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第38話 まさかのまさか

前回のあらすじ

レッドライジング倒した


いつも応援に感想をありがとうございます!

「……僕の方は全部で二十匹、それでカルタ、君の方は――」

「同じく二十匹、どうやら引き分けのようだな」


 俺たちが森を出て予定通り馬車の前まで戻るとそこにはリャク達の姿があった。

 話を聞くに少しだけ早く戻ってきていたようだが、時間による差は殆どないと言っていいだろう。


 そして互いに狩った獲物を見せあったわけだが――結果としては同数で終わった。尤もこちらは当初の予定にあったデッドリーウルフだけ見せた形だけど。


「ひきわ、け? は、はは。馬鹿な、ありえない。そうだありえない。僕たちがお前なんかに、さては、そうだ、さてはお前! 何か卑怯な手を使ったな! そうだそうに決まってる! 大体こんなに晴れてるのにずっと森のなかで雷が鳴っていた。あれが証拠だ!」


 驚いた。何を言い出すかと思えばそのことを持ち出すとは。大体あれは俺たちが起こしたものではない。レッドライジングという魔物によって起こされたものだ。


「おい、いいかげんにしろよ。大体本来俺たちは」

「――ドヴァン」

「……チッ、そうだったな」


 ドヴァンが右手で髪をかきむしる。面白くなさそうな表情だがここは耐えてほしかった。


 今、彼はレッドライジングを狩ったことを思わず口走りそうになっていたが、森のなかでそのことは黙っておこうという形で話はついた。


 理由はその話を持ち出したところでリャクは信用しないだろうというのが一点。それに、その話をすると逆に面倒なことになるのは間違いないというのが一点。


 勿論それを見せて勝利を宣言してもいいが、そもそも俺は別にこの勝負にそこまで拘っていない。前もって言っていたとおりヘアを賭けるような話には応じてないし、気に入らない相手だからいずれは見返したいという思いもあるけど、それはここではないと思っている。

 

 そもそも俺はまだ冒険者として登録もしてないからな。スタートラインにすら立ってないのに勝った負けたなんて言う方が烏滸がましい。

 

 それに――これはジェゴブからの情報だが、レッドライジングの素材というのは非常に高価だ。赤雷を操るレッドライジングは魔臓からしてかなりの高値であり、毛皮も頑丈かつ雷への耐性があるということで重宝されるし、爪も牙も武器の材料として申し分ないのだとか。


 だけど、それだけにその素材を所有しているということがバレるとトラブルに巻き込まれやすい。盗賊は勿論、同業の冒険者ですら躾のなっていないタイプなら奪いにやってくるという。

 

 この場でリャクに話したとして彼らが直接手を出してくるとは思えないが、何らかの手で俺たちが高価な素材を持っていることを吹聴してしまう可能性がある。


 そんなことになれば結果的に厄介事に繋がるだけだ。だからここでは敢えて触れない。まぁ、あの魔物を相手にしてもなお引き分けにまで持ち込めたのはわりと驚きだったけどな。


「とにかく、お前たちがどう思おうと俺たちはこれだけの獲物を狩った。これが事実だ。大体最初にいったが別に勝負のつもりでやったことじゃない。納得しないのは勝手だが、お前たちがどう思おうが俺たちはこのままシルバークラウンを目指すだけだ」

「くっ、君! 君は本当にこれでいいのか! どう考えても君はこいつらに利用されているだけだろ! あの雷だって君がもっていた魔道具を提供したからこそなんだろ? こいつらの力じゃない! このままじゃただ騙されて搾取されるだけだ。下手したら必要なくなった途端パーティーを追放されたり捨てられたりするかもしれないんだぞ!」


 お前がそれを言うかよ……。


「……何を勘違いしているか知りませんが、私は魔道具など提供してませんよ? すべてカルタも含めた皆の実力によるものです。いい加減勝手な決めつけは辞めて欲しいです! 不愉快です!」

「お嬢! よく申されました! 後テメェ、リャクとかいったな。全く心優しいお嬢にここまで言わせるなんてよっぽどのことだぞ? 正直言ってお前のその態度も性格も見ていて不快だ」

「なッ! くっ、ひ、卑怯な真似でもしないと魔物一匹狩れない無能のくせに、よくもそんなことを――」

「お言葉を返すようでゴブりますが――」


 ヘアに嫌悪感を顕にされ、ドヴァンからも呆れたように言われ、リャクのプライドもズタズタといったところか。


 それにしてもここまで見境がなくなるなんてな。それでもまだ納得がいってないようだけど、ジェゴブが更に追随し。


「先程から貴方は卑怯だなんだと申されておりますが、例えご主人様が魔道具を使っていたとしても、そのことに何か問題があるのでしょうか? 魔道具というのは道具。使うためにあるものです。ましてや戦闘用の魔道具であれば冒険者でも普通に使用すること。にも関わらず魔道具を使うことそのものを卑怯なように言われるのはあまりに見苦しいかと――正直魔道具があるから負けたんだという言い訳にしか聞こえないでゴブりますが?」

「う、あ、うぅ」

「な、あんた言うにことかいて何を馬鹿なことを! 魔道具を使って狩ったのと、実力で狩ったのでは意味が全く違うっす――」

「プッ、は、あはっ、あ~っはっはっはっはっは!」


 ジェゴブの発言にぐうの音も出ないと言った様子のリャク。

 あわててホミングが援護しようと口を開くが、そこへ全く別の方向から大きな笑い声が聞こえてくる。


 笑いに注目がいく。皆の視線が向かった先には、リャク達の御者を務めていたエリートの姿。御者台の上から背中を見せたまま笑い声を上げていたようであり。


「ち、ちょっと貴方、何がおかしいのよ!」

「え? あぁこれは失礼。いやなんというか、話を聞いていたらおかしくなってしまって。気を悪くされたなら申し訳ない。ただ、一つだけ言わせてもらうなら――」


 そしてエリートは御者台から降り、顎をさすりながら若干困ったような表情を見せつつ続けた。


「これはどう見てもそちらの、え~と、カルタ君だったかな? うんそれに他の仲間達、彼らの言っていることのほうが正論だね。これ以上は皆さんの株を下げるだけですし、引き分けで手を打っておいた方が無難かと、私は思いますけどね」





 結局、あのエリートという御者の介入もあって、あの場はすぐお開きとなった。

 リャクは終始納得のいっていない顔をしていたけど、ノーキンが流石にこれ以上ここに留まるわけにはいかないと促したのも大きかった。


「ふぅ、それにしても妙に疲れたな」


 あの場から離れてしばらく馬車を走らせた後、俺たちは適当に休めそうな場所を見つけ、休憩をとることにした。


 昼食は今回もジェゴブが用意してくれた。相変わらず彼の作る料理は美味しい。やっと一息つけた。


「ゴブろう様ですご主人様」

「それにしても面倒な奴だったなアイツは。お嬢にもしつこくいいよってたし」

「あはは……ちょっぴり苦手かもです」


 苦笑するヘア。言葉を選んではいるけど相当嫌だったんだろうなというのは雰囲気でわかる。


「皆様精神的にかなりお疲れのようですから、こちらをどうぞ。癒やしの効果があるハーブティーでゴブリます」


 外でもしっかり紅茶の用意できるジェゴブの心意気がにくらしい。香りも凄く良くて心が洗われるようだ。


「それにしても、あのエリートという男。なんで御者なんてやってんだろな?」

「え? どういうこと?」

「いえね、纏っている空気が明らかに普通と異なっていたんですよ。アレは相当な強者ですよお嬢」

「そ、そうだったんだ」

「はい、確かにドヴァン様のおっしゃられる通りでゴブりますね」

「その様子だと、ジェゴブも気がついていたんだ」


 この中で気がついていなかったのはヘアだけだったようだ。

 仕方ないけどな。ヘアはかなり強くはなったけど根っからの戦士というわけではないわけだし。


「そうですね、例えばご主人様に対して随分と失礼な物言いを繰り返していたリャクという男やその仲間が、最初にダンジョンにやってきて私と戦うことになっていた場合――うぬぼれが過ぎると思われるかもしれませんが、皆さんを相手したときのように負けることはなかったと思います」


 少々控えめに前置きはしたものの、その口調は確信めいてもいた。ジェゴブの戦闘勘と洞察力はかなりのものだしな――


「ですが――もしそこにあのエリートという男性が加わっていたら話しは別です。私は彼一人にあっさりと敗北することでしょう」

「そ、そこまでなんですか……」



 ヘアが驚いている。今回の狩りにおいても、そしてレッドライジングとの戦いぶりを見ても、ジェゴブの実力がかなり高いことは歴然だった。


 だが、そんなジェゴブがはっきり負けると明言するほど、あのエリートは強い。

 そしてそれは俺でも十分納得できることであり。


ラグビル・エリート

称号:Bランク冒険者

ステータス

総合レベル60

戦闘レベル35

魔法レベル0

技能レベル25

スキル

オールアウト

タイプ:物理強化系

総合評価A-

パフォーマンスS

コストS

リスクS

強化系の中でも強化率が非常に高い。使用すると攻撃の重さもスピードも超加するが、全てを出し尽くすためスキルの効果が切れると暫く動けない。


 これがついつい行使してしまい得られた鑑定結果だ。そう、あのエリートという男はBランク冒険者。だけど、何故かリャク達の御者として行動をともにしていた。


 それがなぜかはわからないけど――ただ、彼は最後に耳元でこんなことを言い残して去っていった。


『君たちが倒したのって本当にデッドリーウルフだけかな?』






◇◆◇


「おいリャク、いい加減引きずるな。頭を切り替えろ。そろそろマルデ村だぞ?」

「……は? 何を言ってるのかな? 僕が引きずる? あんな奴のことを? ハハッ、まさか、大丈夫だよ。そうさ、あんなのはただのお遊びに過ぎなかったんだから」

「……それならいいんだけどな」


 全くノーキンも何を言ってくれているのか。大体、あんな卑怯なやつらに何を言われたところで僕からしてみたら地面を宣う蟻が吠えてる程度にしか感じられない。


 まぁ踏み潰そうと思えばいつでも踏み潰せたけど、敢えて見逃したのさ。ただ、あの女の子は本当に可愛そうだ。


 いずれ目を覚まさせる必要はあるだろうね。あんな口が上手いだけの連中が強いだなんて信じ切ってるんだから。


 そうさ、そのためにも先ずはこの依頼だ。初めてのダンジョン攻略を華麗に終わらせてさらなる名声を得る。


 支部長は評価の判断材料にするなんてまどろっこしいことを言っていたけど、実力は間違いなくCランク級の僕たちだ。


 このダンジョン攻略を難なく終わらせれば間違いなくCランクに昇格出来る。

 ギルドに、しかも英雄豪傑という最強のギルドに登録してこの早さでのCランク昇格は異例中の異例だ。

 

 その実力を知れば、あいつらなんかより僕のほうがより魅力的なのに気がつくはずだ。カルタより凄い! と目をキラキラさせてこの僕の下へやってくるはずだ。


 フフッ、そうだよ。今回のメインはあくまでもダンジョン攻略なんだから、あんな他愛もないことにこだわる必要ないんだ。


 そうとわかれば村まで急ごう。そしてすぐにでもダンジョン攻略に――





「は? 今なんて?」

「いえ、それがですな。実はダンジョンはもう攻略されたんです。旅の方が魔核を破壊してくれましてな」


 村に着いた僕たちは早速話を聞きに村長の家に向かったがそこで告げられたのがこれだ。


 はい? 旅の人がダンジョン攻略? ナニヲイッテルノカナ、コノハゲハ?


「村長、それでその旅の者の名前は聞かれましたか?」

「えぇ。なんでも冒険者を目指している少年たちで、特に目立っていた少年はカルタと呼ばれてましたな」

「カルタだって!」


 思わず声を張り上げてしまう。しかし僕にとってそれはあまりに衝撃的な事実だった。


「そんな、あのカルタが、そんなことありえるんっすか?」

「信じられないわ。あの狩りだってありえないのに……」

「いや、これはむしろハッキリしたと言ったほうがいいだろう。やはりカルタは以前に比べパワーアップして」

「ありえないんだよ! 馬鹿なこと言うな! ノーキン! お前はずっとアイツの肩を持ってるよな? 一体どういうつもりだ!」

「……別に肩などもったつもりなどない。俺は客観的事実を言ったまでだ。それより依頼人の前だぞ。少しは弁えろ」


 クッ、こいつ脳筋のくせに、この僕に意見? 弁えろ? 何様のつもりだ!


「いやはや、なにか申し訳ありませんね。さぁ皆さん、どちらにせよダンジョンが攻略された以上仕方ありません。ここは――」


 今度はエリートか。なんでコイツラ揃いも揃って出しゃばってくるんだ……。


「あ、しょ、少々お待ち下さい! 確かにダンジョンは攻略されたのですが実は別の問題が一つ浮上しまして」


 別の問題、だと?


「ダンジョン以外の問題ってなんなんっすか?」

「はいじつは――」

 

 そして村長が僕たちに説明してくれた。それによると狩りにでかけた狩人が途中でレッドライジングを見かけたのだという。


 レッドライジングと言えば本来ならBランクの冒険者も一緒でなければとても勝てないとされるほどの相手。


 それだと――


「……話はわかったが、相手がレッドライジングであるなら正直我々だけでは厳しいと思う」

「そ、そうっすね。めったに現れることがないらしいっすし、かなりレベルが高いとも聞くっす」

「それにレベル以上に攻撃手段が相当厄介だと聞くわ。赤雷というのを操るからレベルだけでは実力が測れないと言うし、ねぇリャク。ここは素直にギルドの判断を仰いだほうが」

「はは、何を言ってるのかな? そんなもの請けるに決まってるじゃないか。まったくグローリーブレイヴのメンバーがそんな弱気なことじゃ困るよ」


 え? と全員の声が揃うけど、ギルドに報告だけして終わらせるなんて冗談じゃない。あいつらが本当にダンジョンを攻略していたとして、どんな卑怯な手を使ったか知らないけど、だったら僕たちはレッドライジングを退治して実力を見せつけるだけだ!


「お、おい、リャクいくらなんでもそんな事勝手に」

「うるさいよ。このパーティーのリーダーは僕だ。僕に決定権がある。というわけでその討伐依頼、僕たちが責任持って請けますよ」

「おお本当ですか!? いや本当にタイミングが良くてよかった」

「ははっ、冒険者として当然ですよ。それで、レッドライジングはどこに向かったかはわかりますか?」

「はい。話だとエサアールの森に向かったと……」

「……は?」

「え? いえ、ですからエサアールの森です」


 何を言っているんだ? 耄碌でもしているのか? 今の話を聞くにエサアールの森だけは絶対にありえない。


 発見された日で考えても、もしその時点であの森にいたなら僕たちが目にしないわけがないんだから。


「あの、それはありえないっす。何せ自分たちがちょっと前までその森で狩りをしてましたっす」

「えぇえ! そうなると、ま、まさか更に別な場所に?」

「いえ、それはないでしょう」


 村長のでたらめな話にうんざりしていると、御者のエリートが口を挟んできた。


 こいつ、あの時から随分とでしゃばってくるようになったな……。


「え~と、ないというと一体?」

「あぁこれは失礼致しました。ですが村長。その件はもうそれほど心配しなくてもいいと思いますよ」

「は? 何を言ってるの? レッドライジングが出たのよ?」

「えぇ、そうなんでしょうね。ですが、私の予想では恐らくそのレッドライジングは既に倒されています」

「「「「は?」」」」


 全員の声がついハモってしまった。しかし、こいつは一体何を言っているんだ? 倒された?

リャク達の計算が狂い始めてます。

そしてジェゴブは安心してください!元気ですよ!

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