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転生先が同類ばっかりです!  作者: 羽田ソラ
異世界転生編
19/132

18.村の人に説明するよ

 その後簡単な身分の確認などをされた後、俺たちは村長のいる場所まで案内されることになった。いきなり襲い掛かられて身ぐるみ剥がされたりしなければいいけど……なんて心配は杞憂に終わりそうだ。

 ちなみに魔動車は空いた敷地に駐車してある。あの車、機構や外観はともかく中身はすこぶる先進的で、事前に登録した波長の魔力を持つ人間以外が触ってもうんともすんとも言わないのだ。こんな村にレッカー車などあるはずもないし、ある意味最強のセキュリティ機構だな。


 それにしても……


「遠目から見たらわからなかったけど、結構ちゃんとした家が多いですね」

「ああ、まあ建築の専門家も転生してきてるからな。材料は揃ってたから三和土(たたき)も作れたし、材料はそこの山からとれる杉を使えばいいし」


 案内してくれるのは先程通せんぼしていたのとは別の男。どうやらあの時近くにいたらしく、持ち場を離れられない彼の代わりに案内するようにさっき指示されていた。ということはあの男が警備の責任者なのかね……?


「この村では自給自足が基本なんですよね? 食料もここで育ててるんですか?」

「この村は敷地だけは結構広くて、もっと奥の方に畑や田んぼがあるんだ。と言っても収穫量はたかが知れてるけど、この村にいる日本人は人数も多くないし困ったことは基本ないかなあ……」


 なるほど、そうなるとここでは基本的に貨幣は使用不可能……というより使う必要がないわけだ。それも当たり前か、言葉が分からないのでは貨幣の価値もわからないだろうし使うためのコミュニケーションもとれないだろうし。


 いや、しかし――


「この村にいる人数が少ないってどの程度なんですか?」

「そうだな……今だと30人程度ってところか」


 少ないなんてもんじゃない。先程集落というより村なんて言ったけど、村というより集落って言った方がいいレベルじゃないか……っていうか今までこの世界に転生してきた日本人、流石にそんな人数じゃないよな?


「他の人達はどうしてるんですか? 別の国に同じような村があるとか……?」

「あー、それはあるかもしれないが……ああ、ここだここだ」


 気が付けば1軒の家の前に到着していた。規模としては他の家とそう変わるところはないものの、作りが全体的に綺麗な気がする。具体的には他の家が丸太の形を極力残したログハウスなのに対し、この家は同じログハウスでも板材を使ったスリムなそれだった。

 そう言えば杉材ってログハウスに最適だって話を聞いたことがあるな……ペトラ杉も基本的に同じ性質なんだろうか?


「村長、日本からの新しい転生者をお連れしました」

「ご苦労様です。……おふた方ともですか?」

「いえ、日本人は男性の方だけで、女性の方はフィンランド人とのことです。女性は英語での意思疎通も可能とのことです」

「そうですか、ありがとうございます。お初にお目にかかります、杉山(すぎやま)村村長の牧田(まきた)と言います。村の名前は安直な仮名がそのまま正式名称になったものでして……とにかくよろしくお願いします」

「これはご丁寧にありがとうございます、水元統吾と申します。こちらはエリナ=サンタラ、フィンランド人で、転生当初から行動を共にしている女性です」

「ナイストゥーミーチュー」

「ハロー、アイムエリナ=サンタラ」


 そう挨拶を交わす村長の容姿は、どう見ても今の俺と同年代か少し上程度にしか見えなかった。相当若作りしているのかそれとも年相応なのか……いや待て、考えたら転生する時に不老不死が特典としてついてきてたな。つまり年齢相応じゃないってことか。


 まあ容姿はともかく、いい人そうで助かった。ここで取り囲まれて身ぐるみはがされるって可能性は……まあないとは言えないけど、流石にそれやられたらお手上げだし考えないようにしよう。


「それで水元さんは、本日はどのようなご用向きで? この村に移住ということでしたら諸手を挙げて歓迎いたしますが」

「それもいい選択肢ですが、本日はエステルの街で受けた依頼で伺ったんですよ。実は急遽ペトラ杉……そちらの林にある杉を5本ほど融通していただけないかと思いまして」

「ペトラ杉……あの杉はそういう名前がついていたんですか……」


 言って村長は、少し考えるそぶりを見せる。……駄目か?


「……? ああ、申し訳ございません。少し不安にさせてしまったようでして。あの杉を5本ですね、その程度であれば問題ありませんのでお持ちください」

「ありがとうございます、ではお言葉に甘えて後程」

「その代わりと言っては何ですが、ひとつお願いごとを聞いていただけませんか?」

「お願いごと、ですか? 何でしょうか」

「実はこの村の住人は私含め外の世界の情報には疎いものでして、日本語が通じてこの世界の情報にも詳しい方を探していたのですよ。出来ればこれも何かの縁、是非情報交換をお願いしたいのですが……」


 一瞬どきりとしたものの、聞いてみれば単純な話ではあった。情報も金でやり取りされるもの、と考えると、本当の意味で外の世界に触れたことのないこの村の人間には杉5本分の価値は十分あるんだろう。

こちらもそれほど多くの情報を持っているわけではないけど、それでもないよりはましだと思うし……


「分かりました。我々の持っている情報でいいなら、交換しましょう」

「ありがとうございます、そう言っていただけると助かります」




 それから俺たちは……というより俺は、転生してから今まで知り得たこの世界の情報を村長になるたけ詳しく教えた。


 自分たちは最初についたエステルという街および周辺含めた国家について。

 この世界の貨幣制度や物価水準、貨幣の種類と為替レートについて。

 ギルド制度とその機能、使用されている言語とその体系。

 交通手段及びその動力、性能……


 ひとつひとつ説明する中で自分にもわからないことは結構あったが、それでも村長にとっては新鮮な情報だ。自分の考察など、余計なことは一切交えずただ知り得た事実だけを伝えていく。

 ……まあ、この辺は助け合いだな。情報を伝えたからと言ってすぐに外の世界に出ていくというものでもないだろうし。


 それに――俺も気にあることがあったんだ。


「……とまあ取り敢えず、我々がこの世界に転生して来てから知り得た情報はこんなもんですかね。結構抜けがあるのはご容赦いただきたい」

「いえいえ、むしろ転生2日目でそこまで把握していらっしゃるというのには驚嘆しますよ。抜けに関してはこちらの方でも何とか情報を収集しようかと」

「そう言っていただけると助かります」

「それにしても多方向翻訳認識能力ですか……ということは、水元さんはサンタラさんと普段何語で話していらっしゃるのですか?」

「俺は日本語で話していると思っています。エリナさんはフィンランド語で話していると思っているはずです、最初に会った時そんな感じの話をしていましたから」

「なるほど、そうなると翻訳時の思考のラグが存在しないんですね。……我々もその能力を希望すればよかったと思います。まああの当時ですら酷な話かもしれませんが」

「……そうですか?」

「我々日本人は、異世界転生というと自分の言葉が無条件で通じると思い込んでしまいますからね……そんな中で翻訳能力はなかなか選びにくいでしょう」


 ああ、それはそうかもしれないなあ……さてと。


「そう言えば村長さん、さっきから村長さんに聞きたいことがあったんですよ」

「はい、何でしょうか。答えられる範囲でよければお答えしますよ」

「先程、1時間ほど前にこの村に入った時に、この村の人口が30人程度しかいないという話を聞いたんですが、転生した人間の数はそんなもんじゃありませんよね?


 この村――何でこんなに人口が少ないんですか」

※ちょっと解説

杉はログハウスに使う材質としては非常に良質な木材で、日本におけるログハウスの多くはこれで作られたりしています。三和土は基礎作りなどに重宝します。


次回更新は10/30の予定です。

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「転生先が同類ばっかりです!」が同人誌になりました。エアコミケ新刊です。
本編の修正並びにイラストが追加されています。WEB版における50話までの収録です。
とらのあなさんおよびAxiaBridge公式サイトからご購入いただけます。
頒布開始は5月5日です。宜しくお願いします。
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