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最弱スキル紙装甲のせいで仲間からも村からも追放された、が、それは誤字っ子女神のせいだった!~誤字を正して最強へと駆け上がる~  作者: 空地 大乃
第四章 シルバークラウンの冒険者編

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第58話 リャクの苛立ち

sideレーノ

 宿に戻ってからリャクはずっと機嫌が悪かった。いま部屋にはメンバー全員集まってるけど、その中心で不機嫌そうにウロウロしている。


 あいつの事と昇格のことが堪えているのだろう。


 正直昇格に関してはあいつの事もあって難しいなとは思っていたのだけど、そもそもあの依頼を私達の力で達成していない。


 ただ、私が協力して行った行為は完全に裏目に出た。支部長の話では結果的にカルタは私たちの流した情報を逆手に取って利用し貶めようとした、というレベルの話じゃないぐらい大事だったみたいだけど、とにかくその連中を逆に打倒してしまった。


 それが結果的に私たちが流した噂も嘘だと証明することとなり、カルタ達は間違いなく知名度が上がったけど、リャクは悪い意味で噂になってしまっている。


 結果としてリャクはまるで自分がしてやられたかのように感じていることだろう。

 それがあいつにはたまらないぐらい悔しいようね。正直、私からすれば振った男のことなんてどうでもいい。大体あんなのは付き合ってるともいえないままごとのようなもの。何せキスすらしてないからね。

 

 リャクとは勿論それ以上のことをしている。自分のステータスとなる男の為なら体ぐらいいくら差し出したって惜しくないの私。

 

 だからどうでもいいカルタのことなんて放っておけばいいと思ってたのだけど……どうしても許せないことが出来てしまった。


 それはカルタと一緒にいた女だ。私よりは明らかに落ちるけど、そこそこ可愛らしかったあの女。

 あの女、そしてカルタもお互いを意識しあってる。そんなのは私はひと目で判った。だからちょっとからかいついでに邪魔をしてやろうと思ったのだけど――既にカルタの目に私の姿はなかった。


 別に私はカルタなんてどうでもいい。ただ、私が振った男が他の女と幸せそうにしているのは許せない。

 

 私が捨てた男は、一生女と結ばれること無く私に捨てられたことだけを一生後悔して惨めに死んでいくべきなのに、私のことなんて眼中にない素振りを見せたカルタが許せない。


 それにカルタだけじゃなくリャクにまで色目を使ったあの女も……大体確かにあいつは女を褒めるセンスは絶望的だけど、だからといって逆に私が馬鹿にされたみたいになったのは本当にありえない。思わずムキになってしまったのはちょっとだけ恥ずかしいけど、そんなこともあったからリャクの計画に乗ったというのはある。


 あれだとカルタだけが貶められているようだが、私はあとからあの女も男に媚びを売るビッチだと喧伝するつもりだったしね。実際ビッチなのは間違いないし。


 だけどそれもこの状況じゃ考えるだけ無駄ね。今はただ大人しくしてるしかない。リャクだってその筈よ。こんな時ぐらいはもうただ粛々と反省してる姿を見せるしかないわ。


「……レーノ、僕は決めたよ」


 うん?


「決めたって何を?」


 私の目の前でブツブツいいながら機嫌悪そうに右往左往していたリャク。正直鬱陶しかったけど、それがピタッと足を止め、私に体を向けて真剣な顔を見せた。


 正直イヤな予感しかしないんだけど……。


「皆も聞いてくれ。僕はあのヘアを助けようと思う」


 ……はい? いや、何言ってるのコイツ? しかもよりにもよって仮にも付き合ってる私の前で馬鹿なの? 死ぬの?


「助けるって何からっすか?」


 ホミングのアホが別に聞き返す必要もなさそうなことにわざわざ踏み込んだ。無視しておけばいいのにそんな戯言は。


「カルタにきまっている! あんなサラサラの美しい髪をした少女があの弱ったらしい穀潰しのあいつと一緒にいるなんてやっぱりおかしい。それに今回だってアイツのせいで彼女は危険な目に会ってる! 本当にろくでもない奴だよあの屑は!」

「…………」


 ホミングが口を半開きにさせて呆けていた。気持ちは判るけどね。 

 それにしてもこいつは……ギルド長の説明を聞いていたのだろうか? 


「ねぇリャク。なんであんな女にそんなに拘るの? 別にどうだっていいじゃない。貴方には私がついているんだし」


 正直言えばこいつよりいい男がいればもう乗り換えてもいいかなと思うけど、今の所将来性だけは買ってるから仕方ない。


 それに何より私よりあんな野暮ったい女に興味がいくなんて正直プライドが許さない。


「レーノ、勘違いしないでくれ。これは別に彼女をどうにかしたいとかやましい気持ちで言ってるんじゃないんだ。ただ、彼女があのままふさわしくない場所にいて不幸になるのが許せないだけなのさ男として、そして後の英雄としてね」


 その根拠あるんだかないんだかわからないけど、絶対に自分が一番だと信じて疑わないハートだけはリャクの取り柄ね。


「そう! これは救済さ! この僕が騙され続けている彼女に――」

「いい加減にしろリャク」


 勝手に盛り上がってしまっているリャクにノーキンが口を挟んだ。いかにも不機嫌と言った顔で立ち上がる。必要なこと以外あまり喋らない奴だけど、何か思うとことがあるのかもしれない。


「まだそんな馬鹿げたことを言っているのかお前は? 今日ホフマン支部長に謹慎を命じられたばかりだろ?」

「だからギルドの依頼には手を付けないよ。でも、これは正義のための救済だ。何の問題もない」

「ふざけるな! お前の所業で俺たちがどれだけ迷惑しているのか判っているのか? 今回の件だって俺たちの知らないところで行った勝手な行動のせいでとんだとばっちりだ!」

「それがどうかした? 僕たちがやったことだってカルタを調子づかせないため、そしてあの美少女に彼の本性を知ってもらうため当然必要なことだった」

「それはお前の身勝手な思い込みだ。いい加減気がつけ」

「はい? はは、これは参ったな。ノーキン、お前、誰に物を言っているのか判っているのかな? 僕はこのパーティーのリーダーだよ?」

「……確かにこの中ならまとめ役として一番あってると思ってそれは認めた。だが、こんなことを繰り返されたらたまったものじゃない。リーダーならもっとリーダーにふさわしい行動を取れ」


 ノーキンは見た目も脳筋の癖にこういう時に忌憚なく物をいう。私たちがカルタと再会した時も、こいつだけはリャクに反論していた。


 だけど、ここまで剣呑な雰囲気になるのはパーティーを組んでから初めてな気がする。


「……何だいそれは? まるで今の僕がリーダーにふさわしくないみたいないいぶりじゃないか」

「俺ははっきりそう言ったつもりだが?」

「……へぇ、それは驚いた。参ったな。全くただ物理で殴るぐらいしか能のない脳筋が何を勘違いしてるんだか」

「――だったら俺がただの脳筋なのか試してみるか?」

「ちょ、ちょっと何を言ってるっすか! 二人共すこしおちつくっすよ!」


 ホミングが二人を止めようと声を上げてるけど、そのわりにしっかり安全な位置は確保している。

 全く、男は馬鹿だ。こんなの放っておけばいい。


「そこまでだ。全く、お前ら謹慎になったそばから何やってやがんだか」


 え? と私たちが振り返るとそこにはあのエリートが、ドア横の壁にもたれ掛かるようにして立っていた。御者の振りをして私たちのことを密かに見極めようとしていた節があるこの男。


 英雄豪傑でBランクの称号持ちというだけあって、その腕は確かなんだろうけど、入ってきた気配すら感じなかった。扉もしっかり閉められている。


「……入るならノックぐらいしてほしいですね」

「あぁ、そりゃ悪いな。何せお前らの指導員になって日が浅いもんだからそういう暗黙のルールに疎いんだ」


 リャクが眉をひそめた。正直あまりに白々しいいいわけだけど、ようはこれは皮肉だ。

 内容は違えどこれと同じことをリャクはギルド長の前で言っている。つまり彼は暗にリャクへお前も同じことを言っていたんだぞと知らしめているということだ。

 

「意趣返しってことですか……」

「うん? 何がだ? 何か気に触ることでもやったかな俺は?」

「……別に何でもありませんよ。それよりもこんなところまで来て一体何のようですか?」

「何の用も何も、俺は一応お前らの指導員になったわけだからな。その為にはお前たちの普段からの行動をしっかり見ておく必要がある」

「そうですか。ならわざわざご苦労さまです。ただ、もう僕たちも解散しようとしていたところですから、特に面白いものはみれませんよ」

「依頼でなければ何をやっても平気だと発言するリーダーの発言が拝めて中々面白かったぞ?」

「くそ……」


 リャクが唇を噛んだ。まさかそんな前から見ていたなんて思わなかったのだろう。勿論私もだけどね……。


「それで、どうするんですか? ギルド長に報告しますか?」

「いや、それは面倒だしな。それにお前らのことは俺に一任されてるんだ。でも、まぁそうだな。お前、そんなに力が有り余ってるならちょっと付き合え?」

「は?」

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