34.エルフと再会したよ
「さてと、それじゃ俺たちも市内に出てみるか」
「はい! ええと、確かマルゲア島から対岸へはバスと船が出てますね……どっちにしますか?」
「そうだな……船にしよう。確か船の近くにトラムの停留所があったよね」
バスは何だかんだでエステルで乗ってたしな……それにエステルには国境以外で船で渡るような川がなかったし、スローヴォとの国境は橋でつながってて船は禁止だった。そもそも俺はスローヴォに行ったこともなかったけど。
そんなわけで船には興味がある。すごく興味がある。
「……ふふふ」
「エリナさん? どうかした?」
「いえ、何かトーゴさんもそんな表情するんだなって思ったら何か可愛くて」
「……そんな変な顔してた?」
「変じゃないですけど、何か無邪気な感じで」
いかん、年甲斐もなく興奮してたか……いや、でも転生後に年甲斐っていうのも何かおかしい話……ではなく。
「とにかく、時間もそんなにないし船着き場に行こう」
「あ、待ってください。船は西河岸行きと東河岸行きに分かれているみたいです。市内中心部へ行くには東河岸行きの船に乗る必要があるので、そちらに行きましょう」
「むしろエリナさんそれよく分かったね?」
「あそこに案内板がありましたし。ジェルマ語でも簡単に書いてあったので、私でも読めたんです」
言われてその看板を見ると、なるほど、確かにそんな風に書いてある。前世でも看板に英語が併記されていたけど、あんな感覚なんだろうかな? 距離は……ここから大体400メートルってところか。
「なるほど、それじゃ行こうか」
「はい!」
さっきも言ったけど、このブドパスという街はぱっと見でもエステルと全然違う。これはいろいろ期待が持てそうだ。
船……というか水上バスに乗って市内に入った俺たちは、取り敢えず総合職ギルドに向かっていた。少し遅くブドパスに入った上に、検問の待機列でサンドイッチを食べたきりで物足りなさを感じていたので、何か軽く食べられないかな……なんて思ったからなんだけど。
ちなみに船は片道60フィラー……10フィラーが1穴あき銅だって話だから、大体日本円にすると300円程度か。しかも夜遅くには運航していないらしく、帰りはトラムに乗ってキャンピングカーまで帰らなきゃならない。
それにしても――
「本当に大きな街ですね、ブドパス」
「うん、エステルと比べるととんでもない大都会だねコレ……俺たち完全にお上りさんになってるよ」
「まあ実際私の場合はヘルシンキと比べてしまいますから、完全なお上りさんほどの衝撃は……って、考えたらトーゴさんだって東京を知ってるじゃないですか」
「……まあ、確かにそうなんだけどね」
正直ここで意識的に前世と比べるのはいかんと思います。まあ知らず知らずにって言うんだったらしょうがないところあるけど。
「それよりも俺はここの物価水準がエステルより高いんじゃないのかって疑ってるよ」
「ああ……観光地とか主要都市が地方より物価高いのはよくある光景ですからね……」
そう考えると宿もエステルより高い、のはほぼ間違いないのかな……改めてあの車作っといてよかった……
「って、あれ? あそこに駐車してあるの、もしかしてさっきの……確かレニさんの魔動車じゃないですか?」
「え?」
エリナさんが指さした方を見ると、確かに見覚えのある魔動車が停まっていた。街ゆく魔動車を色々見てみても、ここまで小さい軽トラ的な魔動車はなかったからまず間違いないだろう。
けど荷台の幌は取り払われていて、中にあったはずの茶檀もない。あんな目立つのをこんな街中で盗むなんてこともあり得ないだろうから……ということは、目の前にあるこのデカい建物がレニさんも言ってたマイルズ商会なんだろうか。
「それにしても検問のヨハンさん、マイルズ商会について何か言いたげだったけどアレ何だったんだろう」
「ああ、直接納入先の商会ですよね。でも考えたら木工ギルドがあるのに通さないで商売するなんて変じゃないですか?」
「うん、それは確かに気になるんだけど……」
「それにレニさんがこの街に来たことがないってのももっと気になります。つまり今までは商会の人がレニさんのところに行って買いつけて来てたってことじゃないですか。それが何で……」
「ああ、確かにそれはその通りだね」
もっとも商会の人が買い付けてたのか、単に茶檀の噂を聞いて呼んだのか……茶檀はこの世界では高級木材らしいから、何かあるのかもしれない。
……よし。
「ちょっと覗いてみる?」
「覗く、って……もしかして商会の中をですか? そんなことしたら思いっきり不審者ですよ!」
「んー、じゃあ聞き耳立てるくらいで」
「聞き耳……んー、それならまあ……」
いいのかよ。っていうかまあ、玄関のドアも分厚そうだし外で聞き耳立てたくらいじゃ中の会話なんか聞こえてこないと思うけどね……あ、もしかしてそれが理由か? ということは聞き耳立てるって言っても表に立ってるだけデスヨーみたいな面を……
あ、やっぱり! ……まあいいか、俺も気にはなるけど積極的に関わろうとは思わないし……
なんて思ってたら、突然玄関のドアが開いて噂のレニさんが出てきた。
「あれ……あなたたちは確か検問のところで……」
「あ、やあ。偶然ですね。レニ=ドルールさん?」
「レニでいいですよ、あまりフルネームで呼ばれるの慣れてないですし。確かマルゲア島の駐車場にいたと思ったんですけど、どうしてここに?」
「軽く夕飯を食べに行こうかと、取り敢えずで総合職ギルドに向かってるところなんですよ……って、エリナさんどうしたの」
「あの、レニさんの言ってることが分からなくて会話に入っていけないんですけど……」
ああ、そういえばレニさんの喋ってるのは高地マジェリア語だったっけ。こっちの言葉はジェルマ語しか話せないエリナさんにはちょっときついか……
「すいませんレニさん、エリナさんが分からないからジェルマ語で話して……って、確かレニさんもジェルマ語話せませんでしたよね」
「ジェルマ語は……音がイガイガしてて苦手です……」
「……しょうがない。レニさんとエリナさんの言葉は俺が翻訳しますよ。ちょっとテンポ悪くなるけど……エリナさんもそれでいい?」
「はい、お願いします。ごめんなさい、私が言葉をちゃんと勉強していないせいで……」
いや、何度も言うけどこんな短期間であれだけ喋れてる時点で相当レベル高いからね? ……これで会話に関してはどうにかなったけど、それよりも。
「レニさん、何か元気ない? 何かあったんですか?」
「え? あ、ああ……そう見えますか?」
「そこまではっきりと見えるわけじゃないですけど、雰囲気的に」
普段のレニさんを知ってるわけじゃないから憶測でしかないけど、どうにも雰囲気が暗い。まるで何かを失敗したような――
「マイルズ商会との取引がうまく行かなかったとか?」
「え、そうなんですか?」
「いえ、そういう訳では。……ただ、直接納入した割には村で木工ギルドに買い取ってもらっていたのと金額が変わらないなって思って……」
「……だって。え、輸送費とか上乗せしてくれなかったんですか?」
「輸送費に関してはもともとギルドで買い取ってもらっているものだったので、最初からただなんですけど……ギルドを通さない場合は、本来かかるはずの仲介手数料分の半分を上乗せして支払われるのが慣例なのに」
「……だって」
「何かケチな話ですね……」
というかそもそもの話、ギルド内部のシステムとかよくわかってないんだよな俺たち。
木工ギルドは相変わらずケチだなあ(
でもこれマジェリアだからこの程度のケチさで済んでるのかもしれないけど(何かの伏線っぽく
そしてあと二週間ちょっとなので告知を。
コミックマーケット95、12/30(日曜・二日目)にてサークル参加します。
スペースはツ-37a、サークル名はAxiaBridgeです。
同人の方で作ってるゲーム関連の小説本になります。
次回更新は12/17の予定です!