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第48話 ヘアとカルタ

前回のあらすじ

盗賊が雑魚だった。



「ば、馬鹿な! これだけの数の盗賊が、こんなあっさりと。大体、何故場所が判った!」


 ヘア様をどこぞへ連れ去ろうとしていた連中が慌てています。確かに、この場所を突き止め先回りするのは普通であれば難しいこと。


 定石通りにいくなら、むしろ彼らの馬車を追いかけるところでしょうが、私の占いを舐めてもらっては困ります。


 ヘア様の運命を見た結果、カードはこの周辺に良からぬ隠者の存在がいることを示してくれました。


 そこで私に協力してくれると申し出てくれたアイズ様、それにリーダー様。他にも沢山の冒険者の皆さんと来てみたら案の定、このえ~と、ウェイな臭い犬という盗賊達が潜んでいたのです。


 話によると皆さんは相当な修羅場をくぐり抜けてきた冒険者らしいので、この盗賊たちもあっさり撃破。


 こうして今に至るというわけですね。それにしても、ヘア様は神罰石で作られた枷が嵌められてますね。あれは可愛そうです。


 正直私は戦闘レベルが低く、実戦ではそこまでお役にたてないかもしれませんが、占いのスキルに関しては性質変化(・・・・)も起きているので多少は自信もあります。


 性質変化の戦闘モードでカードを引きます。太陽が出ました! 何か幸運が訪れるはずです!






◇◆◇


 皆の正体を知って驚いた。まさかアイズくん達が助けにきてくれるなんて――


 それはすごく嬉しい。だからこそ悔しい。こんな時に戦えない私が。こんな枷なんかのせいで、せいで、あれ?


 ふと枷を見ると、大きな亀裂が入っていることに気がついた。というかほぼ砕けてるんだけどこんな傷あったかな?

 

 覚えてないけど、これは、上手くいけば壊せるかも知れない。ちょうどいい具合に叩きつけるのに手頃な尖った岩がすぐとなりにあるし。しかもあのふたりは私よりずっと前にでているから、今なら見つからない。


 何か色々と幸運が重なりすぎてる気もするけど、とにかく、これはチャンスよ!






◇◆◇


「くそ! 流石に多すぎる! こんなの相手できるか!」

「冗談じゃない、想定外だわ!」

「おっと、何を慌てているのでおふたりさん?」


 ヘアの偽物の両親役だったふたりは、冒険者達の登場で完全に恐れをなしていました。でも、その時馬車を任されていた御者が席から飛び上がり、二人の前に降り立ったのです。


「もしかしてお前戦えるのか?」

「へへ、いざというときのために俺がいる。御者なんてしちゃいたが、冒険者殺しのハントとは俺のことだ」

「え! あの冒険者殺しの!?」

 

 女の方が驚いてます。どうやら相当な有名人なようですね。むむむぅ、これは手強そうです。


「その様子だと、やっぱり素直に引き渡す気はないんだね」

「引き渡す? ばかいえ。この俺がいるかぎりそれはありえないさ。何せ俺は百人殺しのハント。これまで俺の賞金を狙ってやってきた冒険者は全て返り討ちにし、気がついたら百人だった。それが俺だ」

「な! 百人殺しのハントだと!」

「知っているのかリーダー!」

「あぁ、聞いたことがある。賞金額五十万の極悪賞金首。様々な犯罪に手を染めたのは勿論、これまで狩りにやってきた腕利きの賞金稼ぎを百人殺してきた凄腕だ」

「あ、うん。何か大体向こうと同じこと言っている気がするけど」

 

 アイズ様が困ったような返事をしました。それぐらいの腕利きということでしょうか? 相手は一人ですが、百人殺しと言われる賞金首です。油断してはいけません。


 それに、目つきからして明らかにあの盗賊達と違います。すごく冷え切った冷酷な目。人を殺すことなんてなんとも思っていないような殺人鬼の瞳。


 武器を取り出しました。先が鎌のように湾曲した剣の二本持ちです。


「フフッ、この武器はクビトリ、文字通りこの得物で俺はこれまで百人の首を落としてきた。お前たちには見えるか? この首に宿る怨念が。俺はその怨念すらも糧にする。俺のスキルを教えてやろう。絶対断首。それが俺のスキルだ。このスキルは首を狩るのに特化したスキルだ。一度首に得物が当たればストンっと大根のように首が切れちまう」


 な、なんて恐ろしいスキルなのですか! それはつまり、あの剣が首に触れたら最後、確実に死ぬということです。これは危険です! 他の冒険者の皆さんにも不安が窺えます。どうせなら大根だけ切っていればいいのに、どうしてこんな危ないことをするのでしょうか? 料理人をやっていればいいのに。


 ですが、皆が慄くのも当然です。向こうは首にさえ触れれば命ごと刈り取れるのですから及び腰になっても仕方ありません。


「更に絶望的な情報を教えてやろう。俺はこうみえて魔法も使いこなす。しかもスロウの魔法だ。この意味、判るか?」


 そ、そんな! 首に触れただけで首がおちるというだけでも脅威なのに、スロウの魔法まで! スロウの魔法は文字通り範囲内の対象の動きを遅くしてしまう魔法です。


 つまり、この男は相手を遅くした後で、じっくりと首を刈っていくことが出来るということです。なんて、なんて恐ろしい。

 

 こうなったら私もスキルを活用したいところですが、既に今日は四回も占いを行使してます。五回目となると戦闘モードで使用しても必ず有利なカードが出ると限りません。味方に不利なカードが出てしまう可能性もあるのです。

 

 そうなっては目も当てられません。ですが、相手は非常に厄介な賞金首です。リーダー様も、これは少し不味いか、などと口にしてます。


「ちなみに俺がここまで話して聞かせるのはお前たちが絶望するのを見るのが愉しいからだ。判っていても決して逆らえないのがわかっているからだ。そしてお前らは俺のスロウを食らった後、為す術もなく首を刈られていくのさ。おっと今更後悔しても遅いんだぜ? 恨むならこんなことに首を突っ込んだお人好しな自分を恨むんだな」


 そしてハントは剣を構えました。私達を見据え更に口を開きます。


「言っておくが術式はもう完成している。後は魔法を使った時点でお前たちは終わりだ。さぁ! 始めようか、絶望のオーケストラを!」


 そんな! 既に術式が! くっ、一か八か相手が魔法を使う前に強化したカード投げで食い止めようとしましたが、とても間に合いそうにありません。


「さぁ、いい声で鳴いてくれよ! スロ――」

――ドッゴォオオオオオオオォオオオオオォオオオン!


 ……はい? あれ、えっと、皆さんが目を白黒させてます。私もなんだかよくわかりません。ただ一つ言えるのは――


「あ、えっと、何か隙だらけっぽかったので、殴っちゃいました……」


 枷が外れたヘア様から巨大な拳が伸びて、百人殺しさんをぶっ飛ばしてしまったということです――






◇◆◇


「……予定が急に変わった。なぜかはわからないが、お前たち三人はこれから王都に護送されることとなる」

「……そうですか」


 くそ! 忌々しい連中だと俺は思った。こいつらは犯罪者だというのに、全く悪びれた様子もない。


 それでいて、前にこのカルタというクソ野郎が言っていたように、どういうわけか王都行きが決まってしまった。


 だが、これは言うなればこの連中は王都行きになるぐらいの犯罪も犯していたという事だ。


 実際それでより賞金も跳ね上がっている。なんでもウッドマッシュの町で破壊の限りを尽くしたらしい。そういえばあのヘアという娘はウッドマッシュで攫われたという話だったが、まさか町まで破壊していたとはな。とんでもないやつだなこの男は。


「まぁいい。王都行きの護送班と合流するまではこの俺や兵士がしっかり付き添うからな。逃げ出そうとしても無駄なことだぞ?


「……どうせ何を言ってもつれていくんでしょう?」

「当然だ、お前のような凶悪犯に耳を貸す訳がないだろう? 全く許されるならこの俺が貴様の首をねじ切ってやりたいよ。この蛆虫の腐れピー(自主規制)が!」

 

 それからは何を言っても三人はだんまりを決め込んだ。部下の一人が、見せしめに手足の何本か切ってやりましょうか? なんて言っていたが、それは止めた。こんな連中殺されても文句は言えないが、流石に王都行きが決まった連中に不用意な真似はできない。


「おらさっさと乗れや!」


 尻を蹴り上げてワゴンタイプの馬車に乗せた。ドヴァンとかいう剣士が睨んできた。全く犯罪者のくせにふてぶてしい奴だ。


 そして護送馬車を走らせる。待ち合わせ場所まではまぁまぁ距離があるな。三日ぐらいか。それまでこんな連中の薄汚れた顔を見るのは苦痛だが、仕事だから仕方ない。


「お前らは王都についたら死刑確実だ。あれだけのことをやったらギロチンぐらい覚悟しておくんだな」

「「「…………」」」


 だんまりか。本当に可愛げのない奴らだ。命乞いの一つでもしてみせれば多少は溜飲を下げることが出来るだろうに――その時だった。


 乗っていた馬車が激しく傾く! 馬の嘶く声。そして動きが止まった。


「な、なんだ! 一体何が起きた!」

「襲撃です! 盗賊の襲撃にあっています!」

「な、なんだと! くそ、お前達はここで大人しくしてろよ!」


 全く一体何が起きていると言うんだ。罪人を乗せた馬車を襲撃だなんて、何を考えてやがる!



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