51.お風呂に入って結婚登録するよ
……プロポーズ翌日。
夕べ眠るのが遅かったせいか、はたまた疲れがたまっていたせいか、目を覚ました時には既に日が結構高くなっていた。……何か前も同じような事があったような気がしたけどどうでもいいか。
隣を見ると裸で毛布にくるまったエリナさんがすやすやと……まあ幸せそうにかつ気持ちよさそうに寝てるもんだけど、流石にそろそろ起こさないと寝坊にも程があるよなあ。
「エリナさん、もうそろそろ起きようか」
「んー? んうー、おきうー……」
うん、デジャヴってるなあ……ではなく。
「エリナさん、今日も総合職ギルドに用事があるんだから早く起きちゃいなよ。その前にお風呂に入って体洗っておきたいし」
「うんー……わかったー……わかったからとーごさんー……」
「ん、何?」
「おはようの、ちゅー……」
「……」
何このベタな展開。うん、分かってたよ? やぶさかでもないよ? でも流石にベタ過ぎてツッコんでも文句言われないと思うんだよ?
「……ちゅー……」
「……はあ」
うん、分かってたよ。ここでグダグダするほど人でなしじゃないよ俺は。くそう、そこにいるなら笑うなり恨むなり好きにしやがれオーディエンス!!
「んー……! っはあ……っ、よく寝たー……」
「そうだろうね、俺も自分がこんなに日が高くなるまで寝てるとは思わなかったよ」
「まあいろいろあったしね、それに私としては、こんな日が続くのもそんなに悪くないと思うわよ?」
「……体の調子はどう?」
「へーきへーき。まだちょっと何か違和感があるけど、痛いところなんか全然ないし余程気にしなければ大丈夫よ」
「それは良かった。これからお風呂入りに行こうかと思うんだけど、その分だったら大丈夫そうだね」
「ええ。でもトーゴさんが心配してくれて嬉しいな」
……エリナさんの口調は、夕べを境に一気にフランクになった。それは俺の翻訳能力の問題なのか、それともエリナさん自身の意識の問題なのか分からないけど、その距離の近さが俺としては嬉しい。
「それにしてもトーゴさん、本当にお風呂好きよね……まあ清潔なのはいいことだし私もサウナが好きだから人のこと言えないけど」
「この車に備え付けてあるサウナだけだとどうしてもね……やっぱり湯船に入れるうちは入っておきたい感じあるし」
ブドパス、というかマジェリアを出たらしばらくは折り畳みサウナオンリーなんだろうなあ……
「あ、そうそう。さっきも言ったけどエリナさん寝ぼけてて聞いてなかったかもしれなかったからもう一度言うよ。お風呂入ったら総合職ギルドに行って手続するからね」
「もう、流石にちゃんと聞いてたわよ……って、手続きって何の?」
「結婚登録」
「総合職ギルドってそんな事もしてるんだ……考えてみれば当然と言えば当然よね、役所の出先機関だってんなら。
それにしても――」
「ん?」
「よかった……夢じゃなかったんだ……何か昨日帰り道からふわふわしてて、もしかして全部夢か幻だったんじゃないかって不安になってたの……」
涙目でそんな事を言うエリナさん。いやね? エリナさん、それ立ち位置的には俺のセリフだよ? もし昨日のことが全部都合のいい夢だったなんて言われたら、俺の方が泣きたくなるわ。
まあふわふわしてたってのは、さもありなんってところだけどな……あれだけ発情しきってたらそうなるのも当然というか。……ただそれを口に出すのは野暮ってもんなんだろうな、そもそもそんな事言ったら俺も同じようなもんだったし。お互い様だお互い様。
「とにかく、早めに公衆浴場に行ってすっきりしてから総合職ギルドに行こう。もう日も高いし、あまり時間も掛けられない」
「ええ、そうね。そうと決まればすぐ支度しましょう」
……支度と言っても服を着るだけなんだけどね。
「この度はご結婚まことにおめでとうございます。マジェリア公国総合職ギルドブドパス本部が責任をもっておふたりのご結婚を証明し登録させていただきます」
手早く入浴を済ませた後総合職ギルドを訪れた俺たちは、受付に行くなりエンマさんから開口一番祝福の言葉をもらった……いや、っていうか何で用事が結婚登録だって分かるのエンマさん。
「もしかしたら普通に依頼を受けに来ただけかもしれないじゃないですか」
「そうでしょうか。しかしご結婚されていないのが不思議だったほどのおふたりが恋人つなぎで受付までいらっしゃって、結婚登録以外の用事があるとは私には到底思えないのですが」
「うぐ」
図星過ぎて何も言えない。エリナさんは恥ずかしがることもなくにこにこしてるけど、その堂々とした態度が逆に色々とすっ飛ばした感じを出してしまってるっていう事なのかな……?
でもまあ、恋人つなぎって安心するね、うん。
「幸せそうで何よりです。幸せついでに手早く登録を済ませてしまいましょう……まずは名前の登録なのですが、苗字の方は以下がなさいますか?」
「苗字の方、ですか?」
「はい。中部諸国連合の規則では結婚する際に3種類の苗字を選べます。
夫の苗字に統一するか、妻の苗字に統一するか、どちらかがもう一方の苗字を後ろにつけて元々の苗字をミドルネームにするか」
……なるほど、夫婦別姓の制度はないけど一番最後のはその代替案のようなものなのかな。最初のふたつだけなら元々の日本と同じだけど。
「ちなみに最後の選択肢は、お互いがお互いの苗字を付け加えるという形もとれたりするんですか?」
「はい、それは当然認められます。……結構混乱のもとになるので、あまりそうする人はいないのですが」
「そうですか……そういう事でしたら俺は最後の選択肢を希望します。トーゴ=ミズモト=サンタラで。エリナさんの意見も聞かなければなりませんけど」
「いいえ、私もトーゴさんと同じ意見です。そういう訳で今日からエリナ=サンタラ=ミズモトを名乗らせていただきます」
「それでよろしいですね? 承りました。新郎、トーゴ=ミズモト=サンタラ、新婦、エリナ=サンタラ=ミズモトで登録させていただきます。
登録の際に国際データベースへの変更手続きが必要になりますので、こちらの登録用金属板にそれぞれ手を載せて頂けますか?」
言ってエンマさんが机の下から出したのは、以前俺やエリナさんが登録した時に使ったものよりもやや清潔感のある金属板だった。……これはギルド登録用の金属板に比べて使用頻度が少ないからってことなんだろうか。
「この金属板に手を載せると、今までギルドに登録する際には表示されなかったステータスが表示されるようになります。生年月日、性別、ベースとなる言語、そして総合職ギルドのカードには載らない特殊能力も表示されます。
これらの情報が表示されるのは、各国によって使用するデータが全然違うことに起因しています」
「……なるほど、確かにその辺りの情報を使ってるのを、この国のギルドでは見たことがありません」
まあ、この国以外この世界に入ったことがないから分からないんだけど――そんなことを考えつつ言われた通り金属板にふたりして手を載せる。
「ありがとうございます、しばらくしたらステータスの記された紙をお渡しできるかと思います。それと結婚登録をするにあたり、結婚式もあげることが可能になりますが……いかがなさいますか」
結婚式、結婚式か……さてどうしたものか……なんて考えながら俺はエリナさんの方を見た。
幸せそうで何よりです、カーッペッ(また
エリナさんのカッコ可愛さが加速度的に増していくのですがつらい。作者が言うことじゃないかもしれませんが。
次回、結婚式の準備の前に色々情報暴露です。
次回更新は02/06の予定です!