第33話 マルデ村にて
今日は更新が遅れてしまいました。
いつも感想や評価を頂きありがとうございます。
ペット枠は冗談です。
「皆様ゴブろう様です。間もなくマルデ村が見えてまいりますがどう致しましょうか?」
御者を務めるジェゴブが訪ねてきた。どうしましょうかとは、このまま村まで行ってよいか? という意味だろう。
ジェゴブが御者になってくれて本当に助かった。戦闘中もジェゴブが馬車を守ってくれるし、倒した魔物の解体もジェゴブが手伝ってくれる。
魔臓処理用の魔法のナイフなんかも持ってきていたけど、ジェゴブはそれの扱いも完璧だった。魔法のナイフは魔臓に巡る魔脈を断ち切る際、出口を固めて魔力の漏出を防ぐ事ができる。
だけど魔物によって魔脈の流れが異なるから、完璧に処理するのは本来難しい。だけどジェゴブはそのへんの知識も完璧だった。
おかげで解体作業も随分と楽になったよ。勿論頼りっぱなしってわけにもいかないからジェゴブに教わったりもしてるけど。
そんなジェゴブだけど、ちょっと前まではダンジョンのボスをやっていた。今からいくのはマルデ村だし、そこに近くでボスをしていた自分が近づくのはまずいと思ったのだろう。
あまり気にすることもないと思うけど、確かに余計なトラブルを引き起こすのは、ジェゴブからしても不本意なようだし、今回は一旦指輪の中に戻ってもらうことにした。
御者は一旦ドヴァンが変わる。
そして村に入る。村の前には見張りで立ってる若者がいた。とは言え俺たちについて何か色々聞いてくるようなことはなく、すんなり通してくれた。
村に入ってからは馬車から降りて、ドヴァンが馬を引く形で進んだ。村だけど俺の暮らしていた村よりも広いかな。二百世帯ぐらいは暮らしてそうだ。
さて、とりあえず宿の件と、あとダンジョンの事も聞いてみたほうがいいかな? と思っていたんだけど。
「おや、君たちは旅人かい?」
俺たちに声をかけてくる人がいた。恰幅の良いおじさんだった。髪の毛は谷みたいになっている。つまり真ん中がさっぱりしている。
「はい、旅の途中で立ち寄らせて頂きました。ひとまず宿があれば一泊お世話になろうと思っているのですが」
「宿かい。それはあるにはあるけど、でも一泊ならともかく、出来るだけ早めに旅立ったほうがいいと思うよ」
「何かあったんですか?」
難しい顔で答えてくる彼にヘアが反問した。何か問題でも起きてるのだろうか?
「近くでダンジョンが生まれたんだよ。まだ出来たばかりだけど、ダンジョンが生まれると周辺の危険度が増すし、村でも警戒を強めているんだ。何か起きてからじゃ遅いし、旅人なら出来るだけ早めに出たほうがいいよと警告してあげてるのさ」
「あぁ~」
なるほど、と三人で得心の言った顔を見せる。なんともタイムリーだな。そしてその心配はもう不要だったりする。
「それならもう心配いりませんよ」
「何を言う、ダンジョンだよ? 心配だよ。心配で夜も眠れないし、髪の毛も抜けまくりだよ」
それダンジョンのせいだったのか? それにしてもメンタルが繊細な人だな。
「だから心配いらないんだって。ダンジョンは俺たちが攻略したからな」
「……はい? ダンジョンを攻略?」
「は、はい! ダンジョンというのがここから北に行った山の途中にあるものなら、間違いないです!」
ヘアが補足してくれる。まぁダンジョンなんて近場で何個も湧くものじゃないから間違いないと思うけど。
「……君たちが、ダンジョンを?」
「はい、そうです」
「そうかそうか。うん、ちょっと君たちここに座りなさい」
「はい、え? ここに?」
急に座りなさい言われた。でもそこは地べただ。俺も含めて困った顔を見せてると。
「いいかい? 昔々あるところに一人の嘘つきな青年がいた」
(((何か語りだした)))
とりあえず座って無くてもよさそうだ。
「その少年はことあるごとにドラゴンがやってきたぞ~と村で騒ぎを起こしていた。勿論嘘だったわけだが」
「あ、それ私知ってます。ドラゴン少年ですよね?」
「話の腰を折らずに最後までちゃんとききなさい」
「はい……」
ヘアがしゅんっとしてしまった。とは言えこれは凄く有名な物語だ。ある村にドラゴンがきたぞーと嘘をついて騒ぎ立てる少年がいた、それを少年は何度も繰り返した。
そんなことを続けている内に村人は誰も少年の話を信用しなくなった。しかしある時村に本当にドラゴンがやってきた。
少年は慌てて村中にドラゴンがやってきたぞー! と告げようとするが誰も信じてくれない。その結果。
「そうその結果、ドラゴンの炎によって村は愚か全てが焦土と化し大陸は滅亡したのです」
「「「…………」」」
うん、相変わらず微妙な話だ。これを聞くといつもなんとも言えない気分になる。
「そう、つまり嘘つきは泥棒の始まりということなのだ。判ったかな?」
「いや、なんでそうなる」
さっぱり意味がわからないぞ。
「大体嘘じゃねぇって言ってんだろ。証拠だってあんだから」
「証拠?」
「これですよ」
俺は石化した魔核を見せてあげた。これで納得してもらえるだろうか?
「なんだこれ? ただの石じゃないか」
「いや、これがダンジョンを生んだ魔核なんだって」
「……よし、お前らちょっとそこに座れ」
「いや、だから座るところ無いだろ」
「昔々あるところに嘘つきな少年がいたのだ」
「またかよ!」
何故かドラゴン少年の話が繰り返された。ただ、二度目のドラゴン少年は改稿版だった。最初に発売されたドラゴン少年が不評だった為、作者が全編書き直したのだ。
その結果、少年はドラゴンが出たぞ~! と、村で騒ぎ立て、嘘つきと馬鹿にされ信じて貰えなくなるまでは一緒なのだが。
「ドラゴンが出たぞ~!」
「やれやれまたアイツか」
「しょうがないやつだな」
「ドラゴンなんて出るわけがないだろ」
「ま、嘘を言えるのは平和な証拠かもね」
その後、村から少し離れた丘にて。
「グオオォオオオオォオオオォオ!」
「やれやれ、またドラゴンが出てきたか。村人は逃げようとしないし仕方がないな」
――ドッカーーーーーーン!
「グォオオオォオオオォオオォオオ!」
「やれやれ、またドラゴンを俺一人で倒してしまったこれでまた嘘つき呼ばわりだ――」
そう、改稿版では、ドラゴン少年は実は人知れずやれやれと単身ドラゴンを倒してたという話に変わっていた。しかし、目立ちたくないという理由で道化を演じていたわけである。
その結果、この物語は世界中で十人に一人が買うほどの大ヒットとなった。ちなみに嘘つきとして人知れずドラゴンを倒し続けるのは一巻の序盤あたりであり、今では百巻を超える長編シリーズとなっていたりする。
とは言え、今それをこのおっさんから聞かされてる意味はいまいちわからず。
「つまり、嘘つきは泥棒の始まりということだ」
「なんでだよ! んでそうなるんだよ!」
結果遂にドヴァンが切れた。
「いや、だから嘘をつくと」
「大陸が滅んだりやれやれしてるだけだろうが! 同じ話を三度も四度も聞かせやがって!」
「二度だよ! しかも展開が全然違うだろ。あと君顔怖いよ!」
「ドヴァン落ち着いて!」
ヘアが止めに入ってくれた。するとすんなり引き下がって、お嬢すみません、と謝っていた。
「とにかく俺たち、嘘をついてないのは間違いがないので」
「やれやれ、君たちもしつこいね。なら一緒に村長の家に行こうか。いっておくけどうちの村長、わりと凄い鑑定のスキル持ちだから嘘ついてもすぐにわかるからね」
俺たちは彼についていき、わりと凄い鑑定を持った村長の家にいった。わりと凄い家にわりと凄そうな髭をはやした村長が出迎えてくれたんだけど。
「……この魔核は本物じゃな」
「ほらみたことか! 嘘を言ってもすぐに、え、本物!?」
「本物じゃ」
「マジで!?」
だからマジだって。
「何かうちの息子が失礼なことを言ってしまったようで申し訳ない」
「村長の息子だったのか……」
「あ、でも似てるかも」
「今、頭を見て言わなかった?」
ヘアはちらっと村長の髪をみて納得してた。つまり村長も髪の毛が谷だった。
「いやはや、それにしても驚きですな。まさかこんなに早く解決するとは」
「何かさっきは疑って悪かったな」
「いえ、判ってもらえればいいんですよ」
「ドラゴン少年の話も聞けましたからね」
「またか、息子は村にやってくる人やってくる人にあの話を聞かせるのじゃよ。困ったもんだ」
「なんでだよ。いい話は少しでも薦めたいと思うのがファン心理ってものだろ?」
ファン心理だったのか。
「勿論ダンジョン攻略をして頂けたお礼はしっかり支払わせてもらいますので」
「え? いやでも親父よ。もうギルドに依頼を出してるだろ? あれはどうするんだよ」
ギルドに依頼? その話が少し気になったので村長に尋ねる。
「いや、実は村から使いを出して英雄豪傑にダンジョン攻略の依頼を出してしまっていたのですよ」
「え!? あの英雄豪傑にですか!?」
「知っているのカルタ?」
「勿論だよ」
「俺も話だけは聞いたことがあるな。確か全冒険者ギルドのなかで常にトップを走ってる最強のギルドとか」
そう。冒険者にとって憧れのギルドで、英雄豪傑は入れただけでも勝ち組と言われるほどの凄いギルドだ。何せ依頼達成率脅威の2000%だからな。
おかしく思える数字だが、実際の依頼よりそれだけ成果の方が大きいってことだ。依頼がダンジョン攻略だったのに、ついでに近くに大量に出現していた人食い巨人の群れを片手間で殲滅したなど語りぐさとなっている話も多い。
「しかし、その最強のギルドより早く攻略できるとはな」
「そこはタイミングの問題もあるだろうけどね」
「いえいえ、ダンジョン攻略は早いに越したことはありませんからな。それに、こういったときの救済処置もあります。ギルドが依頼を請け負っていても先に誰かの手で攻略された場合は手数料以外は返金されるのですよ。だから報酬も遠慮なく受け取ってくだされ」
そういうことならと、潔く好意に甘える。恐れ多い気はしたけどダンジョン攻略を達成したのは事実だし、もらえるものは貰っておいたほうがいい。
「ふむ、しかしこれはめでたいことじゃ。よし! 今夜宴といこう! 皆様歓迎いたしますぞ!」
そしてダンジョン攻略を祝って宴が開かれることとなった。夜は焚き火を囲んでの飲めや踊れの大騒ぎに。
俺とヘアは酒は苦手だけど、ドヴァンはしっかりと呑んで楽しんでいた。
それにしても、この雰囲気の中、ジェゴブだけのけものなのは何かが違う気がした。それにこの村なら、気にせず受け入れてくれそうだし。
「本当に宜しいのですか?」
「大丈夫。何か問題があったら、俺たちが守るし」
「……光栄至極でゴブリます」
そしてジェゴブも参加したが、ちょっと変わった人が加わったぐらいの感覚で受け入れてもらえた。この村の人はいい人が多いしノリも良い。
「せっかくですので、私が一つ料理を振る舞わせていただきます」
「なんと!」
何かジェゴブは動いていたほうが落ち着くということで俺たちから許可を貰って、途中で手に入れておいた食材や村で譲ってもらった調味料なんかを利用して料理を作ってくれた。
「ヤンデレラビットの香草和えエスニックソースをかけてになります」
「ナイスジェントル!」
「ナイスジェントル!」
「ナイスジェントル!」
「ナイスジェントル!」
「サーモンチキンのロースト、ゴブリンチーズ乗せでございます」
「グラッチェジェントル!」
「グラッチェジェントル!」
「グラッチェジェントル!」
「ガブットマトとアスパラットのスライムゼリー包みジェントル風でございます」
「ベリージェントル!」
「ベリージェントル!」
「ベリージェントル!」
そんなわけで、料理の功績もあって更にジェゴブは受け入れてもらえた。あとジェゴブの料理はどれも美味でジェントルなお味だった。
こうして俺たちは一晩を村で楽しく過ごし、そして後日、再びシルバークラウンに向けて旅立つのだったが。
「それにしても、英雄豪傑からやってくる冒険者って一体どんな人物なのだろうか……」
ジェゴブも大切なフレンドですからね。




