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最弱スキル紙装甲のせいで仲間からも村からも追放された、が、それは誤字っ子女神のせいだった!~誤字を正して最強へと駆け上がる~  作者: 空地 大乃
第四章 シルバークラウンの冒険者編

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第52話 カルタVSソイ

前回のあらすじ

ドヴァンとジェゴブが勝った

 視界の端で突風に巻き込まれるパルパルの姿が見えていた。それに、ギリアンの氣も大分弱まっている。


 全く仕方のない連中だ。パルパルはいつだって口だけだった。調子のいいことばかり言っているが戦闘面では役に立たない。


 ギリアンは己の力に大分自信があったようだ。ガリラ流という武術も誇っていたが某からすればあんな大雑把なものは武術なんて言える代物ではない。洗練された武術とは似て非なるものだ。


 だから結果的に恵まれた体格だよりになる。生まれ持った膂力やスキルのみに自然と頼るようになる。だが、それであればそもそも武術を得る必要がない。


 某は最東のブシドスキナで生まれ育った。ブシドスキナは小さく、小大陸や島国と称されることのほうが多い。島全体が一つの国として統一されており、代々武王が元首として統治し続けている。


 某の国は武術の祖国である。もともとこの世界においては技術(スキル)魔術(マジック)の二大術が席巻しておったが、その二つに対抗するために生み出されたのが氣を扱い業を磨く武術(アーツ)であった。

 

 そして今や技術(スキル)魔術(マジック)武術(アーツ)は三大術と称されるほどに――後に生まれた武術がそこまでに至ったのはやはり祖国における武の祖による貢献度が大きいのだろう。


 それ故に、ブシドスキナにおいては他国に比べて圧倒的に武術が浸透している。例え平民でもあっても武術の基礎である氣の操作程度は身についているほどだ。

 

 そしてそれは某も一緒であり、なにより武人として生き、己の武術を高めてきた。幻槍流の門を叩き幻槍流変槍術をも完璧に会得した。某の実力はほぼ(・・)免許皆伝といっていいレベルにまで到達している。


 つまり某がこの程度の相手にやられる道理がない。どうやらこの男、情報にあった紙装甲などというスキルとは大きく異なる力を持っているようだが、それとて所詮はスキル。


 武術、つまりアーツはスキルやマジックに対抗すべく磨き続けられた業なのだ。それが所詮スキルにおんぶにだっこなこのような輩にまけるわけがない。


 勿論某とてこの世界で生まれた人間。スキルも授かっておる。伸縮自在、それが某のスキルだ。これは某が所持しているものを自由に伸縮させる。

 

 槍を伸ばしているのもこの効果だ。だが、このスキルそのものはそこまで強力なものではない。しかしスキルは武術と組み合わせることで大きな効果を発揮する場合がある。

 

 伸縮自在のスキルは某の業と相性が良かった。あのカルタという男は気がついていないであろうが、幻槍流の真髄は手元で回転させるようなこの動きにこそある。


 幻槍流独特な回転運動に氣をおりませることで、相手の脳を自然と誤認させる。これにより槍が放たれるタイミング見失わせたり、某の位置を掴みにくくさせる。


 これぞ幻槍流変槍術・朧月。きっと今奴の頭は混乱しっぱなしであろう。その上、幻槍流変槍術・虚槍の効果もある。


 これは槍に氣を流し込み強烈な撓りを加え、本来ありえない軌道からの攻撃を可能とした業だ。伸縮自在による伸長とそこに含まれる錯覚。本物と虚無が入れ交じる槍の乱舞。


 奴は防戦一方だ。槍越しに肉を抉る感覚が伝わる。血の匂いがまるでここまで漂っているかのようだ。


 そしてこれが、某が求めている戦い。圧倒的な力量差で死へと誘う。徹底して蹂躙し、肉を削ぎ落とし骨を砕き、内臓をグチャグチャにかき混ぜる――


「随分と、嬉しそうじゃないか」

「……なん、だと?」

「てっきり、鉄仮面みたいに表情が変わらないかと思ったが、俺が傷つくのが、血を見るのがそんなに愉しいか?」

「…………」





『何故だ! 何故某の免許皆伝を認めぬのだ!』

『判らぬか?』

『判らぬ! 某は誰よりも強い! この道場でも某に勝てるものは誰一人おらぬ! 業も完璧だ! なのに何故だ! 答えろ!』

『――お主は心が未熟だからだ』

『なんだ、と?』

『幻槍流は私闘を固く禁じておる。お主それを破ったな? しかも一度や二度ではない』

『見ていたのか?』

『見なくても、血の匂いと、顔つきで判るのさ。お前は自分が戦っているときの己の顔を見たことがあるか? 一度でも見れば言っている意味がよくわかる。まるで、血に飢えた鬼だ。そのようなものには免許皆伝など与えられるわけもなし。そして、ソイ今日を持って貴様を――』





「それが、どうしたぁああぁあぁああ!」

「くっ!」

「あぁそうだ。某は何より血を見るのが大好きだ。人の身がだんだんと壊れていくのが見るのが大好きなのさ! だが、だからこそ強くなれた! 業を極められた!」


 あの男は愚かだった。一度は師と仰いだが、くだらぬ規律に固執し、弟子の真の実力も計れぬ愚かものであった。


 血に飢えた鬼? それの何が悪い! く、くくっ、余計なことを思い出し、つい熱くなってしまったか。息遣いが荒くなるのを自身が一番感じ取っていた。思わず接近し、槍だけにやりすぎてしまったか。


 だが、やはり近ければ近いほうが良い。肉の感触がより伝わりやすくなる。おかげで大分返り血を浴びたがな。着物も槍も血でベットリと濡れて、嫌でも血の匂い(・・・・)が充満してくる。


「随分と、饒舌になったじゃないか」

「ふん、貴様はまだ喋れたか死にぞこない」


 奴の全身はズタズタのボロボロだ。手負いの獣と変わらん。放っておいても出血多量で死ぬかも知れぬな。勿論そんなもったいないことはせぬが、しかしこのままでは何をしてもすぐに死んでしまうか。


 まぁ、それならそれも仕方あるまい。今回は趣味ではなく仕事、それなりの割り切りも必要であろう。


「……死ぬ前に、某の業の名ぐらい覚えて逝くがいい。幻槍流変槍術・朧月そして、虚槍!」


 伸長した槍が奴に襲いかかる。一撃でも入れば、それで某の勝ち――だが、一発目は避けられた。ふむ、運のいいやつだ。だが、二発目と三発目は錯覚による幻影、その次の四発目こそが本物。


――スッ。


 馬鹿な! 次の実態も躱しただと! しかも途中の幻影だけは反応できず当たり、実体の四発目だけ躱しやがった。


 くそ! 本当に運のいいやつだ。だが、これで終わりだ! 放たれた二発はどれも相手の死角から、しかも左右の一つは幻影、本物は一つだ。


 軌道も微妙に変えてある、これなら――な! また実体だけ躱しただとおおおおぉおぉおお! 馬鹿な! そんな馬鹿な! 偶然が三度続いたというのか? いやありえん! だとしたら――


「やっと、近づけたぜ」

「ハッ! しま――」

「ハリケーーン! エッジ!」


 ぐうぅううぅううう! 回転しながらの斬撃による痛みが無尽蔵に駆け巡る。刃付きの竜巻でも喰らったかのようだ。

 

 某にここまでまともなダメージが通るとは――見た目こそ普通の着物であるが、使用している繊維はヒヒイロカイコよりとれた特殊な糸を紡いだもの。


 鋼より固く柔軟な代物なのだ。にもかかわらず――くそ! スキルにのみ頼った些末な相手と思っていたのだが。


 それに何より解せぬのは某の攻撃を避けることが出来たことだ。幻槍流の見せる幻影は判っていても騙されるほど。相手の脳を直接誤認させた上での錯覚がベースなのだ。


「貴様、某の業を見破ったのか!」


 衝撃にだいぶ後ろに引きずられたが、倒れるほどではない。奴を睨めつける。


「そんなことわざわざ教えるわけがないだろう」


 のってはこぬか。だが、此奴の余裕、十中八九知られている。だが、それでも避けられるはずが、いや、何かあるのか?


 察知系のスキルがある、もしくは視野を広げる――いや、そんなものがあれば最初から使っているはずだ。何より幻槍流はその程度のスキルでなんとか出来るほど安くはない。


 ならば何だ。さっきまでのこいつの行動と、明らかに某の業を見切っていた時の行動との違いは――判らぬ。特に変わった行動などはなかった。違いと言えば某がつい此奴の血塗られた姿を見て興奮したぐらい――血?


 目に力がこもる。某の此奴を見る目が変わる。


「どうした? こないならこちらからいくぞ?」

 

 此奴、これだけの傷を負いながらも、明らかに先程より余裕がある。つまり、某の考えに間違いがないということか! 馬鹿な! つまり此奴は! 某の幻影を見分けるために、敢えてダメージを負ったというのか! そして返り血を浴びせることで、血の匂いを充満させた!


 まさか、そんな手で、そんなやり方、某の国でも実行するものなどそうはいまい! だが、こいつはした! こんないかれた手を実行しやがった!


「――ハッ!」

「くっ!」

「どうした? さっきより動きの切れが悪いぞ?」


 くそ、つい接近を許してしまった。見切られていると判り、某の次の手に迷いが出た! こんな、こんな餓鬼に、某が!


「ンコビッチ! ファンを寄越せ! こっちに召喚獣をまわ――」

「どうやら向こうは向こうで忙しいみたいだぜ?」


 奴の剣戟が走る。片手剣での攻撃はかなり速く、一度の攻撃で何発もまとめてくる。


 此奴の言ったとおり、あの女は手が離せない状態にいた。召喚獣も仲間ふたりを相手させるので手一杯の状態なのだ。


 くそが! 確かに押されているとは思ったが、ギリアンまでこうもあっさりやられるとは!


「そろそろ覚悟を決めたらどうだ?」

「なめるなよ小僧!」


 某は奴との距離を一旦取る。こうなっては仕方ない。まさかこんな奴にアレを使うことになろうとは思わんだったが。


「某をここまで追い詰めるとはな。いいだろう見せてやる! 幻槍流変槍術奥義・刹那幻槍!」


 この業は刹那の間に何千、何万という槍の攻撃を魅せる。勿論その全てが幻影だが、これだけの大量の幻影を血の匂いで見分けるなど不可能だ!


 そして本命は某の氣の全てを穂先一点に集中させた刺突! 奴が幻影に惑わされている間に!


「これで終わりだ小童が! 死ねぇええええええええ!」

「――ケルヌンノスの牡牛!」

「ぐぼおおああぁあああぁああ!」


 ば、馬鹿な、一体何が。某の渾身の一撃、だが、ふっ飛ばされたのは某の方だと? 馬鹿な! あの幻影を見破ったというのか! しかも、しかも、こいつ、こいつは――


「トドメは、弓と牛だ、と?」

「あぁ、悪いな。流石に最後のはきっついから、感知と弓のスキルに頼ったわ」


 は、はは、スキルなんかには絶対に負けぬと自負していたというのに、最後にソレとは、無、念――

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