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最弱スキル紙装甲のせいで仲間からも村からも追放された、が、それは誤字っ子女神のせいだった!~誤字を正して最強へと駆け上がる~  作者: 空地 大乃
第二章 はじめての町と出会い編

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第17話 包帯の男

「助けてやったというのに、それはないんじゃないか?」


 包帯で顔を隠した隻腕の男は、ふたりに体を向けなおすと肩を竦め勘弁してくれと言った様子を見せた。


 盗賊を全て片付けた後、男はふたりを縛っていた縄を切り解放してくれたわけだが、その直後カルタが転がっていた盗賊の武器を拾い刃を突きつけた形だ。


「あんた、確かにウッドマッシュで手配書を眺めていたな?」

「あぁ、よく覚えていたな。なら判るだろ? 用があるのはここの盗賊共だ、だからお前さんたちに危害を加えるつもりはないさ」


 まぁ、そうであろう。何せ虚を突いたとは言え一瞬にして六人の盗賊を声を上げさせる暇も与えずに全て一撃で葬り去った男だ。


 それだけの腕があればカルタやヘアも狙う気なら一緒に始末しようとしていたことだろう。尤もそんな事になったらカルタも黙ってはいないが。


「あんたは盗賊に恨みがあるのか?」

「あぁ、特にこの漆黒の避役(ブラックカメレオン)には特にな」

「……まぁ、町で見かけたから様子も知っているし、嘘ではないんだろう」


 カルタは剣を引っ込め地面に放り投げた。一応は信用したという意思表示である。


「あ、あの、ありがとうございます」

「――あ、あぁ。たまたま見かけたから、助けたというだけですよ。気にしないでください」


 敵ではないということ。そして結果的に自分たちを助けてもらった事にヘアがお礼を述べる。

 彼女の姿を包帯男はどこか戸惑いがちに眺めた後、どこか遠慮がちに答えた。


 自分とは随分と態度が違うな、と感じるカルタであったわけだが。


「それより、折角助けたんだ。あんたもこの子を連れて早く町に引き返すんだな」

「は?」


 男の忠告に怪訝そうに眉をひそめる。そんなカルタの態度に、包帯男は僅かに首を傾けた後。


「この先はこの連中より手強い盗賊がいる。間違いなくな。手配書の連中はこんな雑魚連中とは比べ物にならないんだ。この程度に囲まれたぐらいで何もできなくなる程度じゃ足手まといなだけだ」


 包帯男はヘアをチラチラと気にしながらもカルタにおとなしく引き下がるよう言ってきた。

 正直、この男が助けようとしてくれたことは評価するが、役立たずと思われるのは心外である。


「一応助けてもらったからヘアもお礼を言ったけどな、あんた勘違いしてるぜ」

「勘違いだと?」

「そうだ。俺たちは何も出来なかったから捕まったわけじゃない。奴らのアジトを突き止めるために敢えて捕まっていただけだ。そうでなきゃこの程度の奴らに遅れを取ったりはしない」

「……随分な自信だな。しかし、お前たちは奴らに縄で縛られていた。その状況からどうやって逃れる気だったというのだ?」

「そうだな、あんた、体は動くか?」

「……何を言っている。当たり前――ムッ!?


 男が唸る。信じられないといった驚きを感じた。


「動かない……どうなってる?」

「それがこの子、ヘアのスキルだ。詳しくは言えないが、相手を拘束したり攻撃にも使えるスキルさ。見ての通り武器を所持して無くても使えるから、さっきの縄程度なら問題なく切断して脱出できた」


 ヘアに一度目を向けた後、カルタが男に説明する。そして男を解放した。

 自分の体を確認する男だが、何が起きたか理解は出来ていないだろう。ヘアの髪の毛は一本一本が細く、今は色も変化が可能だ。巻き付けた時に相手のカラーに合わせればそう簡単には正体に気がつかない。


「ふむ、まさかここまでとはな――どうやら俺は余計な事をしてしまったのかな?」

「いや、それでも盗賊団を相手にするんだからな。戦力が大いにこしたことはない。あんたも随分とやるみたいだしな」

「ふむ――」


 包帯男の実力は今まさに目の前で見せてもらった。これなら戦力として申し分ないとカルタは判断している。


「どうもいつの間にか俺が加勢する側に回ってるような雰囲気だな。まぁ、でも、そうだな――」

 

 包帯男はアジトのある闇穴の横の壁に近づき、そしてそっと手を添えたわけだが――その瞬間激しい轟音と同時に岩が砕けはげしく飛び散った。


「一応俺はこのぐらいなら出来る。ま、その程度だ」


 手をどかすと岸壁が螺旋状に削れ、奥に向けて深く穿たれていた。先が空洞になっていたとはいえ間の壁は三十センチはあったことだろう。武器もなく素手であったにも関わらずとんでもない破壊力である。


「凄いな」

 

 カルタはその腕前に感嘆の言葉を漏らす。だが、彼もまた負けず嫌いであり。


「ウル・アロウ!」

 

 装備品を回収した後、狩猟神ノ装甲に切り替え、包帯男があけた穴の横に同じように穴を追加するカルタであった。


 結局、お互い何かを認めたように微笑した後、三人が頷きあい洞窟へと足を進めていく――





「でも、さっきの技は凄かったですね」

「……あ、そ、そうですか?」

「俺もすごい技だとは思ったよ。あれもスキルの効果?」

「……いや、俺が持ってるスキルは馬鑑定だからな。全然関係ない」


 どうもヘアに対する態度との違いが若干気になるカルタであったが、彼のスキルを聞き意識は完全にそちらに向いた。


「馬鑑定、というと馬限定の鑑定?」

「そう。相手が馬なら体調や好みや、疲労度なんかもよくわかるけど、馬以外には一切使えない。それが俺の馬鑑定さ」

 

 彼はどことなく自虐的な口調で語る。だが、スキルにはこういった効果が限定されたタイプはよくある。


 例えばカルタからレーノを奪ったリャクは強化装甲というスキルを授かっていたが、他にも剣強化や斧強化といったスキルも存在する。

 

 これと同じように鑑定にもあらゆるものを鑑定できる全鑑定もあれば、植物鑑定、食料鑑定、土鑑定、武器鑑定、人鑑定などといった物も存在する。


 包帯男の持つ馬鑑定もようはその一種であるが――


「でも、そのスキルだと戦闘には……」

「あぁ、お察しの通り、戦闘にはさっぱり役に立たない。だから以前は戦闘なんかとは縁遠い生活をしていたのさ。それでも人並な幸せを手に入れてな。妻も娘もいた。だけど――この盗賊たちの手で……」


 口調が変わる。声色に憎悪が込められ、空気が黒色で侵食されていくようなそんな気がした。


 詳しくは語らなかったが、何も言わないことが語っているようなものであった。ヘアもそうであるが、この男も盗賊によって全てを奪われたのだろう。


「それで、恨みを晴らすために漆黒の避役を追っていたのか」

「あぁ。尤も簡単ではなかったさ。見ての通り俺は奴らに片腕を奪われ、拷問に次ぐ拷問をうけ半死半生の状態となり、その上で谷底に落とされたんだ。死体の処理が面倒とでも思ったんだろう。だけどどうやら俺は死神に嫌われたらしくてね。気がついたらどこかの小屋に寝かされていた」

「……そうだったのですね。でも、酷いです」

「あぁ、全くだ。だけど俺はある意味運が良かった。その時俺を助けてくれたのは、腕利きの冒険者でね。その人にお願いして俺は弟子入りさせてもらったんだ」

「もしかして、あの技はそれで?」

「あぁ、俺のスキルは全く戦闘に使えないものだったが、その冒険者はさる武術の達人でね。必死に師事をお願いして期間限定ではあったけど、承諾してもらうことが出来た」

「武術、そうかそれで……」


 カルタは得心がいったと一人うなずく。この世界、スキルの良し悪しで能力が判断されることも少なくないが、当然だが効果があまり高くないスキルを授かるものも多い。


 だが、そういった者でも冒険者に憧れその道を目指すことも多々ある。またどれだけスキルが強力でも場合によってはスキルが使用できない状況に追い込まれたり、スキル同士の相性が悪いこともある。

 

 そういった状況でスキルに頼らない戦い方として長年研究され生み出されたのが武術だ。

 武術は様々な流派が存在し、流派によってあらゆる武器に精通している場合や体術だけや剣術だけに特化している場合などもあるが、どちらにしても武術を会得することは戦闘において有利に働く。


「俺が会得したのは螺旋流破鎧術という流派でな。時間も短かった上に、怪我の後遺症も暫くは残っていたから苦労はしたけど――奴らへの復讐心だけを糧に必死に覚えたのさ」


 カルタは素直に感心する。同時に先程ついスキルで張り合ってしまったのを恥ずかしく感じてしまった。


 スキルと武術の違いはスキルは授かった時点である程度出来る事が理解できている状態から始められるのに対し、武術は基本ゼロからのスタートとなるからだ。当然武術を極めるには相当な努力が必要となる。


 勿論以前、全能神であるスキルダスが言っていたように、どれだけ強力なスキルを手に入れようとそれを活かせるか、そしてスキルの力をどれだけ引き出せるかは本人の日々の努力によるところが大きい。


 だが、それでも怪我を負った状態で全く何もないところからここまで鍛え上げてきた彼に比べたら、まだまだ自分はスキルにおんぶにだっこだな、と恥ずかしくもあった。

 

 尤もだからといって自分のスキルを否定したりはしない。それよりも、彼の武術により興味が湧いた。


 カルタは村にいた頃に武術について話を聞いたことがある程度である。故に、流派についても全く詳しくない。つまり武術を会得した戦士を目にするのはこれが初めてなのである。


 その片鱗は先程の動きでも見ることが出来たが、おそらくあの程度ではまだまだ実力の半分も発揮していないことだろう。


「さて、そろそろか、気を引き締めてくれよ。特にいくらスキルが優れているといっても彼女からは目を離さないようにな」

「え? そ、そんな! 彼女だなんて!」


 ヘアが途端にわたわたしだす。きっと今の彼女はそういう意味ではないのだろうな、と苦笑するカルタであったが――その時、前方から足音と何者かの話し声が聞こえてきた。

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