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第51話 反撃の時

前回のあらすじ

ドヴァンが氣を切った。

 馬鹿な――俺様の技がこんな隻腕の剣士なんざに切られただと? ありえねぇ。ありえるわけがねぇ!


「てめぇ、一体何をしやがった! 何か魔道具の力でも借りてやがるのか!」

  

 そうだ。魔道具の中には妙な力を発揮できるのもある。もしくは魔法薬なんて手も考えられる。高レベルの錬金術師が調合する薬の中には破格の効果が秘められたものもあるというしな。


「アホか。そんなものいつ手に入れるチャンスがあったってんだ。俺はずっと地下牢に閉じ込められるか尋問をうけてたんだぞ?」

「だ、黙れ! だったらこの短期間でテメェがここまで出来る理由がねぇだろうが! あれだけ俺様にボロボロにやられたテメェがよ!」

「……ま、どんな形であれ勝負だ。弁解する気はねぇよ。だけどな、今回はお前らが元凶だってのは判ってるからな。前と違って遠慮がいらねぇ」


 は? 遠慮が、いらない? こいつは、賞金首に仕立てあげたのも俺様らが関係してると知ったから、だから前と違って本気が出せると、そういいたいのか?


「ふざけやがって! だったらこれを切れるもんなら切ってみやがれ! グロースシュトローム!」


 俺様の巨体があれば僅か数歩の踏み込みで射程内だ! そこからの俺様の左右のコンビネーション。激しい波が左右から襲いかかる! 一撃目は躱したか、だがすぐに切り返す! この二撃目はこれは躱せるわけがねぇ! そして隻腕じゃ捌けるわけがねぇ!


「フンッ!」


 な! 馬鹿な、逆に振り抜かれ、俺様の波が、まるで岩を打ったように跳ね上がった。当然俺様の胴体ががら空きに、と思ったんだろうが! 俺様には円盾がある! それを滑り込まえた上、鎧だって着込んでいるんだ! 


「螺旋流破鎧術――螺旋燈突(らせんとうとつ)!」

 

 馬鹿が! よりによって突きで来やがった! その突きは速い! それは認めてやろう。だが速さだけじゃ俺様の盾は貫け――


「ぐぼおぉおおぉおおぉおお!」


 な、馬鹿、な――なんだこの衝撃は。俺様の腹を駆け抜ける強烈な痛み。内臓ごと持っていかれるかと、し、しかも、俺の盾と鎧の一部が、く、砕けやがった。


 地面に背中を打つ。人間相手に俺様が倒されるなんて、そんな奴は数えるほどしかいなかった。ましてや隻腕のこいつに、く、くそ!


 痛みはあるが、俺様は、負けてねぇ! まだ、負けてねぇ!

 

 息を吸い込み、立ち上がる。そしてやつを睨めつけた!


「ち、くしょうが。どうやら盾も鎧も、とんだ欠陥品だったようだぜ。テメェなんかの攻撃で砕けるなんてな」

「なんだ、やっぱ気がついてなかったのか」

「あん?」


 気がついて、ないだと? 何がだ、この俺様が、何に気がついてないってんだ!


「お前の盾も、鎧も、最初に戦った時、俺の攻撃を受けた時点で、疲弊しきってたんだよ。その防具はどれもいいもんさ。お前がそれに気がついてさえいれば、もしかしたら今のだけじゃ貫けなかったかもな。だが、お前はそれを怠った」

 

 俺が装備品の劣化を見逃しただと? だから貫かれただと?


「それにしても、お前はガリラ族の戦士であることを随分と誇ってるようだが、俺からしてみれば装備品の管理を怠ってる時点で、テメェは戦士として――三流だ」

「た、たかが人間が! 劣等種の人間風情が! 偉そうに語ってんじゃねぇ!」


 何が管理だ! 装備品なんてもんは使い捨てだ! 使えなくなったら取り替えればいいんだよ! そんなものをいちいち気にするようなセコイ仕事はしてねぇんだよ雑魚が!


「だったらテメェのその剣で! これが切れるか! ガリラ流戦斧術フルートヴェレ!」


 氣を込めた大波が剣士を飲み込もうと襲いかかる。最初に放った波よりはるかにデカい波だ! 奴は腰を落としてカッコつけてやがるが、何をしたところでこの大波は避けきれねぇ! 切れるわけがねぇ!


「螺旋流破鎧術――真空閃」


 耳鳴りがした。理由はわからねぇ。その直後、大波が左右真っ二つに割れた。そして、俺様の体に、衝撃。


 馬鹿な、今度は飛ばした斬撃で、俺様の波も俺も、切った、だと?


「――今更だが、俺はお前に感謝してるよ。おかげで俺は自分を見つめ直すことが出来た。お前という噛ませ犬を踏み台にして、俺はさらなる高みに到達することが出来たのだからな」


 この、俺様が、噛ませ犬、だと? ふざけやがって。絶対に、ぶっ殺してやる。この斧で、そうだ! まだだ! 俺様にはまだ重撃のスキルがある! 今の俺なら最大で体重の十倍をこの一撃に乗せることが出来る! 俺の体重の十倍の全てを乗せたら、それだけで兵器だ!


「俺様は終わらねぇ! 重撃!」


 意識を駆り立て、距離を詰め、大振りから全力の一撃を叩き込む。多少外れようが! 生まれる衝撃波はこいつを消し飛ばすに十分な威力だ!


「終わりだ人間!」

「お前がな――」


 振り下ろした斧撃が、受け流された。馬鹿な! 俺の体重の十倍だぞ! それがなぜ! 片腕だけのこいつに!


「攻撃は、パワーだけじゃねぇんだよ!」


 剣士が俺様の横を駆け抜けた。その瞬間、自慢の巨体が浮き上がる。ありえねぇ、すれ違いざまの一撃だけでこんな――


螺旋流(らせんりゅう)破鎧術(はかいじゅつ)――旋乾転坤(せんけんてんこう)!」

 

 だが、直後に背中を襲った衝撃。俺様は顔面から地面に叩きつけられ、そして意識を完全に持ってかれた――






◇◆◇


「くそ! なんなんだお前は! オレっちの地鮫をこんなに出してるのに!」


 パルパルが予想以上に苦戦している。いや、パルパルだけではなかった。私は他の自己主張の激しい三人の事もあって、一旦下がり、様子見に徹していた。


 だけど、ギリアンは隻腕の剣士相手に随分と手こずっているし、パルパルもジェゴブとかいう執事風の男に苦戦を強いられていた。


「最初と違い、今は戦闘だけに集中できますからな」


 ジェゴブが言う。この意味は恐らく馬車のことだろう。手癖の悪いパルパルは隙あれば馬車の中身でも盗んでやろうと考えていた節がある。鍵は掛かっていたが、手先が器用なリリパト族だけにピッキングも得意だ。


 だが、この男はそれをひと目見ただけで見抜いていたのだろう。だからこそ前回は戦闘を繰り広げながらも馬車にも気を張っていたと思うけど、今回はその馬車がない。


 当然その分、パルパルだけに集中ができる。その差が如実にあらわれていた。


「ギャッ! ち、畜生!」


 サンダーストライクがパルパルに当たった。前回は全て避けていた筈だが、今回はジェゴブという男が、あの指を鳴らすという動作をフェイントに絡めるようになった。


 そのため、パルパルも来るタイミングがつかめなくなってしまっている。


「ちょ、ちょっとンコビッチ! 何ぼーっと見てるのさ! 援護してよ!」


 やれやれね。なんとなくそう来るとは思っていたけど、パルパルはすぐに音を上げたか。ギリアンとソイの自信を見て自分もいけると思ったのだろうけど、パルパルはもともと私と同じ援護タイプだ。


 一対一の戦闘力ならあのふたりに大分劣ってしまう。一方ジェゴブという男は見ている限り、決して他の二人に劣っていない。


 しかも魔法も剣も扱える万能型だ。正直パルパルでは厳しいだろう。


「パルパルを援護しろ。リッパー、ランウータン」

「ザクザク殺す!」

「ウホッ!」


 ジャックシリーズのリッパーとランウータンが向かった。ランウータンは見た目が大猿な召喚獣だ。しかしその見た目で判断しては痛い目を見ることになる。


 何せアレは土の魔法を扱う。早速魔法を行使。地面から打ち上がった岩が、隕石のように降り注ぐ。


 だけど、やはり素早い。ジェゴブは軽やかなステップで岩を全て避けていった。


「やれやれ、ご自分で言った事も守れないとはジェントルではゴブりませんね」

「ヒーハー! 戦いなんて勝てばいいのさ!」


 そのとおりです。負けては元も子もないのですから、パルパルのやり方は正しい。私からすれば他の二人のほうが変わってる。


 最初の魔法こそかわされたけど、これでこっちの戦いはパルパルが圧倒的に有利になった。今はリッパーとランウータンが接近しジェゴブを挟撃している。


 ランウータンは土魔法で自分とリッパーの全身を土で固め防御力を高め、手も土の拳で破壊力を上げた。リッパーは執拗にナイフで致命傷を狙っている。更に足元からはパルパルがスキルで放った鮫が狙っている。


 そのためジェゴブは防戦一方だ。今回の点で重要なのはランウータンの存在。あのジェゴブという男は雷の魔法を使いこなす。しかし、雷は最終的に地面に逃げる。リッパーとランウータンは全身を土で固めているから、雷が直撃しても地面まで逃してくれる。


 だから事実上ジェゴブの魔法は封じ込めたのと一緒だ。その上、防御力も高めているからジェゴブの細剣じゃダメージは通らない。


 ただ、かなり動きが早く、勘が鋭い。だから召喚獣の攻撃も当たらず、鮫が襲いかかっても躱してしまう。


 だけど――あの男は勘違いしている。この戦いにおいて重要なのは召喚獣の攻撃でも、地鮫の不意打ちでもない。


 一番重要なのはパルパル。彼は単体での攻撃力は決して高くない。でも、盗賊の才能もあるパルパルは相手の隙をつくのが上手い。気配を消すのにも長けている。


 つまり――ジェゴブはリッパーとランウータン、そして足下の鮫からの攻撃に意識が全てもっていかれていた。だから、気がついていない。

 

 パルパルが、そう気配を消したパルパルが頭上に現れていて、そのまま背後を狙っていることに。落下して組み付き、その首を掻っ切れば、ジェゴブの命は尽きる。


 これで終わり、そう、私はそう信じて疑っていなかったはずだ。だけど、何故か、妙な胸騒ぎがする。


 何故なのか? ふと思い出す。ジェゴブの足さばきを。ステップを踏みながら、攻撃を避け続けた彼がどこに移動したかを。


 そしてなぜ、そこまで攻撃を避け続けながら、パルパルが付け入りそうな隙だけがタイミングよく生まれたのか――ハッ!


「駄目パルパル! それは!」

「ヒーハー死ねーーーー!」

「どうやらお仲間は気がついたようですが、少々遅かったようですね――反撃の狼煙!」


 その瞬間、私の目の前で起きたのは、ジェゴブを中心に生み出された強烈な突風と、悲鳴を上げながらそれに巻き込まれる召喚獣とパルパルの姿だった――

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