第28話 グリースとの決着
いつも感想いただきありがとうございます!
誤字などは折を見て修正していこうと思います。
「喰らいな! 【ファットコメットクラッシュ】!」
すると、巨大化したグリースが再び球体となり、凄まじい勢いで回転。そのまま高速で地上に向けて落下。
その巨大さと落下速度はまるで隕石のごとくであり着弾と同時に余波が一気に広がった。
広場には巨大なクレーターが出来上がり、三人も大きくふっとばされる。
「くそ、なんて破壊力だ。ふたりとも大丈夫か?」
「あ、あぁ問題ない」
「わ、私も大丈夫です」
三人が立ち上がり声を掛け合う。ただ、全くダメージを受けていないわけじゃないことは見れば判る。それなりに傷もつき、疲れも見え始めていた。
(不味いな、俺の神装甲も使える時間はもう殆ど残ってない。あの技を喰らい続けるのは危険だ)
状況を分析するカルタだが、グリースの見せた今の技は現段階では防ぎようがない。ヘアの髪の網を使ったとしても受け止めるのは厳しいだろう。
だが、だからといって敵が手を休めることはない。グリースも今の技が効いたことが理解できたのか、再びバウンドして天高く跳躍した。
「今度こそ終わらせてやるからね!」
そんな声が空から降り注いだ。事実、次にアレを喰らうとかなり危険な状況だ。
「良かった、無事だったざんすね!」
「え? あ、雑貨屋の――どうしてこんな危険な場所に、早く逃げてください!」
「危険なのは承知でござんす。だけど、町の危機に黙ってはいられないのですよ。だから、せめてこれを使って欲しいざんすよ」
背負っていた袋を置き開く。中には薬らしきものが入っていた。
「店にあるポーションを掻き集めたのです。他にも強化の魔法薬、あ、でもこっちは敵を弱体化させる塗り薬ざんす。扱いには気をつけるのです」
「これは、助かる! でも本当に貰っても?」
「よござんす。健闘を祈るざんす!」
そして店主は去っていった。カルタは店主に感謝をしつつ、これならなんとかなるかもしれない! と考え始め、とにかく全員で急いで薬を飲んだ。
「何をしても無駄だよ! 砕け散れ! ファットコメットクラッシュ!」
隕石と化したグリースが迫る。先程よりも更にスピードが乗っていた。このまま落下すればより被害が甚大なものとなるだろう。
ヘアが天空を見上げた。迫る隕石型グリースを見据え、そして髪を伸ばし一気に広げた。
「ヘアネット!」
「無駄なことさ、そんなもので受け止められるものかよ!」
スポンッと大きく広がった髪の網に隕石が収まった。だが、構いなしにグリースは落下を続けようとする。
「あぁああぁああぁああ!」
だが、ヘアは負けじと間の髪を限界まで捻り、強度を強めた上でグリースを引っ張った。勿論それでも本来は厳しい。
それを可能にしたのは雑貨屋の店主が持ってきてくれた強化薬だ。
これによりスキルの力も一時的に上昇。そのうえで、網で捉えたグリースをスイングしようとする。
「ば、馬鹿な、無理だ絶対にそんなことは!」
叫ぶグリースの体に何かがぶつかった。それは何本ものナイフであった。だが、そんなものいくら投擲したところで跳ね返るだけで意味はない。勿論殺傷手段としてだけ見た場合だが――
「な、急に力が――」
「どうやら効果が出たようだな」
グリースを鑑定したカルタが呟く。ナイフを投げたのはカルタだ。あのアジトでエッジという盗賊から奪っていたものだ。
それにあの店主から貰った薬を塗布しておいた。相手のステータスを下げる薬だ。
ナイフが刺さるかどうかは問題ではなかった。これまでの三人の攻撃によっていくら物理攻撃に耐性のあるグリースでも、ある程度の傷はのこっている。そこにあたれば例え跳ね返ったとしても傷口から塗布した薬の効果が現れる。
グリースの総合レベルは60から50まで下がっていた。この状況で10レベルのダウンは大きい。
逆にヘアのスキルは強化されている。振り回せない理由がなかった。
ブンッという音を奏でヘアによってグリースが回転。縦の落下から横への旋回に修正し、一回転。
その先に待ち構えるはドヴァンとカルタであり。
「やるんだヘア!」
「はい!」
ヘアが網を解いた。勢いに乗って本人の意思とは無関係にその巨体がふたりにむけて突っ込む。
「螺旋流破鎧術捻氣百脚!」
「神装技・ハリケーンエッジ!」
グリースの横を抜けながら、ドヴァンとカルタによる挟撃。連続攻撃が全弾巨体に命中し、悲鳴を上げながらグリースが地面に突っ込んだ。
「これは、やったか?」
尻を向けて痙攣しているグリースを認めつつカルタが呟く。ドヴァンとヘアも願うような目で様子を窺っている。
「う、うぉおおぉおおおぉおおお、ちっくしょうがーーーーーーーー!」
だが、飛び上がり、見た目とは裏腹な軽やかな回転を見せ、巨漢の女は立ち上がった。
三人を睥睨したその顔には大量の血管が浮かび上がっていた。
「なんてしぶといやつだ……」
「はぁ、はぁ、今のはね少し意識が飛びかけたよ。本当さ、だから、許せない! 絶対にね! 貴様らも、この町もだ!」
正直町に関しては八つ当たり以外の何物でもないが、とにかく怒り心頭に発するといった様子のグリース。
そして、むぐぐぐぐぅ、と唸り声を上げ。
「【ファットクラウド】!」
そして何かの技を行使。何だ? と怪訝そうにする三人だが、グリースの体から大量の湯気が立ち昇り、上空であっという間に町を覆うほどの雲に変化した。
「雲? あいつ、雲まで作れるのか?」
「だが、だとして一体何を……」
「あ、見てください雨が!」
ヘアが指差すと、出来上がった雲から雨粒。すると、ニタァ、とグリースが不敵な笑みを浮かべる。
「降るよ、脂肪の雨がね!」
「脂肪の、雨、だと?」
宣言した直後、雨が豪雨に変わり街全体に降り注いだ。最初は意味が判っていなかった三人だが、肌にまとわりついた雨がやけにドロッとしていることに気がつく。
「――これは、まさかあの時吐き出していた脂と、同じもの?」
脂の雨は街全体に染み渡ったところで止み、雲も消えた。だが、それの正体に気がついた時、カルタはグリースの狙いを察する。
「まさかお前!」
「今更気がついても遅いのさ! 終わりさ! お前たちも、この町もね!」
勝利を確信した声を上げ、グリースは再び球体となりすぐさまバウンドして天に向けて跳躍した。
「しまった! このままじゃヤバい!」
「お、おい、何がヤバいっていうんだ?」
「あいつは、燃やし尽くすつもりなんだ。俺たちごと、この町を!」
「え? ま、町をですか!?」
信じられないと言った顔を見せる。だが、雨の正体がよく燃える脂肪である以上、狙いがそれであることに疑いようがないことにふたりも気がついたようだ。
「くそ! あの距離までは流石に飛べないぞ」
「あぁ、俺だって今のままじゃ無理だ」
「そ、それじゃあ皆に避難を呼びかけて――」
「駄目だ、それじゃあ間に合わない。こうなったら、やるしかない」
上空を見上げ、カルタが決意する。それにヘアとドヴァンが注目した。
「まさか、何か手があるのか?」
「あぁ、正直もう使える時間なんて残ってなかったがやるしかない。ヘア、まだ薬の効果は残っているか?」
「は、はい、まだ大丈夫です」
「よし、それならこれから俺も自分を限界まで強化する。そしたら今度は俺を振り回してアイツに向かって投げつけろ!」
なるほど、と得心が言ったようにドヴァンがうなずいた。個人の力では到底グリースの跳躍に届かない。しかしヘアの協力によってそれも可能かもしれない。ましてカルタは自分自身を強化するといっている。
「時間がない行くぞ、神装技【ブレイブハート】!」
その瞬間、カルタを包む気配が変化した。うっすらとした光がカルタの全身を膜のように包み込む。
「俺はこれが終われば暫く戦えない、最後はドヴァンが決めてくれ」
「は? おい、それはどういう意味だ?」
「見ていればわかるさ。頼むヘア!」
ヘアが首肯し、網状にした髪でカルタを包み込んだ。そして何度も振り回し、完全に勢いがついたところで。
「いっけぇえええぇええええ!」
天に向けてカルタを放り投げた。斜めの角度でカルタがぐんぐんと速度を上げていく――
「あはは、ここまでくればもう安心さ。あいつら纏めて私の炎で燃やし尽くしてやる。町も含めて全てをね!」
グリースが町を俯瞰しながら一人叫ぶ。もはや邪魔などは誰も入らない。そう思えるほどの高度。
そして腹の中一杯に空気を取り込み始める。脂肪をガンガン燃焼させ、今度は火球として吐き出すつもりだ。
脂にまみれた町に届きさえすれば、一瞬にして業火に包まれる。いくら逃げようとしても間に合うわけがない。
出来上がるのは大量の人間ステーキだ。その様子を思い浮かべ、愉悦で顔を歪ませる。
さぁ準備が出来たと視線を下げる。だが――次の瞬間、その顔が驚愕に変わった。ありえない筈だった。だが、それは間違いなく。
「馬鹿な! なんでテメェがここに!」
カルタであった。ぐんぐんとその身に迫るカルタを、グリースの視界は捉えていた。
思わず溜まっていた息も全て吐き出し叫んでしまう。
なぜこいつは、こうも私の邪魔をするのか! と憎々しさに拍車がかかる。
「グリーースーー! お前に町は、やらせない!」
気合の声がカルタから漏れた。舌打ちするグリース。だが、それはあまりに無情であった。カルタの動きは、グリースの位置に到達する直前衰えを見せ、完全に潰えたのである。
「な!?」
「か、カハッ! そうさ、そりゃそうさ! アハハ! ざまあない! お前はそこまでだ! 落下しながら町と仲間の最期を見届けな!」
ザマァ見ろと言わんばかりにグリースが嘲笑する。自由落下を始めたカルタを小馬鹿にしながら再び息を吸い込もうとするが。
「まだだ!」
だが、カルタは手に握りしめておいたソレを投げ、神剣で斬りつける。
紅蓮爆弾――盗賊のアジトでエッジから回収しておいた魔道具。
それを数個ばら撒き、纏めて切ることで、爆発! その衝撃で、落下しかけたカルタの体が再び上昇した。
大きく息を吸い込んだグリースの視界にカルタの姿。目が驚愕に見開かれる。息を吸い込むと自然とその顔は上を向く。そこにカルタの姿があるということは――
「終わるのはお前の方だグリース! 神装技ブレイブゲイザー!」
カルタの振り下ろした剣が、グリースの身に縦一文字の斬線を刻んだ。発生した衝撃波がその全身に叩きつけられる。
吸い込んだ息を全て吐き出し、グリースが加速度的に落下した。グリースの頭は完全に混乱していた。何が起きたのか理解が追いつかなかった。
――やられたのか? 私が、あんなやつに!
落下しながらも悔しさでそんな事を考え、相当なダメージがあったはずなのに、怒りで痛みも忘れていた。
許せない! 許せない! 許せない! その気持だけが精神を支配する。恐らくこのまま自分は地面に叩きつけられるだろう。
だが、まだ終わっていない! そこから必ず反撃に転じてやる! と、思考を巡らす。
その考えに間違いはない。彼が疲弊していたというのも大きいが、グリースの脂肪は、カルタの強化した一撃を持ってしても、まだギリギリのところで踏ん張りを聞かせていた。
だが、それはまさにギリギリの細い糸のようなものであり――
「感謝するぞカルタ! そして、しっかり俺が決めてやる!」
耳に届く雑音。落下しながら視界に映ったそれは、不快でしかない存在。
だが、それこそがこの戦いの鍵であり、カルタ側の決め手であった。
「や、やめろぉおおおぉおおこのくそがぁあああぁあああぁあああ!」
隻腕の剣士が何を狙っているのか、悟ったグリースが叫ぶ。だが、気づいたところでもう遅く。
「螺旋流破鎧術――」
刺突の構えを取り、迫る仇をその目でしっかりと捉え。
「――螺旋燈突!」
「ギャァアアァアアアァアアア!」
一瞬の煌き、閃光を思わせる強烈な一突きが落下してきたグリースを見事に捉えた。
悲鳴を上げ、落下し地面をゴロゴロと転がるグリース。そして噴水を横に見た位置で動きを止め大の字になって倒れた。
「はぁ、はぁ、やったぞカルタ、これで――俺達の勝利だ!」