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最弱スキル紙装甲のせいで仲間からも村からも追放された、が、それは誤字っ子女神のせいだった!~誤字を正して最強へと駆け上がる~  作者: 空地 大乃
第二章 はじめての町と出会い編

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第13話 漆黒の避役

 神行の間から出たふたり。そして改めて外の様子を確認したが、どうやら時間がほとんど経っていないのは確かなようであった。


 それはまず太陽の位置が事前に確認していた事と同じであること。更に植えておいたトキソダチの種がまだ芽吹いたばかりなことからも明らかであった。


 トキソダチは種から一時間の間に実を結び種を残して枯れる。カルタはこの種を利用した。もし十一日つまり11分以上時間が過ぎてしまっていれば既にこのトキソダチは成長しきって枯れてしまっている筈だ。だが、そうではなかったということはやはり説明通り一日が1分ということで間違いないのであろう。


「ほ、本当に11分しか時間が経ってないんだね。何か不思議な感じ……」

「あぁ、おまけにあの空間では年は取らないからね。年齢の差でこちら側と齟齬が生じるようなこともない」

「べ、便利すぎます」

「うん、でもその代り月に一度しか開けないから今回みたいに必要な時は見極めないと駄目かな」

「逆に申し訳ないです」


 恐縮してるヘアだが、カルタとて必要だと思ったから開けたわけであり良い修行にもなった。


「最初にも言ったけど好きにやってることだから気にしなくていいさ。さぁ、町へ戻ろうか。あの伯母さんにヘアのスキルが使えるって事を教えないといけないし」

 

 そしてカルタたちは帰路につくわけだが――


「ちょ、ちょっと待ってください約束が違います!」

「わ、悪いな俺たちだって命は惜しいんだ!」

「それに前金分の仕事はやったつもりだじゃあな!」

「そ、そんな……」

「へへへ、もう諦めるんだな」

「い、いや貴方! 貴方ぁ!」

「うるせぇ! 死にたくなきゃおとなしくしろ! そうすればテメェの命だけは助けてやるよ」

「ま、旦那は必要ないから殺すけどな」

「ひぃ、ひぃ!」

「全く、とっとと町に戻ろうと思えば、お前らみたいのと遭遇するんだな」

「――ッ!?」


 明らかに誰かが襲われている様子だったのでカルタとヘアが急いで現場に向かうと案の定、一台の馬車が賊と思われる連中に襲われていた。


 相手は四人いて、見たところ襲撃されたのは夫婦の商人といった感じか。護衛がいたようだが我先にと逃げ出したようだ。

 盗賊は、馬車の中から取り出したと思われる品物を物色しているのが一人いて、残り三人の内一人が、三十代そこそこといった髭の生えた男性に剣を振り上げており、残り二人は二十代半ばの女性相手にニタニタと嫌らしい笑みを浮かべている。


 夫と違い、妻の方を殺す気はなさそうだが、一人が後ろに回って抱きつき身動き取れないようにしながら片方の手はスカートの裾を乱暴に捲りあげており、あわやショーツが丸見えになりそうといった状態。


 当然、この状況を見て放って置けるほどふたりは薄情ではなく。


「チッ、見られたか。だが、ガキが身の程知らずもいいところだぜ」

「へへっ、だがよ女のほうは中々の上物だ。今コイツを殺した後、お前らも楽しんでやる、て、は? 腕が、腕が動かねぇ!」

「無駄だよ」


 商人の男性の方を手に掛けようとした盗賊に向けカルタが断言する。そう、無駄であった。なぜならとっくにヘアが地面を伝うように髪を伸ばしその腕をホールドしてしまっている。


「カルタ、あっちのふたりももう動けなくしたから!」

「いいね、仕事が早い」

「は? 何を馬鹿な、て? なぁ!」

「う、動かねぇ!」

「ウィンドカッター!」

「ギャッ!」

 

 盗賊だちが慌てふためいている間に、カルタが完成した魔法を行使。

 先ず近くにいた剣を振り上げていた男が風の刃で剣を落とし、更にそのまま地面に引き倒され、髪の毛でぐるぐる巻きにされた。


 更にカルタは妻を襲っているふたりの盗賊との距離を詰め剣で腕と足の腱を断つ。 

 ぐぁああぁああぁ! と揃って悲鳴を上げたのを見届けた後はヘアに同じように地面へ倒させ拘束する。 


「な、なんなんだお前らは! 俺たちを漆黒の避役(ブラックカメレオン)と知っていてやってやがるのか!」


 すると、商人が運んでいた品物を吟味していた残りの一人が立ち上がり、斧を片手に叫びだした。


 その言葉にヘアがピクリと反応し、カルタが、あらら、と目を細める。


「あんた、そのワードは禁句だぜ?」

「は? 何言って……」

「漆黒の避役というと、盗賊団の漆黒の避役ですか?」


 目を白黒させる盗賊に、ヘアが問う。どこか不気味な雰囲気を漂わせながら――


「そんなもの決まってるだろが! そうだよ、俺らがここら一帯を縄張りにしている漆黒の避役、グぎぃ!」


 途端に、ヘアから伸びた無数の髪の毛によって男が雁字搦めにされ、更にぎりぎりと締め付けられ、蛙が潰れたような情けない鳴き声を上げる。


 その力は相当に強く、骨が軋む音が響き渡り、ボキンッ、ボキンッ、と手足が折れおかしな方向に曲がっていた。


「……ヘア、それ以上やるとそいつは死ぬ。盗賊風情が死んだところで俺は一向に構いはしないが、ヘアにはできるだけ手は汚してもらいたくない」


 カルタがヘアの肩に手を置き、宥めるように言った。ハッ、とした表情を見せ、そしてヘアは目に涙を溜めながらも拘束を解く。


 盗賊の男が地面に傾倒する。あっちこっちの骨が折れているのだからもう動くことは不可能だろう。


「大丈夫、じゃないよな……」

「いえ、大丈夫。盗賊には、しっかりと国で裁いてもらうから……」


 涙を拭いてヘアが立ち上がった。彼女の過去を考えたら殺したいぐらい憎い連中だろうが、ヘアは耐えてみせた。


「あ、あのありがとうございます」

「助かりました。本当になんと言ってよいか……」

「いえ、流石に放ってはおけなかったので。ところでこれからどう致しますか? 護衛も逃げられたようですし、出来れば一旦近くの町にでも避難した方がいいかと思いますが」


 カルタが助言する。ここから近いと言えばウッドマッシュしか選択肢はなく、この夫婦もどうやらそこからやってきたようだ。


 基本的に村を中心に回って必要そうな物を売り歩くといったやり方な為、キャラバンには加わらず冒険者を護衛としたようだが、その護衛が我先にと逃げ出してしまったのだから一旦戻るしか手はないであろう。


「そうですね、そうさせて頂きます。あ、お礼の件は後ほど……ただ、その――」


 夫の方が口ごもる。カルタはそれでなんとなく察した。ただでさえ護衛の冒険者に逃げられ、あまり予算が残っていないのだろう。


「では、お礼の代わりにこの盗賊を町まで運ぶのを手伝って頂いても宜しいですか? 何かロープのようなものがあれば、馬車の後ろにでも括り付けて引きずらせていきますから」

「な、ふ、ふざけるなよ畜生」

「うぅ、いてぇ、いてぇよぉ」

「自業自得だ、犯罪者が贅沢いってんじゃねぇよ」


 吐き捨てるようにカルタが言った。

 助けた夫婦は、勿論それぐらいさせてください! と潔く了承してくれた。


 とは言え、三人を馬車の力だけで引くのは負担が大きいのでヘアの髪の力も合わせる形で運ぶこととなる。





「いや、あの厄介な漆黒の避役の連中を確保してくれるとは大したものだ」


 この町の警備長を任されているという男が言った。カルタたちが町に戻り、あの三人を突き出すと詰め所に呼ばれ警備長自らお礼を述べてきたのである。


「いえ、たまたま出くわしたのを捕獲しただけですし、相手が大したことなかったので」

「うむ、だがあの夫婦の話だと護衛のふたりは勝てないと見て逃げ出したらしいからな。そう考えるとその若さで十分凄いぞ」

「ありがとうございます。ところで逃げた冒険者はどうなるのですか?」

「契約書を確認したが、報酬はあくまで護衛をしっかり全うすることが条件となっていた。にも関わらず護衛対象を置き去りにしたのは看過できない。よって先ず所属ギルドに抗議文を送り速やかに前金分の返還を訴えることとし、今回任にあたった冒険者への処罰も求める事となる。尤もこちらとしてはそれ以上の事は何も出来なくてな。逃げ出した事そのものを法的に処罰はできない」


 つまり各々のギルドの対応に任せる他無いという事だろう。尤もそこでギルドがおざなりな処罰で終わらせてしまうと後の評価に響くため、無視は出来ないだろうとのことだ。


「それと君たちには盗賊捕獲分の報酬が出る。手配書が出ている賞金首ほどではないが一人五千オロで三人分一万五千オロとなる」


 カルタは報奨金をありがたく受け取った。何せ五千オロしか持たず旅立った身としては一万五千オロは大きい。


「それにしても、君たちの腕っぷしが強くて本当に良かった。あの夫婦もそうだが、この連中は特に女性が同行している場合の出現率が高かったからな」

 

 つまり、もし助けることが出来ず返り討ちにあっていたらヘアがどうなっていたか判らないってことらしい。


 これまでも小規模なキャラバンが襲われたりしたが女は散々乱暴された後始末されるか、連れ去られそのまま戻ってこないことが多かったようだ。これは遺体としてもという意味となるが、闇で奴隷として売り飛ばされてしまっている可能性も高いのだろうとのこと。


「この後、盗賊団はどうなりますか?」

「そうだな。一応情報は吐かせるが、連中は小さな拠点を何箇所も用意し、渡り歩くことで居場所を特定させないようにしている。だから壊滅させるのも容易ではなくてな。勿論町の平和のためにも尽力するつもりだが」


 やはり、とカルタは納得する。一応カルタも途中で連中から話を聞いてはいた。だが、明確にここと決まったアジトはなく、自分たちも後は切られるだけだと同じような事を言っていたのでそのとおりなのだろう。


 仕方がないのでふたりは後のことは警備兵に任せ、改めて夫婦に感謝され、それから一旦町中で昼食を取り、ヘアと町を回ってから(・・・・・)いよいよ宿のフトーメの下へと向かう――

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