第21話 ヘアを案じる
カルタはエッジとの戦いを続けていた。
エッジ
ステータス
総合レベル26
戦闘レベル12
魔法レベル0
技能レベル14
スキル
量産
タイプ:創造系
総合評価B-
パフォーマンスB
コストG
リスクC
手持ちの道具を量産出来る。ただし量産した場合は量産元の本体よりは性能が落ちる。
知識神ノ装甲に変化させ、神鑑で鑑定を行った結果見れたステータスがこれである。
スキルに関してはより詳しく知りたいと考えた結果、ここまで表示された。
どうやらナイフにしろあの紅蓮爆弾とやらが全く尽きる様子を見せないのも、このスキルのおかげと考えて良さそうだ。
それにしても、かなり使えるスキルではある。盗賊なんてやらずに商人でもやればこのスキルでも十分一旗上げることは可能であっただろう。
確かに量産した分は劣化するという欠点があるが、それであってもその分値段が下がれば役に立つと考える者も多いことだろう。
ただ、戦闘面においても確かに相当厄介ではある。何せ今使用しているような強力な魔道具さえあれば、多少性能が落ちるとは言え使い放題である。
「ロックシュート!」
「あぁ、うざったい!」
カルタは神装甲を解き、魔法を唱えてくる盗賊に矢を射る。悲鳴を上げて魔術師姿の女が倒れた。
多少罪悪感は生まれたが、相手が殺す気できているのに容赦などしていられない。
ただでさえヘアのことが気にかかる。壁が出来てしまい完全にふたりは分断されてしまった。しかもヘアの方にはあの怪力女が向かってしまっている。
だが、カルタの方も決して余裕のある状況ではない。相手はエッジだけでは済まなかった。いつの間にか近づいてきていた残りの盗賊たちもカルタを囲んで攻撃を仕掛けてきている。
「神装甲! 剣神ノ装甲!」
こうなっては仕方ない。ヘアの事も心配だ。カルタはスキルを発動させ、剣の形状を片手剣に――そして、ハリケーンエッジ! と叫び、回転しながら周囲の盗賊たちを次々と切り裂いていった。
「な! あれだけの人数を一瞬でだと! どうなってやがる!」
「お前に言う必要はない! とっとと決める!」
神装甲に変化したカルタの動きは早い。まさに疾風怒濤、一気に距離を詰めにかかる。
だが、エッジは量産したナイフを投擲しながら逆に距離を離そうとしてくる。カルタは飛んできたナイフは全て神の剣で切り払うが、ナイフに紛れていたぶよぶよした球体までも切ってしまった。
途端にベタベタとした液体が全身に纏わりつく。粘度が高く、足が地面に取られやすくなったせいか、動きが鈍る。
「スライムガムの粘液から作ったガムボールだ! 更にこれで終わらせるぜ。土雷針!」
エッジが投げた針がカルタの足元に突き刺さる。その瞬間、バチバチッ! と地面から周辺へ電撃が迸った。
「な、がっ!」
カルタの息が止まった。ガムボールが弾け、まとわりついたベタベタの液体が電撃をよく通したからだ。つまり感電したのである。
「ギャハッ! スライムガムの粘液は電撃をよく伝えてくれるのさ。効いたろ? 痺れただろ! 効果てきめん! そしてこれでトドメだ!」
両手の指に挟めたナイフを纏めてカルタへ投げつける。電撃で動きが止まった今なら、避ける手段はない! とそう踏んだようだが。
「【ブレイブゲイザー】!」
カルタが片手半剣に変化させていた神剣を振り下ろした。痺れこそしたが、咄嗟にそれぐらいのことはする気力は残っていた。
そして、神装技を発動。剣を振り下ろすと同時に光の衝撃がカルタを中心に全方位へ広がった。投擲されたナイフが全て弾き飛ばされ、衝撃波はエッジの身すらも吹き飛ばした。
常に背中を折れ曲げたような状態で動き回っていたエッジの背中が逆側に反れるほどのインパクト。しかもエッジはナイフを投げた後、紅蓮爆弾も取り出していた。
もしもナイフでトドメをさせなかった時の事を考えていたのだろうがこれが完全に裏目に出る。光の衝撃によって、爆弾も誘発され、吹き飛ばされながら爆発まで引き起こしたからだ。
全身が焦げ付いたエッジがドスンッと地面に落ちた。プスプスと煙があがっており、ひくひくと痙攣している。
もう動くことはないだろうが、とりあえず背嚢から縄を取り出し固く縛っておく。
ついでにエッジの持っているナイフや魔道具を頂いておいた。ナイフはそこまで必要ないが一本でも残ってると量産してしまう。体を縛ってはいるが念の為だ。
さて、とカルタはヘアの下へ急ごうと動き出す。やはり彼女のことは心配であったが――
「カルタさん!」
「ヘア!」
なんと、ヘアが声を上げカルタに駆け寄ってきた。どうやらあのリトラという少女の追撃は免れたようである。
「よかった無事だったんですね」
「あぁ、俺は大丈夫だ。ヘアの方こそ怪我はないか?」
声を掛け、ざっと彼女の全身を確認する。見たところこれと言った怪我はないようだが。
「はい! 大丈夫です!」
「そうか……あのリトラという盗賊は随分と手強そうだったのに、よく無事でいられたな」
「えぇ……正直焦りました。私、カルタさんみたいに使えそうなスキルも持ち合わせていないし」
「――使えるスキルが、ない?」
「は、はい。カルタさんも知ってますよね? 私のスキルは紙使い。手も触れず紙を切ったりぐらいは出来ますが、戦闘ではあまり役に立たないから、もう必死で逃げてきちゃいました」
「……ふ~ん、そうか。そうだな、本当よく無事でいてくれた嬉しいよ」
一通り話を聞き、カルタはニコリとわざとらしいぐらいの笑顔を返した。
するとヘアは、さ、先を急ぎましょう、と口にし。
「あの、リトラが先にいるかもしれないので、カルタさん、先にいってもらっていいですか?」
「……あぁ、判ったよ」
ヘアに言われるがまま、カルタは彼女の前を歩き出す。
「ところで、次はゴールドクラウンの都市を目指そうと思ってるんだけど、ヘアは何か知ってるかい?」
「う~ん、ゴールドクラウンは言ったことないから、判らない、ですね!」
刃と刃のぶつかり合う音が洞窟内にこだました。振り向いたカルタの目は冷たく、不意を付けたと勘違いしていたヘアの顔は驚愕に満ちていた。
「悪いな、俺が行く予定なのはシルバークラウンなんだ」
「な!?」
ヘア(?)が飛び退き距離を取る。明らかな動揺の色が窺えた。
「き、気づいていたのか?」
「あぁ、なんだかおかしいとは思っていたんだけどな。俺への態度も妙によそよそしくなっていたし、それに何よりスキルについてが致命的すぎた。まぁどちらにせよ、もう正体は判ったよ。お前が百面相のフェイスなんだろ?」
ぐっ、と呻き声を上げる。かなり驚いているようだが、神鑑を使えば一発だ。
「ついでに言えば、ウッドマッシュでフトーメの横にいたサングラスの男もお前と見てるが、図星だろ?」
「……そ、そこまで教えるわけねぇだろ! 馬鹿が!」
「いや、逃げるなよ」
「グボッ!」
踵を返して立ち去ろうとしたのでダッシュで前に回り込み、思いっきり殴ってやった。
その一発だけで、フェイスはあっさりとぶっ飛ばされ、地面にしこたま頭を打ち付け、そして――気絶した。
「……ステータス見て判っていたけど、本当に弱いな」
フェイス
ステータス
総合レベル15
戦闘レベル1
魔法レベル0
技能レベル14
スキル
変装
タイプ:変化系
総合評価:B
パフォーマンス:B
コスト:G
リスク:G
望んだ姿に変装出来る。性別は問わないが対象は人型の種族のみ。声や仕草も本人そっくりとなるがステータスやスキルは変化しない。
これがフェイスのステータスであった。技能レベルはそれなりに高いが、変装は戦闘では全く役に立たないスキルだ。つまり一度戦闘になってしまえば実質レベル1である。
カルタが神装甲を解いてからでも余裕で回り込むことが出来たのも、この戦闘レベルの低さゆえだ。このレベルではスキルなしでも戦闘レベル19であるカルタから逃げ切れるわけがないのである。
「なんだか拍子抜けだったが、こんなのでも多少は時間を食ってしまったしな……」
独りごちつつ、思考をヘアに向ける。
だが、その時である。
「カルタ! 良かった、無事だったのね」
「え?」
声のした方へ振り返ると、嬉しそうに駆け寄ってくるヘアの姿。その様相にデジャブを感じるカルタであり。
「わ! 凄い、これ全部カルタがやったのですか?」
「あ、あぁそうだけど、え~と、あの少女は?」
「あ! リトラのことですね。凄く強かったのだけど、なんとか気絶させることが出来ました! これもカルタのおかげです!」
「え? 俺の?」
「はい! 髪使いの事を教えて貰ってなければ流石にやられてたと思うし……」
それを聞いて、ようやくカルタはホッと胸をなでおろした。どうやら今度はちゃんと本物のヘアのようである――
明日までに10万文字に達するよう連続更新致します。
誤字などのご指摘ありがとうございます!落ち着きましたら修正していこうと思います。