テンプレ少女はテンプレ展開でテンプレ的結末を目指す
初投稿です
「この戦いが終わったらお前に言いたいことがある」
ラスボスである魔王と対峙している。魔王は瀕死でありったけの力を溜め込んで攻撃してこようとしている。こちらもギリギリの状態で、おそらく次の一撃で決着がつくであろう、物語なら佳境とよばれるであろうそんな場面。見事にフラグをたててくれたのはフラグ一級建築士ではなく、一国の王子。そんなテンプレ的な展開に私はもはや苦笑いするしかなかった。
ありきたりな話だが、私には前世の記憶がある。とはいえこの世界に生まれついたときからあるわけではなく、記憶を取り戻したのはこの王子に対面したとき。こちらに向けて手を差し伸べている、艶やかな黒髪に蒼い瞳の見目麗しい男性。初めて見る光景なはずなのに何故だか既視感がある。そういえば、既視感ってデジャヴっていうんだっけ。デジャヴってフランスの言葉だっけ。あれ、フランスってどこだ?その瞬間、稲妻が走ったような衝撃が脳天を貫いた。ここのように魔法が横行しているのではなく、科学が発展していた世界。私はニホンという国でジョシコウセイだった。マンガやゲームが大好きで、所謂オタクと呼ばれる分類の人間だった。常にゲームを操作していたため、赤信号でトラックが突っ込んできたことに気づけずジョシコウセイの意識はそのままプツリと切れてしまった。
そんなジョシコウセイから得た知識。どうやらこの世界はゲーム化も果たしたマンガの世界らしい。奴隷の少女は王子に助け出され、国を脅かす魔王を倒すというありきたりな設定。この世界は造られたもので、起こりうる全ての事象もツクリモノなのかと柄にもなく落ち込んで見たこともあったけど私が王子に救われたことは事実で。暗く狭い世界から王子連れ出してくれたのも事実で。あの時私を生まれ変わらせてくれたのも事実で。そんな王子の為ならこの身を投げ出しても構わないなんて思うのは、これまたテンプレなんだろうか。
魔王の力が強まる。王子の持つ聖剣が軋む。このありきたりな世界では次のシーンはどうなるだろうか。魔王が勝ってしまうのか、王子の力が覚醒してもう一段階強くなるのか。愛の力で王子とヒロインが力を増幅させるのか、それは無理だ。なぜなら私はヒロインではなく、ただの奴隷だ。ただの奴隷もやれば出来る奴隷はありきたりだろうか?王子が救った奴隷には実は特別な力があってそれで魔王を倒すのはありきたりだろうか。王子の聖剣にひびが入る。ラスト、とどめをさすのはヒーローだって誰が決めた。奴隷だっていいじゃないか。
王子の聖剣が音をたてて割れると同時に私は王子を突き飛ばし、一瞬で障壁をはる。目を見開く王子に私は笑顔で言う。
「王子があんまりちんたらしてるんで、見兼ねちゃいました!わたしが手本を見せてあげますね!」
少しずつ魔王の闇に呑まれていく私。
「おい!何のつもりだ!ここから出せ!!」
綺麗な顔が歪んでいる。その目に浮かぶのは恐怖か、焦燥か。貴方には笑っていて欲しいのに。
「この面倒臭がりな私が身体張って働いてるんですから、王子はこれから馬車馬のように働いてくださいね!皆が普通に目を覚まして、皆が普通に眠りにつく、そんなありきたりな国を作って下さい。」
闇が私を引きずり込もうとする。王子が私に向かって手を伸ばす。あの時は私が救われた。
だから今度はーー。
「王子、私はあなたに出会って様々なことを知りました。すえた床の臭い。腐ったパンの味。雨上がりに花から香る匂い。木陰からそよぐ風の心地よさ。」
貴方が笑ったら嬉しかった。貴方が泣いたら悲しかった。貴方が辛いなら私も辛かった。どんな時でも、
「私は貴方で生かされていた。」
最大の感謝と敬意を貴方に。
そして闇は私を完全に呑み込んだ。
目が覚めた。目に入ったのは高くて豪奢な天井。次に感じたのはフカフカのベッド、そして眠っている黒髪。
………おかしい。何でだ。これは全然テンプレじゃないぞ。最期だからと思ってソツギョーシキみたいなノリで恥ずかしいテンションで綺麗に今生の別れを告げた筈では!?それなのに何故私は生きている!?これはどんな状態だ!?どこからのコンティニューなんだ!?思い出されるのは黒歴史。「私は貴方で生かされていた」って何ーー!!マンガの読みすぎでしょ恥ずかしすぎる!!魔王と対峙したときの何倍もの冷や汗をかきながらもとりあえず撤退をはかる。はかろうとした。
「どこへ行く?」
引き寄せられたのは逞しい胸筋。貴方さっきまで寝てましたよね!?ヒーローの何かを察知する能力もテンプレなんですかね!?あああ何かいい匂いする!イケメンは匂いまでもイケメンなのか…!!
「ああああああのですね王子!!ちょっと距離が心なしか近いのではないかと思ったりするわけで、願わくば離していただけませんでしょうか「離さない」」
おおっと食い気味に来たぞ。更に力が込められる。その身体が震えているのはきっと気のせいではないだろう。
「もう二度と…あんな真似はするな」
絞り出すような声はいつもの王子に似つかわしくないほど弱気で。この温かなぬくもりをもう一度味わうことが出来るなんて。叶うならずっとこの腕の中にいたい。このままだとそんな分不相応なことを願ってしまいそうで。私はどう足掻いてもお姫様にはなれない。この先この人の足枷にはなっても支えにはなれない。何よりこの人が相応しい伴侶を迎え笑い合う未来を見守ることなんて出来ない。だから頑張れ私。これが最後の仕事だ。王子の腕をそっとほどき、身体を離す。深呼吸をして無理やり笑う。
「…王子、一つだけお願いがあります。聞いてくれますか?」
王子が頷いて続きを促す。
「私、身体張って頑張りましたよね?だからお休みが欲しいんです!どこか、自然に囲まれた山奥に隠居してのんびり暮らしたいです。それで、いつか王子が王様になった時、山奥でも王様の活躍が耳に届くような賢王になって下さい。」
その瞬間息もつけないような力で抱き締められる。
「お前は俺から離れたいのか…?やはり、お前をあんな目に合わせたことを恨んでいるのか?」
苦しげな表情には後悔が滲んでいて。
「そんなっ!王子に感謝こそすれ恨むなんてありえません!!」
思わず否定する。
「お前が俺のことを嫌っていないのならこれからも側にいてほしい。」
切ない瞳で懇願され、頭が真っ白になる。
「ええっと、でも、もう私には以前のような力はなくてですね、私を側に置いても全くのポンコツで使えないと思うんですよ!」
早口でまくし立てると、呆れたような表情をされる。
「お前、この状況でまさか意味分かってないのか?」
意味分かってないって意味って何。王子はお姫様と結ばれて幸せになるのが決まってて。
知らずに声が漏れていたのにも気付かなかった。王子が眉をひそめる。
「決まってるって誰が決めたんだよ。俺が添い遂げる相手ぐらい俺が決める」
添い遂げるって、そいとげるって、なに??
「お前、もう無駄な足掻きはやめろ。お前は俺で生かされてたって言ってたけど、そんなの俺だって同じだ。どう足掻いたってもう離してはやれないから諦めろ」
さりげなく黒歴史を蒸し返されてパニックになってる所に、秀麗な顔が近づいてきて唇を重ねるものだからもう私の頭はオーバーヒートで。
こんなの全然テンプレじゃない!!
登場人物の名前が思い浮かばなかったのでもうそのまま書いてみました。
読んでいただき、ありがとうございました!