第77話 英雄豪傑の無法者
俺たちが英雄豪傑内の案内図を見ていると、後ろから声をかけられた。しかも妙に喧嘩腰だ。
振り返るとモヒカンがいた。いや、もうそこにしか目がいかないぐらいの見事なモヒカンだ。鶏冠みたいにセットした赤い髪は天井に届かんばかりの高さがある。なんだこれ?
おっと、どうにもそっちに真っ先に目が行くけど、その両端に2人、強面の人が並んでいた。肌が出た男と髪の毛がない男だ。
「え~と、どちら様で?」
「それはこっちのセリフだ馬鹿野郎! てめぇこそどちら様だこの野郎!」
うわぁ……いや、確かに言われてみればやってきたのは俺たちだからそう聞かれてもしかたないのかもだけど、にしてもこいつ柄悪すぎないか?
まさか、この3人も英雄豪傑の冒険者なのか? そっちのほうが心配だぞ。
「さっさと答えろや! ここは英雄豪傑だぞ! テメェらみたいな品のない連中が来ていい場所じゃないんだこの野郎!」
「そうだぜ馬鹿がコラ! 英雄豪傑にわけわからんやつにうろつかれちゃ迷惑なんだよ!」
「殺すぞ死なすぞ!」
「よしいい度胸だ。とりあえず殺すか」
「駄目ドヴァン! 余計に話がこじれちゃう!」
「う、お嬢がそういうなら……」
危なくドヴァンが蹴り掛かりそうだったのをヘアが止めてくれた。
確かにここで暴力沙汰を引き起こすのはまずいしな。何せ俺たちの方から頼みに来てるわけだし。
「それにしても貴方達こそ、本当に英雄豪傑の冒険者なのでゴブりますか?」
「あん? テメェみたいなゴブリンっぽい野郎に言われたくねぇんだよこの野郎!」
「やっちまうぞコラ!」
「殺すぞ! 死にたいのか?」
駄目だ。もうこいつらただのチンピラにしか見えない。
「なぁカルタ。思ったんだけどこいつらの方が不法侵入してきた盗賊とかなんじゃないか? だとしたらここでやってしまったほうがこのギルドの為じゃないのか?」
「いや、気持ちは判るけど、もしかしたらということもあるからなぁ」
「なんだとこの野郎! だったらこれをみやがれこの野郎!」
そう言ってモヒカンが懐から冒険者証を取り出した。そこには確かに英雄豪傑の紋章とモヒカーンという名前があった。名前まんまだな。他の3人も一緒でどうやら揃ってDランクらしい。
「どうだこの野郎! みたかこの野郎!」
「チッ」
「テメェ今舌打ちしたかコラ!」
「殺して死なすぞ!」
何か頭が痛くなってきた。これで本当に英雄豪傑の冒険者なのか? 確か英雄豪傑ってギルドに入るのも大変で狭き門だったはずだけど。
この冒険者証も偽造なんじゃないだろうな?
「おら! 判ったらさっさと正体をあかせこの野郎!」
「……ふぅ、俺はカルタ。こっちはドヴァンでヘア、そしてジェゴブだ。実はわけあって――」
「あん? ちょっと待て、今カルタと言ったかこの野郎?」
「……まぁ、言ったけど」
「つまりだ、てめぇがあの紙装甲のカルタかこの野郎!」
「……まぁ、そうだな」
このやりとりで既に嫌な予感しかしないわけだが。
「プッ、ぎゃははっはは! こいつが、こいつがあの紙装甲か馬鹿野郎! この野郎!」
「あの最弱スキルの癖にはったりと詐欺まがいのやり口だけで生きてきたってくそやろうかコラッ! ギャハハ!」
「殺すぞ! 死なすぞ! いや死ねよギャハハ!」
うわぁ、やっぱりだ。予想通りすぎたけど。何か紙装甲で馬鹿にされるのも久しい気はするけどな。
「おいテメェら……」
「いやいいよドヴァン。ここは抑えて、ヘアとジェゴブも」
3人共不快って顔をしてる。俺だって腹も立つが、ここで下手に刺激しても仕方ない。
「で、だこの野郎。それでその最弱の紙装甲が天下一のうちに何のようだこの野郎!」
「……別に。ただ、素材を買い取ってもらう相談をしたかっただけだ。それじゃあそういうわけで」
「待てこの野郎!」
とにかくさっさと切り上げるべきだろうと思ったわけだが、こいつらはしつこい。
「テメェらみたいなクズがうちで素材をだと? ふざけたこと抜かしてんじゃねぇぞこの野郎! そんなもの許されないんだよ馬鹿野郎!」
「お前らみたいなカスが素材を持ち込んだというだけで英雄豪傑の看板が汚れるんだコラ!」
「ましてお前らみたいなカスを見逃したとあっちゃ俺たちの面目が丸つぶれなんだよ死なすぞ! 殺すぞ!」
思わず嘆息する。全くよりにもよってギルドにやってきた途端こんな連中にからまれるなんてな。
「もういい判った。一旦出よう皆」
「……いいのかよ? 時間もないだろ?」
「そうだけど、ここで足止めされてる時間のほうが勿体無い」
とりあえず一旦出て、時間を見計らってまた来たほうがいいだろう。流石にこんなのが何人もいるとは思いたくないしな。
だから俺たちはギルドの出入り口に向かおうとするが。
「待てこの野郎! このまま黙って帰るつもりじゃないだろうな?」
「は? いや帰るつもりだけど? お前らがそう言ったんだろ?」
「馬鹿かこの野郎! テメェらみたいなカスがギルドに入った時点で迷惑料が発生してんだよクソ野郎!」
「さっさと身ぐるみ全部置いてけコラ!」
「素材ってのも全部だ死なすぞ! 殺すぞ!」
「そういうことだこの野郎。あとそっちの女もだ馬鹿野郎!」
「……はぁ?」
思わずそんな声が漏れてしまった。何いってんだこいつら? それじゃあやってること盗賊と変わらないじゃないか。
「さっさとしろこの野郎!」
「断る。そこまでする謂れがない。もうわかったからどけろ」
「この野郎……」
流石にここまで言われて下手に出てやる必要はない。俺の声もとがる。ドヴァンも目つきを尖らせて既に臨戦態勢だ。ジェゴブもだな。ヘアの髪もざわついてる。
とはいえ、騒ぎを大きくしたくない気持ちがあるのも事実だ。こいつらがこれ以上馬鹿なことをしてこなければいいんだが。
「ふざけんなよこのやろう!」
「やってやんぞゴラァ!」
「死なす! 殺す!」
「おいおい本気かよ……」
3人が腰の獲物を抜いた。これでもう後戻り出来ないだろ。浅はかにも程が有る。そっちから先に武器を抜いてきて殺意を顕にしてきたのだから、当然俺たちだって黙ってみているわけにいかない。
「死ねやこらぁ!」
しかも切りかかってきた。マジかよ……はぁ仕方ない。とにかくここはさっさとおとなしく――
「ちょっと待ったぁああぁああ!」
すると、俺の耳に届く絶叫。ギルド全体に響くかのような大声だ。
「チッ、サウザンドか馬鹿野郎」
「ウゼェやろうがきたぜコラ」
「死ね、殺す、邪魔だ」
俺たちのいざこざに乱入してきたのはサウザンドと呼ばれた男だった。年齢は、俺より少し上かな? どうやら3人の冒険者は彼を嫌ってるようだが。
「お前ら! ギルドで武器を抜くとはどういうつもりだ? 冒険者ギルドの規則を忘れたわけじゃないだろう!」
そして、彼は3人をその灼熱のような赤い瞳で睨めつけながら怒鳴った。金色の髪はつんつんとしていて尖ったイメージで額当てをしてるな。それにしても全体的に尖った雰囲気のある男だな。
「うるせぇ馬鹿野郎! こいつが紙装甲とかいう最弱野郎の分際で天下の英雄豪傑に喧嘩を売ってきたのが悪いんだこの野郎!」
「何! そうなのか!?」
「あ、いえ。俺はただこのギルドで素材の買い取りの相談に乗って欲しいなと思っただけなんですが」
「そしたらこの連中が絡んできたんだよ」
「何! 本当か!」
「う、嘘だこら! そいつらが勝手に言ってるだけだ!」
「本当です。そして私たちが一旦ギルドを出ようとしたら身ぐるみ一式置いていけと……」
「適当なこといってんじゃねぇぞ! 殺すぞ! 犯すぞ!」
「言動もこの有様で、女も置いていけなどと言ってきて困っていたでゴブります」
「だ、騙されるなよ! この野郎! こいつらが適当なこと言ってんだよ馬鹿野郎!」
「……いや、俺は彼らを信じる! 悪いのはお前らだ!」
おお! このサウザンド、恐らくこの英雄豪傑の冒険者なんだろうけど、話が判るぞ!
「て、テメェなんだとこの野郎! 俺らが悪いって根拠はなんだ馬鹿野郎!」
「そんなもの決まってる。俺の勘だーーーーー!」
勘かよ!
「か、勘だとこの野郎! ふざけやがってクソ野郎!」
「おいモヒカーン、この野郎やっちまおうぜコラ!」
「大体くそ使えないスキル持ちの癖にCランクとか気に食わなかったんだ死ね! 殺す!」
すると3人の矛先がサウザンドという冒険者に向けられ、武器を持って囲みだした。こいつら、節操なさすぎだろ……。
「うん? 何でお前が横に並ぶ!」
「そりゃ、もとを正せば俺たちが引き起こしたことだし、こんなことでお前に怪我されたら寝覚めが悪い」
「ま、それは俺も一緒だな」
「気持ちは皆一緒のようでゴブりますね」
「どこまで出来るかわかりませんが……」
「へへ、お前たちいいヤツだな。ますます俺の勘が正しいと確信したぜ!」
3人の冒険者が俺たちを睨めつけジリジリと近づいてくる。怒りの形相だが、そこでふとその顔色が変わったわけだが……。
「やれやれ全くこれは一体何の騒ぎだ?」
「「「し、支部長!」」」
新連載はじめました。
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