第72話 借金
「いやいや! ちょっとシルビア落ち着いて!」
「え?」
突然取り乱し、とんでもないことを口走るシルビアに俺は待ったをかける。
シルビアの顔には不安の色が明らかに滲んでいた。
「ギルドを守りたい気持ちは判るけど、そんな簡単になんでもとか言ったら駄目だって」
「そうですよよシルビアさん! もっと自分を大事にしないと」
「全くだ、あんた見た目がいいんだからなんでもとか言ったら何されるか判ったもんじゃないぜ?」
「すでに2人ほどゲスな顔をしているでゴブりますしね」
「ぐっ」
「チッ」
その2人ほどが喉をつまらせた。シルビアを舐め回すような視線で見ていたからな。こんな連中に何でもなんて言ったらそれこそ何されるかわかったもんじゃない。
「ふん、なんだ何でもするんじゃないのか? ま、それを言ったところでお前に与えられる選択肢がかわるわけじゃないがな」
「……その選択肢ってのは?」
「今すぐ借金を返すか、このギルドをとっとと明け渡すかだ」
冷たい目で選択肢を迫る。温情のかけらも感じさせない目だ。
「借金を返すという話だが、いくらなんでもいっぺんには無理だ。なんとかならないのか?」
「こっちも商売だからな。せめて利息分だけでも支払ってもらわなきゃ面子がたたねぇんだよ」
「うん? 利息分? それを支払えばいいのか?」
「そりゃ金貸しってのはそういうもんだからな。利息分さえ支払ってくれりゃとりあえず今月は待つがな」
「なら利息分はいくらなんだ! 教えてくれ」
「50万オロだ」
「ご……」
俺は絶句した。500万よりは確かにマシだがそれでも大金であることに変わりない。
「ふざけんなよ、500万に対し利息50万……高すぎだろ!」
「おいおい勘弁してくれ。こっちは半年も催促無しで待ってやったんだ。もし半年前に支払っていればもっと安く済んでいたのだぞ?」
「う、うぅ……」
シルビアが苦しそうに呻いた。半年前ならもっと安かったということは、本来の借入額はここまでの金額ではなかったということだろう。
「……ご主人様はシルビア様が大切にされているこの挑戦者の心臓を守りたいのでゴブりますね?」
「それは勿論だ。このギルドなら! と心に決めてやってきたわけだし、それをこんな形で失いたくはない」
「ならば、なんとかするしかないでゴブりますね」
「え?」
ジェゴブの目が変わった。何かを決意したように前に出て、ラッドリと対峙する。
「……ラッドリ殿と申されたでゴブりますね?」
「そうだが、さっきから思ってたが妙な見た目な奴だな」
「よくいわれるでゴブります。それはそれとして、とにかく50万オロ支払えばいいのでゴブりましょう?」
「あぁ、利息分だけでも支払ってくれるなら文句はねぇが、用意できるのか?」
「あてはあるでゴブります」
「え? 本当かジェゴブ?」
「はいご主人様。ただし、本来私達が手にする資金を放出する必要がありますが」
本来手にする資金? それは……。
「あ! なるほどその手があったか!」
「うん? ドヴァンもなにかわかったのか?」
「おいおい、カルタこそ忘れたのかよ? この街にくるまでに色々あっただろ?」
色々……あ!
「私もわかりましたアレですね!」
「そうか確かにアレなら!」
「ま、待ってください! そんな私のために皆さんにそんな負担を強いるわけにはいきません!」
俺も思い出したが、慌ててシルビアが止めに入った。だけど――
「シルビア、これは別に君のためじゃない。このギルドの為だ。それにここで出費してもギルドさえ無事なら後からいくらでも取り返せる。俺はそう信じてる」
「か、カルタさん……」
シルビアが涙ぐむ。全く涙もろいなシルビアは。でも、これは事実だ。ここで支払ってもギルドが残っていればあとで依頼をこなして取り戻せばいい。
「盛り上がっているところ悪いが、その50万オロはいますぐ払えるのかい?」
「今すぐは無理でゴブります」
「なら話にならない。こっちは散々待ってやったんだ。これ以上待ってやれるほどお人好しじゃない」
「確かにすぐには無理でゴブリますが、少し時間を貰えれば用意できるでゴブります。逆に言えば半年も待ってくれたならあと少しぐらい待ってくれてもよろしいのでは? 金貸しであるならば多少待ってでも利息分が徴収出来るなら損はないと思うでゴブりますよ」
「…………」
顎に手を添え、ジェゴブを見据える。何か考えているようだが。
「……いいだろう。なら3日待ってやる。そのかわり、もし3日後に50万オロ用意できなければこのギルドを明け渡す、それでいいな?」
「む、それは……」
ジェゴブが答えあぐねる。流石にギルドを明け渡すとなると勝手な判断では答えられないが……。
「シルビア、俺たちを信じてこの条件を受け入れてもらっていいかな?」
「え! そんな! そこまでしてもらうわけには」
「さっきも言ったがお金のことはとりあえず気にしなくていい。どうしてもというなら一旦俺たちが立て替えたという認識でもいい。その分はあとから余裕が出来たら返してくれればいい。勿論俺たちは利息なんて求めない。だから信じてもらっていいかな?」
「カルタさん、皆さん……うぅ、はい、あ、ありがとうございます」
シルビアの表情が崩れた。思いが溢れ出してるようだが、とにかく許可は貰った。
「わかった。それでいい、3日後に利息分を支払うしそれが出来なかったらこのギルドは明け渡す」
「……確かに聞いたぞ。お前らもわかったな?」
「えぇ、しっかりこの耳で聞きましたぜ」
「だが、馬鹿な奴らだ。たかが3日でこんなオンボロギルドが50万オロも用意できるかよ」
「ふん、まぁこっちも商売だ。金を用意してくれるならそれでかまわないがな。とにかく、3日後だ。あとで知らぬ存ぜぬを通しても俺たち全員が聞いているんだからな。忘れるなよ」
そして金貸し達はようやくギルドから出ていってくれた――
◇◆◇
「そのとおりです。予定通り3日猶予は与えましたが、妙な奴らがいて、はい、用意できるとそう言っているのです」
『それは面倒です。なんとかなりそうですか?』
「……わかりました。こっちで動いてみるとしましょう」
魔道具による通信を切るラッドリ。誰かと話していたようだが――
「お前らあいつらの行動をしっかり監視しておけ。奴らの金の出処も探り、なんとしてでも阻止しろよ――」
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