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転生先が同類ばっかりです!  作者: 羽田ソラ
放浪開始・ブドパス編
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46.市場を見学するよ

「お疲れ様です、ええと……ドルカさん、ですよね。そちらの方は?」

「初めまして、私は本日ハイランダー受付を担当しておりますヘドヴィグと申します。よろしくお願いします、ミズモトさん」


 ああ、この人がさっき名前に上がってたヘドヴィグさんか。なるほど、高地マジェリア語に引っ張られてるのか普通の人よりも少し声のトーンが高いんだな。


「こちらこそよろしくお願いします。それであの、翻訳に関してはあれで問題ありませんでしたか?」

「ええ、もちろんです。むしろ私たちにも分かりやすいような形で翻訳してくれてありがとうございます。……もっとも直訳の方は私にも読めないので、ハイランダーの方に協力を仰ぎたいところではあるんですが……」

「協力というのは、つまり翻訳文が合っているかどうかのチェックですか?」

「それもありますが、一番には標識として存在していた場合どちらの方が好ましいかということですね。確かに我々の基準ではなるべく簡潔にという方がよいのですが、文化というか思考、いや嗜好の差もありますので」


 誰がうまいことを言えと。……とはいえ確かにその通りかもしれない。理屈っぽいのが好きな民族だっていないわけないしな。とはいえ、今回の件に関して言えばハイランダーエルフも分かりやすい方が好きだと思うんだけど。

 まあでもそんなことを言ってもこの人たちははいそうですかと納得しないだろうな。そもそも依頼を受けた側である俺がそういう事を言うのも何か違うだろうし、さてどうしようかな……あ、そうだ。


「それでしたらこちらのレニ=ドルールさんに確認してもらえばよろしいのでは? 両方見せて、注意書きとしてどちらがいいか簡単に質問するんです。で、レニさんはそれに指差しで答えるだけって感じで」

「え、私がですか? ……私は構いませんけど」

「私もそれがいいかと。では……ドルールさん、看板、書く、いい、どっち?」


 ……え、理解出来るってこんなレベルなのか。片言なんてレベルじゃないぞ。こりゃレニさんの言う通りメチャクチャ苦労するな……とにかく、それに対するレニさんの答えと言えば――


「ん、どう考えてもこっちですね。どっちも普通に文章ですが短くてわかりやすいので」


 意訳の方の文章を指しながら、こともなげに言った。……うん、そりゃそうだよな。鳥との意思疎通に長けた種族って言うんだったら、そんなに長ったらしく理屈っぽい文章を好むわけがないんだよ。




 そんなこんなで無事翻訳の依頼達成報告を終えた俺は、その足で中央市場に向かうことにした。1文章あたり8000フィラーの案件だったけど、参考資料に色々と有益な追記をしてもらったからということで最終的に総額120000フィラーという大型報酬となった。

 ……やっぱり結構美味しいな、この依頼。これからもこの手の依頼があったら積極的に受けていこうかな。と、それはともかく。


「ブドパス中央市場……ここか」


 もともとこの街は幅の広い川が街中を縦断している関係で、船による物流で発達した歴史を持つらしい。その物流の恩恵を受けて発展したのがここブドパス中央市場で、場所は当然川のすぐそばにある。

 で、これがまた馬鹿でかい。鉄道の中央駅か何かと言われても全然違和感のないデザインと規模だ。……圧倒されはするけど、まずは入ってみよう。


「ええと、何々……肉と野菜と果物と穀物が1階、蜂蜜含めた調味料や加工食品、それとレストランが2階。海産物や飲み物その他諸々は地下1階か」


 これだけ広いとひとつひとつ店を見て回るのも大変そうだけど、売られている品物のジャンルごとに区画が分けられているというのは、まあ普通に考えれば当たり前の措置ではあるけど、凄く助かる。

 そうだな、売られているものから考えて2階から下に降りていく形で見て回るのがいいか。専売公社の支店は2階に集中してるみたいだし、取り敢えず専売対象を確認して買い足してから、普通の食材については調べればいい。


 そんな感じで2階に上がってみると――


「おおー……結構色んな種類があるんだな」


 エステルでも一応専売公社の支店は覗いたことがあるので値段なんかについては知ってたけど、ここの支店は以前よりも並んでる蜂蜜の種類が多い。花によって採れる蜂蜜の味が変わるのは割と常識だけど、その種類がエステルの倍以上だ。

 まあ多分首都にしか卸せないくらいの収穫量しかない種類があるからだとは思うんだけど……要するに卸す場所を絞る代わりに値段を抑えてるということなんだろう。言うなれば公社が作ったブドパス名物だ。

 とにかく今まで手に入らなかった蜂蜜の種類があるっていうのは興味深い。しかもここでは味見もさせてくれる。専売公社だけあって値段は一定だし値引きなんかもまず望めないけど、結構至れり尽くせり感があるな。


 結局専売公社支店ではエステルで買ってあった蜂蜜1種をふたつ、ここブドパスで見つけた新しい蜂蜜2種をみっつずつ購入。別の専売公社で塩を、普通の香辛料専門店でパプリカパウダーも買っておいた。

 さて、後は何か面白そうなものは……ん? あれは……


「これ、もしかしてクネドリーキ? 何でこんなのここで売ってるんだ……?」


 しかもご丁寧に一定の厚さで輪切りにされてる。これなら確かに使いやすいだろうけど賞味期限はそんなに長くないんじゃ……


「いらっしゃい。お客さん、もしかして料理はしない人?」

「いえ、しないわけではないんですけどクネドリーキは使ったことがなくて……ただクネドリーキって話に聞く限りだと自分のところで作るものだと思ってたんですけど」

「まあそりゃアレだ、確かにそっちの方が味はいいし新鮮なのは確かだがな。こいつは自家製にするにはコストと時間がかかりすぎて、大体の家庭やほとんど全てのレストランは加工されたものを買うのさ。柔らかすぎて切るのも難しいしな。

 現にそこのレストランも、総合職ギルドのレストランもうちのお得意様だぜ? これでも店売りとしてはそれなりのレベルのを出してるつもりだ、賞味期限もその日その日で使う分にはそこまで厳密にする必要もないし」


 要するに茹でて作るパンだからな、と説明されて、確かにそうだと納得は出来る。特にクネドリーキにこだわりがあるとかじゃなければ、その日その日でいちいち作ったり出来ないってのは確かにその通りだろう。実際前世の日本でも、レストランで出るパンは外で買って仕入れるものだったろうし。

 だからそれに関してはいいんだけど、さっき総合職ギルドのレストランにも卸してるって言ってたな……あそこが顧客なら、少なくともそこらの店よりは品質が保証されているに違いないな。


「……ちなみにこれいくらですか?」

「1本16枚切りで20フィラー、3本セットで50フィラーだ。家庭で使う分には1本ごと購入が最適で、3本セットは店使いってとこだな。茹でて作る関係で普通のパンに比べて水分が多い分、賞味期限はほぼまる1日と短いぜ」

「それじゃ1本下さい。帰ってから料理に使ってみます」

「毎度! 大体今日の夕飯から明日の昼飯までの間に使い切りな、でないと味が落ちるからな」

「ありがとうございます」


 ……実はクネドリーキについては頭を悩ませていたところだったから凄く助かった。実験に使いたいけど未知の食材である分、自分で材料を揃えて作るのはちょっとばかり不安だったからな。

 とは言えあれだけ賞味期限が短いのは少し想定外ではあるから、戻ったらさっそく実験を開始しよう。……まだ買い物は終わってないけど。


「ええと、取り敢えず2階で買うべきものは全部買ったかな……んじゃ1階に降りるか」


 1階は確か肉と野菜と果物と穀物か。2階で加工食品を売ってるという割にソーセージなんかはなかったから、加工肉に関しては1階の担当なんだろう。目当てとは違うけど、それについても確認したい。

 1階で確認したいのはむしろ野菜と穀物、特に緑黄色野菜と麦以外の穀物だ。この世界がどんな農作物を使用しているかはエステルでも一応確認はしたものの、この市場ならもっと色々なものが手に入るに違いない。

 それに果物も優先順位としては高くないものの、それなりに調べなければならないもののひとつだ。もしかしたら食い扶持になるかもしれないから、そこは十分注意してみることにしよう。

本当にでかい市場なんですよここ(

クネドリーキは柔らかいので、切り分けるときは包丁やナイフではなく糸を使うのが普通です。そして基本的にあまり長持ちしません。その日に消費しないとあっという間にダメになります。


次回更新は01/22の予定です!

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「転生先が同類ばっかりです!」が同人誌になりました。エアコミケ新刊です。
本編の修正並びにイラストが追加されています。WEB版における50話までの収録です。
とらのあなさんおよびAxiaBridge公式サイトからご購入いただけます。
頒布開始は5月5日です。宜しくお願いします。
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