第78話 あっさり追放
「なるほど。つまりそこの連中がギルドのルールを破ってカルタ達に切りかかったってわけだな」
支部長のホフマンが騒ぎを聞きつけてやってきてくれた。そして奴らの蛮行に待ったをかけ、何があったかをしっかり聞いてくれた。
「お言葉を返すようですが支部長。悪いのはこいつらですぜ」
「ほう、なんでだ?」
「はい、こいつらうちのギルドの所属でもない癖にギルドをウロウロしていたんですよ。怪しいでしょう? だからとっちめてやろうと思ったんでさぁ!」
「なるほど、それで武器を抜いて切りかかったのか。しかも身ぐるみと仲間の彼女を全て置いていけとまで言ったそうじゃないか?」
「それはこいつらがでまかせを……」
「聞いていた奴らがしっかりいるぞ。お前らはどうやら知らなかったようだが、そこのカルタ達は一部ではちょっとした有名人だからな。騒ぎを目にして報告にきたのがいるんだよ。それで、どうなんだ?」
どうやらホフマンが動いたのはその報告があったからなようだ。そしてこの話を聞いた途端、モヒカンの口調もしどろもどろになる。そもそもこいつらホフマンが来た途端口調も変わってるのな。
「そ、それは……女の方はスパイかも知れないから捕まえようと、身ぐるみは迷惑料ですよ。勿論手に入れたもんはギルドに納めるつもりでした」
聞いていて頭が痛くなってきた。こいつらは本当にそれで支部長のホフマンが納得すると思ったのだろうか?
実際ホフマンはやれやれといった様子で頭を振っている。
「わかったわかったもういい」
「わかってくれたんですね。なら早速こいつら捕まえてしまいましょう!」
「……馬鹿かお前らは?」
「……え?」
「わかったのはお前らの愚行がだ。お前ら本日限りで英雄豪傑クビな。除名にするからギルド証置いてとっとと消えろ。勿論出入り禁止だ。連盟の方にもしっかり報告出しとくから二度と冒険者になれると思わんこった」
「は、はぁ! どういうことですか! 納得できねぇぜ!」
「いいから言われたとおりにしてさっさと消えろ――ぶっ飛ばされないうちにな」
「「「ヒッ!?」」」
ホフマンが睨みつけると怯えた兎みたいになり、3人の無法者はギルド証を投げ捨てるようにしてから出ていった。全く、なんだったんだあいつら。
「済まなかったな。馬鹿が迷惑掛けて」
「いえ、おかげで助かりました」
「なっはっは! どうやら俺の勘は正しかったようだな。俺たちの友情の勝利だ!」
「え? ゆ、友情?」
「あぁ、悪いなこいつはサウザンド。うちのCランクの冒険者なんだが見ての通りちょっと暑苦しい上バカなんだ」
「そんなに褒められると照れるぜ!」
「褒めてねーよ」
俺は苦笑しつつサウザンドとホフマンのやり取りを見る。う~ん一見バカにしているようだけど実際はそれだけ気心がしれてる風に思える。支部長のホフマンに対してここまで気軽にやり取り出来るのだからすごい人物なのかも知れない。
確かCランクの冒険者といったか。一概にCランクと言ってもギルドによって上がりやすさは異なるらしく英雄豪傑はギルドの中でも最も昇格条件が厳しいことで有名だ。
そう考えたらもしかしたらかなりの実力者なのかも。
「しかしサウザンド。お前本来ならあの連中を止めるところだろうが。何でやりあおうとしてだんだよ」
「それは勿論、勘だ!」
「はぁ、そんなこったろうと思った」
ホフマンが頭を抱えた。あれ? もしかして俺の勘違いか?
「まぁいい。それよりお前たちよく来てくれたな。もしかして、英雄豪傑に入ってくれる気になったか?」
「なに! 仲間になるのか!」
「あ、いえ。残念ながらギルドはもう決めたので」
「何! それならライバルか!」
「サウザンド、お前ちょっと黙ってろ。あぁ、そういえばお前好みの依頼がでたらしいぞ」
「何、本当か! よっし! 依頼が俺を待ってるぜ! それじゃあまたどこか出会おう! おれの永遠のライバルよ!」
サウザンドはそのままダッシュでどこかへ行ってしまった。え、いつの間に俺ライバルになってたの?
「え~と、何かすごい方向に走っていったような……」
「出入り口から出ていってしまったでゴブりますね」
「なんだったんだあいつは?」
ヘアとジェゴブとドヴァンがどこか呆気にとられながら言った。確かに、勢いは凄かったけど行動がめちゃめちゃに思える。
「悪いな。あいつは常に勘で動いていてな。生活のすべてがそれだからわりと行動がズレてるんだ」
「なるほど……」
そう答えてはみたけど、正直何がなるほどなのか俺自身よくわからない。
「それで、やっぱりギルドは挑戦者の心臓を選んだのか?」
「え? 知っていたのですか?」
「まぁ、マスターのレオンとは知らない仲でもないしな。だが、今あそこは大変だろ?」
「え、えぇ。でもそこまで知ってもらえてるなら話は早いです。実はそのギルドの件もあって相談が」
そして俺はホフマンにここまで来た理由を告げる。それにホフマンは真剣に耳を傾けてくれた。
「なるほど、話は判った。よっし! 任せとけ。一緒にこい。俺が受付で話を通してやるよ」
よっし! やっぱりここはホフマンを頼ってよかった。これなら買い取りもスムーズに――
「なるほど。事情はわかりました。ですが査定には一週間かかるのでそれまでお待ち下さい」
「……へ? 一週間?」
「はい。一週間です」
ホフマンに案内されて俺たちは素材買い取りのカウンターまでやってきた。そこでホフマンが受付嬢に事情を伝えて、買い取りを早めるよう言ってくれたんだけどそこに別な受付嬢がやってきた。
眼鏡を掛けたキリッとした女性だった。美人だけど、何かすごくお固いイメージの受付嬢だ。
「おいおいヒルダちゃんよそれはないだろ? 事情は話したとおりだ。なんとか今日中にやってくれよ」
「支部長、貴方は馬鹿なのですか?」
「え? ば……」
「すげー気の強そうな女だな……」
うん。まさか受付嬢が支部長に馬鹿とかいい出すとは思わなかった。
「全く、貴方がわざわざ受付まで来る時はろくなことがありません。前もって支部長が顔を出したら私に知らせるよう言っておいて正解でした」
「俺、信用ないの?」
「ありませんね。とにかく今日中は無理です。少しは現場のことも考えてください。ギルドでは毎日多くの素材が集まってくるのです。特に今は繁忙期で量も多いのです。この英雄豪傑所属の冒険者も数日待ってもらっている状況が続いているのです。それなのに他のギルドから持ち込まれた素材を優先している余裕はありません」
「おいおい、他のギルドだからって差をつけるのかい?」
「つけます。当たり前です。そもそも支部長がそんなことでどうするのですか? 脳みそ溶けてるんですか? そもそも支部長はもっと自分の仕事をしてください。まだ決裁の済んでない書類だって大量に」
「待った待った待った! その話はおいといて。だから、ほら、判る? この皆はうちも結構迷惑掛けちゃってるし、事件を解決に導いた立役者でもある。だからさ」
「駄目です。それとこれとは話が別です。支部長も先ず自分のギルドを優先させてください。大体からしてその事件でギルドの評価がわずかとは言え下がったのです。一度下げた信頼を取り戻すのにどれだけの時間が必要か……」
「わ、判りました! 支部長も、もう大丈夫ですから!」
支部長という立場のホフマンも、ヒルダにはタジタジなのが見て取れる。口では全く敵いそうにないし、何より。
「いや、でも大丈夫といってもお前……」
「いや、いいんです。冷静に考えたら安易に他のギルドを頼ろうとした俺たちも悪かったし、何よりヒルダさんの言っていることは正しい。何もまちがってはいないですよ。自分のギルドのことがあるのにこのギルドに登録していない俺たちの素材を買い取って欲しいなんてそもそも虫のいい話だったんだ」
そう。それに尽きる。やっぱり俺たちが甘かったんだ。もっと他に出来ることがないか考えるべきだった。
「……何か悪かったな。わざわざ来てもらったのに役に立てなくて」
「いえ、さっきもいいましたが、俺たちが甘かったんです。あとはこっちでなんとかしてみます」
「そうか。でも本当に困ったらまたいつでも来てくれていいからな。頑張れよ!」
「はい、ありがとうございます!」
そして俺たちは英雄豪傑を出た。実はホフマンはなんなら自分のポケットマネーから必要な分を貸してもいいとまで言ってくれたんだけど、それだと借金を借金で返してるだけで根本的解決にならない。
だからそれは遠慮させてもらった。そもそも時間が全くないわけではない。とにかく出来ることを探そう。
そう考え、俺たちはまた移動を開始したんだけど。
「おい待ちな馬鹿野郎。お前らちょっと面かせやこの野郎」
「さっきはよくもやってくれたなゴラァ!」
「殺すぞ、マジで、殺す!」
あぁ、さっきの連中……なんとなく嫌な予感はしてたけど、やっぱ来たか――