第23話 フトーメと盗賊の関係
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「質問に答えろ。さもないと殺すぞ――」
静かな口調で包帯の彼が言った。生き残った盗賊は結局一箇所に集め、あのロープでぐるぐる巻きにすることにした。
リトラに関しても、カルタの鑑定で【軽量化】というスキル持ちであったことが判明し、本人が特別怪力だったわけではないことも判明している。
軽量化は自分自身かもしくは現在自分が触れているものを軽量化出来るスキルだ。だからこそ常人では考えられないような跳躍力も発揮できたし、巨大な岩も重たい鉄槌も投げたり振り回したりすることが出来た。
だが、そうであれば、身動きを取れなくする手はいくらでもあった。ヘアは髪使いに気付かれ振り回されたと言っていたが、それは髪も体の一部であった為、軽量化の効果内に含まれたからだ。
しかしロープできっちりときつく縛ってしまえばそれももう関係がない。いくらロープを軽くしても脱出は不可能であるし、リトラがいくら自分自身を軽くしても他の仲間と繋がっていれば意味がない。
エッジにしても手足を封じられればもう量産は不可能だ。頭のドルーサに関しては手足と口を封じておけばよい。
ものまねは様々な能力を行使できるという点で驚異的ではあるが、その際はモーションもしっかり再現する必要がある。
おまけに何を発動するかも口でしっかり言う必要があるので、実際のところ口だけでも閉じさせればスキル自体は封じれてしまう。
つまり主力と言える頭を含めた三人の賞金首は包帯男の持っていた魔道具のロープ一本で見事に無効化できたわけだ。
正直言えば殺したいところだ、と包帯男は言っていたが、ヘアの姿を見てそれはやめたようだ。
ヘアも恨みがあることには代わりはないだろうが、だから殺して欲しいと思うような性格ではない。身動きをとれなくさせてしまえば後は国に引き渡ししっかりとした裁きを受けさせるのが願いだろう。尤もこれだけのことをやってきたのだから死刑は免れないであろうが。
ちなみに、偉そうに言っておきながら俺もまだ青いか、とはその時の彼の言葉である。
そして、今包帯男が詰問している相手はその中でも唯一これといった戦闘手段を持たない男。つまり起こしても問題ないと判断した、百面相のフェイスである。
「……ふ、ふん! 俺がそんな脅しに屈するとでもぎゃふん!」
包帯男の拳が飛んだ。隻腕とはいえあれだけの武術を使いこなす腕前を有する男だ。腕力も常人よりは遥かに高い。
その上フェイスの戦闘レベルは僅か1だ。ちょっと殴られただけでも大事である。
「ひ、ひぃ、言う、言うから暴力はやめて! 俺の自慢の顔が!」
「ず、随分とあっさりですね」
「そうだな。正直自慢なのか? とは思うけど」
フェイスの変装はとっくに解けている。これで誰もしらないという百面相の本当の顔が拝めたわけだが、四白眼に関してはカルタもそうなので正直人の事は言えないが、全体的にパーツのバランスが悪く、なんとも残念な顔相なのである。
「……俺が言うのもなんだが、せめてもう少し根性見せたらどうだ?」
「情報が欲しいのか欲しくないのか、ど、どっちだよ。それより知りたい情報ってなんだ?」
これについてはカルタも気になることはあったが、とりあえず恨みが深そうな包帯男に任せることにして静観する。
「お前ら、攫った女子供を闇で奴隷として売り払ってるな? その取引先を教えろ」
「は? おいおい冗談だろ?」
もし両手が自由なら大きく広げてやれやれといった顔でも見せそうな雰囲気である。
「奴隷ってまだ本当にあるんですね……」
ただ、ヘアの表情は険しい。奴隷取引は今でも国によっては継続されているが、それでもそれなりに大きな国同士では互いに奴隷禁止の条約を結んでおり表立っての奴隷はほぼ禁止されたと見ていい。
しかし、表にたてなくなれば裏で暗躍するもので、一度奴隷商としての旨味を味わい忘れることの出来ない商会などは奴隷専用の裏ギルドなどを構築し、貴族などを相手に商売を続けている状況でもある。
そしてそういった状況で奴隷を手に入れるために役立っているのがこの漆黒の避役のような盗賊達なのである。
しかし、それは勿論非合法であり非人道的なことでもあるため、ヘアからしてみれば嫌悪感しかわかないのであろう。
「冗談? こっちは大真面目だ」
「やれやれ、判ってないなあんたは。奴隷といっても俺たちは別に取引先が一箇所だけというわけじゃない。ルートはいくらでもあるんだ。それなのにぐへっ!」
「いいからとっとと言え。それだけの取引先があるなら、情報は纏めているはずだろ?」
「ぐっ、いてぇ、いてぇよ、畜生……」
鼻血を垂らし泣き言を述べるフェイス。だが、この程度で済んでるだけまだマシだと思うべきだろう。
「わ、判った。それならこれから独り言を俺は言う、お前らそれを聞くなよ?」
「え? 聞いたら駄目なの?」
「いやヘア、それは聞けって話な」
なんともベタな話だが、少しでも自分の責任を減らしたいがゆえの苦肉の策なのだろう。
「ぴ、ぴ~ひょろ~、あぁ、そういえばこの先に、隠し通路があったんだったな~正面の壁に他とは色が違う感じの壁があって~あれ~? 奴隷関係の名簿はそこにあったっけな~どうだっけな~?」
致命的にわざとらしいな、と冷ややかな目を向けるカルタである。
「判った……それは後で調べる。問題は次だ、お前ら、ウッドマッシュの宿にいるフトーメの依頼を受けていたな? 都合よく小規模なキャラバンや行商だけ狙えたのも宿からの情報提供があったからだな?」
「え!?」
これに一番驚いたのはヘアであった。まさか自分の働いている宿でそのような情報提供が行われていたとは夢にも思わなかったのだろう。ましてやその元凶は伯母のフトーメである。
尤もカルタからすれば、この男とフトーメの会話を盗み聞きした段階で盗賊と関係があったことは判っていたことだ。盗賊に情報提供までしていたことはともかく、何せ妹夫婦を殺害するよう仕向けたのはフトーメ本人である。
ただ、肝心のフェイスの目は泳いでいた。ほとんど言っているのと変わらないほど表情が一変したが、口をすっかり噤んでしまっている。
「おい答えろ!」
「じょ、冗談じゃねぇゴメンだ! あんたはアレの恐ろしさを知らないからそんな事言えるんだ!」
「アレだと?」
怪訝そうな声で繰り返す。フェイスが一体何を恐れているのか判然としないからだ。
「とにかくゴメンだ! それだけはいえ、ゲフッ!」
包帯男が殴る。言わなければ徹底して殴るつもりだろう。今の話しぶりからするともしかしたらフトーメのバックには何かとんでもないのがついているのかもしれないが。
「な、殴るなら殴れよ。なんなら殺してくれたっていいぜ? それでもアレの恨みを買うよりはマシだ。ヘヘッ……」
うつろな目で答える。それでも遠慮なく包帯男の拳が数発跳んだが、全く口を割る気はなさそうだ。
「……チッ、もういい。仕方ねぇ。さて、俺のほうが済んだ。カルタも何かあれば聞くといい」
「いや、それが偶然にも俺たちの聞きたいことはあんたが聞いてくれたからな。特に聞くことはないんだ」
「……ということは、フトーメについてか?」
「あぁ」
カルタが答える。すると包帯男が、やはりな、と呟いた。
「もしかして奴らの目的も予想がついていたのか?」
「まぁそんなところだ。とりあえず急ぐとするか」
そしてカルタ達は洞窟の奥へと進む。その途中で神装甲についても説明することになった。何せ頭のドルーサの前でスキルの事は明かしてしまっている。
神の装甲をまとえるスキルであることにはふたりともかなり驚いていたが、だからといってふたりのカルタに対する接し方が変わるようなことはなかった。ありがたい限りである。
その後、隠し部屋はあっさりと見つかった。その奥は小部屋のようになっていた。
部屋と言っても無造作に掘った窖のようなものである。町の警備長の話だと、アジトは何箇所かあるようで定期的に場所を変えていたようであるし、アジトごとに隠し部屋を用意していたのならそこまで手を掛けていないのもうなずける。
部屋には小さな机が一台だけ用意されていた。折りたたみ式なあたりこれはアジトを移動する時にも持ち歩いていたのだろう。
机の上には羊皮紙を束ねられた書物が一冊置かれていた。包帯男がペラペラと捲り、当たりだ、とつぶやく。
「それが名簿だったんだな?」
「あぁ、そうだ……」
「あの、もしかしてどなたか探しているのですか?」
ヘアが問う。一瞬の間があり、デリケートな部分に踏み込んでしまったかも、とヘアが眉を落とすが。
「ここに来た時、家族について少し話したと思うが」
「あ、あぁそういえばそうだったな」
「……妻は、俺の目の前でここの連中に殺された。散々甚振られてな。だけど、娘だけはその後の所在が判らなかったんだ。ただ、気を失う寸前、奴らが娘は売れると話していたのだけ耳に入ってきた。だから……」
そこまでで言葉を切る。だが、みなまで聞かなくても理解は出来た。名簿が欲しかったのはどこに売られたかを知るためなのだろう。
「……それも、悪いのは伯母、なんでしょうか? だとしたら私……」
「だとしても、貴方が気に病むことなんて何もありませんよ」
「え?」
「例えそうだったとしても、悪いのはあの宿屋の店主だ。そうでしょう? 貴方がそこまで心を痛める必要なんてないんだ。絶対にね」
包帯の彼はそういうがヘアの心境は複雑そうでもある。だからといってこのまま立ち止まっているわけにもいかないのは確かだが。
ヘアの表情は暗かったが、最後にアジトを一回りし確認する。
すると簡易な牢屋が用意されていた。きっとここに攫ってきたものを一時的にでも閉じ込めておく為のものだろう。
構造はやはり単純なものだ。あの小部屋もそうだが、アジトが複数ある以上一つ一つの作りにいちいち拘っていられないのだろう。
「骨か……」
牢屋の中に転がっていたソレを見て包帯男が呟いた。白骨化した遺体であった。雰囲気的にかなり長い期間遺棄されていたように思える。
酷い、とヘアが呟いた。確かにひどい有様だ。牢屋のある壁面には楔が打ち込まれ端から鎖がぶら下がっていた。
鎖の先は枷になっており、元は枷に嵌められ逃げられないようにしていたであろうことが予想できる。
カルタはふと、その骨が気になった。なのでスキルを発動し、神鑑を行使したわけだが――
「え! そんな、どうして?」
「どうした? 何かあったのか?」
「カル、タ?」
カルタが突然声を上げる。その様子に、怪訝そうな顔を見せたふたりであったが。
「……ヘア、聞きたいんだが、君はあの伯母のことは前から話だけ聞いて知っていたんだよな?」
「え? う、うん。お母さんから聞くことはあったから」
「……つまり、顔までは覚えてなかった?」
「はい、私が会ったのはお母さんとお父さんのことがあって、駆けつけてくれたからだから」
「……伯母だと判断したのはどうして?」
「それは、お母さんの事もよく知っていたし、伯母が話してくれた思い出話も私がお母さんから聞いたのと一緒だったから……それを知ってるのはお母さんか伯母ぐらいだと思ったし」
「そういうことか……」
「――お、おいまさか?」
「……あぁ、たぶんあんたの思ってるとおりだ。どうやら俺たちはとんだ思い違いをさせられていたらしい。とにかく急いで町へ戻ろう!」