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第3話 謝罪

 明朝には予定通り、リャクやレーノ、ノーキン、ホミングの四人が村から旅立っていった。

 このときばかりは村民の多くが集まり、四人の健闘を祈ったという。


 なにせあの四人は村の中でも相当に強力なスキルを授かったメンバーだ。冒険者になったなら間違いなく第一線で活躍してくれるだろうと見込まれている。


 冒険者は実力さえともなえば、国に縛られることもなく世界中を股にかけて冒険が出来る存在だ。それ故にその影響力も計り知れない。

 

 もし村から英雄と呼ばれるような存在が生まれたなら、当然その冒険者が生まれ育った村も注目される事となる。


 一人の英雄を輩出したというだけで、元は何の変哲もない小さな村が巨大な都市にまで急成長を遂げたなんて話もあるぐらいだ。


 だからこそ期待もされる――あの四人はまさにこの村の光といえることだろう。


 一方で今日の旅立ちに参加できなかった影、カルタは一人森で修行に明け暮れていた。


 仲間からパーティーの追放を告げられ、親友と思っていた男には彼女を寝取られ、彼女と思っていたレーノにも裏切られた。


 その全ては、授かったスキルのせいだ。紙装甲などというマイナスにしかならないスキル。

 これのおかげで愛想をつかれた。あまりにショックで一瞬本当に冒険者の道は諦めたほうがいいのか? などと思ったりもした。


 だが――それで諦める程度の夢なら最初から見てはいない。あの四人についていくことは出来なかったが、だからといって冒険者の道が閉ざされたわけではない。


 だから、努力する。必死に、木の枝に吊り下げた丸太を何度も何度も木刀で切り続ける。これまでも続けてきた練習。


 体を鍛える為の基礎練も忘れず行い。そして魔物との実践。結局、夕刻までに倒せた魔物は三体程度だったし、レベルも上がらなかったが――


(やっぱりどうしても戦闘で遅れを取ってしまう……慎重になってしまうんだ)


 紙装甲はどうしてもネックだ。だからこそ一戦一戦に時間も掛かる。ここぞと体が判断するまで時間もかかり、常に細い糸をたどっているようなギリギリの戦いになってしまう。


 一体どうしたらいいのか? だが答えは見えない。暗中模索といったところか――正直今のままでは旅立つにしても不安要素が大きすぎるだろう。


 今後どうするべきか、そんな事を考えながらもカルタは村に戻るが。


「おい、あいつだろ? 紙装甲とかいう何の役にも立たないスキル持ちは?」

「全く、よく恥ずかしげもなく村に残れるよな! リャク達とは大違いだぜ!」

「お前なんて村に戻ってくるなクズ!」


 それは突然のことだった。村の連中がカルタを嘲笑し蔑み、中には石を投げつけてくるものまでいる始末。


「おいやめろって。石なんてあたったらあいつ体に穴があいて死ぬかもしれないぞ」

「何せ紙だからなぎゃははははは!」

「いいじゃん別にあんなくず紙、死んだって」

「馬鹿、誰が死体を片付けるんだよ。面倒事はゴメンだぜ」


 まるで遠慮がない。本人が目の前を歩いていようと関係なく平気で毒を吐いてくる。


 思わず連中を睨めつけたが、吹いたら飛ぶような紙の癖に生意気だ! と逆ギレされるだけであった。


 気分が悪い――そう思ったカルタは急いで家に戻る。

 

「おうカルタ戻りおったか」


 すると白髪頭の老齢の男が彼を出迎えた。年の功は六十代そこそこといったところの、どことなく偉そうな雰囲気ただようこの人物は村の村長である。


「村長、どうも、お久しぶりです」


 カルタは先ず頭を下げ挨拶する。この村をまとめ上げている長である。それ相応の態度は心がける必要がある。


「カルタ、戻って早速で悪いが、村長がお前に話があるそうなんだ」

「私に話ですか?」


 いつもは俺のカルタも村長の前では流石に自粛する。

 そして村長に顔を向けるカルタだが。


「まどろっこしいのもなんだからな。率直に言わせてもらうが、お前は村から出ていってもらう。つまり追放じゃ」

「――え? 追放?」

「ちょ、ちょっと待ってください! 聞いておりませんよ! そんな追放だなんて!」


 突然の宣告に目を丸くさせるカルタ。一方父のウッドは異を唱えるが。


「ふん! ならばどうするというのだ! こんな役立たず。村においていても邪魔なだけじゃ!」

「そ、そんな……それはいくらなんでもあまりではありませんか?」


 母のウォーターもどこか困惑した様子である。


「ならばどうするというのだ? こやつとて一応は成人したのだ。本来ならあのリャク達のように旅立つか、村に残って何か仕事をするかが必要なところなのだぞ?」

「それならば、冒険者が駄目でも畑を耕すなどいくらでも……」

「は? 馬鹿も休み休み言え! 言っておくがこんなクズの為にあけてやる畑など一つもないぞ! 何せこいつは紙装甲などというクズスキル持ちじゃ! ただ役に立たないだけならまだしも装甲が紙じゃぞ? それで畑なんて任せてみろ! ハチに刺されただけで! モグラに頭突きをされただけで! カラスに突かれただけで、そんな程度で死んでしまうのだ! そんなもの畑に無駄な死体が転がるだけだ。全く厄介この上ない!」


 村長が怒鳴り散らす。正直言えばこんなものは言いがかりみたいなものであり、いくら紙装甲だからとそこまで弱いものかといったところだが、ただ、どれぐらい装甲が弱いのかはカルタにも説明が出来ない。


「し、しかし、だからといって村を出て行けというのは……」

「いや、もういいんだ父さん」

「え?」


 カルタが割って入り、反論してくれた父親を止めた。 

 そして決意の目を向ける。既にその気はあったのだが、だがすぐにという気にはなれなかった。だが、村長の話が逆に踏ん切りをつける事に繋がった。


「俺、やっぱり冒険者の夢を諦めきれないんだ。だから、俺も村を出て大きな街を目指すよ。そしてギルドに登録して冒険者になるんだ」


 迷いのない目で伝える。楽な道ではないかもしれないが、壁は乗り越えるためにある。


「――は? お前が冒険者? カカッ、これはお笑い草だ! なれるわけがなかろう貴様などに!」

「……そんなこと、やってみないとわかりませんよね?」

「ふん、クズみたいなスキルしかもっていないくせに言うことだけは一人前か。まぁいいだろう。村を出ていってくれるというなら手間が省けたわい。だがな! そうと決まればのんびりされてもいい迷惑じゃ! 明日中には荷物をまとめて村を出ていくのだぞ!」




 

 村長が出ていき、それからカルタは家族とも更に少し話す。

 正直言えば妹がいなかったのは幸いだったなとカルタは安堵していた。


 丁度外に出ていたようだが、村長との会話はあまり聞いていていい気分のするものではなかった。


「お前の決意がそこまで固いのならもう俺は何も言わない」

「そうね、これは少ないけど、旅の足しにして頂戴。体には気をつけてね」


 そう言って両親はカルタに銀貨と僅かな金貨の詰まった革袋を手渡してくれた。全部で五千オロある。

 

 オロはこの世界の共通単位だ。商売の神様が決めてくれた事でそれが世界中で伝わっている。


 基準としては家族四人が一ヶ月暮らしていく為には、月三万オロ程度あれば貯蓄出来るぐらいの余裕が持てるとされている。


 カルタ一人で五千オロという金額は、決して多くはないが妥当なところだろう。


 それから間もなくして妹のフィモが戻ってきたので、カルタから説明する。


「お兄ちゃん……皆がお兄ちゃんのスキルの事バカにしてるの。でも、私、信じてるよ! お兄ちゃんならきっと立派な冒険者になれるって!」

「……あぁ、ありがとうフィモ」


 ふわふわの赤髪に包まれた頭を撫でてやる。気持ちよさげにツインテールが揺れていた。

 正直村民や、村長の豹変ぶりに辟易していたが、愛妹を含めた家族の存在がまだ救いと言える。


 その日は村を出る前の最後の夕食ということでいつも以上に豪勢な食事が振る舞われた。

 

 母さんの手作りの料理とも今後暫くお別れと思うと寂しくもある。

 そして妹とも冒険者になってからの夢などを話して聞かせ、そして眠りにつくが――やはりいざ旅立つと思うと中々寝付けず外の空気でも吸おうと部屋を出たのだが。


「やれやれ、それにしても冒険者になるとはな。本当に馬鹿なやつだ。まぁ、おかげで村から出ていってくれるのだから助かるけどな」

「そんな貴方、あれでも私達の子どもですよ。それなのにそんな……」

「ふん、いまさら何を。お前だってあんな役立たずを産んだ覚えはないと嘆いていたじゃないか」

「それは、そうだけど……」

「全く、そこまで大きな期待をしていたわけでもないが、まさかあんなわけのわからないスキルだとはな。本当とんだ期待はずれた、失敗作だよあれは。そのおかげで村中から哀れみやら、蔑みやらこっちまでそんな目で見られたんだ。これで村に残るなんて事になっていたらどうなっていたことか」

「……確かにあの子のスキルの事がしれてから、主婦の集まりでも肩身が狭かったわ。それを考えたら、もう最初からいなかったと考えた方がいいのかしら……」

「そういうことだ。アレは勝手に家に住み着いた害虫程度に考えておくのがいい。幸い私達にはフィモがいる。あんな穀潰しが一人いなくなったところで困りはしないさ」

「でも、こんな事をもし聞かれたらあの子なんて思うかしら?」

「ふん! それで恨むなら筋違いってものだぞ。本当なら闇で奴隷として売り飛ばされても仕方のない役立たずに金まで渡してやったんだからな、大体――」


 聞いていた――そして、それ以上はとても聞いていられなかった。部屋に戻り、ベッドに飛び込んで布団を被って枕で口を塞ぎながら思いっきり叫んだ。


 何故だ? 何故自分だけこんな目にあわなきゃいけない? そんなに良いスキルを持っている奴が偉いのか?

 

 与えられたスキルが使えないと言うだけで、ここまでの目に合わなければいけないのか? 

 悔しい! 悔しい! 悔しい! 涙がボロボロと溢れ出た。どうしようもない思いが込み上げてくる――その時だった。

 

 突然目の前が白い光に包まれた。だが、それほどまでに眩しいにも関わらず、目はあけていられる。


 不思議な感覚であった。そして光が収まった時――カルタは当たり一面真っ白の空間に一人立っていた。


「……な、なんだこれ?」

『よくやってきたのじゃ』


 不思議な光景に疑問符が大量に浮かびがる。すると、そんなカルタを呼ぶ声に、反応し首を巡らすと、いつの間にか神々しい玉座が出来上がり、そこにチョコンっと座る幼女の姿。


 髪の毛はゆるふわでカールの入った金髪。そして白いローブ姿。目はパッチリとして何とも愛らしい。

 

 愛妹には負けるだろうが、かなりの美幼女と言えるだろう。

 そんな幼女がジッとカルタを見つめていた。


「え、え~と、貴方が私をここに? でも、一体ここは――」

「ほんとうに、申し訳なかったのじゃぁああぁああぁあああああぁああ!」

「えぇええぇえええぇええええぇえええ!?」


 とりあえず質問をぶつけるカルタであったのだが、ソレに対する答えは、なんとヘッドスライディング土下座であった。


 そのあまりの出来事に、何がなんだかわからないといった顔を見せるカルタであり。


「や、やめてください! どうして突然土下座なんて!」

「それは、許してくれるということか? 今時神が幼女で、いきなりの土下座など古臭いと思われるかと思ったのじゃが、こんな私を許してくれるのか?」


 顔を上げ、懇願するようなうるうるした瞳を見せつけてくる幼女。しかし、そんな事を言われても何が何だかが判らない。


「そんな事を言われても――そもそも何を謝っているのかがわかりませんよ」

「……誤字っちゃったのじゃ」

「――はい?」


 すると、幼女がむくっと起き上がり。どこか遠い目を向けながら――


「だから、お主に授けたスキルの名称を、うっかりして誤字っちゃたのじゃ~……」


 そう、繰り返すのだった――

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