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第68話 裁判の終わり

「全くお前は、少しは場をわきまえ状況を見るのじゃ! 大体それはこんなところで堂々と見せていい力ではないじゃろ!」


 何か、唐突に説教が始まった。声からすると女か? スラリとした足、キュッとしたくびれのある腰には長剣。胸当てをしているけど、装備越しにも判るぐらい大きな双丘。それにふわりとした背中まである金髪。だけど、なぜか顔には銀色の仮面を付けていた。


 それがすごく訝しさを助長している。そもそもなんで俺はこんな突如現れた妙ちくりんな女に怒られなきゃいけないのか。


「……いや、そもそもあんた誰だよ」


 当然の疑問が口から出る。殴られた頬が痛い。いや、結果的にはゲネバルのカウンターを喰らわずにすんだんだけど……どうも釈然としない。


「誰とは冷たい奴なのじゃ! お前、私のことを……ことを――」

「ことを?」


 何だ? 俺のこと知ってるのか? 正直記憶にないんだが……。


「私のことを、どなたと心得る!」

「は?」


 いや、突然そんなことを言われても……。


「こ、ここにおわす私こそが! な、謎のSランク仮面冒険者であられるぞ!」

「いや、自分で言うなよ」


 こんな堂々と出てきておいて謎もへったくれもあるかよ。


「おいおい、何か勝手に話を進めているが、私のことを忘れているのではないだろうな?」

 

 仮面の女冒険者の後ろからゲネバルが声を上げた。結局俺は、こいつに一発入れることが出来なかった……こいつはかなりの数のスキルを使いこなしている。


 一体何のスキルを持っているか判らないと、ブレイブハートを使ってからでも厳しいのか……それに何とか俺は平静を装うとしてはいるが、ブレイブハートの消費はやはり大きい。


 くそ、何者かは知らないが、この仮面の女のおかげで助かったのは確かなようだ。


「別に忘れてはいないのじゃ」

「あんた……若そうなのに妙な口調なんだな」


 何かある幼女を思い浮かべてしまいそうだ。まぁ見た目が全然違うけど。


「は? な、何を言っているのだ! のだというのが何が可笑しいのか? おかしくないであろう!」

「え? のだ? いや、確かにのじゃって……」

「ば、馬鹿を言うななのじ、なのだ! 私は最初からなのだと言っているなのだ!」


 何かそれはそれでおかしな口調な気もするんだが……。


「いい加減にしろ。私が聞きたいのは、突然横槍を入れてきてどういうつもりだ? ということだ」

「……それは私のセリフなのだ。ここは神聖なる法廷の場であろう? なのにこのようないざこざを起こし、まだ暴れたりないというのか?」


 な、なんだ? 仮面の奥から感じられる圧が、急に膨れ上がった気がするぞ。


「……一体どの立場から物を言っているのか判らないが、喧嘩を吹っかけてきたのはむしろその男だぞ。私は降りかかる火の粉を振り払おうとしたに過ぎん。しかも、ソイが死んだ後も、懲りずに殴りかかってきたのはそこのカルタという男だ。やり返されても文句はいえないだろう」

「その点に関しては納得してやろう。だからこそ、この私が殴ってやったのだ。それでしっかり制裁は与えられた。それで良いだろう?」


 ……俺が言うのもなんだが中々無茶な話だ。しかし、冷静になってみれば俺のやったことも無茶が過ぎたか……。


「あっはっは! 面白いな貴様。ならば私の考えを述べよう……いいわけがないだろうが。お前は何様のつもりだ――」


 ギロリと仮面の女冒険者を睨めつけるゲネバル。猛獣の群れに囲まれたかのような、凄まじい殺気を感じたが――


「黙れ。威圧するつもりなら相手を見極めろ小童が。それが出来るほどのうつけと言うなら私は容赦はせんぞ――」


 仮面の女も負けてなかった。こっちはこっちでドラゴンでも裸足で逃げ出しそうなとんでもない圧力だ。そして膨れ上がった互いの圧と圧がぶつかり合い、突風が吹き荒れた。比喩などではなく、本当に起きたのだ。思わず腕で顔を庇ってしまう。


 睨み合う二人――いや、女は仮面だが、確かにゲネバルと顔を合わせ、視線と視線がぶつかり合っているのを感じた。


「そこまでだ、ゲネバル。少しは場をわきまえろ。謎のSランクさんも落ち着いてくれ」


 すると、何かまた弓持ちの何者かが横から口を挟んできた。


「おい、こっちの話がまだ終わってないだろ!」


 するとドヴァンの声が彼の後ろから届く。何やら不機嫌そうだ。


「とっくに終わってる。大体女の方はもう引き上げてるだろう」

「は? な、セクレタお前! まだ決着はついてないだろう!」

「呼び捨てにしないでください。差別的ですね。そんな男にこれ以上感けているほど暇ではないので。それでもやめないというなら、ここに差別的な婦女暴行犯がいうと訴えるだけです」

「な、く、なんて女だ畜生……」


 ドヴァンが悔しそうにしてるな……。


「――仕方ないわね。英雄豪傑を相手にするつもりもないし、これ以上やると逆に面倒だもの、だけど、ンコビッチはマスターに手を出したんだから、当然の報いよ。忘れないでよね」

「……最終的な判断は裁判官が下すと思うけど、ま、どうせそこまで想定しての行動なんでしょうけどね」

「ふふっ、さて、貴方の髪、しっかり覚えたわ。良かったらまたこんど刈ってあげるわよ?」

「け、結構です!」

 

 ヘアの方では、炎のような赤い髪をした女がいつの間にか加わっていた。何か胸とか足とか際どいローブを着た女性だ。杖持ってるし魔術師かな? 

 

 その乱入もあって、あの鋏を生やすシザーという奴はセクレタと同じようにその場を離れ、ヘアが安堵の表情を見せていた。


「ぐふふ、妙な犬ころだな。犬なのににゃざるとか全くどいつもこいつもキャラ付け必死すぎ。大草原必死」

「何言ってるのでにゃざるか?」

「……一つ聞くでゴブりますが、もしかして貴方も英雄豪傑のメンバーでゴブりますか?」

「いかにも拙者、英雄豪傑のBランク冒険者でにゃざる」

「にゃ~」

「ぐふふ、なるほど。英雄豪傑が出てくるなんて、本当なら美味しい状況だがぁ、どうやらセクレタやシザーも引いたようだし、仕方ないから俺も引き上げておくとしよう。あいつは狩ることが出来たしな。ぐふふ。だけどそっちのゴブリン、覚えておけ、アイル・ビー・バックだ」

「あいる、びー?」


 ジェゴブ側では、なぜかオークとコボルトまで加わって妙な光景と化していた。話を聞く限り、あのコボルトは英雄豪傑のメンバーなのか? それにしても、にゃざるって……何か黒猫が肩に乗ってるし。


「……ふむ、英雄豪傑のスリーメンに、もうひとりは、誰か知らんが、全員ホフマンの置き土産といったところか」


 すると、ゲネバルが何か納得したように頷く。スリーメン? とりあえずあそこにいるのは全員、英雄豪傑のメンバーなのか……。


「つまり、お前も英雄豪傑所属ということか?」

「残念だが外れなのだ。私は英雄豪傑とは関係がない。但し、ホフマンとはちょっとした馴染みでな。何かあった時は止めるよう言われていたのだ……少し迷ってしまって遅くなったが」


 そうだったのか……そういえばホフマンの姿はないな。しかし迷ったってあんた……。


「とにかく、これ以上揉め事を起こすようなら私もSランク冒険者として動かざるを得なくなるぞ。お前にとって面倒なことにしかならないと思うがな?」

「お前がSランクという証拠は?」

「それは我々スリーメンが証人だ」

「ふむ、そういうことか。カカッ、まぁいい。確かにあの四人も死亡した以上、これ以上この場で争うこともないだろう」

 

 そこまで言った後、ゲネバルは裁判官に向き直り。


「いろいろ騒がせてしまった。それもこれもうちの元メンバーが暴走行為に至ってしまった為だが、とはいえ、騎士団長。今回は私とうちの冒険者が食い止めた為、事なきを得たが、よりにもよって枷が外れるなど、少々管理が杜撰すぎるのではないか?」

「む、むぅ……」


 どうやらゲネバルはここで一旦話を終わらせる気なようだ。こうなってしまったら俺も諦めるほか無い……これ以上やると俺が罪に問われる可能性がある。


 とは言え、ここまでのことをしておいて、ゲネバルは本当に何のお咎めもないのか? と思ったが、まさか騎士団長側に責任を問うとは……。


 しかし、団長も痛いところをつかれたといったところなのか、唸る一方で何も言い返せていない。

 た、確かにあの枷もあっさり外れ過ぎと思ったけど、もう少し何か言い返せないものなのか?


「まぁ途中、私の仲間にも随分と筋違いな真似をしてくれた者もいたようだが、今回は不問にしておいてやろう。私は心が広いからな。だが覚えておけ、次は無いぞ」

「……俺は、絶対に忘れないからな」


 にやりと、獰猛な笑みを浮かべた後、ゲネバルはあの三人を引き連れて法廷を後にした。


 その後は、あの四人に関しては死亡ということで裁判は終了し、結局残った盗賊の件だけが進められた。ちなみにあの盗賊は強制労働おくりだそうだ。


 しかし、結局裁判は妙なしこりだけを残し、終わってしまった――

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