第31話 はじめてのダンジョン攻略
第30話の誤字を修正致しました。
ダンジョンというのは魔核が成長し変異したものだ。魔核に関してはよく魔物の卵や魔物の母体、魔物の巣とも称されることがある。
表現的にはどれも間違いではない。この世界において魔物は魔核から生み出されているからだ。
そして魔核は魔力が世界に溢れてる限り必ず現れる。以前は魔王が生み出したものと思われていた時代もあったようだが、今は自然現象に近いというのが定説だ。
魔核は魔力のある場所で生まれる。最初はとても小さく、大体は地面の中で身を潜めている。そして子とも言える魔物を生み出す。
魔物の数が増えてくるとそれにつれて魔核も大きく成長していく。なぜそうなるかに関しては今でも議論が付きないようだが、とりあえず魔物が摂取した物の一部が魔核に供給されるようになっているらしい。
そしてある程度まで成長すると魔核はダンジョンを形成するようになる。一度ダンジョンが出来上がると、ダンジョンを中心に周辺の魔物が強化されより手強い魔物が生まれることになるし、ダンジョン内でも魔物が増え続ける。
そしてダンジョン内である一定数以上魔物が増えると大量の魔物がダンジョンから溢れ出しスタンピードを引き起こすことにつながる。
これが起こると魔物は大挙して周囲の畑や家畜を襲い、人の集まる村や町にも襲いかかるようになる。
だからダンジョンが発生した場合には事態が深刻化する前に攻略するのが大事だったりする。攻略が難しい場合でも最低限の間引きは必要だが。
そんなわけで、大抵の場合こういったダンジョン攻略は先ず管轄内の村や町なり、領主なりから冒険者ギルドに依頼がいくものなんだけど、ダンジョン自体は冒険者でなければ攻略してはいけないという定めはない。
むしろ可及的速やかに攻略し排除するのが望ましいので自己責任の範囲で腕に覚えのある者が入る場合だってある。
今回の場合、俺たちはそれと同じ扱いになる。正規の冒険者ではないし、正式な依頼を請けているわけじゃないから攻略したところで感謝もされないかもしれないし、報酬だって貰えないとみていい。
でもやっぱり放ってはおけない。だから先ず必要なものを馬車から出して準備してからダンジョン攻略に乗り出す。ヘアの両親が遺してくれた物の中には魔法の袋があった。魔道具の袋で空間魔法によって見た目は小さくても中に多くのものを収納できるのが特徴。
この袋で百キログラムまでは入る。これ一つあるだけで随分と楽になるな。袋の中にはウッドマッシュで買っておいたポーションなどを入れておく。
ダンジョンの内部はジメジメとした洞窟といった印象。話には聞いたことがあったが多くのダンジョンはこんな感じなようだ。
「ギャギャ! ギャい!」
ゴブリン
ステータス
総合レベル16
戦闘レベル10
魔法レベル0
技能レベル6
特徴
魔核の恩恵、逃亡ダッシュ、強制子作り
スキル
棍棒強化
先に進むと目についたのはゴブリンの群れだ。開けた空洞に四体ほど屯していた。全員スキルは強化系、最初に鑑定したのは棍棒持ちだったが、他にもナイフや剣、斧持ちがいる。
ゴブリンはたまに雑魚と勘違いされることがあるが、実はある程度腕に覚えがないとあっさり殺される程度には強敵だ。単独で行動することが少なくある程度の数で行動しているのも厄介さに拍車をかけている。
特徴として妬ましいのが強制子作りだ。これがあるからゴブリンは人間から忌み嫌われている。何せ人間の女を見ると無理やり子どもを作ろうとする。
ゴブリンは相手が異種でも子どもが出来るのである。これをされると魔核が生み出すのとは別に数がどんどん増えていくことになるし、何よりゴブリンに襲われた女性の末路はあまりに悲惨だ。
尤もこれはゴブリンだけではなくてオークなど何種類かの魔物が持つ特徴でもある。どちらにせよ放っては置けない相手だ。
ゴブリンは皆武器を持っているが、ダンジョン内では魔物が武器を持っていることは普通にある。魔核が装備品を生み出すからだ。
ステータス上でダンジョン独特なのはもう一点ある。それは魔核の恩恵だ。
これはダンジョン内限定で付与される障壁で、一定の耐久値が定められており、これが壊れるまではダンジョン内の魔物には直接のダメージが通らない。
障壁は最低でも一撃は攻撃を防いでくれるため、ダンジョン内の魔物は基本的には一撃では死なない。
とは言え――
「ウィツィロポチトリ!」
――ズダダダダダダダダン!
「「「「グギィイイイイイイィイイ!?」」」」
ゴブリンは死んだ。狩猟神ノ装甲からのウィツィロポチトリ。これは小さな矢を大量にばら撒く神装技だ。数だけが多い雑魚を殲滅するのに向いている。そしていくら障壁があろうと連続で攻撃できれば意味がない。
「素材はどうする?」
「ゴブリンは肉も食べられないし、魔臓にもそれほど価値はないからね」
「あ、そういえば武器が消えてますね」
「お嬢、ダンジョンの魔物が持ってる武器は、ダンジョンが一時的に与えてるものですから、死ねば消えるのですよ」
そう、それが基本。だから一部を除けば魔物から装備品を剥がすような真似は出来ない。
それにしてもお嬢か。ヘアがお嬢様と呼ぶのはやめて欲しいとお願いしたからいつの間にかこの呼び方になってたな。
まぁとにかくまだ一層だし先を急ごう。
「ギィギィギィギィ!」
「しつこいなハリケーンエッジ!」
――ズビュ、ドシュ、ザシュシュ!
「おら行くぜ! 螺旋流破鎧術捻氣百脚!」
――ドカドカドカドカドカドカドカドカ!
「ヘアウィップ!」
――パンパンパンパンパンパンパンパン!
「「「「「ギギギァアァアアァアァアア!」」」」」
俺が剣で切りまくり、ドヴァンは蹴りまくり、ヘアは髪を鞭みたいに振る新技で攻めまくる。
ヘアウィップは攻撃速度が早いのが特徴だ。おまけにかなりの本数を操れる。確かに魔核の影響で障壁は纏っているけどゴブリン程度なら一撃で障壁は破れる。つまり手数で押せばなんの問題もなかった。
「一層は余裕だな」
「そうだな。でもここから下にいくにつれ手強くなるかもしれない」
「ゆ、油断できないね!」
ダンジョン内は特に階段があるわけでもないけど、妙に下りが急になっているところがあるからそれである程度判断している。
実際そのタイミングで神鑑を使用すると二層だと判明するし。
二層も出てくるのはゴブリンばかりで問題なく進んだ。だけど三層で様相が変わる。
「弓持ちと、杖持ちが加わったな」
「何か矢や魔法で攻撃してきそうです!」
「それはまぁそうかもね」
ヘアはみたまんまをいった。お嬢さすがですと言ってるドヴァンはそれはどうかなと思う。
ゴブリンアーチャー
ステータス
総合レベル16
戦闘レベル6
魔法レベル0
技能レベル10
特徴
魔核の恩恵、逃亡ダッシュ、強制子作り、狙いすまし、ダブルショット
スキル
視覚強化
ゴブリンマージ
ステータス
総合レベル16
戦闘レベル2
魔法レベル10
技能レベル4
特徴
魔核の恩恵、逃亡ダッシュ、強制子作り、魔法の心得
スキル
魔法強化
アーチャーとマージはゴブリンと比べて技能と魔法のレベルが秀でたタイプ。その分戦闘レベルは低め。
ただアーチャーはちょっとした技を持っていた。マージも基本的な魔法が使えるようである。だからゴブリンより厄介とも言えるだろう。
「ギャギャ!」
――シュシュッ!
ゴブリンアーチャーがダブルショットで攻撃してきた。矢がほぼ同時に二本射られる。
――キンッキンッ!
しかし、それはドヴァンが斬り落とした。狙いがヘアにいったからカバーが早い。
「お嬢に手を出すとは許せないぜ」
――ズバッズバッ!
あっという間に距離を詰めてアーチャー達を片付けた。
一方俺に向けて詠唱を終えたゴブリンマージが魔法を行使してくる。
「ギャピュッ!」
「ギャフウ!」
「ギャド!」
それぞれアクアボール、ウィンドカッター、アースショットの魔法だ。
「ヘアシールド!」
――バーン!
「「「ギャギョ!?」」」
だけどヘアが新技ヘアシールドで魔法から守ってくれた。髪の毛を盾にして相手の攻撃から守ってくれる。
しかもアクアボールは魔法で作った水球をぶつけるタイプだから、ヘアにとってはありがたい。潤いが取り戻せるからだ。
「ブレイブゲイザー!」
――ズドオォオオォオオオオン!
大上段の構えから片手半型の神剣を振り下ろすと、光の衝撃が全方位に広がりゴブリンマージが消し飛んだ。障壁は最初の一撃で破られてるから、後に続く衝撃波には耐えられなかったわけだ。
「このあたりも大したことないな」
「そうだね。先を急ごう」
「ドキドキします!」
そして俺たちは五層までやってきた。ここまで来るとゴブリンとは言えステータスが大分変わってくる。
ゴブリンバット
ステータス
総合レベル20
戦闘レベル12
魔法レベル0
技能レベル8
特徴
魔核の恩恵、強制子作り、強風、超音波
スキル
飛膜強化
ゴブリンナイト
ステータス
総合レベル28
戦闘レベル14
魔法レベル0
技能レベル14
特徴
魔核の恩恵、強制子作り、強撃
スキル
マルチガード
ホブゴブリン
ステータス
総合レベル25
戦闘レベル20
魔法レベル0
技能レベル5
特徴
魔核の恩恵、強制子作り、乱打
スキル
チャージ
レベルも高くなってきてる。ゴブリンバットはダンジョンならではの変体だ。ゴブリンにコウモリの飛膜が備わっていて、特徴もコウモリっぽい。
ゴブリンナイトは見た目からしてナイトだ。全身鎧でガチガチに包まれている。
ホブゴブリンはゴブリンと体格からして大きく異なる。体長が二メートル近いし、とにかくデカい。顎が四角くて分厚い。
股間もそんな感じだから、ヘアが目を向けようとしない。
「む、耳が」
「頭が痛いです」
「ゴブリンバットの超音波だ。空を飛んでるのも面倒だな。ヘア行けそう?」
「わかりました! ヘアネット!」
「ゴブっ!」
超音波は相手を不快にさせる。実際不快だからさっさと片付けて欲しい。
俺が頼むとヘアの髪が網に変化しゴブリンバットを捕らえ、地面に引きずり下ろした。
「えい! えい!」
――ブス! ブス! ブス! ブス! ブス!
「グギィイィィィイイィイイイ!」
そしてゴブリンバットを引きずってきて網に捕らえられたままの相手を槍に変えた髪の毛で刺しまくった。う~ん、中々エグい。
心優しいヘアだが、相手が魔物だとわりと遠慮がない。
「螺旋流破鎧術捻氣脚!」
――ゴリゴリドガッ!
「ゴブ!?」
「螺旋流破鎧術螺旋燈突」
――ピカッ、シャキーーーーン!
先ずはドヴァンの螺旋の蹴りがゴブリンナイトの障壁を破壊。そこから連続で煌めく一閃。ドヴァンのお家芸がゴブリンナイトに炸裂。
「ゴブォッフォ!」
――ブォン!
「何!?」
――ガキィイィイイィン!
だけど背後から近づいてきたゴブリンナイトが強撃。
振り向きざまに刃を重ね、受け流したが、ちょっと面を食らった顔をしている。
「ドヴァン、そいつのマルチガードに注意だ!」
マルチガード
タイプ:物理強化系
総合評価:C
パフォーマンス:C
コスト:G
リスク:D
ガードの構えを取っている間はあらゆる攻撃に対して高い防御力を発揮する。構えを続けていないといけないためスキル使用時は攻撃が出来ない。
そう、このスキルがあるため、二発目の攻撃では倒れなかった。防御の構えをとっていたからな。
おっと、こっちもホブゴブリンの相手をしないと。
「ホブゥウゥウウウゥウウウ!」
チャージで力を溜めた後、乱打でやたらめったらとメチャクチャな攻撃を仕掛けてくる。
でも――
「その分、隙だらけだって。飛天滑襲撃!」
――ヒュン、ズシャアアァアアア!
「ゴブァアアアァアアァア!」
空中から滑空するような動きで強襲する神装技。これで首を刈って終わりだ。
さて、ドヴァンだけど、どう対処するんだろ?
みたところナイトは守りを固めているけど。
「同じ手が通用すると思ったら甘いんだよ」
――ドシャアアァアアァア!
「ご、ゴブっ!」
――ガクンッ。
なんとドヴァンはゴブリンナイトが立っていた地面を攻撃して穴を掘り、強制的にバランスを崩させた。
なるほど、これならガードを維持できない。
「捻氣百脚!」
――ドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドカドゴーーーーーーン!
防御が崩れた相手に容赦のない蹴りの連打が炸裂した。鎧きてたけどドヴァンの武術は破鎧術だし鎧なんてそもそも意味がない。
何せ蹴りが終わったあと全ての衝撃が内部で反射して、内側からゴブリンも鎧もボコボコに膨張して破裂して死んだのだからむしろ悲惨だ。
「さて、いくか!」
「そだね~」
「そろそろボスが出て来るエリアかな?」
ダンジョンがどれぐらい成長しているかにもよるけど、何かもうそろそろ近い気がする。
ちなみにボスというのは魔核を守るために設置された強力な魔物だ。
そしてそのまま六層、七層とクリアーし、八層についたのだけど。
「「「「「「「「「「ゴブ! ゴブ! ゴブ! ゴブ! ゴブ! ゴブ! ゴブ! ゴブ! ゴブ! ゴブ! ゴブ! ゴブ! ゴブ! ゴブ! ゴブ! ゴブ! ゴブ! ゴブ! ゴブ! ゴブ! ゴブ! ゴブ! ゴブ! ゴブ! ゴブ! ゴブ! ゴブ! ゴブ! ゴブ! ゴブ!」」」」」」」」」」
なんとゴブリンの集団が一方通行の通路を大挙してやってきた。ナイトやホブゴブリンの姿もある。百体以上はいるかもしれない。
「はわわわ! 多すぎです! どうしよう!?」
ヘアが慌てた。
「ま、仕方ねぇ。一気に決めようぜカルタ」
「まぁそうだな」
こうなったらもう全力で潰す他ない。
「螺旋流破鎧術竜巻横截!」
「ウルアロウ、ウルアロウ、ウルアロウ、ウルアロウ、ウルアロウ、ウルアロウ、ウルアロウ、ウルアロウ、ウルアロウ、ウルアロウ、ウルアロウ、ウルアロウ、ウルアロウ、ウルアロウ、ウルアロウ、ウルアローーーーウ!」
――ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォオオオオォオン!
――ギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンギュンドッギューーーーン!
「「「「「「「「「「ゴブォオオオォオオオォオオオォオオ!」」」」」」」」」」
ドヴァンの新技は剣で切ると同時に直線上に竜巻を発生させる。
それに俺の光の矢の連射が加わり、百を超えていたゴブリンの群れをあっさりと殲滅した。
「す、すごいです」
「いえいえお嬢。相手が大したことないんですよ」
「とは言え、やっぱり氣は凄いな。これだけやってもまだ神装甲を維持できてる」
基本的には敵と遭遇したときだけ展開しているとはいえ自分でも驚きだ。
ゴブリンの群れを倒し、勝利を噛み締めたところで俺たちは更に先へと進んだ。
すると、奥に広めの空間があるのがわかる。これまでと空気も違うし、なんとなく最奥に辿り着いたんだという事を悟った。
そしてその空間に足を踏み入れた俺たちだったが、そこにいたのは一風変わった雰囲気ただようゴブリンであり。
「――ふむ、これはこれはお客様がいらっしゃるとは。わざわざこのようなところまでゴブろう様です。なにもないところですがどうぞおくつろぎください」
「「「……しゃ、しゃべったーーーーーー!」」」
ゴブー!?
第三章からの主な変更点
・効果音




