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第15話 伯母の本音?

 カルタに言い負かされる形でその場に崩れ落ちたフトーメであったが――何を思ったのか突如ボロボロと涙を流し始めた。


「え! あ、あの伯母様、一体?」

「情けないのさ」

「え?」

「私はね、今日ほど自分自身がこうも情けなく思ったことはないよ。良かれと思ってやってきたことがこうも裏目に出るなんてねぇ」

「良かれと、思って?」


 カルタが眉を顰める。一体こいつは何を言い出すつもりなんだ? と妙な不安が頭を擡げる。


「そうさ。私はね生前の妹から、つまりヘア、あんたの母さんから頼まれていたんだ。もし自分に何かあったら、ヘアの事は私に頼みたいってね。だから、私はあんたに敢えて辛く当たった。成人して自分で稼がなくいけなくなったら私がやったことなんかよりもっと辛くて理不尽なことが山ほどあるからね。私だって辛くて悲しかったけど心を鬼にして厳しくあたったのさ。だけど、どうやらそれは私の独りよがりだったようだね。結局肝心の本人に伝わってなきゃ何の意味もない」

「伯母様……」

「ちょっと待て。ヘアよく考えるんだ。いくら成人してからの厳しさを教えるためだからといって、少なくとも俺が見てきたアレはやりすぎだ」

「そのとおりだ。俺もそれは調子が良すぎないかと思うが――」

「確かに、普通に生きていくためだけなら私のやり方は厳しかった。それは認めるよ。でもね、将来的に両親の跡を継いでもらいたいと、そう考えていたとしたらどうだい?」

「え?」


 カルタとクックが揃ってフトーメの理由に異を唱えるが、しかし決して動じること無く伯母は話を続けヘアもすっかり聞き入っている。


「ヘアは残念ながら良いスキルに巡り会えなかった。私はそう思っていた。私が急に厳しくあたったのはそうとなった以上、あんたの道は両親と同じ商人の道しかないと思ったからさ。遺産も残ってるしね。どうやら私が遺産目当てで近づいたと邪推してる連中もいるようだけどね、そうじゃないのさ。私はヘア、あんたが本当の意味で遺産を引き継げるぐらいまで成長できるのを待っていたのさ。それを見届けたら、当然おとなしく残りの全てを明け渡すつもりだった。けれどそれには宿の仕事だけじゃ駄目だ。もっと広い視野で世の中を見ないとね。だから、この男にあんたを預けようと思ったんだ」

「何をバカなことを、商人にとって大事な事というのが体を売ることだとでも言うつもりか!」


 クックが声を張り上げ怒りを顕にした。だが、フトーメはやれやれと頭を振り。


「何も判っていないのはアンタ達さ。一体いつ私がヘアに体を売れだなんて言った? 確かに体を使って稼げとは言ったけどね、それはそういう意味じゃないのさ。どうやらこの男の仕事がソレしかないと思ってるようだけど、こう見えてこいつは手広く色々な商売をしている。まっとうな仕事もね。ヘアに預けようと思ったのは商人としての仕事を学んで貰うためなのさ。それなのにあんたらときたら余計な事ばかり吹き込んでくれるよ」

「そんな、伯母様……」


 不味いな、とカルタは考える。ヘアが伯母の話に段々と絆されはじめているからだ。

 だが、カルタは当然フトーメの話には懐疑的だ。大体これまで見てきたやり方は例えしつけでもやりすぎであるし、それに言っていることにも引っかかりを覚える。


 フトーメはヘアに商人として妹夫婦の跡を引き継がせたいと言っていたが、だとしたら紙屋を営む主人に対して小馬鹿にしたような失礼な物言いなどもありえないことだ。


 何よりその紙屋についてよく知らなかったようなのも頂けない。実はカルタとヘアは前もって紙屋を訪れている。


 それは広場でちょっとしたパフォーマンスを行うためぜひとも見に来て欲しいと頼むためであった。


 ただ。それでヘアを認めるフリをしてもらおうなどと思ったわけではない。そんなその場しのぎの嘘ではバレる可能性もあって逆に危険だからだ。


 カルタが頼んだのは、広場で行うヘアのパフォーマンスを見て紙屋として欲しい人材かどうか見極めてほしいということだけだ。


 勿論それで期待だけ持たせてはいけない為、それで認めてもらったとしても必ずお役に立てるかは判らないとつけくわえてはおいた。あまりに勝手なお願いではあったのだが、このままでは一人の少女の未来が不当に摘まれることになるとお願いしたところ快く引き受けてもらえた。


 その時に店の中も見せてもらったわけだが、少なくとも一度でも店を見ていれば商人であれば、たかが、などと一蹴できるような仕事ではないことを理解できたはずだ。仕事量も多く、商売人の目で見れば蔑ろに出来る品でもない。


 にも関わらず、フトーメはヘアを認めてくれた主人にあのような態度を取ったのである。そのような女が今更商人だなんだと言っても胡散臭いだけである。


「ですが、伯母様の気持ちは嬉しいのですが、私……」

「いや、もういいんだよ」

「え?」

「ヘア、私がね間違っていたんだ。そうさ、あんたは成人したんだから、お前の気持ちを第一に考えるべきだったんだ。だから、今更私はあんたに将来を押し付けたりする気はないよ。それに、そのスキル、立派じゃないか。実は私は悔しくてね。私に出来ないことをそっちの男はあっさりやってのけた。スキルを開花させた。だけど私は素直にそれを受け入れられなかった。だからつい意固地になってしまって、悪かったね。貴方も、先程は失礼な事をいったよ。本当に悪かったね」

「いや、私は気にしてませんよ。判ってさえ貰えればそれでいいのです。しかし、どうやら色々と誤解があったようですな」

「む……ん、ぐぅ」


 だが、フトーメの態度はここで意外な方向へ舵を切る。紙屋の主人にも非礼を詫び、更にヘアを認める発言までし始めた。


 これにはクックでさえ真意を掴みきれていないといったところだ。


「ヘア。あんたの人生だよ。もう成人してるんだから、好きな道に進みな。だけどね、その前に一つだけお願い事をしていいかい?」


 だが、この発言にピクリとカルタが反応する。


「は、はい! 私で出来ることなら!」

「はは、勿論さ。まぁ認めると言っておきながら勝手な話なんだけどね。ヘアにまたキノコと山菜を採りにいってもらいたいのさ。それで最後にしっかり独り立ち出来るんだってところを見せて欲しいのさ」

「ちょっと待て。それこそどういうつもりだ? 前にも言ったがあの山は本来女の子が一人で行くような――」

「判ってるさ。だから今回は正式にあんたにも一緒についていってもらいたいんだ。ヘアの護衛としてね。当然さ、私だって何も妹が残した大事な娘を危険な目に合わせたいわけじゃない。だけどあんたが一緒なら安心だろ?」

「え? 俺も、一緒に?」

「そうだい。いやかい? 勿論護衛分の代金もしっかりと支払うよ」

「……でも」

「カルタ、私からもお願い! 私、なにか色々誤解していたみたいで。だから、最後にこれはしっかりとやっておきたいの!」

 

 ヘアに懇願される。伯母を完全に信じ切ってしまっているのがなんとも気になるところだが、現状ここまででフトーメに対して言えることがない。


 何せヘアの自由を認め、ヘアもそれを受け入れ、お願いされた事もカルタ同伴で良いと言われ護衛料まで出すと言うのだから。


「……判った、承諾しよう。ただ、護衛料はいらない」

「そういうわけにはいかないさ。そうさね、ならこれまでの宿泊分は無料ということにしておくよ。支払ってもらった分も後でしっかり返却するからね」


 どういう風の吹き回しだ? と薄気味悪く感じ眉を落とすカルタであったが。


「あぁそうだ。ヘア、山に行く前に30分ぐらいどこかで時間を潰してまた戻ってきてくれるかい? 遺産についてしっかり話して置きたいんだ。妙な誤解をされたままでも嫌だしね。ただ、それを準備するのに時間が掛かるからね」


 ふたりはそれを承諾し、とりあえず30分は宿を離れることにする。

 

 そして――


「クック、あんたにも世話をかけたね。さて、とりあえず私は部屋で整理しているから何かあったら呼んどくれ」

「あ、あぁ」


 宿に戻った後、フトーメはこれまでとは考えられない程の穏やかな態度でクックに話しかけてきた。それに戸惑いを隠せないクックであったが、そこへヘアが戻ってきた。


「……うん? お嬢様、どうかしたのですか?」

「あ、はい。実は伯母に一つだけ伝え忘れたことがあって」

「そうですか」


 そしてヘアがフトーメの部屋に向かい、入ってもいいですか? という声とそれを許可する伯母の声が彼の耳に届く。


 クックは、この30分の間にもしかしたら何かあるのか、と目を光らせていたが、それ以降これといった怪しい人物が顔を見せることもなかったのだった。

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