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最弱スキル紙装甲のせいで仲間からも村からも追放された、が、それは誤字っ子女神のせいだった!~誤字を正して最強へと駆け上がる~  作者: 空地 大乃
第四章 シルバークラウンの冒険者編

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第48話 受付嬢頑張る!

前回のあらすじ

カルタが急に冴えた。

「アハッ、くすぐったい」


 カルタ様に託されて、私は先ず彼らが放した馬車を探しました。赤い馬車なのでそれはすぐにみつかりましたね。


 ジェゴブ様に託された鞭を持っていたせいか、シルベスターも抵抗せずペロペロと顔をなめてきました。 

  

 それにしてもこの馬、殆ど鞭を入れた痕跡がありません。乱暴な御者だと手加減無く鞭を振るうので痛々しい痕が残っていたりするのですが、毛並みも綺麗ですしよほど大切にされていたのでしょうね。


 さて、馬車は引き継ぎましたが問題はこの後ですね。カルタ様とは連れて行かれる直前、トランシバルの魔法で衛兵に悟られず会話をしましたから。


 ヘア様はやはり衛兵に保護されてしまいました。尤も衛兵の下にいる間はまだ大丈夫です。それはヘア様にも伝えております。カルタ様に関しても心配しないよう伝えております。


 ですが、問題はこれからです。ヘア様はなんとしても守らねばならず、それをお願いされたわけですが、恐らくカルタ様はうちのギルドの冒険者に期待したのでしょう。


 ですが、うぅ、実はいま挑戦者の心臓には動ける冒険者がいないのです。

 

 こうなると、やはり私がなんとかする他ないでしょう。ただ、戦闘面ではあまり自信が――いえ、そんなことを言っている場合ではありませんね。


 こうなったら私が命に変えても……。


「そこの君、少しいいかな?」

「え?」


 私が決意を固めていると、後ろから声をかけられました。私に声をかけている? そこの銀髪の女性の方、と言い直されているので、やはり私のようです。


「え~と、私でしょうか?」

「はい、そうですね」

 

 声をかけてきたのは、腰に剣を携えた風光明媚な剣士でした。蒼い髪に碧眼と爽快さが漂います。


 だけど、私はこの御方を知りません。初めて見るのですが、そのような剣士が一体何の御用でしょうか?


「その馬車、僕の知り合いが乗っていたのと同じだと思うのだけど、どうして君がそれを引いているのかな?」

「え?」


 なんと、この人はカルタ様のお知り合いだったようです。それで、どうやら私はこの馬車を勝手に持ち去ってる途中の馬車泥棒なのでは? と間違われているのかも知れません。


「あの、実は今カルタ様も他の皆さんも取りにこれない状況でして、それで私が代わりに引かせてもらっているのです」

「あ、なんだそうだったんだ。いや、ごめんね、少々疑ってしまって。でも、御者のジェゴブもこれないんだね」

「はい、そうなんです」


 うん? そこまで話してふと思いました。この方、剣士のようですし、もしかしたら助けになってくれるのでは?

 

 それに、疑われはしましたけど、わざわざ他所様の馬車を心配してやってくるなんて――ただ、どのような関係かはわかりませんし、全てを話してしまってよいのかどうか。


 フフッ、でもこんな時こそ、私の占いのスキルが役立ちます! 占いは私自身は占えませんが、この方がどのような方かを知ることは出来ます。


 一日になんども使用すると精度が落ちるのが欠点ですが、今日はまだ手配書からカルタ様たちについて占っただけですから問題ないです。


「え~と、何をしているのかな?」

「あ、ごめんなさい! すぐ済みますから!」


 カードを切って、引く! これは――


「やった! 正義のカード!」

「え? え?」

「お願いします! 話を聞いて頂けますか! 皆さんが大変なんです!」


 必死に訴えました。すると剣士様が真剣な顔で私を見つめ。


「どうやら馬車を直接取りにこれないのもそれが関係してそうだね。判った、話を聞くよ」






◇◆◇


「ヘア! 良かった無事だったのね!」


 私の知らない誰かが、私のことをヘアと呼び抱きしめようとしてくる。当然だけど、私は数歩後ずさりしてその行為を避けた。


「あら、久しぶりに会えたのにどうしたの?」

「……無理もない。よほど怖い目にあったのだろう。それに、洗脳も受けていると聞く。それにしても、まだ解けていないのかね?」

「もうしわけありません。犯人の口が固く、何をしてもさっぱり吐こうとしないのです」

「全く、とんでもない奴らだ。拷問にでも掛けて吐かせればよかろう。火炙りにでもすれば吐くかも知れんぞ?」

「酷い! なんてことを言うのですか!」


 思わず語気が強まります。私の父親ぶるこの男も全く知りません。だいいち私のお父さんはメガネは掛けていませんでしたし、拷問に掛けろだなんて間違っても言わない。


「本当に洗脳されてるのね。犯人に同情するだなんて」

「仕方のないやつだ。だが、もう心配はいらないぞ。私達がしっかり洗脳を解けるプロを用意したからな」

「プロですか?」

「えぇ、ですからもうこの子の護衛は必要ありません。後は私達が連れていきますので」

「え? いや、しかし」

「しかしも何もないだろう。大体私達が来る三日間で全く成果がなかったお前たちなどもう信用できない。ここからは私達が引き継ぐ! 問題はないな?」


 見たこともない両親が、然も当然のように私を引き受けるなんて衛兵に言っている。正直気持ちが悪い。


「……ご両親がそれを望まれるなら。ただ、一応念の為、このお嬢様との関係を証明する物を見せて頂いても?」


 そんなもの、用意できるわけがない。私はこのふたりとは何も関係がないのだから。


「何を言っている? それならほれ、そこの後ろにいるアールという男にとっくに見せているぞ」

「え? ほ、本当か?」

「はい! ダマサ伍長! このオイメ・アールがしっかりと確認致しました」

「……そうか」

「納得したかな? それでは娘は連れて行くよ」


 結局、レル・ダマサ伍長の許可も出て、私はこの偽物の両親に連れられ馬車に乗せられた。


「宜しければ途中まで護衛をつけましょうか?」

「必要ない。こちらで用意しているからな」

「さぁ貴方早く出てしまいましょう」

「わかりました。どうぞお気をつけて」


 馬車は私を乗せてシルバークラウンの出口へ向かう。それにしても、あのダマサ伍長さん、私を保護している時も随分と気にかけてくれたし、いい人なんだろうなとは思うけど、少しだまされやすいタイプな気がする。


 そして馬車は門もあっさりと抜けた。入る時と違って出る時はあの魔道具のチェックもないから素通りみたいなものだ。


「全く大変だったねヘア」

「本当災難だったわねヘア」

「……まだ、そんな芝居を続けるつもりなの?」

 

 いい加減うんざりだ。こんな三文芝居に付き合っていられない。


「おやおや、洗脳されているからかしら? 両親に向かってその言葉遣いはないんじゃない?」

「ふたりとも私達の両親なんかじゃありません。そんなことぐらい私が一番よくわかってます」

「それはお前が洗脳されているからだぞヘア?」

「どこで私の名前を知ったか知らないけど、その呼び方はやめて。虫唾が走ります」

「おやおや」

「全く、おほほ」

「「まぁ、確かにここまで来たら隠しておく必要ないか」」


 私の対面に座っていた二人の表情が変わります。これまでも黒さがにじみ出ていた顔が、より悪辣なものに。


「そんなに知りたきゃ教えてやるよ。お前はどうやら珍しいスキルを持ってるそうだからな」

「このままお前は奴隷ギルドに引き渡されるのよ。貴重なスキルホルダーはそれだけで価値が跳ね上がるからねぇ」


 この人達、名前だけじゃなくて私のスキルも知っていたのか。


「そこまで知っておきながら、よく平気でいられますね」

「あらあら、もしかしてスキルを使用するつもり? でも無駄よ」

「え?」

「いいか? この馬車の椅子は、神罰石製だ!」

「――ッ!?」


 そ、そう言われてみると、確かにスキルが発動出来ない。


「そういうわけだ。ちなみに俺たちの椅子は普通の椅子だ。高級だけどな」


 高級の情報はいらないのです。


「さて、下手に動かないでね。スキルがあれば問題ないとはいえ、出来れば無傷で済ませたいから」

 

 女のほうが腕をめくると、アームクロスボウが出てきた。腕に巻き付けるタイプの小型のクロスボウだけど、この距離なら十分驚異になる。スキルが使えないならなおさらだし、何かしらの薬が塗布されている可能性もある。


「……一つ疑問があるんだけど」

「何かしら?」

「シルバークラウンの入り口では魔道具で嘘を確認されるはずよ。それはどうしたの?」

「あは、あんな気休め程度の魔道具、破ろうと思えばいくらでも手はあるわよ」

「あんなものに引っかかるのは三下の連中ぐらいさ。あの手のはねずみごっこだからな。とはいえ国も何度か術式を変えたりしてるようだが、入れ替えるのに時間がかかる国と俺らみたいな裏側にいる人間じゃフットワークが違いすぎるのさ。いくら入れ替えようが裏ギルドがすぐに解析し抜け出る手を考える」


 ふたりが嘲笑うようにいった。なるほど、だからこそ魔道具より手配書の方が優先されるんだ。手配書は基本的に事実だから破られる可能性のある魔道具より信憑性が高くなるということなんだろうけど、でも――


「……カルタ達の手配書はどうやったの? あれだって偽物なんでしょ?」

「悪いがそこまでは教えられない」

「何かっこつけてるのよ。そもそもそっちは私達の範疇にないわけだしわかるわけないじゃない」


 範疇にない? この人達はあの手配書に関係してないってこと?


「なら、どうやって私のことを知ったの?」

「そこまでだ。俺たちは親切でお前を連れてきたんじゃねぇんだ。そんな簡単にペラペラと情報なんて明かすかよ」

「そういうこと。それに、そろそろ護衛と合流するしね」

「護衛?」

「そうさ。盗賊ギルドにも依頼してたからな」


 それって盗賊が護衛するってこと? 間違いなく表の人たちじゃないと思っていたけど、裏の人たちってそうなんだ。


 でも、どうしよう。カルタは大丈夫だと言っていたようだけど――そしてそんな事を考えている内に馬車の速度が緩み、そして止まった。


「よし、ついたようだな。おい、お前にも一旦降りてもらうからな」

「!? いや、やめて!」

「うるせぇ! おとなしくつけとけ!」


 うぅ、スキルが使えない私だとこの男の力には抗えない。結局腕に神罰石製の枷を嵌められてしまったよ。


「さぁ来い!」

「ふふ、こいつは私以上に気が短いから大人しく従った方が身のためよ」


 そして馬車の外に出る。ここはどこだろう? あまり草木の生えてない荒野っぽいところで降ろされた。

 

 周囲には岩山が鎮座している。するとゾロゾロとフードを目深に被った集団がやってきた。これが、盗賊の護衛?


「よぉ、随分と揃えたな。飢えた(ハングリー)黒狼(ブラックウルフ)さん」

「……ヘアちゃんは無事みたいだね」

「は? ヘアちゃんって、随分と馴れ馴れしいやつだな。あ、さてはお前、こういうのがタイプなのか? だが駄目だぞ、こいつはこれでかなりの高値で売れる予定なんだ。傷物にするわけにはいかねぇ」

「そうだね、そんなことは十分に判ってるよ」


 私はすっかりモノ扱いだ。でも、なんだろう? 今話してる人、声に聞き覚えがあるような?


「確かに傷物には出来ないな。その子、カルタの大事な子みたいなようだし」

「え?」

「!?」

「な、て、テメェら! 飢えた黒狼じゃねぇな! 一体なにもんだ!」


 何か様子がおかしい。それに、私とカルタのことを知っているような口ぶり、これって――


「うん? あぁその飢えた黒狼ってのは――」


 すると、フードを被った彼らが一斉に何かを抱え私の両親を語った二人に向けて放り投げた。


 それが十数体、ドサドサドサッ、と雨のように地面に落下。それは、それぞれ手に武器を持った人たちであり――


「さて、飢えただけの黒犬(・・)はこの通り片付けさせてもらったから、後はその子を返してもらうだけだね。覚悟はいいかな?」




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