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第24話 フトーメを追い詰める

「あいつらは、上手くやったかしらね……」


 部屋の窓から女は空を眺めていた。空は茜色に染まり始めており、女の顔は赤みが増していた。ずっしりと重々しい肢体が特徴的な女である。


 しかし女として見るには図体がかなりに大きい。その大きさは身長が高いなどと言った意味のソレではなく、横にも縦にも人並み以上に大きいということである。


 改めて見れば身長は軽く二メートルに達しているだろう。何故か、日増しに体格が良くなっている気さえ感じさせる。

 

 横幅も壁のように広く、腹もまるで出産間際の妊婦のごとく膨れ上がっていた。勿論だからといってこの女が妊娠中などということはなく、中に詰まっているのも全て脂肪(・・)だ。


 女は、フトーメは部屋で一人、ある男を待っていた。その男には密かにヘア達の始末を命じており(・・・・・)何も問題がなければそろそろ結果を伝えに来るはずである。


 あのガキのせいで、と心の中で毒づく。これまでの計画は順調に進んでいた。そう、このまま問題なく進んでいれば、ヘアを無理矢理でも引き渡し、裏でそれなりに稼いでもらい遺書を書かせた後始末をつけさせるつもりだった。


 最悪遺書を書こうとしなかった場合でも、変装が得意なフェイスに遺書を書かせれば全て丸く収まる話だった。


 そう、それで女は本来ヘアが手にするはずだった遺産を横取りし、この都合の良い宿も手に入る筈だったのだ。この町には宿が一箇所しかない。それをフトーメが押さえておけば獲物の情報はいくらでも手に入る。


 だが、それもあのカルタという若造がやってきてから全て狂い始めた。役立たずだったはずのスキルが使えるものである事を証明し、あまつさえ働き口まで見つけてきてしまった。


 その上、ヘアが成人になっている事実も持ち出してきた。一年程度の短い間であったが、伯母という立場を十全に活かし、両親をなくした妹夫婦の娘に手を差し伸べたという恩義を感じさせることで逆らえさせない空気を作ってきたのに、あのカルタ一人のせいでそれが全て台無しとなり、ヘアも口答えするようになってしまった。


 それでも柄にもない泣き落としで温情に訴えることは出来たが、流石にあの状況ではこれまで通りというわけにはいかないのは自明の理であった。


 なのでかなり強引であるが、カルタもろともヘアを盗賊にさらわせ、ある程度時間をおいてから始末させることで、強引でも遺産を手に入れる手続きを済ませようとした。


 ヘアは既に成人しているが、それでもまだ成人して間もないため、ヘアの正式な訴えがない限りは後見人の権利は消えずにのこっている。


 その状況でヘアが死ねば、例え遺書がなくてもやりようによってはなんとかなる。


 尤もフトーメにとって大事なのは、遺産よりも表向きの肩書だ。上手く引き継げば商人としても動けるようになり盗品を捌くのにも有利に働く。そんな事を考えていたわけだが――その時、扉を叩く音が聞こえた。


 ゆっくりとフトーメが振り返り、だれだい? と先ず誰何した。


「……使いのものだ。例の件が片付いた事を知らせに来た」


 フトーメは眉をしかめた。例の件となるとヘアとカルタという餓鬼の事だが、扉の外から聞こえてくる声には聞き覚えがない。


 もし、誰か代わりをよこす場合は専用の隠語を決めてある。しかしそれも全く無いのだから逆に何かあったことを伝えているようなものであった。


「例の件って何のことだい? そもそもあんた誰だいって私は聞いてるんだ。質問に答えるんだね」


 するとガチャリとドアノブが回され扉が開かれた。特に鍵は掛けていなかったわけだが、姿を見せた包帯姿に思わず眉を顰める。


「どうやらそこまで馬鹿ではなかったという事か」

「一体何の話だい? 大体アンタは誰だ。私はあんたなんて全く知らないよ。不審者なら詰め所に突き出すよ!」


 部屋に入ってきた男にフトーメは覚えがない。故につい語気が強まるが、男はため息を一つ吐き出し。


「……全く知らないか、ご挨拶だな。まぁいい。俺はあんたに贈り物を届けにきたのさ」

「贈り物だって?」

「あぁそうだ」


 見ず知らずの男から頂くものなど本来ないが、怪訝そうにしているフトーメなどお構いなしに、男はドアの向こう側へ声を掛ける。


「さぁ入ってきなよふたりとも」





 包帯男に促されふたりは部屋に足を踏み入れた。一瞬だけ、フトーメの頬が反応した気がしたが――


「悪いな。さて、ご紹介に預かった贈り物だぜフトーメさんよ」

「……伯母様」


 カルタの眼の前にはまたでかくなったように感じる伯母の姿があった。ふたりが無事戻ってきたことは間違いなくこの女にとって想定外の事のはずであり、どんな反応を示すか先ずは様子を見る。


「――なんだい、ふたりの知り合いだったのかい。それなら最初からそう言ってくれれば良かったじゃないか。わざわざ回りくどいことをしてくれるよ。でもよかった無事だったんだね」

 

 だが、フトーメの態度に変化はない。この期に及んであくまで伯母として接しようという腹積もりなようだ。その胆力には恐れ入るものがある。


「ま、知り合いと言ってもまだ間もないけどな。だけどそのおかげで色々と助かっている。そして敢えて彼に先に入らせたのは、はっきりと口頭でボロを出してくれたらなと思ったからさ」

「ボロ? 私のことを言っているのかい? これは驚いた。私にはそんなやましい事はないよ」


 どの口が言う、とカルタも包帯の彼も思っていることだろう。


「随分な自信だな。ま、正直これは聞けなかったとしても問題はないんだけどな」

「……何を言ってるんだい?」

「そのままの意味さ。それにしても随分と白々しいな、無事で良かった? 逆だろ? あんたは今のやり取りで作戦が失敗したことを悟った。そうだろ?」

「だから、意味が判らないって言ってるだろうさ」

「伯母様、私達、山で盗賊団に襲われたの。例の漆黒の避役(ブラックカメレオン)に……」

「なんだって!」


 フトーメが両目を見開き驚く。わざとらしいなとカルタは苦笑した。


「それは本当かい! あぁ神様、一体どうしてこんな……それで体は大丈夫なのかい? 怪我は?」

「それ以上近づくな」

「……なんだって? 私はヘアを心配して言ってるんだい。それなのにそんなものを向けて一体どういうつもりだい?」


 カルタが弓を構え、弦を引きつつ矢をフトーメに向けた。その巨大な顔が不機嫌そうに歪む。


「もうとっくにバレてるってことだよ」

「バレる? だから何がだい」

「お前が裏で漆黒の避役と通じてるってことがだよ」


 包帯男が追随する。するとフトーメはわざとらしく更に大きく両目を見開き怒鳴りだした。


「馬鹿言ってるんじゃないよ! よりによってヘアの前でなんてことを言ってくれるんだい! 適当な事を言っていると承知しないよ!」

「適当なんかじゃない。これは確信だ。お前は間違いなく漆黒の避役と繋がっている」

「ほぉ、そこまで言うからには、何かはっきりとした証拠があるんだろうね? 当てずっぽうで物を言っているなら許さないよ! 逆にあんたらを訴えてやるからね!」

「どうぞご勝手に。だけど、そんな事をしたらアンタのほうが間違いなく捕まることになるだろうさ。何せあんたが伯母だという点からして嘘なのだからな」

「……何だって?」

「もっとはっきり言ってやろうかフトーメ・ハイリンス、いや、本当の名前はグリース・マミレルか?」


 フトーメ改めグリースは何も語らなかった。だがその一瞬の間はグリースが頭の中で色々と思考を巡らせているであろう証拠だろう。


「……そんな名前は知らないね。私はフトーメだよ」

「残念だが俺にはそのごまかしは通用しない。実は鑑定する力をもっていてね」

「馬鹿言うな、あんたのスキルは装備変化だろ?」

「さて、それはどうかな」


 カルタは既にスキルについてどう思われようが構わないと腹を決めている。それにどちらにせよ、フトーメはもう終わりだ。


「……ふん、本当に気に食わない餓鬼だよ。でもね、例え鑑定の力があったとしても、あんたの言ったことには矛盾がある。私がグリースな筈がないんだからね」

「それは、指にはめている偽装の指輪があるからバレるはずがないと、そう思っているからか?」

「――ッ!?」


 ここで初めてフトーメの表情に変化が生じた。顔が大きいだけにそれはすぐに判る。おまけに咄嗟に指に手を添えていた。そこにいつも嵌めている赤い宝石がついた指輪があり、それこそが偽装の指輪なのであった。


「うん? どうした? 少し動揺が見れるぞ」

「テメェ……」

「フトーメ、いやグリースだったか。いい加減諦めるんだな。俺はこのカルタの言うことを信じるし、クック(・・・)に伝えて説明に向かわせている――」


 え? とヘアが包帯の彼をみやった。どこか不思議そうな顔を見せているが、構わず包帯男は続けていく。


「――お前がやった失態は他にもあった。アジトの一つに白骨死体があったが、カルタの鑑定でその遺体が誰のものかわかったのさ。ここまで言えば後はどうなるか判るな? この町にも死体鑑定士の一人ぐらいはいるからな。お前の正体がバレるのも時間の問題だぞ?」


 グリースが唇を噛み締めた。馬鹿が、と呟いていたが、これは恐らく盗賊たちに大してだろう。死体の処理を怠ったばかりに足がついてしまった形だ。


 尤もこれとて何箇所かあるアジトの中で、今回盗賊が利用した場所にたまたまその遺体があったというのも大きいが――


「これであんたも終わりだな。折角だからお前のステータスも含めて丸裸にしてやるよ。どうせ、このステータスも偽装だろうが、偽装だと判ってればいくらでも鑑定のしようがある」

 

 神装技の神鑑はあらゆる物を鑑定することが出来る。ただ、偽装の場合そのことを考慮した上でしっかり見ておく必要があった。


 その辺はカルタも思い込みが過ぎたなと反省している。今後は偽装されてる可能性も踏まえてしっかりと鑑定する必要があるだろう。


フトーメ・ハイリンス(偽装)

ステータス(偽装)

総合レベル15

戦闘レベル0

魔法レベル0

技能レベル15

スキル

経営術(偽装)

 

 先ずは偽装されたフトーメとしてのステータスが表示される。そしてその偽装が剥がれ、いよいよグリースとしてのステータスが顕になるわけだが。


グリース・マミエル

ステータス

総合レベル60

戦闘レベル25

魔法レベル0

技能レベル35

スキル

脂肪操作

タイプ:操作系

総合評価:A+

パフォーマンス:A

コスト:B

リスク:B

自身の脂肪を操作するスキル。脂肪は物理攻撃がききにくい。脂肪のかさ増しも可能。スキルの仕様にはそれ相応のカロリーを消費する。しかし無理しすぎると最終的には己の脂肪そのものが減るため、縮んでいってしまう。


 

 え? と思わず声が漏れる。そして目を見開き声を上げた。


「そういうことか! あいつらが恐れていたのはグリース! お前自身! お前まさ――」

 

 その瞬間だった、グリースの膨張した腕が、肥大化した拳が、カルタを捉えた。一瞬にして壁が抜け宿の外側まで吹き飛んでいく――






◇◆◇


「マジかよ畜生!」


 気がついた時、カルタはウッドマッシュの町の丸太の壁を眼下に収めていた。とんでもない勢いで吹き飛ばされたのはこの時点でよく分かる。


 壁を突き破っても勢いが削がれず、こんなところまで飛ばされるとは――咄嗟に神装甲を発動してなければ全身の骨が粉々に砕けていたかもしれない。


 それにしても、流石総合レベル60は伊達ではない。その上、スキルの脂肪操作も厄介そうだ。だが、それならあの体型も、徐々に太ましくなっていたのも判るというものだろう。


 とにかく、勢いも大分落ちてきた。結構離れてしまったが、今のレベルであれば神装甲を解いてもこの距離なら――


『クェエエエエエエェエエエ!』

「……は?」


 しかし、悲しいかな。ようやく地面に着地できそうだと思ったその時、巨大な怪鳥が空中から登場し爪でカルタをしっかりホールド。そのまま明後日の方向に飛んでいこうとする。


「ちょ、ちょっと待てこら!」

『クェエエエェエエエエエィ♪』


グロースアドラ

巨大な鷲のような見た目の魔物。獰猛で、人間を捕まえると巣に連れ去って喰らう性質を持つ。

ステータス

総合レベル42

戦闘レベル30

魔法レベル0

技能レベル12

特徴

帰巣本能、感知、強化滑翔、羽撃ち

スキル

羽硬化


「妙に浮かれてるかと思えば、食う気満々じゃねーーかーー!」

『クェーーーーーー!』

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