第62話 気に入らない
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セクレタ――グンジ、シザー。それが今、法廷に姿を見せた三人の名前らしい。
今法廷には、侵食する大軍のマスターであるゲネバルといい、一癖も二癖もありそうな連中が揃っている。
「ぐふふっ、マスター、俺たちも一人ずつ貰っていいですよね?」
「おいおい、それではまるで我々が仕掛けてるようではないか。これはあくまでギルドのルールを破り、私の命を狙ってきたこの四人に対する防衛行為だ。尤も、これだけのことをしたのだ、反撃にあって殺されたとしても文句は言えないが。まぁ加減ぐらいはしてやれ」
「承知いたしましたマスター。加減して始末いたします」
「チョキラッ! セクレタちゃん、それはもう完全にやる気ってことじゃない?」
「……ちゃん付けはやめて欲しいですね」
「ぐふふ、さて、じゃあ俺はそっちの女を頂くかな」
「チョキラッ! グンジはあっちの小さいのをやりなさい。挺があの女をやるわ。フフッ、あの耳眼というのを一度刈ってみたかったのよ~」
「あ、おい! 糞! 俺は余り物かよ……」
「くそ、揃いも揃って舐めやがって!」
「そういうなソイ。お前の相手はこの私がしてやろう。光栄に思えよ」
「ふざけるな!」
ソイが高速で腕を前後させた。刃のついた槍がゲネバルへ続けざまに襲いかかる。俺も苦労させられた幻槍流の槍技。
「抵当権の行使――【アイアンウォール】」
――ズガガガガガガガッ!
だが、耳に残るのは金属質の壁を打ったような音のみ。いや、実際そのとおりだった。ゲネバルが再び紙を取り出し、かと思えば正面に鋼鉄の壁が生まれ、ソイの攻撃を全て受け止めてしまった。
「抵当権の行使――【倍力】」
更にゲネバルは紙を取り出し、何かを発動。その全身が怒張し、振るった拳は自らが生み出した鉄の壁を破壊しながらソイに襲いかかった。
「ち、畜生が!」
槍を回転させ、身を守ろうとしたが、拳圧に耐えきれず滑るように後方へ後退りしてしまう。
「この俺様が! 人間の女などに!」
「差別主義ですね。正直嫌いです、死んでください」
ゲネバルから俺の足で十歩分ほど離れた場所では、ギリアンと眼鏡にスーツといった出で立ちの女が戦っていた。
確かセクレタだったな。腰に妙な形の剣を吊るしてて、足にはハイヒールという村では見たことのなかった(都市では流行ってるらしい)靴を履いている。
あれすごく動きにくそうなんだけど、あの女はまるで自分の足の一部のようにはきこなしていた。
そして足音も一切立てず動き回り、ギリアンの攻撃に刃を合わせ軌道をそらしていた。
しかもあの女は剣を鞘から抜き、かと思えばまた戻している。その動きが恐ろしく速い。あのガリラ族のギシアンが押されっぱなしだ。
「あいつの持ってるあれ、刀か……それに抜刀術、速いな。並の剣士なら鞘から抜く間にあの女に七、八回は切られてるだろ」
「刀ですか?」
「はいお嬢、ブシドスキナで浸透してる形状の得物です。基本片刃で、特殊な製法で作られてる為か切れ味が半端なく鋭いらしいですね」
「そうでゴブりますね。しかもあの刀、恐らくブシドスキナでのみ採れるヒヒイロカネを材料に使われてると思われます」
流石にドヴァンは剣について詳しい。そしてジェゴブもそれに負けないぐらい知識が豊富だ。
それにしても刀は勿論抜刀術というのも初めて聞いたな。
しかし腕前は一流の剣の腕を持つドヴァンがうなるほどか。それは俺が見ていてもよくわかる。
「オラオラ、逃げてばかりじゃ話にならないぞ」
「ひ、ひぃいぃ!」
そこから更に離れた位置では、あのオークが妙な道具でリリパト族のパルパルを狙っている。
「ジェゴブ、なんというかしゃべるオークというのは普通にいたりするのか?」
「……いえ、聞いたことはないでゴブリますね」
ジェゴブでも知らないのか……。
「しかもあのオーク、私も知らないような武器を色々持ち合わせているようでゴブりますね。肩で担いているあの筒状のもの、小型の大砲のようですが、原理は魔法などとも違うようでゴブります」
魔法の力を利用した魔道砲というのがある。だが、それは一部の軍が所持するような代物だ。しかもあんなに小さくはない。
オークが変わっているのはそれだけじゃなかった。今度は小さな筒に握りと引き金がついた武器を取り出した。クロスボウに近い気もするが、弦や矢が見当たらない。
だが、引き金を引くと弾が連続で発射された。それは全てパルパルの足元に命中し、すっかり萎縮してしまっている。
他の三人に比べてリリパト族のパルパルは明らかに気が小さい。ジェゴブと戦った時は彼を下に見ていたのか強気だったがあのオークは元々同じ仲間だから相手の実力も知っているのかもしれない。
逆にオークはニヤニヤしながら弄ぶように奇妙な武器で攻撃を続ける。
「あれは、見ていてあまり気分の良いものではないでゴブりますな」
片眼鏡を直す所作を見せながらジェゴブが言う。確かにあいつはまるで狩りでも楽しんでるかのようだ。
「チョキラッ! こんなものいくら召喚しても挺には無駄なことよ。ほ~らほらほら!」
ンコビッチにはシザーという妙な髪をした男が向かっていた。スキルの大量召喚で一度に残りのジャックシリーズを出し切るが次々とあの鋏の餌食になっていっている。
「……私、やっぱり納得出来ません。確かにあの人達は悪いことをしました。でも!」
「――あぁ、そうだな」
ヘアの訴えに俺は頷く。そうだこんなことは俺たちが求めてる結果じゃない。
「くそ! この! 俺様が、俺様がお前なんかに!」
ギリアンがその大きな戦斧をセクレタ目掛けて振り下ろす。だが、ガキィイイン! という音が響き、今度は腕ごとギリアンの戦斧が跳ね上がった。
「マスターに背くものには死、あるのみです」
飛び上がっていた。凄まじい速度で。一瞬にしてあの巨体の頸部に達していた。
そして鞘から柄が消える。いや、抜いたのか。神装甲なしだと抜いた瞬間が判らないぐらい速い。
だが、そこに割り込む一本の剣。鋼と鋼の交わる音が周囲に広がった。
「チッ、女のわりに重いな!」
「女のわりに? 差別ですか? 許せませんね」
割り込んだのは隻腕の剣士ドヴァン。スーツ姿のセクレタとほぼ同時に着地する。
「ひ、ヒイィイイィ、ヒイィイイィイ!」
「ぐふっ、全く狩るにしてもあんなのじゃ面白みのない。そろそろ終わらせるか」
一方では人語を介するオークが、あの小型の大砲のような筒をパルパルに向け円筒形の弾を発射した。
尻から煙を吐き出しながらパルパルを追いかける。まるでスキルの追尾で発射したようだ。
発射された飛弾が迫る。間もなくパルパルを捉えるか、と思えたその時、雷が落ちそれが爆発した。
情けない声を上げながら、衝撃波でパルパルがジェゴブの背後へ飛ばされていく。
「……弱い者いじめはあまり好かないでゴブりますよ」
「へぇ、これは驚いた。まさか喋るゴブリンがいたとはなぁ。ぐふふ、もしかしてお前も転生者なのかい?」
転生者? どういうことだ? あいつを救ったジェゴブも疑問符が浮かんでるようだ。
ただ、もしかしたらそれがあいつの使用している風変わりな武器と関係しているのかも知れない。
「さぁ、その耳を刈らせて頂戴!」
「やめてください!」
次々と召喚獣を切り裂いていくシザーがンコビッチに迫る。しかし、その全身に金色の髪が巻き付いていき動きを止めた。
「貴方……どうして」
「――確かに貴方のやったことは許されることではありません。ですが、こんなやり方は間違ってます!」
狼狽するンコビッチを庇うように立ち、ヘアが言い放った。
ヘア、強くなったな……そして俺が目を向けると、槍を奪われ、突き飛ばされ床に膝をついたソイの姿があり。
「ほら、返すぞ」
「やめろ!」
「――ッ!?」
ゲネバルは奪った槍をソイに向けて投げ返した。バランスを崩している奴には躱せそうにないが、俺は横から手を出し、迫る槍を掴んだ後、ゲネバルに体を向けた。
ソイの表情が驚愕に染まる。
「……おいおい、これは一体どういう状況だ? なんでわざわざ自分たちを狙った罪人を助ける?」
「……さぁな。ただ、お前のやり方は気に入らない。それだけだ」
書籍版の情報は活動報告で上げていければと思いますのでどうぞ宜しくお願いいたします。




