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最弱スキル紙装甲のせいで仲間からも村からも追放された、が、それは誤字っ子女神のせいだった!~誤字を正して最強へと駆け上がる~  作者: 空地 大乃
第四章 シルバークラウンの冒険者編

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第69話 ここに決めた!



「全く、少しは考えてから行動するのだ」

「あれ? 俺何かまた怒られてる?」

 

 裁判が終わり、法廷から出てきた俺たちのことを何故かあの四人が待っていた。


 そして何か仮面のSランク冒険者にくどくど言われてしまっている。


「もう判ったよ。でも、それでも、納得出来なかったんだ、結局あいつは死んでしまったけどな……」


 ソイの最後の姿が脳裏によぎった。わざわざあいつをゲネバルの手から助けるために出たのに、結局、無意味なことだったのだろうか……。


「その顔を見るに、どうせ貴様のことだからやったことが無駄だったのか悩んでいるのだろう?」

「え?」

 

 確かにそのとおりだ。仮面をつけっぱなしの彼女だが、心まで見透かされたような気持ちになる。やはりSランクは伊達じゃないのか?


「あのソイという男は、あのままいけばきっと裁判でも死罪がいいわたされていただろう。本来なら重めの判決だが、ゲネバルという男はしたたかそうであるからな。そのあたり手を回すのも忘れていないだろう」

「手を回すって、裁判の連中にってことか?」


 ドヴァンが眉をひそめた。確かに裁判でそんなことがまかり通るのか? といった気持ちだが。


「ま、ありえない話じゃないわね。教会といってもそこまで公平な組織じゃないし、お布施をちらつかせれば多少の融通はきいてくれるわ」

「そ、そんな……でも騎士団が納得するんですか?」

「するだろう。罪がなくなるならともかく、罪が重くなる分には問題ないからな」


 スリーメンのふたりが仮面の女の意見に同調した。そんなものなんだな……。


「まぁとにかくじゃ、そういう意味ではどちらにしても死という結果にかわりはなかったといえる。だが、過程は大きく異なるのだ」

「過程?」

「そうだ。あの時、ソイは自ら死を覚悟してお主を庇った。そしてその結果、確かにあいつの心は変わった。諦めもなく、確かな意志が宿った。そう、少なくともあの時あやつは絶望ではなく、希望を感じていた筈なのだ」

「いや、希望って、俺はあいつを救えなかったんだぞ?」

「そうではない。全く、そんなことでは死んだあやつが報われぬぞ。よいか、あの男が希望を見出したのはお前だカルタ」


 その柔らかい指が俺の鼻先を押し込んだ。Sランクでも、指は随分とぷにぷにしてるんだな。


 でも、俺、俺に希望?


「あのソイが、死ぬ直前、ゲネバルに言っていた事を思い出すことだ。尤も、あの男はそう簡単にはいかぬと思うがな。だが、お前たちは納得していないのだろう?」


 納得……そうだ。こんな結果納得がいくわけない。ソイが言っていたこと……そういえばあいつはゲネバルに言っていたな。

 

 いずれ俺が、あいつの喉笛に噛み付くと。

 全く、俺は犬か何かかよ……でも、そういえば結局俺は、あいつに一発かますことが出来なかった。


 今の俺では、あのゲネバルに届く拳はもちあわせていない。それに一旦裁判が終了した以上、そう簡単に行く話ではなくなった。


 だけど、そうだ。これで終わりじゃない。何よりあんな男が冒険者であることも、ギルドのマスターであることも納得できるわけがない。


「お互いまだまだってことか。俺も、悔しいが届かなかった。だけど、確かにこれで終わりじゃないよな」

「私も、守れなかったのは悲しいです。でも、これを託されました」


 そう言ってヘアがドレスから2つの石を取り出した。青白く輝く石で、元々はンコビッチの目、正確には魔力を蓄えておく器官だった代物だ。


「これを託してくれたあの人の思いに答えるためにも……私はもっと命を守れる力が欲しいです――」

「私もとても今回は役に立てたとは言えないでゴブりますな。不甲斐ないでゴブります。ご主人様の期待に答えられるよう精進しなけれればいけません」


 憂いの感じられる表情でヘアが呟く。そしてドヴァンもジェゴブも悔しそうだ。


「確かに俺たちはまだまだ未熟だ。でも、だからといってこんなところで立ち止まっていられないよな」

「それには同感だ。それに、俺にはまだやるべきことがあるしな」


 ドヴァンの目に鋭い光。そうだ、確かドヴァンの本来の目的は盗賊に連れ去られた娘をみつけることだったんだな。


「ま、それぞれ思うところもあるだろう。だが、その目なら大丈夫そうなのだ。ふむ、ならばだ! 裁判も終わったのだしいつまでも暗い顔してないでこれから飯にでもいくのだ!」

「へ? ご、ご飯?」

「そうなのだ。丁度夕食時であるしな。せっかくだから私は人の作る飯をもっと楽しみたいのだ!」

「はて、人の作る食事以外に何かあるでにゃざるか?」

「え? あ、いや、シルバークラウンの人が作る飯ということなのだ! 何せこれだけの都であれば、他ではありつけない美味い飯にありつけるのだからな!」


 俺もおかしな言い回しだと思ったけど、そういうことか。確かにシルバークラウンの料理は美味しいからな。


 それにしても……何気に会話に参加してきていたけど、やっぱ犬、コボルトだよなぁこの人。人? まぁジェゴブのこともあるし、あのオークみたいのもいるから珍しいことじゃないのか。そうか?


「にゃ~」

「うわぁ~その子、可愛らしいですよね」

「うむ、拙者の仲間のサスケでにゃざる」

「へぇサスケちゃんって言うんだ。可愛い~」

「ふ~ん、サスケか。変わった名前ね」

「ふむ、サスケというからにはこやつ、オスであるな!」

「メスでにゃざるよ」

「……」


 仮面の女がずばり! と自陣満々に言ってのけたけど見事に外れてた。

 う~ん、しかしなんだろな。Sランクだし凄いんだろうけどそこはかとなく感じられるポンコツ臭は。


「飯なら俺たちの行きつけがある。そこでどうだ?」

「うむ、旨いのであろうな?」

「かなり美味しいわよ。尤も元々はそこのイヌネコのお気に入りなんだけどね」

「アイシャ殿、いつもいってるでにゃざるが、拙者イヌネコではなくイヌヤマでにゃざるよ」

「いいのよ。愛称みたいなもんだし、あんた犬なのに猫とか紛らわしいんだから」

「全く、お前は本当に遠慮がないな」


 そんなことをいいつつも互いに笑顔だ。かなり気心が知れてる間柄ってことかもしれない。


 そして彼らの行きつけの店に向かう。看板には『おそまつな柤々丸亭』と記されている。


「拙者の祖国の料理が食べられるのはここだけなのでにゃざる」


 ということはブシドスキナの料理ってことか。内装はかなり変わっていて、ネコスケ曰く、椅子ではなく畳という床に直接座るらしい。

 ネコスケは変わった座り方をしていて正座というものらしいが、真似してみたら足が痺れてキツかった。ネコスケは習慣でやってるだけだから俺たちは別に崩して構わないらしい。


 でもヘアは正座があまり苦ではないらしくそのまま続けていた。アイシャは何か凄いことになってた。

 あの、その崩し方だと下着が見えそうなんですが……トリスに注意されていたけどあまり気にしてないらしい。綺麗なのに人の目には無頓着な女性なんだな。


「拙者のおすすめは寿司とすき焼きでにゃざる」

「どっちも聞いたこと無いな」

「寿司はなんか白いのに魚がどさって乗ってる料理ね。すき焼きは肉と野菜のごった煮よ」

「アイシャ、説明が適当すぎるだろ……」


 その後はトリスが説明してくれたが、とりあえず頼んでみようということになった。


 説明にあった米は、ブシドスキナから入ってきた稲を利用して採れる穀物だ。俺も話で聞いたことがあっただけで、実物を見るのも食べるのも初めてだけどな。


「この米に乗ってる魚は生なのか?」

「残念ながら、祖国で食べたなら生でにゃざるが、この店は漬けになるでにゃざる。ですが、調味料には拙者の国から輸入されている醤油が使われているでにゃざるよ。この皿に注がれているのも醤油でにゃざる」

 

 寿司はこれに付けて食べるらしい。すき焼きには黄色い卵ソースが添えられていたが、これも彼の祖国では生卵にからめて食べるそうだ。


 生魚に生卵ってお腹壊さないのだろうか?


「イヌネコの国では生卵をこの白いのにぶっかけて食べるんだって。ちょっと卑猥よね」

「お前の言っている意味がわからんぞ」

 

 トリスに突っ込まれるアイシャである。確かに卑猥って、何がなのか。


「ふん、お前たちはわかっておらんのう。卵かけご飯はいいものなのだ。新鮮な卵と米との絶妙なバランス。ドロッとした白身と黄身が絡みあい、至高なハーモニーとなって口の中に溢れ出すのだ」


 そういいながらも寿司をパクパクと食べていく仮面女。いや、仮面したままなのになんで寿司が食べれるんだこの人?


「そういえば、お礼がまだでしたね。本当に今日はありがとうございました」

 

 俺は改めて四人にお礼を述べた。この怪しすぎる仮面の女にも結局助けられてるしな。


「お礼を言われるまでもない。俺たちだって仕事みたいなもんだしな」

「仕事ですか?」

「そうそう。支部長に頼まれていたのよ。何かあったときは止めるようにってね」

「しかし、到着が遅れてしまったのは申し訳なかったでにゃざる」

「全く。だから私が急げと言ったのに」

「「「いや、道間違えたのあんただから!」」」

「だ、誰にだって間違いはあるのだ!」

「にゃ~ん」

 

 サスケが呆れたように鳴いた。あ~やっぱりこの人、どこか駄目な人の匂いがする。


「そ、そうだ! きっとあれなのだ。案内板に誤字があったのだ! そうに違いないのだ!」


 いや、ないだろ。俺たちも案内板みて行ったし。大体どっかの誤字っ子女神じゃあるまいし、そんな間違いを犯すわけがない。


「でも、話には聞いていたけど本当、中々無茶するねあんた達」

「話というと、支部長のホフマンさんからですか?」

「それもあるが、エリートからも聞いていてな」


 エリートというと、あの時リャク達の御者をしていた男性か。やっぱり冒険者だったんだな。

 そして話を聞くにどうやらこのトリスやアイシャとパーティーを組んでるらしい。

 

 スリーメンというのも三人を含めての名前なんだとか。


「あのときの御者か。何か雰囲気違うなとは思っていたけどな」

「確かに強者の気配がしていたでゴブります」

「エリートさんは今回は一緒ではないんですね」


 ヘアの質問に、そうなのよ、とアイシャが反応し。


「あの馬鹿、調子にのってスキルをあんなことで使うから。あいつのスキル一度使うとどっと疲れが出て暫く動けなくなるってのに」

「ま、とは言えここまで長くならないから、それを口実に休んだのだろう。物臭なところがあるからな」

「ちなみに拙者はエリート殿の代わりに指名されたでにゃざる」

「にゃ~」


 そうだったんだな。しかし、このネコスケは色々気になることが多すぎる。

 でも、ちょっと聞きづらいな。


「そっか、ところでお前、なんでコボルトが喋ってんだ?」


 おいドヴァン! 


「聞きにくいことあっさり聞いてくれちゃったよこの人!」

「なんだカルタは気にならないのか?」


 めっちゃ気になりますとも!


「よく言われるのでにゃざるが、拙者コボルトではないでにゃざるよ」

「ほぉ、そうなのでゴブりますか」

「いや、うちのイヌネコが気になるのはわかるけど、そっちの彼もわりと不思議生物じゃないかしら?」


 それを言われてしまうと、確かにこっちはゴブリンだ。ジェントルだけど。


「拙者、祖国では犬面人と呼ばれていたでにゃざる」

「犬面人ですか。変わった名前ですね」

「それは種族なのか?」

「種族というか妖怪でにゃざる」

「そもそもその妖怪がわからないな……」

「妖怪はこっちでいう魔物でにゃざるよ」

「なるほどでゴブリます」

「…………」


 いや、それってつまりこっちでいうコボルトってことじゃないのかよ!


「なるほどな。しかし、この酒ってのは旨いな」

「そうでにゃざろう。米を発酵させて酒造されている祖国自慢の代物でにゃざる」

 

 結局ネコスケについて振ったドヴァンの意識が完全に酒に向いたからその話は終わった。


「ところで、あいつらどうなったかわかりますか?」

「あいつら、というと今回の件にも絡んだリャク達のことか」

「はい」


 別にわざわざ聞くまでもなかったんだろうけどな。なんとなく口に出てしまった。


「処遇としてはパーティーで十日間の謹慎。それと話にもあったエリートが暫く指導員としてつくことになった。だから暫くはおとなしくしてると思う」

「そうですか」

「不満かカルタ?」


 仮面の女が聞いてくる。不満というのは処罰についてだろうが。


「それは俺が口出すことじゃないさ」


 なんとなく聞いては見たけど、罰についてとやかくいうつもりはない。


「ま、でもリャクは暫く大怪我で動けないだろうけどね」

「大怪我?」

「あぁ、まぁ色々あってな。リャクは暫く活動自体が難しいだろう。何か伝えることはあるか?」

「特に無いですね」


 冒険者家業を続けていれば怪我することもあるだろう。謹慎なのになんでそんなことになってるかは知らないが、特に何も思うところはない。


 それからは夕食を食べながら冒険者についてなど色々と経験談などを聞かせてもらった。


 そして食事も終わり、店を出て別れの挨拶を済ました時。


「ところで、お主達今後はどうするか決めておるのか?」

「今後?」

「ギルドのことだろう」

「あ、それちょっと気になるわね。貴方達、冒険者を目指してるならギルドに当然加入するんでしょ? もし決まってないならうちに来たら?」


 アイシャがそんなことを提案してきた。本来ならこんな光栄なことはない。まだこの街に来たばかりの頃に話を貰っていたら二つ返事でオッケーしたかもしれない。


 でも――


「ごめんなさい。実は俺たち、もうどこに行くか決めてるんです」

「ま、確かにあそこしかないしな」

「はい、私もそれしかないと思います」

「そうでゴブりますな。馬車も大切に扱ってくれましたし」

「ふ~ん、ちょっと残念ね。でも、きっと貴方達ならどこにいっても上手くやれると思うわ」

「頑張れよ」

「応援しているでにゃざる」

「にゃ~」 

 

 英雄豪傑のメンバーにそう言ってもらえるなら光栄だな。


「その様子だと、恐らくあそこに決めたのだろうな。だが、正直楽な道ではないと思うぞ。本当に良いのか?」


 仮面の彼女だけは、苦言混じりの忠告だった。だけど。


「冒険者の道に、楽な道なんかないだろ?」

「……ふふ、なるほど。確かにそうであったな。判った、頑張れよ」

 

 こうして俺たちは彼らと分かれ、そしてその日は宿に戻り一夜を明かした後、明朝、俺たちはそこへと向かった。


 そう、『挑戦者の心臓(チャレンジャーハート)』へ。


「え? え? 皆さん本気なんですか?」

「本気も本気さ。俺たちをこのギルドへ入れて欲しい」

「ま、いろいろ世話になったしな」

「はい! 私、オリビアさんと一緒に仕事がしたいです!」

「馬のシルベスタもここならよろこぶでゴブります」


 そう、俺たちの出発点は、もうここしか考えられなかった。

 見た目には決して大きなギルドではないけど、そんなことは問題ではない。


 そして、俺の、俺たちの、冒険者としての1ページは今、ここからはじま――


「あの、お気持ちは嬉しいですが、その、ご、ごめんなさい!」

「「「「ええええぇえええぇえええええぇえええぇええええぇ!?」」」」


 はじま……らなかった――て、嘘だろ!

これにて第四章の本編終了です。

さぁ無事に冒険者に、なれない!?第五章は冒険者編になります!

間に1話挟んでの新章となると思います。


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