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第22話 クイッ

 ヘアやカルタが賞金首との戦いを演じている頃、包帯男もまた盗賊団の頭であるドルーサとの戦闘を続けていた。


「螺旋流破鎧術捻氣脚!」


 包帯男の蹴りがドルーサにヒット、したかのように思えたが、そこでドルーサの体は完全に霧散してしまう。


「残念、それはダミー(・・・)だぜ、【指弾】!」

「ガハッ!」


 そう言ったドルーサの本体は彼の背後にいた。そして両手の指を向けて小さな光の弾丸をはげしく連射し背中を撃ち抜いていく。


「放射系のスキル、指弾だ。中々効くだろ?」

「く、くそ……」

 

 包帯の彼が振り返ると、ニヤついた顔を見せる頭の姿。その余裕さが腹立たしくもある。


「それにしてもお前、中々面白い技を使うな。螺旋流というからにはそれは武術か?」

「……そうだ。お前みたいに節操ないのとは違うからな、俺はこれ一つさ」


 隻腕で構え直す。まだまだ負けるつもりはないと威勢を示した。


「ははっ、腕一本しかない上に武術一本か。中々笑える話だぜ」

「……貴様にそれを言われるとはな。本当に、変わらずでいてくれて逆にありがたい」

「あ? なんだそりゃ? まるで俺の事を知っているかのような口ぶりだな?」

「……当然だ。この腕はお前に奪われたんだからな。覚えているか? 一年ほど前、お前たちが襲った家族を、あの宿を追い出されるようにして出てきた俺達のことを」


 包帯男が呻くように述べる。するとドルーサが怪訝そうに目を眇め。


「そうか……テメェあの時の。はは、思い出したぜ。それにしても、まさか生きてたとはな。だけどご苦労なこった。折角助かった命をわざわざまた捨てに来るんだからな」

「……今度はそう簡単にはいかないさ。だが、思い出したならついでに聞かせてもらおうか。お前、俺の娘をどうした?」


 包帯男が尋ねる。だが、ドルーサは、はっ、と鼻を鳴らし。


「そんなものいちいち覚えているかよ。どっかに売り飛ばしたかもしれねぇが、それがどこだったかなんてわざわざ覚えちゃいねぇんだよこっちは」

「そうか、だったらもうお前に聞くことはない」

「それはそれは結構なことで。だけどな、折角だからお前の自慢のそれも俺のレパートリーに加えさせて貰うか。中々使えそうだしな」

「……なんだと?」

「はは、包帯で顔を隠しているが、なんとなく今の気持ちは判るぜ? ま、もうちょっとってとこかな。後少しで掴めそうだ。そうだ、折角だから俺も一つ見せてやるよ。前にレパートリーの一つとして加えた武術をな、先ずは【加速】!」


 トンットンッとドルーサがつま先立ちでステップを踏み始める。片手剣を構え、瞬時に【加速】した。


「踊戦流剣舞術・剣の舞!」


 そして踊るような動きで右手の剣で多方向から攻撃を仕掛けてくる。独特なステップと相まって、上下左右から立体的な所作を交え降り注ぐ剣戟。


 包帯男は隻腕でありながらもなんとかそれらの多くを防ぎ捌き、躱していくが、幾つかの斬撃はもらってしまい、服が切れ血が滲んでいく。


 それでも、そこまで大きな負傷に繋がっていないのは彼の勘の良さと身体能力の高さがあってこそだろう。


「へっ、中々やるな」

「……踊戦流(ようせんりゅう)剣舞術か。全く次から次へとよくやるものだな」

「ふ~ん、武術に精通しているだけに他流派にも詳しいって事か」


 包帯の奥の瞳を光らせ、ドルーサを見据える。右腕の剣を持ち上げ、正面に突き出す形で迎え撃つ姿勢を見せた。


「だが、片腕でこれが防げるかな? 加速!」


 再び移動速度が増し、距離を詰めてくる。見ていてわかったのは、どうやら加速はスキルであるということだ。武術の技ではなく、スキルの力で速度を上げているのだろう。


「龍旋剣舞!」


 距離を詰めたところで竜巻のように体を連続回転させ、剣を振り回しながら特攻してくる。


 高速回転を組み合わせての斬撃だ。もしあたればただでは済まない。


「愚か者が――螺旋流破鎧術――螺旋燈突(らせんとうとつ)!」


 その瞬間だった、彼の構えた剣の先が一瞬だけ煌めいたかと思えば、既にドルーサの体は天井近くまで吹っ飛んでいた。


「踊戦流剣舞術は本来、双剣で戦うのが基本。尤も最初のうちは先ずは片手一本から始めるそうだが、その段階で知った気になってやめ、踊戦流を語る輩もいると聞く。どうやらお前はものまねをするのが得意だったようだが、よりにもよって未完成の技を真似し勘違いしていたようだな。それがそもそもの敗因よ」


 包帯の男が倒れているドルーサに向けて語る。尤も完全に急所は捉えていた。もう生きてはいないであろうが――その時、倒れていたドルーサが何かを呟き、指がクイッ、と曲げられる。


 激しい爆発。地響きが起こり、天井が揺れ岩の破片がパラパラと降り注ぐ。包帯をした彼の足元が突然爆発したのだ。


「ハハッ! どうだ! スキル【爆破】は美味かったかよ!」

「美味しくなんかないさ」

「チッ!」


 立ち上がったドルーサが視線を横にずらす。そこに立っていた。包帯をした彼がだ。


「気づかれたか……」

「殺気が出すぎなんだよ。ま、俺も人のことは言えないだろうが」


 剣を構える。静かな殺気が、その切っ先に集中していた。


「だが、妙だな確実に急所を捉えたはずだが」

「ハッ」

 

 ドルーサは懐から何かを取り出した。木を加工して作ったような人形であった。


「コイツを身代わりにしたのさ。全くスキル様々だな」

 

 どうやら死にそうになった時に人形が身代わりになってくれるスキルも所持していたようだ。様々なスキルを駆使するこの男は一人一つというスキルの原則の外側にいる。


 こいつは厄介だな、と包帯男は思考するが。


「ふん、まぁいい。お前は道具としては十分役に立った」

「……道具だと?」

「そうだ。見せてやる、よ、螺旋流破鎧術捻氣脚!」


 再び加速で距離を詰め、彼に向けて螺旋の蹴りが放たれる。


「なんだと!」


 剣の腹で防ぎつつ後ろに飛び跳ねる。そしてドルーサを睨めつけた。


「貴様、まさか!」

「そのとおり、お前の螺旋流とやらも俺のものまねのレパートリーに加えてやったのさ! 家族を奪われ苦労して覚えた技まで奪われる気持ちはどうだ? 悔しいか? 悔しいだろ! ぎゃははははは!」

「クソ野郎が」

「なんとでも言えよ! どうせお前はもう用済みだ、旋風圧!」


 螺旋流の旋風圧を繰り出す。だが、ソレに合わせるように全く同じ技を繰り出す包帯の彼であり。


「な!?」


 剣圧に押し負けるドルーサ。同じでありながら、全く同じではない差がそこにはあった。


「お前のは所詮猿真似。お前がいくらものまねをしようと、右腕一本で鍛え続けた俺に同じような技で勝てるわけがないだろう?」

「チッ、そうかよ! だったら!」


 ドルーサの左手が動き、指をクイッとさせた。その瞬間包帯の彼の足元に爆発。


 後方に飛び退く彼だが、そこへ更に指クイッ爆破が続く。


「チッ! すばしっこいやつだな!」

「お前がマヌケなんだよ」

 

 包帯男が距離を詰めに掛かる。すると再びドルーサの指がピクンっと動いた。

 再びあの、爆破というスキルが来ると彼は判断する。爆破のスキルを行使する上で、必ず指の動きが必要かまでは不明だが、ドルーサのものまねは、相手の動きもそっくり再現する必要があるのだろう。


 つまり、ドルーサが真似している爆破の元の所持者は、スキル使用時に必ず指をクイッとしていたということだ。


「アースインパクト!」


 だが、指がクイッとされることはなく、気がついたら包帯の彼が飛ばされていた。地面から柱のような物が勢いよく伸び彼の身を捉えたからだ。


 しまったと自分の浅はかさを呪う。このドルーサは散々指をクイッとさせる動きを見せることで逆にそれをフェイントに利用しスキルではない魔法に切り替えてきた。


 どうやらただの馬鹿というわけでもなさそうだ。


「エアロインパクト!」

 

 しかもまだ魔法は終わらない。今度は風の衝撃が包帯男を捉え、更にはげしく吹き飛ばされた。


「これで終わりだ! エアリアルボ――」

「ウル・アロウ!」


 更に術式を刻み、風の爆発を引き起こす魔法を放とうとするドルーサ。

 だが、そこへ別な誰かの声。光と化した矢がドルーサの脇腹を捉えた。盗賊の顔が驚愕に染まる。


 だが、その瞬間、ドルーサの姿がパッと消えた。しかもドルーサだけではなく、トドメの魔法を喰らうところであった、包帯の彼も消え、かと思えばお互い明後日の方向に出現した。


「え? 今のは一体……」

「初めて役に立ったぜ燕雁代飛(えんがんだいひ)――」


 ヘアが目をパチクリさせると、全く別な場所に身を移したドルーサがつぶやく。


 どうやらまた何か妙な技を使ったようだが、今は彼の方が心配だ。ふたりは包帯男に近づき、大丈夫か? と声を掛けるが。


「あぁ、おかげで助かった。それにしても、ザマァないな。情けない限りだ」


 何度かドルーサを追い詰めるところまでいっていた彼だが、そのチャンスを物にできず逆にピンチに陥ってしまったことを悔やんでいるのだろう。


「チッ、それにしてもお前らまで無事とはな。エッジとリトラ、それにフェイスはどうした?」

「三人共仲良くおねんね中だよ」


 カルタが答える。するとドルーサが顔をしかめ。


「全く使えない連中だ。だけど、さっきの技、さてはお前、情報通りのスキルじゃないな? もしそうなら、あいつらが遅れをとるわけないしな」

「……だったらどうする?」


 挑発的な言葉をぶつけるカルタ。すると、ニヤリとドルーサが口角を吊り上げ。


「だったら、じっくり観察させてもらわねぇとな! 我は幻獣界と契約を結ぶものなり、顕現せよ! ジャック・オー・ランタン、ジャック・オー・フロスト、ジャック・オー・ランウータン、ジャック・オー・ファン、ジャック・オー・リッパー!」

「な! まさかあいつ召喚魔法までレパートリーにしてるのか!」

「は、はわわ! 何か一杯出てきました!」

「……全く、厄介な奴だな」


 ドルーサの正面に魔法陣が五つ浮かび上がり、中からカボチャ頭でマントを羽織ったジャック・オー・ランタン、白い大小の毛玉がふたつ縦に並び細い手足を生やしたジャック・オー・フロスト、大きめの猿のような見た目なジャック・オー・ランウータン、可愛らしい少女のような見た目で手に葉っぱの扇を抱えたジャック・オー・ファン、目付きの悪い人形といった様相で両手にナイフを持ったジャック・オー・リッパーの五体が出現する。


 幻獣界より招かれた召喚獣達だ。そして幻獣界からやってきたものは大抵高い能力を持つ。

 

 それらを同時に相手するのはかなり厳しい。カルタが神装甲を行使しても3分の間で片がつくかは微妙なところだ。


「ははは! この状況を打破したければ出し惜しみなんてせず、本来の力を見せることだな! そうでなきゃ死ぬだけだ――」

「神装甲だ」

「……は?」


 だが、ここでなんと、あっさりカルタがドルーサにスキルを明かしてしまう。


「だから、俺の本当のスキル。それが神装甲。神の装甲を顕現できるという強力な力でな。この通り」


 更にカルタは狩猟神ノ装甲を顕現し、先ほど見せたウル・アロウで天井を射抜き、今度は剣神ノ装甲に切り替え、変化した神の剣を見せつけた。


「う、うそだろう? 神の力を自由に扱えるなんて、そんなスキル使えれば、無敵じゃねぇか」

「まぁ、そうだろうな。実際俺はこのスキルのおかげで随分と助けられた。だが、お前にこのスキルが果たして真似出来るかな?」

 

 カルタの挑発。するとドルーサが高笑いを決め。


「馬鹿が! 俺のスキル、【ものまね】は、相手のスキルが何なのかが判って、スキルを実際目に出来れば完璧にものまねできる! 召喚なんてしてる場合じゃねぇぜ! 早速そのスキルものまねしてやる!」

「ちょ、カルタ、まずいんじゃ!」

「もうおせーよ! 行くぞ! 神装甲――」


 その瞬間だった。ドルーサが召喚した召喚獣達が霧が晴れたように一斉に消え去った。


 そして召喚主であるドルーサは――その場で白目を剥き、どさりと地面に崩れ落ちてしまう。


「……え? え?」

「ど、どうなってる? 召喚獣も消えたってことは、まさか、気を失ったのか?」


 ふたりが不思議そうな顔を見せていたが、カルタはむしろそれはそうだろうと言った顔を見せ。


「あいつのものまねを鑑定してわかったのさ。ものまねは相手の魔法や技などをものまねして再現できる代わりに消費は大きくなる。神装甲はただでさえ消費が激しく扱いが難しい。そんなスキルを何も知らずに使用したらどうなるかなんて火を見るより明らかさ」


 そう、神装甲は体力も生命力も極端に消費するスキルだ。カルタも最初は3秒しか発動できなかったぐらいなのである。


 当然、ものまねなどというスキルで中途半端に再現しようとすればどうなるか、その結果がご覧の有様だったというわけなのである――

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