第54話 訪れたSランク冒険者
sideスダルキス
やれやれ、この姿で降り立つのも随分と久しぶりなことであるな。全く、私としたことがまさかここまで気にしてしまうとは、もしアイツに知られでもしたらまた何を言われるかわかったものではない。
随分と昔も似たようなことがあった。じゃが、あの時のあやつは結局――それからは出来るだけこちら側の人間には肩入れしないようにと決めてきたのだが、どうにもあのカルタは迂闊でいかん。
それに、あの力のこともある。今後カルタが神装甲の力を解放するというなら乗り越える壁は相当に高い。
とにかく、先ずは英雄豪傑に向かうとするか。幸いなことにかつて手にしたSランクの称号はまだ生きておる。
Bランク以上は連盟からの発行となるからのう。たとえギルドがなくなったとしてもこの称号は残り続けるのじゃ。
「ここは英雄豪傑の支部で間違いないな?」
「はい、左様でございますがどのようなご用件でしょうか?」
支部だと言うのに大した造りであるな。見上げる程に高い塔とは恐れ入った。
「支部長に会いに来た」
「え? ホフマン支部長ですか?」
ほぅ、今はあやつが支部長などやっておるのか。まぁ確かに以前見た時にはAランクまで達しており、中々の腕前であったがのう。
「そうだ、そのホフマンと話があるのじゃ」
「え? のじゃ?」
「あ、いや、とにかく会わせてくれ」
「失礼ですがアポイントは取られておいででしょうか?」
全く中々融通の効かない受付嬢なのじゃ。メガネで何かキリッとしていて如何にも硬そうなイメージではあるがのう。
「そんなものはとっていない」
「それであれば申し訳ありませんが、面会の予約待ちという形となります。もしご依頼などのご用件であれば一旦はこちらでお聞きすることも可能――」
「面倒なことはゴメンだ。ほら、これでいいだろう? Sランク冒険者のスダルキスが会いに来たと伝えるが良い。それで通じるであろう」
私は愛想だけは良い眼鏡の受付嬢にギルドカードを提示してやった。Bランク以上が手にすることが出来る、ギルド連盟発行のカード。その中でも最上級にあたるSランクのギルドカードじゃ。
「え? え、Sランク!? しかもスダルキス様といえば、風のように現れ、数多の伝説を作り上げたという……し、失礼致しました! 少々お待ち下さい!」
何やら少々大げさな気がするのじゃが、とりあえずSランクの肩書はやはり流石であるというべきか。
その後、受付嬢の案内でエレベーターに乗せられホフマンの元へ向かった。
向こうの世界では電気で動かしていたものだが、それを魔法でか。世界は違えど、技術というのは似通った物が出来るものだな。
そして部屋に通されホフマンと再会した。前にあったときよりやはりレベルもステータスも桁違いに上がっているな。
ホフマンはホフマンで私のことを疑うこともなかったが、やはり私が姿をくらましていたことが気になったようだ。
尤もそのことを素直に言うわけにはいかないがな。
「しばらく国に帰っていた。ここにくるのも久しぶりだが、やはりSランクのカードは便利だな。こうしてすぐに身元が証明出来る」
「あんたほどの力があれば、そんなものがなくても判るやつには判るさ。それにしても勝手な女だ。言っておくが前に所属していたギルドはもうないぞ?」
「そのかわりに、この英雄豪傑といったところか? 噂には聞いておったがな。それにしても前はまだまだうだつの上がらないはなたれ小僧だったお前が支部長とは変われば変わるものだ」
「よしてくれや。一体何年前の話だと思ってるんだ」
「ふむ、確かにな。そういえば貫禄も随分と出てきたようだが皺も増えたな。苦労してるのか?」
この問いかけにホフマンは顔を歪ませ鼻を鳴らした。
「ギルドの支部長なんて苦労しかありゃしないさ。こんなことなら現場で魔物を狩ったりしてるほうがよほど楽だったぐらいだ。でもな、確かに俺は前にあったときより老けただろうが、あんたは変わらなすぎだろ。一体どうなってるんだ?」
おっと、確かに今の私の姿は、以前と変化がない。人間の年で考えれば疑問に思われても仕方ないのじゃ。
「いい忘れておったが、私にはエルフの血が混じっているのだ。それ故にこの美しさを保っていられる」
「テメェで美しいとかいうかよ……にしてもハーフエルフだったのか。それなら納得できなくはないな」
ふぅ、上手くごまかせたのじゃ。困った時のエルフ頼みじゃな。
「ま、エルフの血が混じってるなんてことはそう大っぴらに口には出来ないだろうから、これまで知らなかったのはいいとして、それでわざわざ俺を訪ねてくるとは何かあるのか? ギルドに入りたいと言うならあんたほどの腕なら即許可が出せると思うが?」
「そうではない。だが、ちょっとした頼みごとがあってな」
ふむ、とホフマンが背もたれに体を預けた。ホフマンは小柄だが体格が良く重量感がある。そのためか重みでギシギシという軋み音が聞こえてきた。
それなりに上等そうな代物じゃが、あまり体にあってないかもしれんのう。幅がギチギチであるし。
「久しぶりの再会だ。少しは融通を利かしたいとは思うが、こっちも仕事だからな。依頼だというならそれ相応の報酬は頂くぞ?」
なるほど、そう取るか。まぁ、これぐらいしっかりしてねば支部長などやっておれんか。
「ふむ、そうであるな。この話を聞いて報酬が必要と判断したなら考えるが、さて、どうかのう?」
「随分と意味深な言い方してくれるものだな。全く、急に聞くのが不安になってきたが、話してみてくれ」
私は薄く微笑み、ホフマンの奴に事情を話して聞かせた。
内容は現在賞金首として追われている冒険者の卵の疑いが晴れるよう、手を貸して欲しいということじゃがな。
「おいおい、なんでよりにもよってうちがそんな面倒事に手を貸さなきゃいけないんだ? 正直正式な依頼でも断る話だぞ」
「しかし、追われている賞金首は無実の罪な可能性が高いのだぞ?」
「だとしてもうちが関わっている案件でもあるめぇし。それにそれが無実だと言い切れる証拠でもあるのか?」
「そこなのだ。お主は今、うちは関わっていないと言っておったがな。それは半分は間違いであるぞ」
は? と目を眇める。まぁこやつが怪訝に思うのも仕方ないであろうが。
「その冒険者の卵、カルタ一行が賞金首になったきっかけは何せお主のとこの冒険者が原因なのだからな。おるだろ? リャクという名の冒険者が――」
◇◆◇
sideカルタ
「これは、一体どういうことだ?」
俺たちを護送していた兵長が意識を取り戻し、目を白黒させていた。
俺たちを助けに来たなどと抜かしていた盗賊まがいの四人が全員倒れているのだから頭が混乱するのもわからなくもないか。
「見ての通り、この連中は盗賊ではなく冒険者。俺たちをハメて罪人に仕立て上げてきた奴らだ」
とにかく、現状を説明する。そして様子を見てみるが。
「馬鹿か貴様らは? そんな罪人の戯言をこの私が信じるわけがないだろう!」
兵長が大声で怒鳴り散らした。やはりそう簡単にはいかないか。強情と言うか融通がきかないと言うか。とにかく、この男は俺たちが罪人だと決めつけている。
「大体、本当に濡れ衣だというなら、こんな拘束具使うわけがないだろうが!」
ギロリと睨みつけてくる。あの四人と、とりあえず兵士も含め一旦全員拘束させてもらっている。俺たちを戒めていた神罰石製の枷はドヴァンが破壊したが、馬車に予備の枷があったのでそれを利用した。
ジェゴブによるとこの枷には魔封じの効果も付与されてるようだ。だから召喚士であるンコビッチの魔法も封印される。
兵士達も拘束しているのは、下手に抵抗されたくないからだ。説明してあっさり納得してくれるなら問題ないのだけど、やはりというかそうもいかないらしい。
「もし本当に私達が罪人であれば、目をさますのを待たず逃げていれば良いだけの話かと。そうではゴブリませんか?」
「そんなもの、どうせそこの連中と揉めて仲間割れとなり、倒したことで妙な欲でも出したのだろう。すべての罪をその連中になすりつければ刑を免れるとでも考えたのだろうが、そんなものに騙されるほどお人好しではないぞ!」
罪を着せられている俺達が、逆に罪をなすりつけているとか笑えない冗談だな。
「全く煩わしい連中だぜ。こいつら全員もう一度気絶させるか?」
「いや、流石にここでそれをやったら、例え今回の件が無実だと証明されても、他の罪がつくかもしれないし……」
「そうでゴブりますね。このまま街に戻るのが懸命ではないかと思います」
「しかし、街に戻って大丈夫なのか? この襲ってきた連中を突き出すにしても、それだけで俺たちが無実だと証明出来るとは限らないだろう?」
「当然だ! 貴様らのような極悪人が許されるわけがないだろう!」
「おい、お前、いいかげんにしろよ。そこまで言って俺たちが無実だったらお前どうするんだ?」
「ふん、その時は裸で土下座でもなんでもしてやる」
「おお、言ったな。絶対忘れないからな」
ドヴァンも相当ご立腹の様子だな。ただ、無実の証明に関しては確かに、今みたいに何かしら理由をこじつけられる可能性もあるにはあるけど。
「きっと大丈夫さ。ヘア達のこともあるし、きっとそれが証明になる」
シルビアにすべてを託した形だけど、きっとヘアも無事だと俺は信じている。そしてヘアが無事なら、そのことが俺たちの無実の証明になるはずだ。
「とにかく、シルバークラウンまで引き返そう」
「ふん、お前らが何を考えているか知らんが、そんなことをしたところで無駄なことだ。都に戻るなり、すぐに捕らえさせてやる! 今度は絶対に逃げれないよう徹底してな!」
怒りに満ちた表情で怒鳴りまくってる。まるで親の仇でも見つけたような、そんな様相だな。
全く、色々面倒な気がしてならないけど、とにかく先ずは戻るとしよう――




