20.当面の目標が決まったよ
それから1時間ほど後、特に何かトラブルもなくエステルの街に戻って、依頼達成の報告を済ませにギルドへと戻った。受付は……ああ、まだマリアさんいるんだ。状況的にマリアさんは午前中の担当なのかな?
「すいませんマリアさん、依頼達成報告に来ました」
「あ、おかえりなさいミズモトさん。依頼達成報告ですね? 何本手に入りましたか?」
「? 5本ですが……あ、外の魔動車に積んであるので確認お願い出来ますか?」
ちなみにペトラ杉は外城壁の検問を通過する前に魔動車に積み直しておいた。不可視インベントリは便利なんだけど、いざツッコまれたときに言い訳するのがめんどくさいんだよね……おかげで道中物凄く不安定になっちゃったけど。
……って、マリアさん何で固まってるの。
「え、え……? あの、この短時間で5本全部手に入ったんですか……?」
「ええ、さっきからそう言ってますけど……」
「ちょ、ちょっと待ってください! 確認してきます!」
あ、慌てて出ていった……個々の依頼を受けて達成しただけなのに、何か問題でもあったのかな?
「……今の受付の人、あの慌てようからするともしかして成功すると思っていなかったんじゃないですか?」
「そうかな……むしろ5本全部手に入ったことに驚いてるみたいだったけど……何でそう思うの?」
「だって言葉も通じない場所で伐採しろと言われたら、普通はいろいろ問題が起きて結局出来ずに帰ってくるってパターンだと思いますよ。というか、5本全部手に入って成功なら、結局それ以外は失敗なわけだから間違ってないと思いますけど」
「ああ……まあ、そりゃそうか」
確かにあの一帯が会話の出来ない村だってことを考えれば、5本全て伐採出来るとは普通は思えないよなあ……そう考えるとマリアさんも慌てるか。
「っていうかエリナさん、ちょっと怒ってる?」
「……はい、ちょっと。何かトーゴさんが見下されてるみたいで、正直気分はよくありませんね」
それは考えすぎだと思うよエリナさん……俺だって流石に万能ではないからな……
なんてことを話しているうちに、マリアさんが戻って来た。肩で息をしてるけど、どんだけ慌ててたんだこの人……
「お、お待たせしました! ペトラ杉5本、状態優良で確かに確認いたしました! それでは実績ポイントが10ずつ付与、達成報酬が1本あたり2小金、ペナルティなし、合計10小金となります!」
「……実績ポイントは折半じゃないんですね?」
「はい、今回はパーティーの人数問わずという指定でしたので、実績ポイントは均等に同値付与されます。ペトラ杉の達成報酬は買い取り金額になりますのでそういう訳にはいかないんですが」
「なるほど」
そしてカウンターで小金貨10枚を見せてもらった後、5枚ずつを俺とエリナさんの金庫に預けてもらった。ちなみに小金貨の鑑定はこんな感じ。
小金貨
銀で出来た硬貨の中で最も価値の低い硬貨。銀貨2枚の価値がある。日本円に換算するとおよそ10000円の価値を持つ。
5枚で穴あき金貨、10枚で金貨、50枚で小白金貨と等価になる。
価値的に換算すると、1日目にこなした依頼全部合わせた額とまるっきり同額ということになる……まあ妥当な値段か……?
「それにしても5本全部達成とは! 木工ギルドは安く買い叩こうと思っていたようですが、その目論見も崩れましたね!」
……ん? 買い叩く?
「どういうことです? ペトラ杉の達成報酬は固定なのでは?」
「普通は、確かにそうなんですが……今回の依頼は1本当たりの達成報酬とペナルティが同時に設定されていましたでしょう? アレは素材を安く買い叩く常套手段なんです。
例えば今回の場合なら、5組のパーティーが1本ずつ持ってきたとして……1組当たり達成報酬1本分とペナルティ4本分、すなわち2小金とマイナス4穴あき銀が等しく設定されます。それが5組分となると?」
「達成報酬の総額は10小金マイナス20穴あき銀。そして10穴あき銀と1小金は等価だから、払う報酬を8割程度に抑えられる……」
「その通りです。それに今回は言葉の通じない場所での伐採でしたし、実際にはもっとマイナス分が行ったでしょう」
うわセコい。っていうか今の物言いからするとマリアさんも結構ムカついてたんかね……いい気味だ、なんて言葉が聞こえそうな感じだ。
最初から最後までご機嫌なマリアさんに見送られてギルドを後にする。達成報酬が結構な額になったが、それでもまだいろいろ活動するには足りない。特に今後のことを考えた時に、これではとてもじゃないが物足りない。
それとは裏腹に、実績ポイントは2日目にしてふたりとも既に65ポイントに達している。ランクアップに必要な条件である100ポイントの方は、銅ランクの依頼を受けていればすぐに埋まるだろう。
そうなると問題は3か月という期間だけど……これはもしかしたら、ちょっとしたチャンスなのかもしれない。
「エリナさん、ちょっと考えてたことがあるんだ」
一旦ホテルの部屋に戻って、俺はエリナさんに切り出した。この件についてはエリナさんにも相当な協力をしてもらう必要があるだろう。
「トーゴさん? 何ですか、改まって?」
「今後は午前と午後で受ける依頼の種類を変えよう。というより、もう明日から総合職以外のギルドにも登録していこう」
「……そういえば、ギルドの話は昨日もしていましたね。でも依頼の種類を変えるというのは?」
「種類を変えるというより別ギルドの依頼も受ける、だね。総合職ギルドの方はポイントはすぐに貯まるけど、期間の方はどうにもならないから」
正直その遊んでいる期間がもったいないから、ランクアップ待ちの間に色んなギルドの依頼を受ければコンスタントにお金も手に入るし貯まるだろう。いや、貯める必要がどうしてもあるんだ。
何故なら――
「俺はいずれここを出て、安住の地を探さなければならないんだ! ……世捨て人的な意味じゃなくて、街だろうが原っぱだろうがいいんだけど近くに人がいることが前提でね」
「っ……なるほど、確かにそれはいいと思いますけど……つまりここを出て旅をするってことですか? 移動手段や宿泊などにあまりお金をかけられなくなりますね」
「それについては……今日魔動車に乗ってみて分かった。キャンピングカーっぽく作ればきっとあの中で生活出来ると思うよ」
唐突に思いついただけだけど、魔導工学が電気工学と互換性があるなら電気自動車と同じようなものだし作れないことはない。何せ俺はエキスパート級の生産魔法を備えてるんだからな。
「だからそれまでに資金と材料と、この世界の色々な情報を手に入れておかなければならないって訳だ。その為には時間がもったいなさ過ぎる」
「そう……ですよね」
「というわけでエリナさん」
「はい……!」
「エリナさんにはこの国の言葉を覚えてほしい。それと戦闘スキルも鍛え上げておいてほしいんだ。絶対今後必要になるから」
「はい……って、え? あの……私も、行くんですか?」
「当たり前だろ、嫌か?」
というか帰り道に捨てないって言ったばかりじゃないか。またろくでもない想像してたんだろうけど、そうはいかない。
「嫌じゃない……嫌じゃないです……! ありがとう、ございます……!」
そう言ったエリナさんの眼と顔は、また赤くなったのだった。……全く、こんなに世話の焼ける子を放っておけるか。
何はともあれ――さっそく旅に出る準備を進めていくぞ!
20話まで終了しました。取り敢えずはここまでで異世界転生編は終了となります。
実は作中時間ではまだ2日目だったりするんですが、これどこまで進むやら……
次回からは放浪準備編が開始となります。それまでにまた書き溜めて更新していきますのでよろしくお願いします。
一応次回更新は11/05の予定となります。お楽しみに!