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第1話 少年、最弱スキルを授かる

 この世界にはスキルが存在する。この世界ナレルスキナで生まれ落ちた者にはスキルを与えられる機会が設けられる。

 

 特にこの世界で最も数の多い人族においては、一五歳になった時に全能神スキルダスの女神像の前で祈りを捧げることで、必ず一つはこのスキルが与えられることとなる。


 そのため、ナレルスキナの世界では満一五歳を迎えた日から成人として認められる。


 更に言えばここスキルスキナ大陸ではこのスキルが非常に重要視されてもいる。


 さて、ここに一つの村がある。リトルウィレッジ村という人口百人程度の小さな村だ。

 ここで一人の少年カルタが無事一五歳を迎え、今まさに神像の前で神託、つまりスキルを授かろうとしていた。


 今年、村で既に成人を迎えたのは他にも一二名程いる。その中の三人はカルタと幼馴染であり、成人の儀を迎えた後は一緒に冒険者になろうと約束していた。


 冒険者は多くの平民にとって憧れの職業だ。手に入れたスキルや己の肉体、魔法などを駆使し数多の伝説を残し続けた花形職業、それが冒険者なのである。

 

 一つの都を滅ぼしかけた火炎竜をたった一人で打倒したドラゴンスレイヤー、千の魔法を使いこなす大賢者、凶悪な魔物や悪魔に囚われた姫を救い出しそのハートを射止め王にまでなった英雄王――こういった伝説級の冒険者の活躍は枚挙に暇がない。


 そんな冒険者に憧れ続けたカルタ少年。そんな彼に、今まさに神託がつげられたわけだが――


「カルタよお前に与えられしスキルは……紙装甲じゃ」

「……はい?」


 カルタはキョトンとした顔を見せる。村の神父から伝えられた内容がすぐには理解できなかった。


「だから紙装甲なのじゃ。何とも可愛そうなことよ。一応神の啓示を伝えるが、紙装甲とは紙の装甲になれるというスキルだ。つまりお前の装甲は常に紙……それほどまでに脆弱の存在になったということであろう。残念じゃが、これも運命じゃ受け入れるが良い」


 カルタは目の前が真っ暗になるのを感じていた。その後神父は、これで己のステータスも見れるようになったであろうから後で念の為確認を取っておくが良い、などと言っていたがカルタの頭にはさっぱり入ってこなかった。


「紙……装甲――」

 

 神託が終わり、茫然自失といった様子で歩くカルタ。相当なショックを受けているのは傍から見ていても良く分かる。


「カルタ……」


 ふと気がつくと、カルタの目の前には彼の幼馴染でのリャクの姿。尤も小さな村である。生まれてから成人を迎えるまで村から出たことない以上、殆どの子どもは幼馴染と言えるか。


 だが、そんな中でも彼は親友と呼べる相手の一人である。


「ははっ、参ったな。紙装甲だってさ」


 カルタは癖のある淡い灰色の髪をクシャッとさせながら泣き笑いの表情を見せる。

 リャクは暫く黙ったままだ。カルタの身長は平均的な方だが、リャクは高身長であり、そのせいか自然と見下される形となっていた。


「……正直リャクが羨ましいかな。君は確か強化装甲だったよね? 完全に僕の上位だし」

「それは、でもスキルは使いこなせなければ意味がないからね。でも、それでカルタはこれからどうするんだ?」


 どうするんだとは今後の進路についてだろう。紙装甲などというスキルを手に入れてしまった以上、冒険者を目指すのは難しいとリャクは思ったのかも知れないが。


「――それは、勿論目指すさ」


 すると、え? と目を丸くさせるリャク。意外そうな顔を見せてくる。


「そんな顔しないでくれよ。冒険者は俺の夢だったし、確かにスキルが残念だけど、ステータスも見れるようになった。スキルが駄目なら他で頑張るだけさ」

「……そうか」

「あぁ、それにリャク達との約束もあるしね。それで、リャク達はどうする? 予定は決めているのかい?」

「あぁ、とりあえず十日ほどはスキルに慣れる為、近くの森で訓練しようと思う」

「そうか、たしかにそれは大事だな。俺もスキルがない分頑張らないと」

「あ、あぁそうだな。じゃあとりあえず訓練は皆で明日から始めようと思うから、来る気があるなら合流してくれ」


 そう言い残しリャクはカルタの前から去っていく。

 残された彼は腕を組んで小首をかしげる。行くに決まってるじゃないか、とそんな様子だ。


 そして一旦帰路につくカルタだが、その途中でレーノを発見し声を掛ける。


「あ、カルタ……戻ったのね」

「うん、無事、かどうかは判らないけど一応神託も終わったから」

「そう、なんだね。それで、カルタはどうするのこれから?」


 レーノがどこか心配そうな顔を見せてきた。セミロングで海のように青い髪にパッチリとした瞳。村一番の美少女とも名高い彼女のこともリャクと同じで幼い頃からよく知っている。


「勿論、俺は冒険者を目指すよ」

「え?」

「ハハッ、やだなレーノまでリャクと同じような反応して」


 目を丸くさせてカルタを見てくる。


「そうなんだ……でも、スキル大丈夫?」


 あぁ――と呻くようにカルタがこぼす。小さな村だ。もうすっかり噂になってしまっているのだろう。

  

 どこか遠慮がちに聞いてくるレーノに精一杯の笑顔を作って見せる。


「大丈夫。それにレーノとも約束したしね。彼女においていかれるわけにもいかないし、俺も頑張るよ」


 そう――あれは半年前、カルタはただの幼馴染だった関係から卒業する為、勇気を振り絞ってレーノに告白した。


 そしてその結果は――オッケーの返事。その時はカルタも、もうこの世に未練はないなんてはしゃぎまわったものだ。


 ただ――レーノが授かったスキルは精霊使い。本来エルフ族しか扱えないとされる精霊を行使できる強力なスキルだ。

 

 リャクの武装強化といい、ふたりのスキルは使えるものばかり。その上、一緒に冒険者を目指そうと誓ったもうひとり、村一番の巨漢で知られるノーキンも筋肉増強という戦闘向きのスキルを授かっている。


 つまり紙装甲という何の役にもたたないどころか、戦闘においては足かせにしかならない最弱のスキルを授かってしまったカルタはそれだけでもかなりのお荷物に近い状態と言えるだろう。


 だが、それでも――諦めきれなかった。幼い頃から見続けた冒険者への夢を。


 レーノの手を取りながら帰路につく。それもほんの数分の出来事だ。狭い村だ。互いの家など十数メートルも歩けばついてしまう。


「……それじゃあまたね」

「うん、レーノ。明日から俺、頑張るよ」


 そしてカルタは自宅へ戻る。レーノとは未だキスすら交わしていない。村の中だと誰に見られているかわからないから恥ずかしいというのもあるし、成人を迎えるまではあせらなくてもいいという気持ちもあった。


 だから、本当は成人を迎えた今日にでも、と考えたりもしたのだが、スキルのこともあって中々そんな気にもなれず――そして。


「お前、本気なのか?」

「うん。確かにスキルはちょっとアレだったけど俺の気持ちは変わらない」

「でも、紙装甲、なんでしょ?」

「そうだけど、大丈夫心配しないで。それにすぐにギルドのある町に発つわけじゃないんだ。明日から暫く近くの森でリャク達と訓練する。大丈夫だよ。もうステータスだって見れるし、スキルなんてなくても戦闘レベルとか上げればなんとかなるはずだから」


 家に戻ると両親は既に彼のスキルの事を知っていた。だから冒険者のことは諦めて村に残ると思われていたかもしれない。


 事実得られたスキルによって夢を断念せざるを得ないという人々はこの世界には多い。例えばカルタの父であるウッド・クラフトは幼い頃から村一番の力持ちで知られており、将来はその力を活かした仕事をと考えていたが神託によって得られたスキルは木材加工であった。

 そのため、今では木材を加工した工芸品などを販売し生計を立てている。

 

 母であるウォーター・クラフトは魔法使いに憧れていたようだが、得られたスキルは浄水であった為、汚れた水を浄化して回る仕事を続けていた。魔法そのものはスキルと必ずしも関係しているわけではないが、早い内に父と結婚したこともあり今では料理に役立てるぐらいよ、なんて笑っている。ただ、魔法を強化出来るスキルなどを得られていればまた違ったかもしれないと寂しそうに口にしていたこともある。どちらにしても元々持っていた夢は結局スキルによって諦めてしまったといったところだ。


 そのような事もあって、到底冒険者などになれそうもないスキルを得てしまったカルタは諦めて村で一生を過ごすのだろうと思われたのかもしれない。


 だからこそカルタが冒険者を続ける事に、不安を拭いきれない様子の両親だったが、明るく務めて不安がらせないようにする。


「お兄ちゃん、やっぱり冒険者を目指すんだ……寂しくなるな」

「フィモ……」


 眉を落として残念そうに口にしたのは妹のフィモだ。カルタより一つ年下の為、神託を受けるのは来年となる。


「俺も寂しいけど、これが今生の別れってわけでもないし、今度戻ってくる頃には冒険者として一人前になってきてやるよ」

「――うん、そうだね。お兄ちゃん頑張って!」


 妹の笑顔を見てカルタはよりやる気が増した。両親はまだ不安そうだったが、スキルが当てにならない以上、彼は人一倍努力するだけだ。


 夕食を終え、カルタは部屋に戻り改めてステータスを確認する。



ステータス

総合レベル2

戦闘レベル2

魔法レベル0

技能レベル0

スキル

紙装甲



 やっぱりこんなものか、と一人呟いた。

 改めてステータスについて考えるが、戦闘レベルというのは戦闘に関する総合的なレベルであり、単純な強さに繋がる。


 魔法レベルはどれだけ魔法に精通しているかであり魔法をどれだけ理解し使いこなせるかによって変化する。

 

 基本成人になり神託によって授かるスキルと魔法は別物だ。スキルは個々によって授かったものしか扱えないが、魔法は古代より伝わる魔法書に記された術式を構築することで行使出来る。 


 尤もスキルの中には魔法の理解を深めたり特定の魔法の威力を上げるものなどというものも存在する。


 技能レベルというのは授かったスキルをどれだけ使いこなしているかに関するレベルだ。このレベルが上がれば上がるだけスキルの効果も高まっていく。


 その為、当然神託を受けた直後は誰もが技能レベルに関しては0から始まる。

 神託前から上げておける可能性があるのは戦闘レベルと魔法レベルだが、小さな村ではこれといった魔法書も無く、その為カルタは冒険者になると決めてから自己流ではあるが肉体をメインで鍛え続けてきた。

 

 だが、それでも戦闘レベルが2これが現実だ。尤もステータスが見れるようになった当初の平民はこの数値がオール0ということも普通にありえる話だ。

 

 そう、だから特別ステータスが低いというわけではない。これからだ、これから頑張ればまだまだ――

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