても構わないし」
「分かったわ」
いくら何でも指名依頼しか受けないっていうんじゃ、あまりにあまりだしな……一応所持金に余裕があるとはいえ、こなせる依頼があればこなしておきたいところだし。
ちなみに何で冒険者ギルドの話が出てきたのかというと、エリナさんを登録させようと思っているからだ。以前はエリナさんの希望で専門職ギルドには一切登録していなかったんだけど、ジェルマ語能力測定も終わって俺と結婚もした今ならいい機会だからとエリナさん自身が希望を変えたのだ。
そもそも冒険者ギルドに登録してさえいれば、市販のものとは言え武器や防具が結構お得な値段で買えたり手入れ出来たりするらしく、また護衛はともかく狩猟や討伐はこなした後からでも受注出来るという破格ぶりだったりするらしい。
してみるとネストドラゴンの防具を昨日買ったのはちょいと失敗だったかな……まあ大した値段じゃなかったからいいけど。大した値段じゃなかったから衝動買いしてしまったっていうのもひとつ事実だけどね!
と言っても冒険者ギルドに参加することで強制的に特定の依頼を受注させられたりするとそれはそれで窮屈なので、そういう場合には無理に登録してもらわなくてもいいかな……とは俺もエリナさんも思っている。
まあ、そこらへんはその時になってみないと分からないからな、ってことで。登録出来るようなら俺も一緒に登録しちゃおうかということで、ここでの受注が終わったらエリナさんと一緒に冒険者ギルドに行くことになっているのだ。
「それにしても……」
「ん、どうかしたのトーゴさん」
「いや、レニさんの関係でここに来てから気を配ることが何かと多かったハイランダー専用窓口だけどさ。こうしてみると本当に人がいないんだなって」
「ああ……確かに受付の人、凄く退屈そうにしてるわよね……名前は確かヘドヴィグさんだっけ?」
「うん」
まあでも、それもしょうがないと言えばしょうがないのかもしれない。
そもそもハイランダーエルフの使う言葉は、この総合職ギルドの専用受付ですら2割かそこいらしか通じないような独特のものだ。俺たちふたりはどうにか通じてしまうからその事に気付き辛いけど、そんなのお互いにとってストレスでしかない
ハイランダーエルフは生活をする上でも、総合職ギルドの行商を通じて色々なものを手に入れる事が出来るわけで、レニさんの様子を見てるとそれでも特に不便は感じてなさそうだった。
とにかくそうなると、ここブドパスにエルフが来る理由もメリットもないわけで……ぶっちゃけ用がある人がほとんどいないんだよな、あの受付。
「……絶対アレ無駄だよなあ……」
「普通の受付に統合した方がいいって話?」
「レニさんと意思疎通が出来る俺たちが言っても、ブドパス市民には嫌味か絵空事にしか聞こえないだろうけどね……」
ああいうのは結局、ハイランダーエルフというマイノリティにとっての頼みの綱として機能しているわけなので……平たく言えば「ある」ことに意味があるんだよな。
そうこうしているうちにエンマさんが戻って来た。……ちょっと時間がかかったな?
「お待たせしました、ミズモト=サンタラさん。ギルドマスターが執務室でお待ちですのでどうぞ」
「ああ、ありがとうございますエンマさん。それじゃ行ってくるから待っててね」
「はーい、行ってらっしゃい」
エリナさんに見送られて受付奥まで進むと、オフィスの入り口らしき扉を開けたすぐ横に幅が広めの階段が上に伸びている。……うん、そうだよな。外観的に1階部分で終わりなわけがないんだ、ここの建物は。
階段を上って3階まで上がり、もう少しだけ奥に進んだところでエンマさんが立ち止まって言う。
「こちらがギルドマスターの執務室になります。それでは私はこれで受付業務の方に戻りますので、受注お済みになりましたら階段を下りてお声掛けください」
「ありがとうございます」
……さて、ここまで俺は依頼内容に関して一切聞かされていないわけなんだけど、果たしてどうなる事やら……ノックして、と。
「はい」
「失礼します、トーゴ=ミズモト=サンタラです」
「ああ、お待ちしてました。お入りください」
促されて入った部屋は、まあ何というか、俺が前世で読んだラノベや漫画のイメージ通りの部屋だった。執務室と言っても応接室としての機能も併せ持ってるようで、部屋の中央にテーブルが設えてある。
……あ、でも何か壁に額縁がかかってるな。何かの証明書か何かか……?
「その証書が気になりますか?」
「え? ええ、何ですかコレ」
「それは私のミスリルランクの証明書です。普通のランク証明書はミズモトさんもお持ちのギルドカードなのですが、ミスリルランクだけはギルドマスター専用ランクなのでそういった形で掲示するのがルールなのですよ」
「ああ、ギルドマスターを退く場合には白金ランクに戻るんでしたっけ……」
あくまで総合職ギルドに限っては、だけど。専門職ギルドの場合は確か白金も各都市のギルド管理者用階級だから、退いたら金ランクまで戻るんだよな。となると、各都市の専門職ギルドの管理者もランク証明書はこういう形で持ってるってことになるのかな。
って、そんな話はどうでもいいんだ。
「それで、ギルドマスター。先日内務大臣閣下から指名されました依頼を受注したいのですが、詳しい内容について教えていただけますか?」
「ええ、それについてなのですが……指名依頼というものは総合職ギルドにはそもそも存在しない制度なのですよ」
「……は?」
いや、ちょっと待てそれおかしいだろ。その依頼を受けに来たっつってんのに何でいきなりそんな話を。
「ベアトリクス殿下にも困ったものです、本人は優秀な大臣のつもりで悦に入っているのでしょうが……そもそもこれは我々の領分だ、殿下自ら動かれる必要は全く以てないのですよ。ミズモトさんはお分かりになりますか?」
「……いや、さっきから意味が分からないんですが」
「察しが悪いですね、つまり今回の指名依頼とやらは最初から受け付けていなかった、とそういうことですよ」
最初から受け付けていなかった。それはつまり握りつぶしたということか? 官僚が大臣の指示を? ……どんな腐りっぷりだよコレ。
「まあただ、指名依頼を受け付けていないことを知らせない方があなたはここに来るでしょうから? 敢えてそのままにしておいたというわけです」
「ということは、ギルドマスターは今回の指名依頼の件とは別に俺に話があると、そう言うことなんですね?」
「その通りです、そこは察しがよくて助かりますよ。まああの程度のヒントがあれば分からない方がどうかしていると思いますが」
「それで、俺に話って何です?」
「ええ。トーゴ=ミズモトさん。あなた――離縁してくれませんか」
……は?
こいつ、今、何を言ったんだ……?
とんでもない発言キタ――――――――!!!!
いやほんとこいつ何考えてるんでしょうね(白々
次回更新は02/27の予定です!