123.いろいろ情報交換したよ
約束の待ち合わせ時間になったところで再びロビーに降りると、ジェルマエルフのふたりが先程と同じ場所で俺たちのことを待ってくれていた。聞けばすぐ近くにいいレストランがあるらしく、そこが運よく予約が取れたとのこと。
2時間前とかでほんとに運がいいよな……なんて思いつつ、案内されるがまま俺たちはその店に移動する。
「お待たせいたしました。何分ヴィアンからここまで魔動車で来たもので、少々疲れが残っておりまして」
「こちらこそすまない、出来れば翌日以降にお話を伺いたいところだったのだが……急を要するかもしれない内容ということで、なるべく早くということに相成った」
「……その口ぶりですと、何があったかは大体情報が入っているのですか?」
「いや、そういうわけではない。ただ、マジェリア人がこのジェルマに入国したこと自体が……こう言っては何だが、既に異常事態ではあるのでな。それもエスタリス側から入国など、正直考えられん」
「と、マルコ様は仰るが……ここ数十年で片手で数える程度にはマジェリア人もジェルマに入国してきてはいる。もっとも大体がスヴェスダ経由なのだが」
スヴェスダ……ウルバスクの隣国で、確かザガルバで出会ったマルタさんの生まれ故郷だったかな? でもあそこも結構癖の強い国だったはずだけど……外国人相手にはまた違ったりするのかな。
「まあその辺りの積もる話も改めて聞くとしてですね……」
「うむ。ああ、この地下だ。腸詰がうまい店でな、我が同胞もよく利用している」
言ってマルコさんは、とある建物の地下に降りる階段を指し示す。というかジェルマエルフって名乗るからには皆さん最低でもベジタリアンだと思ってたんだけど……不通にソーセージとか食べるんだな。いやまあ前世の常識、それも諸々コンテンツから仕入れたそれにとらわれていると言えばそれまでなんだけど。
そのまま店に入って予約しておいたであろう席に移動し、椅子に座っていくつか注文を終えたところでふたりのジェルマエルフが居住まいを正して言う。
「……さて、それではエスタリスで何があったか、そちらは何が知りたいのか、情報交換と行こうではないか」
「ええ……それは構わないんですが、まずはこちらから質問よろしいですか?」
「よい、ただし質問は互いにひとつずつとしようか。情報交換である以上、その方がよかろう」
「……だって。エリナさんもそれでいい?」
「ええ、そうね。一理あると思うわ」
「それでお願いします。
それではさっそく質問なんですが……あなた方は我々とは初対面のはずです。にもかかわらず我々があたかも重要参考人であるかのように決めつけて……失礼、確信しているかのような態度で接触してきた。その理由をお聞かせ願いたい」
俺たちが特別転生してきた人間であることは、それなりに長くこの世界における時間を過ごしたマジェリアの人間でも知らない。ましてや彼らが知るはずもない。にもかかわらずどうして――
「ああ、そのことについてか。それは簡単で、あなた方がジェルマに入国する際に提示したパスポートからステータスの一部を拝見したからだ。とはいえ我々がいたわけではなくあくまで協力者による確認だったが、その中に不老不死という特記項目があったのがその理由でな。
通常不老不死というものは、我々ジェルマエルフのような長命種に中でごくまれに発生する突然変異のようなもので、それ故に非常に珍しいものでもある。それが人間で、さらに夫婦ふたりしてその力を持っている。
そんなマジェリア国民が、外国人としてジェルマにエスタリスから久しぶりに入国したとあっては……何かあったと考えるのが自然であろう?」
……俺たちは大臣閣下から情報に関する依頼を受けてはいるけど、本質的には好きに放浪しているだけなんだけど……まあでも前情報だけでいたらこの国に入国していなかったわけで、そういう意味ではその判断は正しいのかもしれない。
「今度はこちらの番だ。マジェリア国民がジェルマに入国するのであれば、普通はチェスキア経由ないしウルバスク・スヴェスダ経由が自然なはずだが……エスタリスから入国した理由をお聞かせ願いたい」
「理由、は、スティビアに先に入国したからとしか――」
「そんなことは分かっている。しかしあなた方の入国ルートはそれほど不自然だということを踏まえて先程の問いに答えていただきたい」
……なんか尋問みたいになっちゃったけど、確かに誤魔化す必要もないしな……エスタリスとの国境管理を軽視しているというのであれば教えないことも考えたけど、今はそんなことを言ってる場合じゃない、か。
「……分かりました。ジェルマに入国する際にこのルートをとらざるを得なかったこと、さらにエスタリスで発生したことについてご説明いたします」
そして、今まで巻き込まれたり見聞きしたりしたものをひとつひとつ説明する。マルコさんたちは最初静かにうなずいていたものの、徐々にその表情が険しくなり……話が終わる頃には、完全に頭を抱えてしまっていた。
「証拠がご入用なら、こちらに録音用魔道具に録音された音声データのみをダビングしたものがございますが」
「いや、いい。あなた方を信じよう……しかしそれにしても、アルブランエルフも随分と勝手なことをやってくれたものだ」
「ええ、完全に我々を滅ぼしに来ていますね……ジェルマをなのかジェルマエルフをなのかはわかりませんが」
「ジェルマだろう。ジェルマエルフだけならばドラゴンを複数種類複数体など、国境にけしかけたりはしまい。そんなことをして明るみに出れば、周辺国が動いてややこしいことになるだけだからな……」
……どうやらジェルマエルフは、アルブランエルフのことを知っているようだ。もっともその言葉の端々からにじみ出る意識は好意的とはとても言い難いが、もしかしたら腐れ縁的な感じなのかもしれない。
「情報感謝する。このことはマジェリアには報告してあるのか?」
「既に報告をしてあります。……というか今のでそちらの質問がふたつ続いたので、こちらで帳尻合わせしますよ」
「うむ、それは失礼した。ではふたつ質問を」
「はい。……ジェルマエルフの方々はアルブランエルフをご存じなのですか?」
「うむ、よく知っている。もとはと言えば立場などが同じような生き物なので、こちらの方で色々と調べてはいる、程度なのだが。
まあ我々の同胞もアルブランエルフも、マジェリアのハイランダーエルフなどとはまた種が違うのだが……その辺りは後程語るとしようか。
まあざっくりと言ってしまえば、アルブランに住んでいるからアルブランエルフ、ジェルマに住んでいるからジェルマエルフと呼び分けているだけなのだが……我々はなかなかに種族ごとの特徴が違い過ぎてな」
……ああ、字甲高い声が特徴だったハイランダーエルフに比べると、こっちの方が耳もとんがってるし見た目も若いしで、自分のよく知るエルフって感じがするしな……
「……ありがとうございます。では次の質問です。
今回アルブランエルフ語として我々が聞いた言語を、我々自身は英語と呼んでいます。さらにあなた方ジェルマエルフの話すジェルマエルフ語は、我々自身が呼ぶところのドイツ語というものです。
我々がどこでそれを知ったかは控えさせていただきますが、あなた方は一体どこでそれを覚えたのですか? 単なる昔からの言語というには、かなりしっかり体系づけられているように感じますが」
そう、この人たちはさっきからドイツ語しか喋っていない。だからこそエリナさんも、この事たちと話しているときは所在無さげに黙っているのである。……エリナさんは自動翻訳関連のスキルを持ってないしな……とはいえ、ドイツ語を喋っている理由というかルーツくらいは欲しいものではある。
「そのことか……まああなた方ならいいだろう。英語やらドイツ語やらと、普通にこの世界で生活していれば絶対に目や耳に入ってくることのない言語が出来る理由。
それは――我々エルフの一部も、地球から転生してきた人間だからだ。ただし特別転生ではなく懲罰転生として、な」
一生懸命複線回収してるって時に俺ってやつは……
次回更新は09/10の予定です!