50.やっと想いが遂げられるよ
それからおよそ3時間ほど経過した後、エリナさんがホールの奥から戻ってきた。その表情を見る限り、手ごたえはあった感じなんだろう。……ここ最近結構本気で勉強してたとは言え、エリナさんは本当に天才肌だよなあ……
「トーゴさん? どうかしましたか、ぼーっとして」
「え? ああいや、何でもないよ……お疲れ様、エリナさん」
「はい! あ、美味しいおやつ作ってください! 約束通り!」
「約束はしてないと思うけど……取り敢えず車の中に昨日のタルトがあるからそれでレニさんとお茶してて」
「ありがとうございます! レニさん、それじゃ行きましょう!」
「ええ、それではお呼ばれしますね」
エリナさんは何かこう、結構しっかりした感じの人だけどお菓子と聞けば人が変わるくらい目がないんだよな……可愛いし作ってよかったと思うけど。
「お疲れ様です、ミズモトさん」
「エンマさん。ああいえ、俺は特に何も……あの、エリナさんはどうですか?」
「そうですね……私は測定値3なんですが、あの様子ですと5もクリア出来るのではないかと。あくまでちらりとしか見ていませんが」
「5っていうと……」
「ビジネスや専門職でのジェルマ語能力が十分備わっていると認定される、最高ランクの測定値です。ジェルマ人でもなかなか受からないレベルですよ」
「マジですか……」
一念岩をも通すって感じかな……俺のステータスや翻訳能力もアレだけど、エリナさんも所謂チートキャラとして十分やっていける素質があるんじゃないかな。
「それはともかく、ミズモトさんは本当にサンタラさんのことを気にかけますね」
「ええまあ、保護者というにはエリナさんはしっかりしてますし……パートナーですよ」
「……そうですね。結婚登録の際は当受付にお越しください」
結婚登録か……確かにそういう制度も必要だよな……いや今は俺たちの問題か。俺としては今すぐにでも、って感じなんだけど、エリナさんがどこまで行けば納得するのか分からない以上はこちらからアプローチをするのも違う気がするんだよな。
「サンタラさんにはすでにお伝えしましたが、測定結果は2日後に本人に通知されますので受付までお越しください……そう言えば、以前お受けいただいた高地マジェリア語への翻訳に関してですが。一応内務大臣への報告を致しましたがよろしかったでしょうか」
「え? ええ、別にそれは構いませんが……何故です?」
「いえ、我が国の内務大臣は特におかしな行動を犯すような方ではないのですが……これが別の大臣の耳に入るとよからぬことが起こらないとも限りませんので」
「よからぬことって……」
「まあ、ミズモトさんもサンタラさんもステータス上は何かされてもどうということはないはずですので、その辺りについては杞憂ですが……一応ご注意ください。それでは私はこれで」
言って、エンマさんは受付に戻る。一応忠告してくれた、ってことなのかな。それにしてもよからぬことが起こる可能性があるって、この国の大臣はどうなってるんだ……ああいや、そんなことは前世でもあったか。
それにしても異世界に転生してきて前世より苦労はしないのかと思ってたけど、なかなかどうして異世界人も前世の同類ばっかりだ……
「……戻るか」
戻ってエリナさんと一緒にお茶にしよう。こんな、変なことばかり考えてても気が滅入るだけだ。
2日後、言われた通りエリナさんと共に総合職ギルドの受付に来た俺は、エリナさんが試験結果を受け取っている間に受付横の依頼掲示板を眺めていた。
高地マジェリア語の翻訳依頼と同等の面白い依頼があったりしないか、なんてちょっと期待したものの、やっぱりそういつもいつも都合よくはいかないらしい。残っていたのは浴場清掃や市内清掃の簡単な依頼ばかりだった。
「トーゴさん! 受かりました! 測定値5で私受かりましたよ!」
エリナさんがそう言いつつ受け取ったらしい測定結果の紙を見せてくれる。そこには各測定値基準問題の問題区分別点数が書かれていて、なんと1から4まで満点、5も8割というとんでもない点数が記されていた。
こんな点数、前世の俺も見たことないぞ……やっぱりエリナさん凄すぎるわ。
「凄いなエリナさん、これだったら全受験者の中でもダントツじゃないのか? よし、何かご褒美でもあげないとな」
「ご褒美、ですか……」
するとエリナさんは少しだけうつむいて、やがて微笑みをこちらに向け静かに言う。
「取り敢えず、私たちの家に帰りましょう。ご褒美については道すがらってことで」
「あ、うん。いいよ」
そのまま俺たちは総合職ギルドを出て、歩いて駐車場に向かう。バスかトラムか使おうかと言ったものの、エリナさんは歩きたい気分だと譲らない。……まあ、たまにはそれもいいか。
それにしても家、かあ……うん、そうだよな。今更ながら今の俺たちの家はあのキャンピングカーなんだよな。自分の中ではあくまであそこは仮住まいであって、いつも車に帰るとか言ってるから、その辺の実感が沸かなかった。
エリナさんは俺の前を無言で歩く。総合職ギルドを出てからずっと川沿いを歩いているためか、空気が少し蒸れ臭い。まあここ最近が温かいのもあるんだろうけど、海沿いとはまた違う匂いがこの街らしいと言えばらしい。
と、しばらく歩いて開けたところでエリナさんが立ち止まる。何かあったのかな……なんて思っていると、今度は俺の方を振り向いて言う。
「……トーゴさん、あの時言ってくれた一目惚れという言葉、覚えてますか?」
「え……うん、もちろんだよ。忘れるわけがない」
「よかった……あの、トーゴさん。私、あの時にトーゴさんに一目惚れだと言ってもらえて嬉しかったです。私も、そのまま受け入れようと一瞬思いました。
でもあの時私は右も左も分からない、ほとんど赤子のような状態で。あのままトーゴさんに捨てられたら生きていけないし、そうでなくてもおんぶにだっこの状態ではトーゴさんの好意に応える資格がないと思っていました」
「そんなこと!」
「あるんですよ、そんなこと。あったんですよ」
エリナさんは有無を言わせないって感じだ……うん、でも確かにエリナさんならそんな風に考えるのも無理はないかもしれない。
「それにあの時私も確かにトーゴさんに好意を抱いていました。ただそれが吊り橋効果によるものなのか、それとも純粋な好意なのか判別がつかない状態だった。
だから私はあの時心に決めたんです。この世界で自分ひとりで生きていける自信がついて冷静に自分のことを見つめなおして――それでもなおトーゴさんのことが好きなままでいられたら、その時はしかるべき行動を起こそうと。
そして私は、この世界のコミュニケーション手段を高レベルで手に入れた。その気はないけど、冒険者ギルドへの加入も勧められた。一応ひとりで生きてはいけるようにはなりました。ですから――」
そこでエリナさんはひとつ深呼吸をして。
「――トーゴさん――」
赤い顔で俺の眼をまっすぐ見て。
「――私にプロポーズしてください。私は、あなたのプロポーズをこそ受け入れたい」
はっきりと、俺の愛情を要求した。
正直今更にすぎると周りからは言われそうだけど、これは確かに俺にとっても、エリナさんにとっても必要不可欠な儀式だった。
……そうだよな、男だの女だのを抜きにしても今ここでプロポーズするべきは俺の方なんだ。エリナさんは俺にボールを投げた。受けたボールをどう返すかは、最初から俺の役目だったんだ――
「……エリナさん。一目惚れといったあの日の言葉、今でも変わってないよ。ひとつ変わっていることがあるとすれば――その一目惚れが確かに愛情に変わっているって事くらいかな。
だから、エリナさん。永遠に俺の傍にいてほしい。結婚してください」
「――はいっ!!」
エリナさんは涙目で破顔し、俺の胸に飛び込んでくる。……そう言えば俺、エリナさんの体にまともに触れたことなかったな。頬っぺたつついたりとかそういうことくらいで。
あ、やばい。とんでもなく愛おしい……思わず抱きしめる腕に力が入るが、エリナさんもしっかりと抱きしめ返してくる。
「トーゴさん、トーゴさん……」
「……エリナさん、ごめん、正直我慢出来ない」
「トーゴさん……え? うむぅ……っ」
少しだけ強引に唇を重ねると、エリナさんは最初こそピクリと体を反応させたものの、すぐに力を抜いて受け入れ、あまつさえ自分から唇を求めるそぶりまで見せる。
しばらくお互いの唇を求めあった後、エリナさんが名残惜しそうに顔を離す。その顔は上気し、目はとろんと欲情しきっている……ああもう、何でこう俺の嫁さんは……!
「エリナさん、あのね……こんなところで言うのも何だけど、俺、今、エリナさんが欲しくて仕方がない」
「……うん、私も、トーゴさんの事が欲しくて仕方がない」
そう答えるエリナさんの表情は、どこまでも蕩けきっていて。
ああ、今夜は長くなりそうだ――熱い体と想いの片隅で、そんなことをやけに冷静に考えてしまうのだった。
エンd「言わせねえよ!?」
というわけでやっとプロポーズしてくれました。やっと結婚することになりました。
やっとかよ、カーッペッ(酷
そしてそんな中でもぶっこんでくるエッッッッッッッッッ
調子に乗りました。申し訳ございません。でももしかしたらすけべサイドストーリー書くかもしれません。申し訳ございません。
「どうるい」について今後どこからも声がかからなければ、改訂版を同人誌にして出しちゃうのも一つの選択肢かなー……なんて思ってたりしてます。あ、WEB版はそれはそれで書き続けますが。
あとはアレだ、キャラデザだ。そっちもちゃんとしないとなあ……
次回更新は02/03の予定です!