第11話 神行の間
ご感想いただきありがとうございますとても励みになります!
ご指摘頂きましたあらすじの箇所を修正しました。
翌日から、カルタはヘアのスキルについて一緒に試行錯誤していくこととなった。
勿論、ヘアの技能レベルを上げることに今は集中する必要がある。
こうして二日目が終わる頃には彼女のステータスは変化を迎え。
ステータス
総合レベル3
戦闘レベル1
魔法レベル0
技能レベル2
スキル
紙使い(髪使い)
このようになっていた。まだまだ低いが、最初は戦闘経験もなく、スキルの使用法もわからず全てが0だったことを考えればこれでも成長した方と言える。
「み、みてください! 髪が、髪が自由に動いてますよ! それに伸ばしたり短くしたりができます」
「あぁ、かなり自由がきくようになったな」
カルタは感心してみせるが、それでもまだ一部を同時に動かせる程度だ。長さも十センチメートル程度の範囲内で調整可能といった程度だ。
これではまだまだ足りない。それに、このスキルをそのままあのフトーメに教えるわけにもいかないとカルタは考えていた。
次の日、カルタは一つの決意をし、ヘアに伝えることにする。
「ヘア、今日の訓練は少し場所を変える」
「え? この森から移動するの?」
「あぁ、ただ移動と言っても全く別の空間にだけどな」
「え? 別の、空間?」
コテンッと首をかしげるヘアである。その仕草が可愛らしいが、とにかく論より証拠とカルタはその場に扉を現出させた。
「え! な、なんです?」
「この扉の先が別の空間につながってるんだ。そこは時間の流れがこの世界と異なっていて、一日いても一分しか過ぎない。俺の技能レベル分、中に入ることが可能で、今技能レベルは11だから11分、つまり十一日間は中で訓練が出来ることになる」
「ふぇ~、な、何か凄いのです……」
「ハハッ、とにかく残り時間も少ないわけだし、後はここで修行しよう。この中は生活に必要なものも揃っているようだから、すぐにでも入れる」
「凄い! 便利ですね! でも私もいいのですか?」
「あぁ、俺が許可さえすれば技能レベル分は同時に中に入れるからね」
そしてふたりで中に入る。空間内には屋敷が一軒建っている以外はただなにもない空間が果なく続いているだけであった。
屋敷の大きさや部屋数は入った人数で変わるようであり。
「凄い! ここでカルタはいつも修行しているの?」
「いや、実は直接入るのは初めてなんだ。説明だけは見ていたんだけどね。この空間は月に一度しか開けないから好き放題ってわけにもいかないんだ」
「え! そ、そんな貴重なもの、いいの?」
「いいよ。丁度そろそろ入ろうかと思っていた頃だしね」
そういいながら屋敷の中に入るふたりだが。
「いらっしゃいませ」
「おわ! びっくりした!」
「あわわ、綺麗なメイドさん……」
ヘアが目を白黒させ、カルタもまさか中にメイドがいるとは思わなかったのだろう。結構な驚きようである。
「私、この屋敷、及び神行の間にて専属メイドを務めております。どうぞよろしくお願い致します」
恭しく頭を下げてくる。青い髪をボブカットにした美しいメイドであった。汚れの一切ないメイド服を身にまとい、頭にもしっかりホワイトブリムを装着している。
「そ、そうなんだ。え~と名前はなんと?」
「特に名前は決まっておりませんのでお好きにお呼びください」
「え? 弱ったなこういうの苦手で、ヘア、何かある?」
「う~ん、それならメイさんでどうでしょう?」
メイドだからメイか、とカルタも納得がいったようであり、これからは彼女をメイと呼ぶことにした。
「それじゃあメイさん」
「宜しければどうかメイとお呼びください」
「えっと、それじゃあメイ」
「はい、ご主人様」
両手を前で組み、丁重に頭を下げてくる。このような美しいメイドにご主人様と呼ばれ、何ともむず痒くなるカルタである。
「その、早速だけど、この屋敷とか神行の間について教えてもらっていいかな? 説明は見れるんだけど、実際入るのは初めてだから」
「承知いたしました。先ずこの屋敷での衣食住の管理は全てこの私が行います。汚れてしまった服などがあればお洗濯いたしますし、料理も全て私がご用意いたしますのでご安心ください。二点目、この間ではご主人様の神装技である剣神の教授、知識神の賢身、狩猟神の訓練の三種は自由に行使出来ます。この空間ではこの三種を使用してもご主人様の負担もございません。これは今後、扱える神装甲が増えても似たような技は同じ事が可能となります」
「へぇ、そうなんだ」
いいことを聞いたな、と早速後で試してみようと考えるカルタであった。
「最後に三点目はこの神行の間ではご主人様の経験や記憶を元に環境を変えることが可能です」
「え? え~とそれは……」
「どうぞこちらへ」
メイに促されるままふたりは奥の部屋に向かう。小さな個室といった様子であったが中央の台座に大きめの水晶玉だけが設置されており、後は四方を壁に囲まれている。
「私がこの水晶玉を使用して環境を変えます。ご主人様は希望があれば、これまで行ったことのある場所などを教えていただければその環境を再現致します。他にもこれまで遭遇した魔物や人などを顕現させ、修行の相手にすることも可能ですし、環境と魔物や賊などの出現率を組み合わせることで実戦的な訓練も可能です」
凄いな、と思わずカルタは呟いた。自分の記憶と経験がベースになるとはいえ、これはかなり役に立つ。
「以上が基本的なこの神行の間の情報でございます。何か他にご質問はありますか?」
「う~ん、メイは訓練とか出来るの?」
「基礎的なことであれば。ですが、ご主人様は先程上げた神装技を使用した方が学べることは多いと思います」
「俺の場合はね。ただ、ヘアに教えることが出来るのなら……」
「え? 私!?」
「うん、俺より詳しいならその方がいいかなって。同じ女性だし」
「そうですね……ヘア様のスキルは髪使い、それであればお手伝いできるかもしれませんが、ヘア様はそれでよろしいのでしょうか?」
「え? あ、はい! 勿論です! メイさんのような綺麗な方に教えていただけるならこんな嬉しいことないですから!」
決まったな、とヘアについてはメイにお願いしつつ、カルタはカルタで先ず剣神の教授を行使。
すると空間内に光が集まりかと思えば人の姿に形成された。
「ヌハハハハハハハッ! よくぞ我を呼んでくれたな! 人の子よ!」
「え? あ、はぁ……」
姿を見せたのは腰に剣を携えた随分とハイテンションな男性であった。装備は軽装であり、狼のような髪型。目つきもかなり鋭いが、口ぶりはかなり豪快だ。
「教えてやろう! 我はゴッドソードヤマト! 今後は気軽にゴッドソードヤマト様と呼ぶが良い!」
「ヤマト様じゃ駄目ですか?」
修行を付けてくれるのだから様をつけることに不満はないが、毎回ゴッドソードヤマト様と呼ぶのは少々骨である。
「よし! 時間は有限であるぞ! 早速始めるとしようぞ。メイよ! こやつの記憶と経験から尤も過酷な環境を再現するのだ!」
「承知いたしました」
「え! 何か勝手に決まった!」
「神の修行に入る時は、各神の判断が優先となりますので」
まさかそんなルールがあったとは、と少々戸惑うカルタであったが、確かにそれぐらいの方が厳しい訓練が望めそうではある。
「ふむ、ではついでにこやつに百キロの負荷を掛けるのだ!」
「承知いたしました」
「え? ちょ、ま、百キロって、ぐへっ!」
だが、メイの仕事は早かった。またたくまに地形が変化し現段階で最も過酷な環境を再現し、更にカルタの全身に百キロの負荷が掛かる。
「どうした? 早く立つのだ!」
「いや、ちょっと、ま、ぐ、うぉおおおおぉおおおおお!」
それでもなんとか立ち上がるカルタ。すると、ヌハハハハハッ、とヤマトが笑い。
「そうでなければな! ではこれよりランニングを始めるぞ! この山を一周するのだ!」
ちなみに再現された環境はカルタが村を出てから歩き続けたあの山である。ただ、起伏はかなり厳しく設定されていた。
「ほらほら、遅れておるぞ! どうしたどうした!」
「グギギギギっ……」
「この崖をよじ登るのだ! さぁ来い!」
「アバババババババッ――」
「ムッ、デスグリズリーとは丁度よい相手ではないか! さぁ倒すのだカルタよ!」
「死、死ぬ、死ぬううぅううぅうう!」
このようなスパルタ教育を受けながらも、なんとか神装甲も駆使して戦闘もこなし、一日目終了。
「うむ! よくやった! 明日も我を呼ぶのだぞ!」
(絶対に明日は別な神様にしよう……)
全身ボロボロで倒れ込むカルタ。
大丈夫ですか! と駆け寄ってくるヘアだが、返事する気力すら無く――しかしその後メイのマッサージを受け、更にこれだけのキツイ猛特訓を受けていてもなお食欲をそそる料理の数々を食すことですっかり元気を取り戻し――師事する神を入れ替えながらも十日間の厳しい特訓を乗り切り最後の一日を迎えるふたりなのであった。
月一で色んな事を世話してくれるメイドさん登場!