第84話 勘違いから始まる依頼
「えっと、うちは英雄豪傑じゃなくて挑戦者の心臓なのですが……」
戸惑い気味にシルビアが答えていた。俺たちが戻った時はとても嬉しそうにしていたが、ギルドを間違われているとわかってからは表情に影がさしていた。
「……そうだったんだ。ごめんなさい。僕、ちょっとだけ方向音痴なところがあって」
彼女がペコリと頭を下げて言った。方向音痴……そういえばサウザンドも道を聞かれていたんだったっけ。
「いや、もう全然ちょっとじゃないだろう」
「ドヴァン失礼ですよ」
「す、すみませんお嬢! つい本音が!」
彼女の様子にドヴァンが容赦なく言い放った。それをヘアに咎められて謝っているけどね。
「確かにうちは英雄豪傑ではゴブりませんが、もし宜しければ依頼内容を聞かせては頂けませんか?」
すると話を聞いていたジェゴブが依頼しに来た彼女にそう提案した。
流石ジェゴブだ。この人が僕たちの探していた鑑定士の可能性は高い。
そうである以上、こちらの話も聞いて欲しいところ。折角依頼があるのだから相手の話を聞きながら上手い事会話の糸口をつかめれば最高だ。
「貴方たちにですか?」
「そ、そうですよ。うちも英雄豪傑ほどの知名度はありませんが、冒険者ギルドであることに変わりはありませんから、きっと役に立てると思いますよ!」
ジェゴブの話にのっかる形でシルビアがギルドをアピールした。
「そうだぜ。俺たちだって結構修羅場を潜ってきてるしな」
「実力は英雄豪傑にも引けを取らないと思ってます!」
ドヴァンとヘアも彼女を引き留めようと彼女に訴えた。すると彼女が顎を指で押さえ考える仕草を見せる。
これは全く脈なしではなさそうだ。俺も黙ってはいられない。
「今なら俺たちもすぐに動ける。依頼にも対応しやすいと思うんだ。だからどうかな?」
「――そうだね。迷ったとは言えこのギルドに来たことは何かの縁かも知れないし話を聞いて頂いても?」
「それはもう! ではどうぞこちらへ!」
ふぅ。何とかテーブルについてもらうことは出来たようだ。シルビアもニコニコして席についてもらい御茶を用意しますねとご機嫌だ。
そこで俺はシルビアの後についていき事情を説明した。これにシルビアは驚いていたよ。
「まさか皆さんが探していた相手でもあったなんて。これはもう運命としかいいようがないですね!」
シルビアが興奮気味に答えた。シルビアはカードを使った占いをする。だからか運命とか信じやすいのかもしれない。
とにかくここは上手いこと話を進めつつ彼女のことも聞かないと。状況証拠で探している鑑定士と判断しているけどまだ本人から聞いたわけでもないし。
「自己紹介が遅れたけど、僕はサーチス・ロック。予め言っておくとハーフドワーフだよ」
御茶の準備が終わると彼女が名前と種族を明かしてくれた。ハーフドワーフ――そうなるとやはり間違いないかもしれない。
「おおやっぱりか! てことはあんたがあれだろ? 流れの鑑定士っていう!」
思わず、え? という目でドヴァンを見てしまった。いや確かにそれは知りたかったことだけどちょっと直球過ぎない!?
「どこで知ったのかはしらないけど、確かに僕は鑑定士でもあるよ」
けれどドヴァンの遠慮のない聞き方に対してわりとあっさりサーチスは答えてくれた。
特に嫌がってる様子はない、かな?
「やっぱりか。だったらサーチスあんたに一つお願いがあってさ」
「ちょ、ドヴァンストップ! 駄目だってば」
ぐいぐい話を進めるドヴァンをヘアが止めてくれた。よかった彼女はしっかり空気を読んでくれた。
勿論鑑定して貰いたいのは確かだけど一方的にこっちの要求を伝えるのは心象良くないだろうし。
「もうしわけないお嬢! 俺もつい先走ってしまい!」
ドヴァンはヘアに謝っていた。焦る気持ちもわからなくもないんだけどね。
「あのごめんなさい。ドヴァンも悪気はないんです」
「別にいいですよ。僕が鑑定士なのは事実ですし依頼を受ければ鑑定もするよ。だけど先ずは僕の依頼について話していいかな?」
「勿論だ! 依頼者の話を聞くのはギルドとして当然だからね」
機嫌を損ねてないかと心配だったけどよかった依頼の話は引き続きしてくれそうだ。
「僕は実は遺跡を巡るのが趣味なんだ。そこで最近になって古代に魔導鍛冶師として名を馳せたマジェスタの遺産が眠る遺跡がこの周辺に残っているという噂を耳にしてね。それを探すのに協力して欲しい。それが僕からの依頼だよ」
依頼についてサーチスが説明してくれた。それにしても依頼内容は遺跡の探索か――




