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第10話 一〇〇万オロの賭け

「そ、そんなどうしてですか!」

「どうしてもこうしたもない、もう決めた事だからね!」


 カルタが一通りの用事を済ませ宿に戻ると、ヘアとフトーメが言い争っている姿が目に入った。

 フトーメが怒鳴ってるのは昨日から見なれているが、ヘアに関しては意外な気がした。


 一点だけ気になることがあった。それはフトーメの横にサングラスをした男性が一人立っていることだ。


 ヘアを見ながら一人ニヤニヤしており、あからさまに怪しい。


「まぁまぁ、フトーメだって別に意地悪で君にいってるんじゃない。ただ、このままずっと宿の使用人として過ごしていては成長がない。だから私に預けるといってくれてるんだよ」

「そ、そんなの嫌です!」


 するとサングラスの男が妙なことを口走る。その会話を読み解くに、どうやらフトーメはヘアを宿から追い出し、この男に預けようとしているようだ。


「ふぅ、仕方のない子だよ。私だって別に意地悪でこんな事を言っているんじゃないよ? この男だって信頼に足る人物だ」

「何が信頼できるもんか」

 

 会話の中にもうひとり加わった。厨房担当の彼である。


「クックかい。あんたには関係のないことだろ! たかだか料理人風情が黙ってな!」

「そうはいかない。その男についてちょっと聞いてみたが、客に女をあてがう仕事を生業にしている野郎だって話だろうが。そんなのにヘアを預けようだなんて、あんた一体何を考えてるんだ?」


 客に女をあてがう……つまり売春系の仕事をやっているという事だろう。一応王国内では許可さえ取っており、務める女性が納得していれば認められている商売ではある。


 だが、ヘアの様子を見るに全く納得しているようではない。


「全く本当にやかましいね。大体スキルも使い物にならないこいつがこの先行きていくには、体をはるぐらいやらないと仕方ないだろう! キノコ採りもまともにできない役立たずなんだから野郎のキノコぐらい上手く扱えないとね!」


 ひどい言い草だな、とカルタは顔をしかめた。そして、あれを使うならこのタイミングしかないなと考える。


「さっきから随分な話だな」


 なのでカルタも会話の中に割って入った。途端にフトーメが迷惑そうな顔を見せる。


「一体なんなんだい次から次へと!」

「悪いな、ただ俺にも色々思うところがあってな」


 そういいつつ、神装甲を行使し、知識神の装甲に切り替える。


「え? あれ? 装備品が……」

「あぁ、これは俺のスキル、装備変化の効果だ。着ている装備をある程度自由に変化させることが可能なんだ」

「なんだいそりゃ? あんたも随分と役立たずなスキルを持ってるね。程度が知れるってもんだよ」

 

 装備を自由に切り替えられるとするよりは、このぐらいの方が無難と踏んだカルタであり、どうやら上手くスキルをごまかすことは出来たようだ。


 だが、嘲るようなフトーメの視線にはいらつくものがある。ヘアの事もあって予想はついたが、村のこともあり、スキルの中身でしか人を判断しない相手にうんざりする思いだった。


(それにしても――)


 もしかしたらとは思ったが、まさか本当にそうなるとは予想していなかった。

 やれやれとため息をつきつつ、カルタはフトーメを振り返る。


「彼女のスキルは紙使いだったな?」

「ふん、ヘアから聞いたのかい。そうさ、紙を扱うのがうまくなるだけというとんでもないくそスキルだよ! 何の役にも立ちやしない!」

「なら、それがもし役立つとしたらどうする?」

「え?」

「は? 何言ってるんだい! タラレバの話をしたって仕方ないんだよ!」

「そんなつもりはない。ただ、俺ならヘアのスキルの真価を引き出す自信がある。だから、そうだな。三日くれれば、彼女のスキルが役立たずなんてことはないってことを証明してやるよ。それが出来たら、将来についてはヘアの好きなようにさせるってことでどうだ?」


 カルタがフトーメに話を持ちかける。だが、フトーメは鼻をフンッと鳴らし。


「そんなもの、私に何の得もないじゃないのさ。やる意味がないね」

「おい! ヘアの人生がかかってるんだぞ! 損得がどうとか言っている場合じゃないだろう!」

「うるさいって言ってるだろ! あんたは黙ってな!」


 叫ぶフトーメ。だが、クックは納得しきれていない表情だ。


「得があればいいんだな? それならもし三日後に結果が出なければ、俺があんたに百万オロ支払ってやるよ。それでどうだ?」

「そ、そんな! 無茶です! 私のためにそんな!」

「ちょっと黙ってな! おいあんた、私はしっかり聞いたよ。この子のスキルが三日後も使い物にならなければ百万オロだね! あんたも聞いたね?」

「あぁ、まさかこんな面白い話になるとはねぇ。だけどな、今更冗談でしたじゃ済まないぜ? この俺もしっかり聞き届けたからな」


 フトーメがサングラスの男に確認し、男もまたカルタに宣告する。ヘアは一人オロオロしているが、あぁ、と首肯し。


「男に二言はない。ただし、三日間はヘアを預からせてもらうぞ」

「……仕方ないね。三日好きにするといいさ。どうせいたって役に立たないんだからねぇ」


 こうしてカルタとフトーメの間で話はまとまった。狼狽しているヘアの手を取り、カルタは一緒に部屋に戻る。


「い、いくらなんでも無茶ですよカルタさん!」

「もうカルタでいいよ。これから三日間は一緒に過ごすんだし」

「へ? い、一緒にすご……」


 顔が真っ赤に染まり、語尾がゴニョゴニョと聞き取りにくくなる。とくに意味はなかったのだが、意識されるとカルタも気恥ずかしくなる。


「いや、別に変な意味じゃないから。さっきも言ったけど、この三日でヘアのスキルの真の力はしっかり引き出してあげるつもりだし」

「で、でも、そんなこと可能なんですか? 私、何度も他にできることが無いか試してみたのだけど、全然出来なかったし……」

「紙で?」

「え? うん、勿論紙で……」

「まぁ、それなら出来なくて当然かな。だって君の本当のスキルは紙使いじゃないんだから」

「え? ええぇええええぇええ! なら、いったい何なんですか? それに、どうしてカルタにそれが判るの?」


 ヘアから質問が繰り返される。どう答えたものか迷ったが。


「今はまだ全ては明かせないけど、鑑定が使えると思ってくれればいいよ」

「鑑定……つまり相手の能力がステータスとして見れるということですか? そういうスキルを持っているということなんですね……あれ? でも?」


 ヘアが小首をかしげる。先程カルタは自分のスキルが装備変化だと言った。スキルは原則として一人一つしか与えられない。


 そのため鑑定を持っている事に違和感を覚えたのだろう。


「うん、だからその辺はまぁ、ね。とにかく今はヘアの本当の力が何なのかそれを知るのが大事だから、とりあえず教えるね」

「あ、は、はい! わかりました!」


 目に力を込めてしっかりと聞く体制を取るヘア。その姿がなんとも可愛らしく思えるカルタだが。


「ヘア、君の本当のスキルは紙使いではなくて、【髪使い】なんだ」

「え? え? え~と、何が違うのですか?」


 ヘアが不思議そうな顔を見せる。カルタが女神から話を聞いた時は違いがスッと頭の中に浮かんだものだが、流石にこの場ではそうもいかない。


 そのため、何が違うのかが理解できないのだろう。


「これまでヘアが思っていたのは書く紙、だけど実際はこっちの髪だってことさ」

「あ……」


 カルタがヘアの金色の髪を撫でながら説明する。赤面したヘアが吐息を漏らした。


「あ、ご、ごめん、つい」

「あ、違うんです! わ、わかりました。すごくわかりました! それに、カルタなら、嫌じゃないし……」

「え?」

「あ、うん、なんでもないです。はい! 髪の毛なんですね!」


 両手を振り何かを否定しながらヘアが納得する。

 そして早速、今の段階でどの程度髪が使えるか試してみようと言うことになった。

 

 髪使い、髪を自在に操ったり変化させることが可能なスキル。成長すれば強度にも自由がきくようになる為、工夫次第でかなり色々なことが出来ると思われる。


「どう?」

「う、う~ん、う~ん、はぁはぁ、な、なにか髪が凄くゾワゾワするけど、それぐらい……」


 肩で息をしながら答える。最初だけにかなり疲れている。髪は女の命というだけあって生命力の消費が中々激しいのが理由としてあるのだろう。


スキル

紙使い(髪使い)

タイプ:生体系

総合評価:S

パフォーマンス:S

コスト:A

リスク:B


 これがカルタの見たヘアのスキルのステータスだ。リスクは髪が痛みやすいというのがある。スキルを使用すると潤いも失われていくので髪の手入れには今まで以上に気を遣う事となるであろう。


「とりあえず、今はその感覚だけでも十分だ。何せヘアはスキルの本当の効果を知らなかったから技能レベルも0から変わってない。これが上がっていけばやれることも増えるよ」

「う、うん! 頑張るね! でも、三日でなんとかなるのかな……」

「それは、一応一つ手はあるから、それも利用すればね。とにかく最初の二日は俺も付き合うから近場の森にでも行って訓練といこうか」


 こうして明朝から森に向かうことを決めたふたりであるが――部屋に戻ったカルタにはまだ一つやることだあった。


「神装技【神通信】――」


 カルタは伝令神ノ装甲に変化しその技を行使、すると。


『おお! やっとアクセスしてくれたのじゃ! まったくお主は折角こんな便利な能力があるというのに使ってくれないのじゃから、余は寂しかったであるぞ』

『ただでさえ消費が激しいんだから、必要もないのに使えるわけがないだろ。それよりあんた、まだ俺に隠してることがあるだろ?』

『ギクッ!』


 カルタの質問に対し、幼女神スキルダスはわかりやすい反応を見せた。


『いや、ギクッ、てそれもう答えたも同然だぞ?』

『そ、そんな事はないのじゃ。ピ~ヒョロロロ~』

『口笛全く吹けてないぞ。それにその態度、あんた俺たちのやり取りもさては覗いていたな?』

『ギクリッ!』


 幼女神は致命的にわかりやすい反応を見せた。


『な、何を言っておるのじゃ? おおカルタめ、上手くやりおってヒロインゲットじゃな! なんて思っとらんぞ!』

『やっぱ見てるんだろが! あとゲスな勘ぐりはよせ!』


 カルタは少しだけ照れくさそうにしながら吼える。そしてため息し。


『つまり、ヘアの髪使いが紙使いだったのもあんたの誤字だったってことだな?』

『あ、あうぅうう、すまんのじゃ! ちょっとそれも誤字っちゃってたのじゃ、テヘペロ』

『お前それでなんでも許されると思うなよ?』

『でも誤字ってしまったものは仕方ないのじゃ』


 この誤字っ子女神には、反省する気持ちが全くなさそうなのであった。


『……近くにいたらまた殴っていたかもな』

『お主なんで私にだけ厳しいのじゃ?』

『とにかく、後どれぐらい誤字ったスキルがあるんだ? どうせまだあるんだろ?』

『う、うむ、ないと思いたいのじゃが、全くないと言い切れないのが悲しいところなのじゃ。ただ、何せこれだけ世の中にはスキルが溢れておる。私にもどれぐらい誤字スキルがあるかもう見当もつかんのじゃ』


 はぁ~とため息がつきないカルタである。


『そのあたりはまた見つけたらなんとか考えるしかないか。尤も見つからないのが一番だけどな』

『うむ、確かにそれが一番ではあるのじゃがな。しかし弘法にも筆の誤り、そちら流に言えばサハギンも川で溺れると言うしのう』

『開き直った感じに言うのがまた腹立たしいな』


 ちなみにサハギンは水棲タイプの魔物である。川に多く生息しているが、そんなサハギンでも溺れることだってあるというたとえである。


『ふむ、しかしこの出会いはカルタにとっては僥倖だったかもしれぬのう』

『うん? どうしてだ?』

『神装甲ほどでないにしても髪使いは中々レアであり有用なスキルじゃ。お主が言ったように使い方によっては相当に役立つ。まぁ、大切にしてあげることだな。さて、そろそろ時間切れのようじゃな。ま、また何かあったら呼ぶが良いのじゃ』


 そして、神通信が切れた。スキルダスの言ったとおり、持続時間の限界がきたからである。

 どっと疲れが出てカルタはベッドの上に倒れ込んだ。


「たく、そう言われても、ずっと一緒ってわけじゃないっての……」


 そしてそんな事を呟きつつ、カルタはまどろみに包まれていった――

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