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第35話 マイナスジェントル

今日は逆に早めに更新で!

三章の名称を変更しました。

いつも感想や評価を頂きありがとうございます。


「やれやれ、この僕がよりにもよってマイナスなジェントルだなんて悪い冗談だよ」


 どうでもいいけど、こいつこんな性格だっけかな? 少しというかかなりというか相当残念になっている気がするぞ。


「ジェゴブの言ってることに間違いはないだろ」

「そうですね。ナイスジェントルなジェゴブが言ってるのですから、間違いなくマイナスです!」

「くっ、君までそんな。だ、大体なんで君はこんな男と一緒にいるのかな?」


 どうやらリャクはジェントルにマイナス判定受けた事もそうだが、ヘアに悪い印象を持たれたことにも納得が言ってないようだ。


 どう考えても自業自得なんだけどなぁ……そもそもお前には彼女がいるだろ。そっちを構ってやれよ怖い顔してるんだから。


「そんな男だなんて、いくら知り合いだからって酷いです。カルタはそんな呼ばわりされるような男性じゃありません」

「おやおや、どうやらその様子だと知らないようだね彼の真実を」


 ヘアが眉を尖らせてリャクに言い返してくれた。何かヘアの援護射撃を受けていると、妙にむず痒く感じてしまう。勿論嬉しいことなんだけど。


「いいかい? カルタのスキルはね、なんと紙装甲なのさ! 驚きだろ? びっくりだろ? きっとこの男は君にそれを隠して上手くごまかしてきたんだろうけど、本当は屑スキル持ちのダメ人間。それがカルタさ」

「……わかりました」

「判ってくれたか。それは良かった」

「はい、貴方がスキルでしか人を判断できない可愛そうな人だということがよくわかりました!」


 な!? とリャクが絶句し、俺は溜飲が下がる思いがした。何か凄く嬉しい。


「よくいいました! それでこそお嬢だ!」

「今のはジェントルなお答えでゴブりました」

「え? そ、そうかな?」

 

 ちょっぴり照れるヘア。だけど、うん俺も今のは感慨深かった。


「ありがとうヘア。そういう風に言ってもらえて凄く嬉しいよ」

「カルタ……そんな――」


 皆から褒められて照れてるのか、ヘアの顔に赤味が増した。そして、別な意味で顔を真っ赤にしているリャクであり。


「納得がいかない! 今も言ったけどこの男は紙装甲だぞ? 判っているのか? スキルを持っているだけで紙のような装甲になるということだ!」

「たとえそうだとしても関係ありません。私達は別にスキルだけで判断して一緒に居るわけじゃありませんから」

「そのとおりですお嬢! お前もお前だ。スキルスキル、そんなものしか見れないから目が曇って本物を見極められないんだよ」

「全くですね。今の貴方、マイナス五三万ジェントルです」

「ま、マイナス、五三万だと? この、僕が?」

「はい、つまりジェントルの欠片も無いということです。まさしくバッドジェントルですね」


 マイナス値が下がるだけ下がりバッドジェントル判定まで受けたリャクの肩はプルプルと震えていた。


 すると、レーノが近づき、リャク、とその肩にそっと触れた。判っていたけど、このふたりはもうそういう関係なんだな。でもなぜか、特にこれといった感情が湧いてくることはなかった。


「ふん、良かったわねカルタ。新しい彼女が出来て」

「ふぇ! そ、そんな!」

「勘違いするなよ。ヘアは大切な仲間だけど、別に彼女というわけじゃない」

「……ご主人様、今のは少しマイナスジェントルかと」


 え?


「こりゃお嬢も苦労するな……」


 え? いやいや! ふたりこそ、それは勘違いが過ぎるっての!


「……ふ~ん。なるほどね、相変わらずのヘタレってところかしら。まぁ、私と付き合っていた時もそうだったものね」

「……え? 付き合って、いた?」

「やめろよ。今話すことでもないし、大体それすら無かったことにしろといったのそっちだろ?」

「あらそうだったわね。そっちの子が初っぽいからちょっと意地悪したくなっちゃった。でも安心して、確かにカルタとのことはハッキリ言って黒歴史。それに、キスすらしなかったもの」

「き、キス……」

「い、いやだからしなかったんだって!」


 瞳を伏せて、ズンッといた重い雰囲気を見せるヘアに妙に戸惑ってしまう。

 全く、余計なことを言ってくれる。


「ふふっ、でも本当カルタとは何もなくてよかったわ。おかげで今はリャクと幸せだもの。あんたと違ってリャクとは毎日のように愛し合ってるし。勿論ベッドの上でね」

「お、おいやめろよ。今言うことじゃないだろ?」

「あら? 別にいいじゃない? 言われて困ることでもないのだし。ねぇカルタ。どう思う? 貴方が好きだった相手が、リャクに取られちゃったのよ?」


 何故かレーノは肩を若干開けさせて、そんなアピールをしてくる。


 正直いまさらそう言われても……まぁでも。


「そうだな、一つだけ言わせてもらうなら」

「あら? 何かしら?」

「つまりレーノはバッドジェントルに抱かれた女ってことだな」

「…………え?」

「あぁ、確かにそうだな。そこの女はバッドジェントルに毎晩のように抱かれている女ってことだ」

「ちょ! 何よそのバッドジェントルって!」

「バッドジェントルというのはジェントルとは対極の位置にあるジェントル。つまりマイナス判定を受けたジェントルの最上位なる存在でゴブります。言うなれば貴方はバッドジェントルに見事見初められた存在、バッドジェントルクィーンということでゴブりますな」

「だからやめてよ! おかしな通り名付けないでよ!」

「良かったなバッドジェントルクィーン」

「ムキィイイィイィイ!」


 レーノが悔しそうに叫んだ。何か凄い顔してて色々と台無しだ。まぁこれである意味ヘアがオークと言われた意趣返しは出来たな。


「あ、あんた達いい加減にするっす! 何なんっすか一体!」

「そう言われてもな。俺たちから声かけたわけでもないし」

「くっ、大体、大体お前はなんでこんなところにいるんだ! 大人しく村に引っ込んでいたはずだろう!」

「その村から追い出されたから、折角だから冒険者になってやろうと思って登録の出来る街を目指してるんだよ」


 街だと? とリャクの片眉が吊り上がった。


「この方向だと、シルバークラウンに向かうつもりなのか?」

「あぁそうだよ」


 そして方向的に見ればやっぱリャクもそこで冒険者登録したってところか。それは仕方ないとは思っていたけどな。

 

 とは言えシルバークラウンはかなり広い都市だ。だからリャク達がいたとしてもそうそう出会うものでもないだろうと思ってたんだけど、こんなところで出くわすんだから人生何があるかわからない。


「……まさか村がそこまでするとはな」


 神妙な顔を見せているのはノーキンだ。冒険者はやめて村で出来る別な道を探せと言っていたのは彼だったな。だけど、結局村から追放されたわけで別な道どころじゃなかったが。何か命まで狙われたし。


「まぁ、言われてみればそんな底辺の中でも更に下の下なスキルを持っているんだから、仕方ないのだろうね。だけど、冒険者になるというのは聞き捨てならないな。流石にそれは人生を舐めすぎているとしか思えないよ」


 リャクは呆れたような物言いをする。紙装甲の真実を知らないのだからそういう風に思われるのも仕方ないか。


 かといって俺は俺でここで紙装甲でも頑張ればなんて台詞を言えるわけがない。実際は神装甲でかなり強力なスキルだし。


 でも、かといってスキルの詳細を教える必要もない。


「お前たちがどう思おうと構わないさ。別に何を言われても俺の目的は変わらない。シルバークラウンに行き冒険者ギルドに所属する。ただそれだけさ」

「はい! 私もそのつもりです!」

「は? 君も? 冒険者に? もしかして君も戦えるのかい?」

「え? え~と……」


 チラッと確認するようにヘアが俺を見てきた。勿論彼女のスキルを教える必要もないから軽く首を横に振って答える必要がないと示す。


「彼女は薬草について詳しい。冒険者ギルドではそういった採取系の依頼も多いからな」


 ヘアに変わってごまかすために言ったが嘘ではない。宿で働いていた、というかあのグリースに使われていたとき山に色々と採取に行かされていたことで、彼女は自然と知識が身についていた。


 勿論、それでもジェゴブに比べると知識量に差があるけど、そのためかこの旅の途中でも薬草関係について彼に教わり知識を深めていっている。


「薬草採取、ふふ素晴らしい。君はまるで森に巣食う一匹のグリーンキャタピラーのようだ」


 グリーンキャタピラーとは見た目が芋虫な魔物だ。当たり前だがそんなことを言われて喜ぶ女はいない。


「あぁ! お嬢の愛らしいお顔が険しく!」

「バッドジェントルもここまでくると逆に凄いですな」

「う、うるさい! 僕のことをバッドジェントルと呼ぶな! 失礼だろ!」

「明らかにお前の方が失礼だろ。彼女に謝れよ」


 しかしリャクは謝ろうとしなかった。悪いことをしたと思っていないのだろう恐ろしい。


「とにかく君が冒険者に向いているとは思えないし、シルバークラウンに来るのも看過出来ない。だから素直に彼女のことは僕たちに任せて引き返したまえ」

「いや、正直言ってる意味がわからないんだが……」

「ここまで言って理解できないのかね? 彼女が冒険者になる手伝いは僕たちが責任持って行うからさっさと消えろと言っているんだ」

「ちょ! 何勝手に決めてるのよ!」

「別に構わないだろ? それに薬草について造詣が深い子がいてくれると助かる」

「いや、だから勝手に決めるなはこっちの台詞だっての」


 いい加減うんざりだ。大体この状況でヘアがお前たちについていくわけないだろ。


「やれやれ仕方のないやつだ。口で言ってもわからないのならもう勝負するしか無いな」

「なんでだよ!」


 こいつ、さっぱり人の話聞いてねぇ。

 まさかここまで話の通じない奴だったとは……村でずっと一緒だったのに全く気付かなかったぞ。


「おいリャク、いい加減にしろ。俺たちには目的があるんだぞ。依頼のことを忘れたか?」

「ふっ、心配性だなノーキンは。大丈夫だよ。勝負と言ってもそんなに時間はかからない。ほら、丁度すぐそこのエサアールの森に出没するデッドリーウルフが討伐対象となっていただろ? アレを利用しよう。カルタもそれでいいな? 勝負は1時間でどれだけデッドリーウルフを狩れたかで決めよう。そして君たちが負けたら彼女を僕たちに任せて冒険者になる夢も諦めるんだ」

「それ、俺たちに何のメリットもないだろ……受ける理由がまったくないぞ」

「なんだい? 臆病風に吹かれたのかい? ははっ、やっぱりダメ人間は所詮その程度ってことだ。それなら彼女のことは僕に任せてさっさと――」

「嫌です」

「え?」


 何を言っても引き下がろうとせず、勝手な理屈でヘアを引き込もうとしている姿にいい加減うんざりしかけていたが、そこでヘアが前に出てはっきりと言い放った。


「え? 今なんて?」

「嫌だと言ったのです。そもそも私は貴方と一緒に行くつもりなんてありません。カルタと一緒だからここまで来たのです。だからこんな勝負も受ける理由がありません!」

「よく言いましたお嬢!」

「ナイスジェントルでゴブります」


 ヘアが見事に言ってくれた。これで俺たちにはわざわざこいつらの相手をする理由がなくなった。


「彼女もこういってる。残念だったな。とにかく、これでお互い用はないだろ? そっちも依頼とやらをこなす必要があるようだし」

「あぁそのとおりだ。こんなところで道草を食っている場合ではない。気が済んだらいくぞリャク」


 イライラした様子でノーキンがリャクを促す。このパーティーで一番良識あるのは彼な気がしてならない。


「……待ってよノーキン。なんで君が勝手にそんなことを決めるのかな? このグローリーブレイヴのリーダーは僕だよね?」


 グローリーブレイヴ? そういえばメンバー固定でパーティーを組む場合、冒険者はパーティー名を決めると聞いたことがあったけどそれか。


「……しかし依頼を請けている途中なのは事実だろう」

「あぁそうだ。でも、エサアールの森でデッドリーウルフが増殖しているのも事実。冒険者なら被害が出る前に対処しておくのは当然だよね? だから僕たちは君たちが乗らなくても勝手にやらせてもらうさ。勿論君たちがどうするかは自由だけど、これから冒険者を目指すって言うのに、それを放っておいて行っちゃうのかな? そんなことで君は、これからも冒険者を目指すなんて平気で口にできるのかい?」

 

 嫌らしい顔で口を開き、俺に挑戦状をぶつけてくる。全く、判りやすい挑発だな。でも、確かにそう言われてしまえばな。


「……皆、あのさ」

「好きにしろよ」

「え?」

「カルタが思ったようにやればいいさ。俺たちは文句も言わねぇし、仲間だから当然付き合うぜ」

「そうですね。それに、ご主人様の決めることならばジェントルな事、間違いありませんから」

「うん、そうだよ! 勝負なんて関係ない! 好きなようにしよ!」


 皆の後押しが単純に嬉しい。本当、俺には勿体無いぐらいだ。


「……判った。ただし勝負は関係がないし、彼女を賭けたりもしない。俺たちは俺たちで狩りをするだけだ」

「それで構わないさ。だけど、君たちはギルドに登録していない身。だから狩った獲物の数をギルドに報告できる立場にない。どの程度狩れたかは重要なことだし、だから1時間後に落ち合って獲物を見せ合うことには応じてもらうよ。いいかな?」

「……お前がそれで気が済むならそれで構わないさ」

「よし! それじゃあ狩りの場所はそこに見えるエサアールの森。対象はデッドリーウルフで1時間たったらまたここに集合だ。ところで時計はあるかい? ないなら貸すけど? 僕はこれで優しいからね」

「問題ない、時計ぐらいあるさ」

「ふ~ん、そういえば君たち馬車もそれなりのに乗ってるみたいだね。でも、一つ言わせてもらうと冒険者を目指すのにその馬車はナンセンスだ。色も派手だし、荷物だってそんなにはつめないだろ? 僕たちが所有してるような幌馬車が冒険者の活動にはぴったりなのさ」

「そうかよ。わかったわかった。じゃあ始めよう」


 あからさまにリャクがムッとしていたが、いちいちそんなどうでもいい御託に付き合っていられない。


「もし良かったらその馬車もここにおいておけば、私が見ておきますよ」

「え? いいのですか?」

「はい。ついでですから。それにその方が人数的にも丁度いいでしょう」

 

 リャクからエリートと呼ばれていた御者が馬車の見張りを買ってくれたのでお願いすることにした。


 これがリャクの仲間だったら警戒するところだけど、彼はそういったのとは違うみたいだし、鑑定が間違ってなければ信用できる相手だろう。


 さてと、まぁリャクのことはともかく、折角だから自分を鍛えるつもりで挑むとするかな。


「それにしても、随分と見当違いなことを抜かしてたなあいつら」

「馬車のことでゴブりますね。ですが仕方ないかもしれません。普通はなかなかこの構造には気づけませんでしょうから」


 馬は勿論馬車の管理もジェゴブが行っている。それだけに彼もこの魔道馬車については熟知していた。


 リャクは見た目で判断したようだが、まぁ色に関してはともかく、実は馬車の中はかなり広い。馬車には空間魔法の術式が魔道パーツを通して施されていて、中は見た目より広い作りになっているからだ。


 だから実は馬車だけでも荷物はそれなりに入るし、車内も八人まで乗車出来る。リャク達が自慢していた幌馬車よりもね。


 その上、魔法式の鍵もついているから安全面もバッチリだ。尤もそれでも馬車ごと持って行かれる可能性があるから見張りはやはり必要だけど。


 そんな事を話しながら森の中を進む。当たり前だけど入ったのはあいつらと逆側からだ。


「「「――ガルルルゥウウ」」」

「おっと早速お出ましだな」

「そのようですね。ふむ、相手は三匹、油断は禁物でゴブりますな」

「は、はい! 頑張って援護します!」


 みんな張り切ってるな。さてさて今後周囲に被害が出ないよう、しっかりと狩らせて頂くとするか――

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