第34話 期待の新星
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ザ・エリートズ、僕が考えたパーティーの名前だ。最強のギルドに所属する期待の新星に相応しい素晴らしいネーミングだろ?
だけど何故か他のみんなからは不評だった。というか僕以外の全員の意見が一致して却下された。ホミングにすらそれはねっすといわれた。
やれやれ困ったものだ。いつの世も偉大なる賢人の考えほど一般市民には理解されないものである。
なので仕方がないので次に僕はパーフェクトエリートスターというパーティー名に決めようと言った。なぜかそれも却下された。
こういってはなんだが、正直僕以外のメンバーのセンスはどうかしてると思う。戦闘面では僕ほどではないにしても中々使える面々だけにそこだけが残念だ。
結局パーティー名はグローリーブレイヴに決まった。なんとも地味な名称だ。どうせならスーパーエリートジャスティスとかにすればいいのに。
まぁいいさ。僕たちは初のダンジョン攻略に挑むためシルバークラウンを出た。距離はあるから馬車になる。勿論パーティーで購入した専用の馬車だ。
愛馬ジャスティスに御者も雇っている。名前はエリートだ。素晴らしい、僕が所属するパーティーに相応しい馬と御者だ。
それにしても何の因果か、今回向かうダンジョンは丁度僕たちの生まれ育った村に戻る途中にある。
勿論それでもシルバークラウンよりではあるから、ついでに村に立ち寄ろうかという気にはなれないけど。
まぁでも、その内一度ぐらいもどって、あの屑スキル持ちのただの知人に、レーノとの関係を見せつけてやってもいいか。
尤も、まだ生きていればの話だけど。何せ紙装甲だ。何をやったところでいつ死ぬかわからないような貧弱な体だ。
そう考えると哀れなやつかもな。僕みたいに英雄になるために与えられたような強力なスキル持ちと、一方で人生の坂を転げ落ちるのが約束されたような屑スキル持ちとの差がここまで明確になったのだから。
それに僕たちはパーティーのバランスもいい。矢面に立ち筋肉増強スキルで壁となり敵の動きを食い止めるノーキン、そして精霊使いのスキルで状況にあった精霊魔法を行使できるレーノ、追尾スキルで狙った獲物は決して逃さないシューターのホミング、そして強化武装スキルを有し、あらゆる場面で臨機応変に対応できる究極のオールラウンダーであるこの僕リャク。
そんな僕たちに掛かれば恐れるものなんて何もない。
実際、途中魔物にも色々遭遇するが僕たちは無敵だった。正直シルバークラウンからリトルウィレッジ村までの間に存在する魔物など脅威でもなんでもない。
今なら全員で挑めばあのデスグリズリーにだって勝てるかもしれない。
当然、これから挑むダンジョン攻略だって失敗などあるはずもない。村からの情報だとダンジョン出現後、妙にゴブリンが目立つようになったと言うが、ゴブリンと言えば冒険者の間でも数でこられると厄介とされる相手。
だけど、そんなのはスキルに恵まれていないうだつの上がらない冒険者が言うような台詞だ。僕たちにかかればゴブリン程度、目をつむっていても倒せる。
何せ僕たちは冒険者の壁とされている、レベル20をこの短期間であっさりと突破したのだから、並の冒険者と一緒にされては困る。
「さて、そろそろ村につくかな?」
「リャク、流石にまだ着かないと思うわよ?」
「そうかい? でもレーノ、外はいい天気だし、ずっと馬車の中にいるのも息が詰まるよね」
僕は幌を広げて上に飛び乗った。これで結構丈夫な布で出来てるから僕一人ぐらいなら平気だ。
「またそこですか? 好きですね」
御者のエリートが声をかけてきた。ギルドの受付嬢が紹介してくれた信頼できる御者だ。名目こそ御者だけど腕っぷしも強く、背中に斧も背負っている。
肩幅が広く、顔は角ばっていて風格もあるが目元は優しい。仕事なので馬車を襲うような魔物が入れば斧で追い払うぐらいするが、本人曰く、あまり戦闘は好きではないのだとか。
「そろそろ村に着くかな?」
「ハハッ、流石にまだですよ。そうですねこのペースだと陽が落ちるまでには着けるとは思いますが」
僕は魔法時計を取り出してみる。見た目は懐中時計だが、ネジ式と違って魔石が動力なのでこまめにネジを巻く必要がない。
それなりに値の張る魔道具だけど、僕たち結構稼いでるからね。
時刻は午前10時を回ったところだ。この時期陽が落ちるのは午後6時頃だから、あと八時間ぐらいは掛かるってことか。
やれやれまだ結構かかるね。そんな事を思いながら周囲を眺めていると、ふと街道から脇にそれた馬車が二台、目に入った。
一台の方に乗っていたと思われるうちの一人がしきりにもう一台の馬車側の乗り手にお礼を言っている用に見えたが――お礼を言われてる方の男の顔を見た瞬間、先ず頭に疑問符が浮かんだ。
「エリート! 馬車を止めて!」
「え? は、はぁ……」
戸惑う彼を他所に、すぐに幌を捲り全員に声を掛ける。
「みんな、今すぐ馬車を降りて。ありえないやつがいた!」
◇◆◇
俺たちの旅は順調に進んでいた。シルバークラウンまでこの馬車なら今日中には着けるだろう。
そんな時、御者を務めていたジェゴブから声が掛かった。
道の途中で横倒しになっている馬車があるというのだ。放っても置けないので一旦止めてもらい大丈夫ですか? と声をかけた。
護衛の冒険者も馬で同道していたようなんだけど、肝心の馬車の車輪が外れてしまっていて立ち往生していたらしい。
魔物にでも襲われたのかと思ったけど、そうではなくて単純に老朽化が原因のようであった。
護衛で雇われた冒険者は馬車の構造には明るくなく、車輪もパーツが完全に壊れて折れてしまってる状況。
これだとどうしようもないかな? と悩んでいると。
「ふむ、この構造でしたら、この近くの樹木を上手く利用すればなんとかなると思いますよ」
なんとジェゴブがそんなことを。その後、俺達も協力して樹木を切り倒し、それをジェゴブが器用に加工し、見事馬車の部品を作り、外れた車輪を直してしまった。
「本当にありがとうございました!」
「いえいえ、正しこれはあくまで応急処置に過ぎません。町についたらちゃんとしたところで見てもらった方が宜しいでしょう」
「あの、何かお礼を」
ジェゴブがどうしましょうか? と目で訴えてきたけど仕事はほぼジェゴブだよりだったら任せると答えた。
「そうですね。ではお礼は皆様の笑顔で結構でゴブります。所詮素人に毛の生えた程度のお仕事で代金など受け取るわけにはいけませんからな」
「ジェントルだ!」
「なんてジェントルなのかしら!」
「ジェントル過ぎて眩しい!」
今日もナイスジェントルなジェゴブである。
「しかし、本当に私の判断で宜しかったのでしょうか?」
「構わないさ。それに困っている時にはお互い様だしね」
そして俺たちも改めて出発しようと馬車に乗り込もうと思ったのだが。
「全く、驚いたよ。一体どんな手を使ったかしらないけど、まさかあの屑スキル持ちの君がこんなところまで来ているなんてね」
そんな聞き覚えのある声が耳に届く。まさか、と思って振り返るが。
「げ……」
思わずそんな言葉が漏れた。まさかこんなところで再会出来るとは思わなかったし、別にしたくもなかった。
「リャク、レーノ、ホミング、それに、ノーキンか……」
「ふふ、久しぶりの再会だねただの惨めな知人くん」
敢えてレーノを横に立たせ、腕を絡ませて嫌味くさい言葉を吐いてくる。
全く、ただの知人扱いなら声かけてこなきゃいいだろうに。
「それで、あんたこんなところで何してるっすか?」
「困っていた人がいたから手助けしてたんだよ」
「そんなこと聞いてないっす。馬鹿っすかあんた?」
「まぁまぁ、それにしても、自分の頭の上の蠅でさえも追えないような君が人助けだなんて、中々笑える冗談だね」
「……そんなことを言う為にわざわざ声をかけてきたのか? なんだ冒険者になれなくて暇でもしてるのか?」
リャクの笑顔が貼り付いた。わりと神経を逆なでることが出来たようだ。
「あんた馬鹿っすか? 俺たちは依頼を請けてる途中っすよ。これからダンジョン攻略っす!」
「ダンジョン?」
「おいホミング! 守秘義務があるのを忘れたか!」
ノーキンが怒鳴ると、いけねっす、とホミングが口を押さえた。今更だな。まぁ俺からしたらどうでもいいことだけど。
「どうしたカルタ何かあったのか?」
「はい、どうやらご主人様のお知り合いのようです」
「ご主人様?」
レーノの眉がピクリと判断した。
「ご主人様って、その緑色のおかしなのにそんな呼ばれ方して喜んでるの? ふふっ、面白い」
「妙な顔色したのと、隻腕のおっさんっすか。なんとも奇天烈っすね」
「あ? なんだとコラ」
「おっと、くわばらくわばらっすね。気が短そうっすよこのおっさん」
「……いい加減にしておけよ」
流石にこの物言いには腹が立つ。俺の言葉にも険がこもった。
「あらあら、もしかして怒ったのかしら? あんな使えないスキルを持っていて、口だけは一人前なのね」
「別に今更俺のことで何を言われようが気にもしねぇよ。でも、ふたりは大事な仲間だ。仲間を馬鹿にするのは許さねぇ」
「――ッ、な、何よカルタのくせに生意気ね」
レーノがたじろぐようにして答える。
「……よくわからないが、知り合いと言ってもいい意味ではなさそうだな」
「どうやらそのようですゴブりますね」
ドヴァンもだが、普段ジェントルなジェゴブからも穏やかでない雰囲気が滲み出てきた。
「な、なんっすか。やるんっすか!」
「いい加減にしろお前ら! 俺たちの目的を忘れたのか!」
互いの間で剣呑な雰囲気が漂う中、ノーキンが一喝した。
そういえばノーキンはかなり真面目な奴だったな。
「確かにノーキンの言うとおりだったね。ちょっと村の知人に会ったから声を掛けるだけのつもりだったのだけど、話がそれてしまったよ」
あくまで知人というスタンスを変えるつもりはないか。
「あ、あの、カルタ何かあったの?」
その時、馬車からヘアが出てきて心配そうに声をかけてきた。中々馬車を出さないから気になって出てきたんだろうけど。
「……は?」
その時、リャクの目の色が変わった。そして目を瞬かせ、ヘアの姿に釘付けになる。
おいおい、何か嫌な予感しかしないんだが――
「君の名は?」
「え?」
「だから、君の名は?」
「な、なんなんですか突然!」
「テメェ、勝手にお嬢に近付くんじゃねぇよ!」
スタスタとナチュラルにヘアへ近付こうとするリャクをドヴァンが防いだ。ナイスガード!
「ちょ! リャク何してるのよ!」
そしてレーノが不機嫌そうに叫んだ。目が怖いぞ。
「いや、これは失礼。ははっ、まさかこんなロクなスキルも持ってないような男の側に君のような少女がいるとは思えなくてね」
髪をかきあげながらレーノの横に戻るリャクだが、ヘアに対する視線は変わらない。何故かイラッとくる。
「いやはや、本当に驚きだよ。まさか、こんな男たちの中に君のような子がいるとは」
またなにか語りだしたぞこいつ……。
「ちょっとリャク、いい加減にしなさいよ!」
「黙ってろレーノ。あぁそれにしても素晴らしい。君はまるでゴブリンの群れの中、一人だけ存在感を示しているオークのようだ」
「……は?」
「あん?」
「「「…………」」」
リャクの発言に俺もドヴァンも目を白黒させる。なんだ、今こいつなんて言った?
「……オーク、私がオーク――」
「ふっ、そんなに喜んでくれるとは光栄だね」
「どう見ても悲しんでるだろ!」
「お嬢、気をしっかり! オークなんかに似てませんよ!」
傷ついているヘアをドヴァンが慰める。それにしても、驚いたことにこいつ――
「悲しんでる? はは、何を馬鹿な。ねぇ?」
「……いや、お前本気か?」
「え?」
「正直他の女に目移りするその態度に腹も立つけど、それでも敢えて聞くけどなんでオークに例えたの?」
「ははっ、そりゃゴブリンに比べたらオークの強さのほうが絶対的だからに決まってるじゃないか」
「なんでっすか! なんでそこで強さを基準にしたっすか!? おまけにオークって、絶対に女性でやっちゃいけないたとえっすよ!」
「え? はは、まさか~」
「「「お前マジか?」」」
てっきり嫌がらせのつもりなのかと思ったけど、この様子だと、本気だったのかこいつ――
「……やれやれこれは、マイナス五万ジェントルですな」
「は? マイナス、この僕が!?」
「はい、マイナスでゴブります」
信じられないと言った顔を見せるリャクだが、さすがのジェゴブは誰が見ても納得の査定をしてみせたのだった。




